紫陽花の詩
今日6月20日は私の誕生日。だからじゃないけど、今朝からにこにこ顔で朝ごはんを食べているとお姉ちゃんが、“おっ? 今日は何だか嬉しそうだな? 朝倉と待ち合わせか?” って私の顔を覗き込むようににこにこしながら聞いてきました。実際今日は朝倉くんと待ち合わせをしているし…。“って! 何で分かったの?” そうお姉ちゃんに聞いてみます。するとお姉ちゃんが微笑みながら、“顔に書いてるぞ?” って言うものだから一瞬“ほへっ?” ってなって自分の顔をぺたぺた触ってるとお姉ちゃんに笑われてしまいました。
外は今日も雨。まあ梅雨時だからしようがないと言われればしようがないのかもしれないですけど。でもぱっと晴れてくれればもっと嬉しいのになぁ〜…。なんて思いながら家を出る私。こう言うときは気分が憂鬱になるんだけど、歌を歌うと心も晴れるから歌を口ずさみながら学園への道を進んでいます。と、ある家の庭先できれいな紫陽花が咲いていました。こう言う雨の日にはきれいに映える紫陽花。6月に咲く花の代名詞と言っても過言じゃないだろうね? そう思いながらしばらくその家の軒下で見ていると、遠くのほうから声が聞こえてきます。ふっと振り返ると彼が手をぶんぶん振りながらこっちへ駆けてくる姿が見えました。“おーい、ことりー” といつもの聞き覚えのある優しい声。その声にまたいつものにっこり笑顔で答える私。
「朝倉くーん、おはようっす!」
「ああ、おはよう。ことり。今日もにこにこ顔だな? って当たり前か…。今日、誕生日だもんな?」
そう言って微笑む朝倉くん。彼との出会いはちょうどこの年の2月くらいだったかな? 私が枯れない桜の木のところで歌を歌っていると心の声が聞こえてきて…。そのときは不思議だったんだけど私は他人の心が読めていました。それは子供の頃、ここの桜の木にお願いした結果だと思います。彼と一緒になれたのもその桜の木の魔法のおかげ…。でもそんな桜の木の魔法ももうなくなって今はもう読めません。でもこれでよかったのかも知れないね? って今は思います。他人の心が読めると言うことは、その人の何もかもが見えるわけで、当然その人の黒い部分も見えてしまうわけだから…。でも心が読めなくなって正直不安になっていた自分でしたが今では不安も何もないです。それは彼のおかげかな? ってそう思います。
「なあ、ことり? 今日の帰り、何か用事とかあるか?」
と彼。その顔を見てにっこり笑顔で“ううん、別にないですよ?” と言う私。多分付き合って欲しいところがあるんでしょうね? と一人合点するように頷く私にちょっと不思議そうな顔をして、“ことり? 何でうんうん頷くんだ?” とちょっとはてな顔になりながらそう尋ねる彼。その顔にちょっとだけおかしさを感じてしまった私は思わず笑ってしまいました。ますますはてな顔になる彼。
「あっ。いえ、何でも…。それより朝倉くん。今日の宿題はやってきました?」
恥ずかしさに話題を変える私。当然と言う風な顔でうん! と頷く彼ににっこり微笑む私がいました。しかし、今日も雨です。梅雨時だから仕方のないのかもしれないのだけどですけどね? こう言う雨の日は相合傘なんていいかなぁ〜なんて考えますが、生憎と私も彼も傘を持っているので出来ませんし、もし相合傘なんてしようものなら私は顔がトマトのように真っ赤になっちゃうから…。そう思いながら学園へ向かい歩き出しました。午前中は降ったり止んだり、あとちょっと晴れ間ものぞいていたりと言う天気だったのですが、午後からは本格的な雨。帰るころには結構な量の雨が降っていました。そうそう、午前中の休み時間に今朝見た紫陽花のことを歌った詩がぽこっと浮かんできたので、書き留めておいて昼休み中にみっくんとともちゃんに見せたら、“いいんじゃないの?” と言うことになっちゃって早速この詩の曲を考えてくれるんだそうです。どんな曲が出来上がるのかな? って思うとにこにこ顔になっちゃうわけで…。でも雨は止みそうにないですね? 幸いなことに私も朝倉くんも傘を持っているので心配はないのですけど。でも…。少し残念かな? なんて思いながら帰りの喧騒に包まれた廊下を歩いていると後ろから声がします。ふっと振り返ると…。
「暦先生も暦先生だよなぁ〜。昨日帰ったときに傘のチェックしとけって言うんだ…。はぁ〜。かったりぃ〜」
お姉ちゃんに傘を取られて朝考えてたとおりの相合傘状態になってる私たちがいるのでした。でもお姉ちゃん、今朝出て行くときには合羽のようだったような…、って考えてぽっと顔が前にも増して真っ赤になる私。“おっ、お姉ちゃんってば〜っ…” そう考えて恥ずかしそうに頬を赤く染めつつもにっこり笑顔で相合傘。そんな私を朝倉くんは不思議そうな顔で、でもどことなしかすべて分かったような顔で見つめていました。ふっと私の肩を抱き寄せる手。“濡れてるぞ? ことり” そう言うと更に抱き寄せる彼の手に私も甘えてしまいます。
しばらく歩いていると彼が思い出したように、“あっ、プレゼント…” と言いますが、私は彼の口元に人差し指を持っていって彼の口を噤みます。心の中でこう思いました。“こんなにいい雰囲気なんですもの。プレゼントなんて野暮ってものですよ? それに…、私は朝倉くんとこうして相合傘で帰るのが一つの夢、ううん、前から思っていた願いだったんですから…。その願いが叶っただけでも嬉しいです” ってね? 前にも増してにっこり微笑みながら彼の顔を見つめると、そんな私の心が分かったのか彼もにっこり微笑んでいました。しとしとと降り続く雨。普段憂鬱な雨でもたまにはこんな嬉しいことも起こるからいいのかな? なんて思っちゃう今日6月20日は私のお誕生日です。
END