ねむねむ音夢ちゃん
「すぅ〜、すぅ〜、お兄ちゃ〜ん、むにゃむにゃ…」
全く、帰ってきたらこれだ…。今日12月28日は一見大人しそうでちょっとつんとお澄まししているのに、その実ものすごい甘えん坊で嫉妬深い義妹・音夢の誕生日だ。音夢は今、島の外にある看護学校で看護師を目指して勉強中だ。だからか家に帰ってくるとこうやってよくうたた寝をしていることがよくあるわけで…。起きてるときはとにかく俺に、“疲れましたので肩でも揉んでほしいものですよ…” だの、“買い物に行くんでしたらついでに私の好きな苺のショートケーキでも買ってきてくださいよ?” だのとワガママを言ってくる。言うことを聞かなければ伝家の宝刀、“裏音夢” か、あるいは看護学校の授業で習っていると言う護身術をかけさせられるわけで…。まあ前者のほうはもう慣れてきているせいもあってかはいはいと言う感じで受け流すんだが問題は後者のほうで、2年ぐらい前だったか男の大事な部分を蹴り上げられて悶絶した経験がある。あれ以来、俺の心の中では“デンジャラシシスター・音夢” と言う最高の栄誉称号を与えているわけだ。まあこれは俺の心の中だけなのだが…。で、現在。どう言うわけか義妹は俺の布団の中で眠りこけていた。
そういや、一昨日の夜に帰って来て昨日の夜まで、掃除に洗濯に大変だったもんなぁ〜。部屋を間違えて寝てしまうことも無きにしもあらんっていうことか? とにかくこんな格好で一緒に寝てました〜なんて言うことがバレちゃあ大変だと言うことで何とか抜け出そうと試みるんだが、どこでどうなっているのか抜け出せない。と言うか義妹が俺の体を抱き枕と勘違いして抱いてしまっているため退こうとすると要らんところまで触ってしまいかねない。前に一回むにっと小さいが触り心地のいい部分に触れてしまい、気づいた音夢から手の後が3日ほど残るようなビンタをされて大きな手のひらを頬に作ってしまい、更に義妹の叫び声に気付いた隣りのちびっ娘先生に俺と義妹の痴態? を見つかってしまって1日中お説教されてしばらく動けんかったくらいだ。そんなことがあるからか今回は慎重に慎重を期してそろりそろりと抜け出そうとするものの、抱きついた体が更に抱きついてきてなかなかに離れられない。あの下腹部に来る鈍い痛みと北極の冷たい嵐のような目に我慢して起こそうかとも考えたが、このほんわか幸せそうに眠っている顔を見るとどうにも起こしづらい。今日はかったりぃ正月の買い物とかもあるんだけどなぁ〜。そう思いふっと窓の外を見る俺の目に飛び込んできたもの…。それは……。
「わ、私だって兄さんに甘えたいのをず〜っと我慢してきたんですから、これくらいは許容範囲で許してくれてもいいんじゃないですか! 大体さくらはいつもいつも兄さんにベタベタし過ぎですっ!! 全くぅ〜、ぶつぶつ…」
「それじゃあボクがお兄ちゃんにいっつもおんぶに抱っこ状態って言いたいの? 冗談じゃないよっ! これでもボクはお兄ちゃんのクラスの担任教師なんだからねっ!! ぶぅ〜っ…。甘えたいのも分かるけど今回のはちょっと度を越してるんじゃないかなっ?!」
あ、あの〜、何やら話が全然見えてこないんですけど…。と言い争う義妹と従姉の顔色を窺いつつそう尋ねる俺。と少々涙目になりつつ従姉のお姉様が俺の体をぎゅっと抱きしめつつ話してくれた。曰く、義妹が久しぶりの帰省なのだから誰にも邪魔されずに兄妹水入らずの生活をしたい、往々にして邪魔になりそうな友達や後輩は引き取ってもらったんだが身内の従姉だけはどうにもならんと言うわけで、停戦ラインを引いていたということらしい。ああ、音夢さんや。ちょっとこっちを向いてくれないかなぁ〜。っと怒りを鎮めて落ち着いた声で言う俺。ぎぎぎぎぎぎ…、と振り返る義妹。上目遣いの涙目と言う女の子の必殺武器を使いつつ俺の顔を見遣っている。“今朝のあのドキドキもわざとだったってことか?” と聞くと、こくりと首を縦に振って、“だって、だってさくらばっかりずるいんですもん。いっつも兄さんとベタベタして…。兄さんも兄さんだよ〜っ! 何かにつけてよその女の子と仲良くなってたりして…。私が普段どれだけ我慢してきたか分かります?” とだんだん腹が立ってきたのかぷく〜っと頬をフグのように膨らませながらじ〜っと睨んできてるし…。さ、さくら〜、何とか言ってくれ〜っ! とさくらのほうを見ると、“お兄ちゃん…、まさか〜っとは思うんだけど、ことりちゃんたちに手を付けてないよねぇ〜。何せボクの彼氏さんだもんねぇ〜。絶対そう言う不謹慎なことはしてないよねぇ〜?” と実に疑わしい目で俺の顔を見遣っている。脂汗がたらりと落ちる。確かにそう言うことは一切ないと言いたい。言いたいのだがこれはあくまで主観的な物の見方であって、客観的な物の見方は違うかもしれない。そんなことを0.01秒で考えてヤバいと思い立ち上がろうとするや否や、ガシッと両腕を掴まれてしまう。もちろん掴まれた先には、逆半月形の目でじと〜っとこっちを睨みつけている義妹と従姉のお姉様。“兄さ〜ん(お兄ちゃ〜ん)、何を逃げようとなさっているんです〜?(逃げようとしてるのぉ〜?)” と見事なユニゾンを見せながら、じりっ、じりっと両方から顔を寄せてくる2人。ああ、明日はATMでお金をおろしてこなくちゃなぁ〜などと考える俺がいたわけだ。
「は、はひぃ〜。ちょ、ちょちょちょっと〜、まだ何か買うのかぁ〜? もうすっからかんなん…ですけど…ねぇ〜?」
と2人の買い物に付き合わされた挙句、金の清算はすべて俺に回されてもう残りあとわずかな金しか残ってない俺。2人はギロリと俺の顔を見返してくる。“本当に〜?” と目で言っているような感覚に、ほんとほんとと首をコクコク縦に振る俺。“どうやら本当らしいですね? じゃあさくら、帰りましょうか?” と義妹。“うん、そうだね? 音夢ちゃん” と従姉。今夜からさくらも一緒に泊まるらしいとのことで夜は豪勢に寿司屋に寄って帰ることになった。もちろんその代金は俺が払うことになったわけだが…。他人の金だと思ってバクバク食べやがって! と旺盛な2人の食欲にほとんどガリと茶だけで済ませた俺。おかげで腹がタプタプ言っている。こんな日は早く寝るのが一番だ…。と思い風呂にも入らずのこのこと寝室へ向かい扉を開けて、言葉を失った。何でいる? と失意前屈型に倒れ込む俺。そこにいたのはふんっとそっぽを向きつつパンパンと俺の布団を叩いている義妹と、う〜っと俺の顔を見遣りながら義妹と同じようにパンパンと俺の布団を叩く従姉の姿があったからだ。こんな蛇の生殺し状態な日々が続くなんて…、続くなんて……、嫌だ〜っ!! とどこぞの警察の人間のように叫びそうになるのを我慢してまるで死刑になったやつが執行台に向かうかの如く重い足取りで自分の寝床へと向かう今日12月28日、俺の義妹・朝倉音夢の誕生日だ。がくり…。
END
おまけ
ちなみにその夜遅く、寝相のいいようで悪い義妹といつも以上に寝相の悪い従姉から、両腕を抱き枕がわりにされて一睡もできなかったことは言うまでもなく、またいくらか成長したんだろう胸のほうを押し付けられて鉄錆の味が喉の奥から込み上げてきたのは言うまでもなかった。それでも何とか堪えて腕を引き抜こうと躍起になる俺、だったのだが…。神のいたずらか悪魔の仕業かは知らんが、2人ともが俺の体に抱きついてきてぎゅっと女の子の柔らかい部分も押し付けられてそこで盛大に鼻血を垂らしてしまい、そこから次の日の朝まで記憶のほうがぶっ飛んでしまったことは言うまでもない。なおかつ…、
「兄さん! わ、私たちが寝てるからって…、そ、その、え、え、えっちなことしたんじゃないですか? 鼻血がいっぱいです!」
「き、昨日が初めてだったのに…、ボ、ボクだけじゃ飽き足らずに音夢ちゃんにまで手を出すなんて! お兄ちゃん、不潔だよっ! むぅ〜…」
とまたまた義妹と従姉に睨まれて今度は俺の意思に反して明日から旅行に連れて行かされることが決定事項となってしまった昨日12月28日、俺のとんでもなく勘違いで恐怖な義妹・音夢の誕生日から一夜開けた日の朝だった…。ぐふっ…。
TRUE END?