ななこのペンタブ奮戦記
今日7月18日は私のお誕生日。しかしこの時期はコミケの新刊の準備で大わらわなので何もしないのが普通です。まあ高校時代からのお友達である朝倉くんは、“はぁ〜、かったりぃ〜” などと言いつつもお手伝いをしてくれているので私としては大助かりに助かっていると言うわけで…。そうそう、最近島にも光回線が届くようになったので漫画の入稿などはパソコンから行なえるようになりました。まあ私自身はパソコンを使っての作業は慣れていないので彼のお友達の藤田くんにお願いして設定等をやってもらったわけなのですが…。そこで、“漫画家だったらペンタブなんかも揃えてた方がいいんじゃねーかな?” なんて言われてしまいまして…。聞くと入稿作業でいちいち手書きで書いて郵便局に持って行かなくてもパソコンから直接送れるので楽とのこと…。私の天敵であるヤギさん(一応、八木・ブリッジって言う渾名らしいです)にも食べられずに済むかなぁ〜? なんて思って藤田くんに頼んで購入してもらうことになりました。
一応プロの漫画家だって言うことは彼から聞いていた藤田くん。さささっとパソコンで調べます。そのあまりの手際の良さに朝倉くんと2人感心していると、“これなんかどうだ?” と聞いてきます。画面をのぞくとプロ仕様のペンタブと言う感じに書かれてありました。評価面のところにもいい評価がずらり…、買っちゃおうかなぁ〜なんて考えながら値段を見て目玉が飛び出るくらいに驚きました。高いもので40万ぐらいもしたんですから…。まあ何だか私にとっては高嶺の花かなぁ〜なんて考えてると朝倉くんが、“おい、もう少し安いやつはないのか? さすがに40万はないそ?” と言ってくれました。そこでいろいろ調べた結果ちょうど良さげなペンタブを見つけて、“値段的にもお手頃なんじゃねーかな?” と聞いてくる藤田くん。見ると5万円ちょっと…。これなら何とかなりそう、と思って購入ボタンを押してもらいました。代金はコンビニ支払いでお願いしたのですが、朝倉くんがふっと思い出したのか、“もうすぐななこの誕生日だったよな? じゃあそれをプレゼントするよ…” と言ってくれます。そ、そんな悪いよ! と言おうと思って口を開きかけたところで朝倉くんに人差し指でし〜っとされます。藤田くんが、“人の好意は素直に受けとっとけって” と言って微笑んでいました。
藤田くんにパソコンの起動の仕方からUSB? のつなぎ方、ソフトのインストール方法なんかを教えてもらって帰る道すがら、“また分からんところとかがあったらいつでも呼んでくれ” そう言って電車の車窓から言ってくれます。朝倉くんも、“大体は分かるから何とかなるだろ?” と言って微笑んでいました。藤田くんが、“そんじゃまた。いい漫画期待してるぜ?” とウインクしながら言うのと同時くらいに電車が動き始めてあっと言う間に見えなくなってしまいました。“さて、帰るか…と、その前に…” と早速コンビニに寄って私が払うはずだった代金を払ってくれたことは言う間でもありません。何だか彼の彼女である胡ノ宮さんに悪いなぁ〜っと思ってると、“環だったら逆に喜んでくれると俺は思うけどなぁ〜?” と私の心を読んでいるかのようにそう言う朝倉くん。って! 何で考えてたことが分かったの? と聞くと、“そりゃあ神社の方向を見ながらため息なんてついてたら分かるって” とちょっと呆れ顔で言う彼にちょっぴり笑いが込み上げてくる私がいたのでした。
さて家に帰ってパソコンを起動します。USBはこれでいいのかな? ガチッとはめ込みました。起動していくと勝手にデバイスドライバーのインストールが完了したと言うメッセージが出て来ました。ここまでは藤田くんの言っていた通りなので問題はありません。後は…、ソフトのインストールです。教えてもらった順序の紙を見つつやってみました。難なく成功。呆気ない感じです。もっとこういろいろと命令したりしないといけないものかと思って身構えていたわけなのですが、拍子抜けでした。でもこれで書けるんだなぁ〜っと思うと何だかドキドキしてきます。早速描いてみることにしましょう。ペンを取りタブレットに滑らせます。おおっ!! これはこれは…。しゅっと線を引くと画面上に線が出て来ました。キャラクターを描くとキャラクターがそっくりそのまま出て来ます。背景なんかもお手の物。さらには一番厄介な修正なんかも簡単に出来るではありませんか!! こんなにいいものがあるんだったらもっと早く購入しておくんだったなぁ〜なんて思いながら作業を進める私。とふと気づくと夜の10時を回っていました。いけないいけない。明日また講義があるんだった。そう思い今までのデータの保存をしてお風呂に入る私。湯船の中で今日のことを考えていて、ふと不安が頭を過ぎります。だってあれだけ高性能なものなのだからもう助手はいらないよねぇ〜ってなっちゃうんじゃないだろうか。そしたら今まで何度となく足を運んでくれていた朝倉くんたちは?…。ぼや〜っとしたいつもの天井の景色がいつになく寂しく映ってしまいます。バシャバシャッと顔を洗うように拭うとさっと体を洗いお風呂を出て駆け込むように自室のベッドへ雪崩れ込みました。みんなが来てくれなくなるのは嫌だ…。そう思いながら目を瞑ります。自然と涙が溢れてくるような感じがして気がつくと泣いていました。自分でも分からないくらいの悲しい衝動があったのも事実です。だけど一番はやっぱり彼・朝倉くんが来てくれなくなるのが嫌でした。片思いでも叶わない恋でもいい。微笑んでくれさえすればそれで私は満足でした。だけどその笑顔も見られなくなるのかな? そう思うと心の衝動がどうにも抑えきれません。気がつくと激しく嗚咽していました。
次の日、いつの間に眠っていたのかな? そう思いながらむっくりと起きました。眼鏡をかけて鏡で自分の顔を見てみます。酷い顔…。今日は休んじゃおうかな? とも思いましたが私にとっては大事な講義のある日ですのでそう言うわけにもいきません。せめて笑顔でいよう。そう思って前に録画しておいた面白いDVDを見て笑顔の練習をしてみます。何とか形だけは整ったかな? そう思いました。服を着替えて出掛ける準備に忙しく追われる私。少々遅れそうになりながらもなんとか大学部に到着しました。ふぅ〜っと息を吐いた瞬間、後ろから…、
「おーい、ななこ〜。今日は何時からだぁ〜?」
と言う声。一瞬ほへっと言う顔になっていたのかもしれません。みんながくすくす笑いながら通り過ぎて行くんですから。でも、その意味を理解した瞬間、今までの鬱々とした感情はどこかに吹き飛んでいました。振り返るといつものかったるい表情の彼。でもその表情に安心を覚える私。笑顔で、とびっきりの笑顔でこう答えます。“今日は午後の4時くらいからだよ〜っ!!” ってね? えへへっ…。
END