巫女さんと奇妙な体験
「祓いたまえ、清めたまえ…」
と言う祝詞が俺の部屋にこだまする。今日1月21日は俺の許婚? な彼女・胡ノ宮環の誕生日だ。許婚に関しては俺も昔のことでよくは覚えていないのだが、環曰く“朝倉様が言ってくれたんですよ?” と言うことらしい。まあそんなこんなで、彼女持ちの俺ではあるのだが、以外に子供っぽい部分も持っているのか拗ねだすととことんまで拗ねてしまう癖もあるようで…。まあこれは十分に甘えきったときにしか出てこないわけだけどな? で、今現在、巫女姿の彼女は俺にお祓いを授けてくれている。しかしなんで俺がこんなお祓いを受けているのかと言うことだが、それは今朝のことだった。
今朝早く、夢現でいい気持ちで寝ていると何やらガチャガチャと玄関のところがうるさく鳴った。まあ新聞屋の広告がいっぱいあり過ぎて新聞受けに入りきらないんだろうと思い時計を見ると5時半、まだ寝足りねぇ〜っと思ってもう一回眠りにつこうと布団をかぶって寝る体勢に入ると、だんだんだんだんと階段を上ってくる音が聞こえてくる。何だ何だ? と思いながら足音を聞いているとそれは俺の部屋の前で止まる。アブナイ系かと思っているとガチャッと乱雑にと開かれて恐る恐る前を見る。看護学校に行っているはずの義妹・音夢がなぜかジョ○ョ立ちで立っていた。“お、お前、休みはこの間終わったはずだろ?” と言うと、にへらっとこれまで見たこともない怪しい笑みを浮かべて近づいて来る。これは義妹なんかじゃあるまい。闇の者か魔の者かそこら辺な感じだろう。直感的にそう思う。まずい! と思い護身用の木刀へと手を伸ばそうとする。しかし金縛りにあったかのように手は動かない。そればかりか体も動かない。とこうしているうちにもだんだんと近づいてくる義妹のようなもの。だがこれは義妹ではないことは明々白々。物の怪と言った類のものか? とも思うが何せ体が金縛りにあったようにぴくりとも動かない。そうしている間にむぐぐぐぐ〜っと唸っていると義妹? のような物の怪は俺の横まで来る。顔を覗くように近づけてくる顔は能面のように表情がない。“来るな! 来るなっ!!” と心の中で言っても聞かずに近づいてくる顔。その顔が恐ろしくてそのまま気が遠くなってしまった。
う、う〜んと再び目を覚ます。どうやら悪夢にうなされていたみたいだ。ふぅ〜っとパジャマの袖で額の汗を拭う。ふと時計を見る、8時を指していた…なんだもう昼か。と思ってハッとなる。今日は環を迎えに行くって言う約束があったんだった! と思い出してもう一度時計を見る。間違いなく8時を指していた。確か昨日約束した時刻は7時…。と言うことは…、1時間も遅刻?! と言うことでぶあ〜っと用意をして出かける。支度時間40秒也。これがもし競技だったら間違いなく優勝だろう。そんなことを考えながらいつも通り玄関にカギをかけ走っていると、向こうのほうから巫女さんが駆け寄ってくる。何だぁ〜?と思い目を凝らして見ると俺の彼女だった。
「あっ。朝倉様。おはようございます」
と頭をぺこりと下げる環。俺も同じように下げた。何だか慌てているみたいに目だけをきょろきょろと動かしている。何だと思いじ〜っと環のほうを見ているとちょっと驚いたのかびっくりしたような顔になっていた。“何かあったのか?” と聞くと、唐突に彼女はこう尋ねてくる。
「あの…、朝倉様? 今朝は夢見が悪かったのではありませんか?」
と…。真剣そのものの顔で尋ねてくるものだから、こっちも迂闊に変なことは言えないような感じになって今朝のあの例の一件のことを話すと、“ああっ、やっぱり…” って言う顔になっている。気にしていないと言ってはウソになる。実際あの音夢のような魔物は何だったのか非常に気になるのではあるが。しかし現在赤点すれすれのラインにいる俺としては何としても学校に行かなければならないわけなのだが…。この顔は行かせてもらえない顔だな? そう直感的に思った。取りあえず誘われるがままに神社のほうに連れて行かされ、お祓いを受けることになった。ふと腕時計を見てみると9時を越している。完璧に遅刻だ。もうこうなったら休んでやろう。今更行っても怒られるだけだし、わんこのぶりぶり怒った顔が我が義妹のようで何とも恐ろしい。と思ってお祓いを受けていると、どうやら学校と家のほうもお祓いしなければならないらしく、取りあえずは学校のほうへ行きましょうとお言いになる俺の彼女。“いっ? いやぁ〜。学校より家のほうが大切なんじゃないのかなぁ〜?” と言っても…。
「いいえ。家の魔の者を封じるにはまず学校の魔の者を封じなければなりません。学校からの邪気が家のほうまで流れてきているように思うのです。それに私は朝倉様の、貴方様の御身が心配で心配で……」
とそう言っては目にいっぱい涙を浮かべている。確実に暦先生とわんこのお説教と学校中の注目の的と、杉並の怪しい噂と眞子の鉄拳制裁は覚悟しないといけないな? かなり嫌だがこのまま行かずにいて俺の家に魔物が棲みつくのはもっと嫌だ。ここは恥を忍んで行くしかない。そう思った俺は、“分かった。分かったから泣くな” そう言うと涙目の彼女の顔を優しく撫でる。安心したのか涙目から凛々しい顔になると、“私が命に代えても朝倉様をお守り致しますから…” そう言うとぎゅっと俺の手を握る。何か女の子に守られる男ってどうなんだ? とは思ったがこう言うことは専門家に任せた方がいいので環に一任することにした。学校へと向かう道はいつもと同じようでいつもと違うような妙な威圧感がある。威圧感は彼女も感じているんだろう。ちょっと疲れた顔になっていた。そんなこんなで学校のほうに到着すると早速臨戦態勢に入る環。随神の道とは言うけれどここまで真剣な環も初めてだ。敵は相当強力な奴なんだろう。そう思いながら門をくぐった。
下駄箱で靴を履きかえ教室へと向かう。どうもおかしい。生徒には会うが俺の知ってるやつには会わない。そうこうしているうちに教室に着く。この時間なら休み時間でわいわい言っているんだが今日に限ってし〜んと静まり返っている。何だぁ〜っと思って教室を覗こうと扉を開けると、ぶおんっと何か黒い物体が俺の数センチ横をすり抜けて行った。うおっと思わず仰け反る俺。臨戦態勢の環は札を数枚取り出して一閃黒い魔物に札を張る。続いてどこから出して来たのか分からないが払い棒を取り出すと祝詞を唱える環。魔物は最初は抵抗していたが次第に大人しくなる。大人しくなったところで環が事情を聴くところによると、“昨日お前に我らが代々の祠を荒らされた。だからこうやって復讐に来たのだ!” と言うことらしかった。実際には環が聞いた話の又聞きではあるのだが…。しかし祠? そんなもの家にあったか? と考えていると、黒い物体は環に口寄せする。
「朝倉様のお庭の一角にある石だそうです。それを元に戻してもらえればともう悪さはしないと言うことですよ」
と言うことらしい。昨日は一日中家の中で何をするでもなくごろごろしていて外へは出ていない…ってちょっと待て? そう言えば確か環のプレゼントを買いに行こうと思って外へ出たけどあまりの寒さに明日だ明日と思って家に入る途中に、5センチくらいの石があったっけか。何だろうこれ? そう言えば俺が物心つく前からあったよなぁ〜と思ってちょっと動かしてみたが、それだったのか! と思い出し、元に戻すことを約束すると、急に視界が開けてきていつものわいわいがやがやと言う音が聞こえ出す。環と2人ぼ〜っとしていると眞子が、“何ぼ〜っとしてるのよ、朝倉” と言う声が聞こえてくる。いや、今までのことはなんだったんだ? とはてな顔になりつつ眞子の頬を摘まんでみる。このぷにぷにした感触は本物のようだ。と…、
「ちょ、ちょっと! なに人のほっぺを摘まんでるのよ!!」
といつもの手から炎を出して目を爛々と光らせている。本物だな? こりゃ…。とガミガミ文句を言っている眞子を尻目にそう思う。と後でことりに聞いた話だと、俺たちが入ってきてじ〜っと固まっているものだからびっくりして駆け寄ると何やら訳の分からないことをぶつぶつ言っているらしかった。揺すってみるも効果はなし。これは本当に危ない方向に行ってしまったんだろうと思い、先生を呼びに行こうと工藤にお願いしているときに目覚めたんだと。まあ巫女さんが彼女で本当によかった。これが眞子だったら絶対今頃は病院行きだっただろう。そう思い、ふっと環のほうを見てみる。内緒と言う感じに口元に人差し指を持ってきて、ウインクをしながらにこっと微笑んでいた。まあ一時はどうなることかと思っていたが無事に? 収まって良かったと思う今日1月21日は俺の彼女・胡ノ宮環の誕生日だ。
END
おまけ
帰りしな環には少し悪いが家に寄ってもらって祠の修繕と地鎮を手伝ってもらった。もちろん俺の部屋で祝詞も上げてもらったが…。肝心の祠はと言うと、小学生のときに作ったぼろぼろの鳥の巣箱を簡易の祠を祭る御台にさせてもらったが、環に言わせるところ、“とても嬉しそうです” と言うことらしいのでこれはこれで良かったのかもしれないと思う…。と、ん? と違和感、と言うか何か忘れてないか? と自分自身に問いかけてみる。…あっ! 肝心なものを忘れてたよ?! と思い出し、帰ろうとする彼女を呼び止める。がプレゼントも何も用意していなかったんだった。と今になって思い出す俺。え〜い、この際だ。寿司でも食べに行くか。と思い財布をまさぐってみるが生憎と金の管理はさくらに任せられているので俺持ちの中途半端な金じゃあ食うにしたってたかが知れている。親も親だな? なにもさくらんぼに任せんでも良かろうに…。とは思うが仕方がない。そんな俺の心を読んだのか、“朝倉様、そんなお気は使われずに…。私は朝倉様と一緒の時間を共に出来ることだけで満足ですから…” と言ってにこっと微笑む。こんな思慮深い奥ゆかしい女の子は環だけだな? 俺の知ってる女の子では…。甘えん坊やツンデレはゴロゴロといるわけだが(どこの誰とは言わないが)、こんな日本女性の鑑みたいな女の子もそうはいないだろう。と思ってこれは何としてもプレゼントをせねばと体のあっちこっちをまさぐっていると、彼女がこう言ってくる。
「あ、あああ、あの…、朝倉様。お、お願いと言うかそういうものが1つありまして…。それを私のお誕生日プレゼントにさせては頂けないでしょうか?」
ちょっと赤い顔をして俯き加減に少々どもりながらそう言う彼女に俺は否も応もなく首を縦に振った。…まではよかったんだが。まさか手料理を呼ばれることになろうとは思わなかった。しかも純和風の魚料理を…って言うかうちの冷蔵庫にこんな食材入ってたっけ? と言うことなのだが、年末にそういや音夢が大量に購入して“兄さんもたまには自分で料理してくださいよ?” って言ってぐりぐりした目で見つめてたっけか? “そう言うお前はどうなんだ?” と言うところが、“わ、私はちゃ、ちゃんと練習してますからいいんですっ!!” と更に目をぐりぐりさせながら俺の顔を睨んでいた…。しかし…、年末に買った品物が未だに冷蔵庫の中で眠っている家庭ってどうよ? と自分自身の不甲斐なさに頭を抱えたくなるわけで…。でもそのせいでこんな温かい料理が食べられるんだからこれはこれでいいのかもな? と思う今日1月21日、俺の彼女で許婚? な胡ノ宮環の誕生日だ。んん? ああ…、おかわりな?
TRUE END