風邪引きさんには温かい看護を
「ゴホッ、ゴホッゴホッ……」
突然だが風邪を引いた。冬休みに入って間もないのに何でだとは思うのだが、こればかりは分からん。杉並曰く、“ヌーをバカにするからこんなことになったのだ! 朝倉よ!” とか何とか言って不敵な笑みなんぞを浮かべている。疑似科学だのオカルトだのそう言うことを誇張して書かれている本・ヌー。杉並の愛読書だ。この前の企画なんぞは呆れた企画だ。
“ヌー愛読者諸君! 我々と一緒にUFOを呼ぼう!!”
などど書いてあった。馬鹿げている。こんな寒空になんでUFOなど未知の疑似科学などを呼ばねばならん! 杉並は嬉々とした表情で俺にこう言ってくる。
「朝倉よ! 一緒に大宇宙のロマンを堪能しようではないか!!」
「断る!!」
即答で言ってやる。ガーンとなる杉並。ふらふらとよろけながら、“な、何故だ。前なら一緒に見ようと俺が言ったなら返事はいつもYesなはずだったのに…” と言って顔を青くする。まあこんなやつはほっておいて早く帰るか…。バイトもしないといけないしな? そう思って未だにぶつぶつ何事かを呟いている杉並に別れを告げ、さっさと家に帰った。
バイトの準備をしていざバイトの現場へ直行…、と言ってもバイト先は隣なんだがな。さくらんぼ…、俺の従姉であってお隣さんだ。今日はその家の草刈りを頼まれている。そういや夏にも頼まれたっけか? あの時は美春もバナナに誘われてのこのこ着いてきたんだっけか? でもありゃ草を刈るというよりさくらの相手をするほうが多かったように思えるんだけどな?…。そんなことを考えながら、勝って知ったるさくらんぼの家に侵入。人形みたいなネコがのん気そうに日向ぼっこしている横、黙々と草を刈る。肝心のさくらはと言うと……。職員会議や何とかで忙しいそうだ。まあ冬休みになっても働かされる身となるとそりゃあつらいだろうなぁ…。そんな他愛もないことを考えながらどんどん草を刈っていった。
冬場でも草はある。まあほとんどが枯れ草かそこらへんのものだが、でも少々かったるい。時給がいいから何とかやっているのだが…。さくらんぼは、“時給、100円でどうかな?” と言ってきたので、“1000円にしろ!” と言ってやった。“うぅ〜っ、するいよお兄ちゃん! 今時時給1000円なんてどこにもないんだよ?” と涙目になって言ってきたので500円に負けてやることしたんだが…。結構疲れるもんだな。これ…。もう少しレートを上げておけばよかったぞ……。時給100円のままだったらさくらんぼの頭をグリグリしてやるところだ。しかし寒いなぁ〜。そう思っていると…、
「は、は、はっくしょん!!」
くしゃみが出る。何だか寒気もしてきた。風邪かも知れんな…。そう思って、はっと気付く。そうだ。明日から我が義妹・音夢が帰ってくるんだった。しまった! と思ったがもう遅い。はぁ〜っと深いため息を吐く。音夢が帰ってくるっていうのにこんなだらしのないところを見られると、“全く……。もう少ししっかりしてください!! もう、兄さんは…” とぶすっとした顔で言われるに違いない。俺が文句などを言おうものなら、裏音夢発動だ。や、やばい、やばすぎる! 何としてでも今日中に治さないと……。そう思い、草刈りを早々に切り上げ家に帰った。
……で、結局こうなってしまった。我ながら情けないとは思う。それを敢えて棚の上に上げておいて、さくらに文句を言いたい。普段、日曜日は家でゴロゴロしてるんだがら、そのうちにやっておいてくれと…。まあ、一応あれでも教員なんだし、疲れているっていうことも分かるが…。でもなぁ。よりにもよって我が義妹の帰ってくる日に風邪を引くとはなぁ〜。はあっとため息をつく俺。あいつの帰ってくるのはいつ頃だっけ? 電話で嬉々とした声で話していたんだが…。もう記憶も曖昧だ。こんな体じゃ迎えになんて行けん! 行ったらそれこそ天からお迎えが来そうだ。音夢には悪いが大人しく休ませてもらおう…。そう思い横になった。
「……ん……さん……兄さん」
んんっ? 目を覚ます。ぼうっとした頭をフル回転させてみるが、熱があるのか頭が回らない。って今、音夢の声がしたんだが…。そう思い辺りを見回すと、心配そうに俺の顔を覗き込む義妹の顔があった。
「んあ? ね、音夢…。いつのまに帰って来たんだ?」
「あっ、お、お昼過ぎに…。って兄さん!! これは一体どういうことです?」
体温計を取り出して俺の顔をギロリ…。“こ、これはだな……” しどろもどろになりながら答える俺。音夢の顔をチラッと覗き込む。少々むっとした顔だ。まあ、さくらに対抗意識があるのか、さくら関係の事柄になると以前からこんな顔になることが多かったな……。はぁ〜っとため息を一つ。
「私がどれだけ心配したと思ってるんですか?! 帰ってきたときにはいつもバス停で待ってる兄さんの姿が今日に限ってないし…。玄関にはカギがかかってるし…。さくらの家に行ったら、“ボクがちょっとこき使っちゃった…。でもお兄ちゃん、音夢ちゃんのお迎え行ってないの?” って言って不思議そうに私の顔を見てるし…。おまけに…、おまけに兄さん、こんなすごい熱が出てるし…。帰ってくる早々妹に心配かけさせないでよ…。バカ…」
バ、バカってな…。言おうとして……、やめた。音夢の目にはいっぱい涙が溢れていたから……。体温計は38.9度。…本当に心配してたんだな? 音夢。そう思って手を広げるとたまらなくなったのか義妹は俺の体に飛び込んでくる。“本当に、本当に心配したんだから〜っ!!” 泣きじゃくりながらそう言う音夢。頭を撫でると少し大人しくなったのか、“すん…すん…” と鼻を鳴らす音が聞こえてくる。
「あんまり心配かけさせないでくださいね? ただでさえ危なっかしいいんだから…。兄さんは…」
「ただでさえってな? ……ってまあいいか…。ったく。かったるいなぁ〜…」
俺の体にすべてを預けて優しくそう言う音夢…。頬をぽりぽりと掻きながら俺。“そろそろ離れたほうがいいんじゃないのか? 風邪がうつっちまうぞ?” そう言っても音夢は静かにううんと首を横に振った。“しばらく会えなかったんだから、もう少しこのままでいさせて?” そう言いながら甘えてくる音夢。
「ったく…。いつからそんな甘えん坊になったんだ? はぁ〜、かったるい…」
「だ、だって……。夏からずっと会えなくて寂しかったんだもん…」
はぁ〜っとため息をつく。夏からか…。そういやそうだったな? 看護学校の勉強が忙しくてって電話で言ってたしな。まあ、久しぶりに帰ってきたんだ、もうしばらくこうしておいてやろう…。だって、今日は誕生日だからな…。“誕生日おめでとう、音夢” 心の中でそう言って優しく頭を撫でると、いつの間にか“すぅ〜、すぅ〜”と心地のいい寝息が聞こえてきた。にこっと微笑むと俺は毛布を一枚引っ張りだして音夢の肩に掛けてやる。相変わらず“すぅ〜、すぅ〜”と心地良さそうな寝息を立てている我が義妹。微笑むとまた“ごほっ、ごほっ”と咳が出る。しばらく横になろう。そう思い横になると、義妹の寝言が聞こえてきた…。
「兄さん、ありがとう…」
心地のいい声に目を閉じる。目を閉じて数刻もしないうちにもう夢の世界だった。そんな今日、12月28日俺の義妹・朝倉音夢の誕生日だ…。
END