チョコレートフォンデュは如何?
今日2月14日はあたしの誕生日。一応バレンタインと言うことで手作りのチョコを1つ鞄の中に忍ばせてある。というのもあたしにも好きな人が出来たわけで…。まあケンカ友達というか、そう言う間柄なんだけど。で横のお姉ちゃんはいつものように眠たそうな顔をしながらお約束と言うのかな? 木琴を叩きつつ学校に向かっている。桜が枯れない島、初音島。日本中探しても滅多にない光景だったわけだけど、それも昔の話、と言っても1年ぐらい前になるんだけど、どう言う訳か桜がみんな散ってしまった。当時は大騒ぎになって日本国中から偉い学者の先生が来て調査しているのを見かけたんだけど…。まあ1年中咲いている桜って言うものこそがそもそも珍しかったわけだからねぇ…。“それにしてもお姉ちゃん? この袋の中は何が入ってるの?” とあたしは自分の持ってる袋を見ながら言う。重さにして2kgくらいだろうか。中を見ようとしたら“眞子ちゃ〜ん、中は見てはいけませんよ〜?” といつもの間延びしたお姉ちゃんの声。横を見ると糸目のお姉ちゃんがいつものようににっこり微笑んでいた。
いつもの通学路を行くとちょうどあいつと出会う。気を利かしたのかどうなのかは知らないけど、お姉ちゃんは“先に行ってますね〜?” と言いつつ木琴を手にキコカコ鳴らしながらあたしが持っていた袋を鞄に入れて行ってしまう。“萌先輩大丈夫かなぁ〜” と言いつつ不安げにお姉ちゃんの行った方向を見つめるこいつはあたしの彼・朝倉。どう言う訳か知らないけどあたしはこいつのことが好きになったわけで、こいつもあたしのことが気になった? わけで…。言うなれば相思相愛? な訳で…。って!! 違う違うっ!! 首をぶんぶん振って妄想を追い払う。まああたしの一番の男友達って言うところが本当のところだろう。そう思う。と朝倉が、“どうしたんだ? 眞子” ほへっとした顔でこう言う。こう言う顔は見慣れたって言うか何て言うかそう言う感じだったから少し可笑しい。ぷぷぷっと笑うと不機嫌そうになって、“ったく…。かったるいのは音夢だけにしてくれ…” ちっ! と舌を打ちながら言うと歩き始める朝倉。そう言うこいつも何だかんだ言って妹思いなんだよね? と妙に納得するあたしがいた。
こいつの妹の音夢は島の外の看護学校へ行ってしまった。“かったりぃ〜のがいなくなってせいせいするよ…” とは言うけれど実のところは寂しいんじゃないのかな? とあたしは思う。もっとも島の外って行っても島から2、3kmほど離れた場所にある看護学校だから、土・日には帰ってきては文句をたらたら言われているらしい。あたしもちょくちょく聞いている(と言うか聞かされてる)んだけど、やけに丁寧な言葉で喋ってるなぁ〜っと思ったら目は怒っているわけで…。朝倉に言わせるところの“裏音夢” と言うのだそうだ。あたしにも弟はいるけど、音夢のような感じではなくて、常に冷静沈着な弟だ。お姉ちゃんはボケボケしたところがあるし、あたしはあたしでこの通りがさつな感じなわけだから、一番医者に向いているのかもしれない。まあお父さんもあたしたち姉妹にはそんなには期待していないみたいなので、正直今は重荷に感じることもないわけだ。もっとも弟にしてみると重荷に感じてるんだろうけどね?
と遠くに学園の門が見えてくる。一応今日はバレンタインと言うことでチョコレートなんぞを用意してきた。まあ帰りにでも渡そうかと思ったけど下校時はやっぱり人目につくだろうし、何と言っても杉並に見られるのが嫌なわけだから、ここで渡してしまおう。そう思って朝倉を呼び止める。杉並の気配は…しないわね? でも杉並のやつだから気配を殺しているのかもしれない…。そう思って入念に調べる。よし、いないな? そう思いラッピングされた袋を取り出して朝倉に手渡す。そういえば去年はあたしの自称恋人とか言う女子に嫌がらせに唐辛子のいっぱい入ったからいチョコレートを食べさせられたんだっけか…。あの時は付き合い始めて間もない頃だったから、よくイタズラされてたっけ…。でもそうか、あれから1年が経つんだね? そう思ってると、朝倉も何やら鞄をごそごそしだす。
「かったっりぃことこの上ないんだが、一応俺の彼女の誕生日なんでな? プレゼントだ。まあたいして期待はしないでくれ? 萌先輩にこの間ついてきてもらって選んだものだからな。というか萌先輩はいつも以上にボケボケしてたから俺が勝手に選んだものだけど…」
そう言ってきれいにラッピングされた箱を手渡してくる。受け取ると鞄に入れる。あいつも同じように入れていた。“ところでさ、朝倉。今日も学食かなんかでしょ? お姉ちゃんが鍋しようって言ってるんだけど良かったら朝倉もどう?” と誘ってみる。“ああ、いいな。この冬は寒い日が続いてるわけだし、鍋っていうのも悪くないな…。でも、どんな鍋なんだ?” と朝倉。あたし自身お姉ちゃんがどんな鍋をするのか、全く知らないわけで…。でも、何となくだけどどう言う鍋になるのか分かってしまうわけで…。ふぅ〜っと大きなため息をつくあたしがいるのだった。そのあたしの顔を不思議そうに見つめる朝倉の顔が印象的だったと今日の日記に書いておこう。そう思った。学園へと向かい歩いていると、チャイムが鳴る。うんと2人で頷きあって途中、案の定寝ながら歩いていたお姉ちゃんの手を引いて走る。何とかぎりぎりセーフで間に合ってお姉ちゃんのほうを見ると、気持ち良さそうに眠ってた。思わずずっこけそうになるあたしたち。まあその同じような格好に顔を見合わせて2人してポッと赤くなるあたしたちがいた。
で、その日のお昼。朝倉と一緒に屋上へと上がる。もちろん鍋を食べるためにだ。でもちょっと遅れたなぁ〜。あの数学教師め!! と思いつつ屋上へと登る階段のところから何やら甘い匂いが鼻をくすぐる。何この甘い匂いは? そう思って屋上に着くと何やら外がわいわいがやがやと言っている。何だろ? そう思ってぎぃ〜っと重い扉を開けると…、美春が嬉しそうにバナナを鍋に入れては取り出して美味しそうに食べていた。って言うかその茶色いものってチョコレート? 半ば呆然としながら朝倉と2人その様子を見ていると、美春が気がついたのか…。
「あっ、朝倉先輩。眞子先輩。チョコバナナですよ〜っ!!」
「いや、それは言われんでも分かるんだが…。何でお昼にチョコレートフォンデュなんだ?」
と朝倉。普段はあまり朝倉とは意見が合わないあたし。でもこの状況下ではうんと納得するように頷く。と言うかお姉ちゃんは何を考えてるの? とお姉ちゃんの顔をギロリと見つめるけど、さすがはあたしのお姉ちゃん。そんな妹の顔におくびも見せずこう言った。
「今日はバレンタインなので〜、ちょっと洋風にお菓子気分にアレンジしてみました〜。マシュマロやフランスパンとかもいっぱいありますからお腹も膨れますよ〜? それからこの料理は朝倉くんへの私の気持ちです〜」
こりゃ当分はチョコレートは入らないかな? そう思い横を見ると朝倉が変な汗をかいていた。まあメインはあたしじゃないって言うことだし、朝倉…、後は任せるわ。適当に食べてその場から立とうとすると、ガシッと腕をつかまれる。つかまれた先を見てみると案の定と言うか何と言うか、朝倉が涙目になりながらこっちを見つめていた。“眞子ちゃんはもういいんですか〜?” とちょっと残念そうなお姉ちゃん。お姉ちゃんには悪いけど、もう甘いものはこりごりなあたしはこう言う。“あ、あた、あたしはいいからさ…。その分朝倉にしてやって? 朝倉もお姉ちゃんのバレンタインチョコ、とっても嬉しそうだし…” と朝倉をダシに退散しようとする。ふるふるふるとどこぞの無口のお嬢様のように首を横に振る朝倉。正直可哀想に思えたけど、お姉ちゃんのせっかくの好意を無にしてどうするの?! と思い直して、いつものように手から炎を出すような感じで握り締めてキュピーンと朝倉の顔を睨みつけてやる。観念したのかがくりとまるで被告人が判決内容に項垂れて聞いているような感じに見えた。そんな今日2月14日はあたしの誕生日だ。
さ〜って、口の中があまあまになってる朝倉に何かからいものでも買ってあげようかなぁ〜。うふふっ…。
END