美春の一日


 ふあぁぁ〜。今日も疲れましたぁ。
 美春はバナナを房から一本取ると剥いていきます。そう言えば、音夢先輩がこの島を出て行ってからもう五ヶ月が経つんですねぇ。早いものです…。
 あっ、そうだ!! せっかくですからお手紙でも書きましょう……。

「音夢先輩、お元気ですか? 美春はとっても元気です。最近は朝晩と涼しくなって来ましたね……。

「朝倉先輩。おはようございます」
「おっ? わんこか…。どうだ…、飼い主がいなくなって寂しいだろう?」
「美春はわんこじゃありませんよっ!! それに飼い主って、誰ですかっ?……」
 美春はそう言って、う〜っと言いながら朝倉先輩を睨み付けます。わんこじゃありませんよ…。美春は…。
 …あっ、でも音夢先輩と一緒に暮らしてきた朝倉先輩のほうが寂しいかもしれませんね…。美春は聞いてみることにしました。
「先輩。やっぱりその…、寂しい…、ですか?」
「んっ? 何が?」
「音夢先輩ですよ。朝倉先輩。音夢先輩、島のそとにある看護学校へ行っちゃったんですよね? 朝倉先輩…。美春は…、美春は寂しいです…」
「ああ…、そりゃあちょっとはな…。でも、あいつの選んだ道だ。俺にどうのこうの言う資格はない。それにあいつの決意は固いしな…。って…、こんなこと言うのはやっぱりかったりぃな…」
 そんなことを言うと、ぽりぽりと頬を掻いて、先輩は寂しそうに微笑みました。いっつも出ますね? その口癖…。あはっ。朝、桜並木のいつもの道で美春は朝倉先輩と出会ってお話ししながら学校へ……。って、はっ? ちょっと待ってください…。朝倉先輩がここにいると言うことは…。
 が〜ん! も、もしかして、遅刻?!! 美春の顔に縦線が…。学園の風紀を正す風紀委員の美春が遅刻だなんて…。うううっ…。洒落になりません。美春は朝倉先輩に内緒で時計を確かめます。
 いつもと同じ、いえ、それ以上に早い時間です。…不思議なこともあるものですねぇ。…と、朝倉先輩を見るとジト目で美春を睨んでいました。見られてたんですかね? あは、あは、あははぁ〜。美春は、一目散に逃げ出します。先輩はというと…、
「み〜は〜るぅ〜。待てやこら〜っ!! お前の頭、グリグリしちゃる〜っ!!」
 って、美春の後を追っかけてくるんですよ〜。目をぐりぐり光らせながら…。
 結局、朝倉先輩に捕まってげんこつで頭をグリグリされましたぁ〜。すっごく痛かったですよ〜。うううっ…。でも、その後で…。
「ほら、美春…。俺がせっかく早起きしたんだ。遅刻なんてしてたらもったいねえ。…行くぞ!!」
 美春の手を取って学校へと走り出します…。途中、眞子先輩や萌先輩、杉並先輩たちもやってきて一緒に向かいます。杉並先輩は風紀委員とは敵同士さんですけど…、今はそんなことは気にしません。
 それに今捕まえたって、どうせすぐに美春の目を盗んで逃げるに決まってます!! と、杉並先輩が…、
「むむっ、怪しい気配が…。朝倉、わんこ嬢。悪いが俺は先に行く…。さあ、水越姉妹よ。青春の学び舎に向かって走るぞっ!!」
「あっ? ああっ? ちょ、ちょっと…、杉並!! って、わっ! どこ掴んでるのよっ!!」
「杉並く〜ん? あ〜れ〜……」
 眞子先輩のスカートと萌先輩の手を取って杉並先輩は、急に走って校舎の方へと行ってしまいました。あっ、今、眞子先輩に叩かれた……。
 杉並先輩の頭を叩く眞子先輩の方を見てみると、何やら手から炎が…。こ、怖かったですぅ〜。
 残った美春は朝倉先輩と一緒に校門へと向かいました。…って、ひょっとして、杉並先輩は美春たちに気を使ってくれたのでしょうか? う〜ん。謎ですね…。
「何だったんだ? 今のは…。って、こんなこと言ってる場合じゃないんだった…。美春っ!! 急ぐぞ!!」
「えっ? あっ? は、はいっ!! 朝倉先輩!!」
 朝倉先輩は、再び美春の手を取ると学校へと走り出しました…。


 授業を受けます…。美春は数学が苦手です。方程式なんてちんぷんかんぷんで全然分かりません。でも頑張りましたよ〜? ……ふぅ。
 やっと午前中の授業が終わりました。今日は午後から風紀委員会があるので、委員会の先輩方と一緒に昼食です。もちろん、デザートにはバナナですっ!!
 こればっかりは、誰が何と言おうと、例え校則が変わって“バナナ禁止”になっても、デザートにはバナナです。変えるつもりはありません!! そんな校則、美春が破ってやります!!
 例え、そのことで風紀委員を辞めさせられようとも!! ぐぐぐっ。…って、まあそんな校則、出来ませんけどね…。あははっ。
「美春のバナナ好きにも、参ったものねぇ…」
 ふぅっと溜め息混じりにそんなことを言うと、先輩たちは優しそうに美春を見つめて微笑んでいました。
 午後からは風紀委員会です。杉並先輩や朝倉先輩たちが今日も議題に上がりました。風見学園のブラックリストに必ずは載る二人の名前。はぁ〜。音夢先輩がいないので、お二人の動きが察知しにくいんですよ。
 まあ、朝倉先輩は最近少しは? 大人しくはなりましたけどね…。杉並先輩は全く何を考えているのか分かりません。あの人が今現在の風見学園の最要注意人物です!!
 会議が済んだら次は見回りです。美春は、朝倉先輩たちの監視です。最要注意人物…、杉並先輩を今、追跡中です。杉並先輩は、校舎の片隅でじっとして動きません。
 仕草といいましょうか、何といいましょうか…、怪しい空気がぷんぷん漂ってきます。きょろきょろと見回しますが、誰も杉並先輩のところへ行こうとはしません…。先輩方は、杉並先輩の免疫がないんでしたね…。
 …こんな時に音夢先輩がいてくれたらと、美春はいつも思います。…でも、杉並先輩…、あんなところでいったい何をやってるんでしょうか?
 あっ、杉並先輩が動き出しましたよ…。って…、今まで杉並先輩のいた場所においしそうなバナナがっ……。くっ、美春がバナナ好きなのをいいことに…。ひっ、卑怯ですよっ!! 杉並先輩!! 美春にはバナナしか目に写っていません。ごくん、と喉がなりました。
 先輩方には杉並先輩を追いかけることは無理です。あの人は経験を積んだ者にしか追いかけることが出来ません。そう、あの人を追いかけると姿をくらませますから、美春や音夢先輩のような人でないと…。だけど、美春の目の前には……。うううっ(泣)。
「お、お、追いかけましょう…。先輩方…」
 うううっ…。涙を飲んで諦めました。おいしそうだったな…。あのバナナ…。…もし、帰りにまだ残っているようでしたら持って帰ろうかな? てへへっ…。


 学園からの帰り…。
 結局あのバナナは、怪しいもの(毒入りだと勘違いされたんでしょう。いや実際毒入りと言う可能性も…。相手があの杉並先輩ですし…)だと言うことで、清掃員のおじさんに焼却処分され(泣)…、泣く泣く美春は家路に着きます。
 公園を通るといつものクレープ屋さんがありました。いつも買うチョコバナナも置いてあります。でも、今月はお小遣いが残り少ないので、おじさんに挨拶だけして通り過ぎようと思いました。すると…。
「おっ? 美春じゃないか…。どうした?…」
 朝倉先輩が立っているじゃありませんか? でも美春は、今はそれどころじゃないんです。うううっ…。
「……」
 美春はチョコバナナをじっと見つめます…。半分だけ…。3分の1でも…。何だか悲しくなってきましたよ〜。
「美春? って、ああ…。かったるいなぁ…。全く……」
 美春の見ていた方向に目を向ける朝倉先輩。美春が見ていたものが分かったようにふぅ〜っと溜め息を吐くと朝倉先輩は美春の頭をくしゃっと撫で、お店の方へと向かいます。そして……、
「おやじ……。チョコバナナ2本…」

「おいしいか?」
「はい!! おいしいです!! 朝倉先輩、ありがとうございました!!」
 帰り道…。チョコバナナを食べながら、朝倉先輩はそう言うとにっこり微笑みます…。美春の頭を優しくぽんぽんと叩いて、優しい目で美春がチョコバナナを食べるところを見ていてくれました。
 美春は一人っ子ですから、朝倉先輩がまるでお兄さんのようで…、心があったかくなるようなそんな感じがします。今日は何だかとってもいい一日だったですね。美春はそう思いました。
「じゃあ、美春。また明日な…」
 美春のおうちの近くまで来ると、先輩は手を上げて帰っていきました。先輩の背中に影法師が伸びて…。遠ざかって、やがて見えなくなりました。美春は先輩が見えなくなるまで、手を振り続けました。

 …と、こんな毎日です。音夢先輩の方はどうですか? 毎日大変でしょうけど、頑張って下さいね…。
 美春も朝倉先輩も、眞子先輩も、一応杉並先輩も? 応援しています。夏休みはもう終わっちゃいましたけど…。音夢先輩と美春達は心で通じているんだと思います。
 だから、もしつらくなったときや悲しくなった時は美春達のこと、思い出してくださいね。頑張って下さい。それではまた会える日を楽しみにしています。 …美春より。」


 ふぅ〜…。やっと書き終わりましたぁ〜。明日でも切手を貼って出しに行こうっと…。あははっ。
 ふあぁぁ〜。欠伸がまた出ました。そろそろ寝ようかな。ベッドへと向かいます。電気を消し、布団をかぶりました。音夢先輩、朝倉先輩たち、世界中の皆さん…。それでは美春はもう寝ます。おやすみなさい…。
 明日もいい一日でありますように…。くぅ〜。

END