「な、な、な、何じゃこりゃ〜ぁ!!」
オレはそう絶叫した。ここは学校。で…、今、オレがいるところはその中の文科系の多くある部室の一つ、オカルト研究会の部室だ。そこで、オレと芹香先輩は佇んでいた。
あかりの弟くん
〜浩之ちゃん、ちっちゃくなる〜
前編
「……すみません……」
いつものようにか細い声でそう言うと、先輩は俯いてしまった。すまなそうにオレの顔をちらちらと見つめている。そんな先輩に怒ることなんて出来るわけもなく…。
「だーっ! 先輩! 分かった…。分かったから、泣きべそかかねーでくれー!!」
と、今にも泣きそうな先輩の頭をなでなでしながら慰めるのに必死だ。オレは今、小学生の体型になってしまっている。もちろんそれは今、目の前におられる魔法使いのお姉さんのせいで…。
「うううっ……」
あーあ…、泣かせちまった…。こりゃ明日は、凶悪格闘女王と一喝じじいに殺されそうだな…。はぁ〜。明日は死を覚悟で過ごさなけりゃな…。オレはそう思った。
しかしなぜオレが小学生の体型になってしまったのか?…。それを話さなければならないだろう……。
あれは、そう、一週間前に遡る……。
そう、一週間前…。オレが学校から一人帰ろうと廊下を歩いていると、くいっとオレの制服を引っ張る人がいた。
ちなみにあかりは料理クラブだ…。料理が趣味というあかりはこれといっていい程に料理が美味い。ほとんど特技と言っていいだろう…。ああいうところはやっぱり女の子なんだなぁ〜と思ってしまう。
…って、こんなことする人なんてこの学校で一人しかいないわな…。振り返ると案の定、大財閥のお嬢様、芹香先輩が立っていた。先輩はぽそぽそと小さい声で話す。
「………」
「えっ? また交霊会に来ませんかって?」
また先輩はぽそぽそと言った。いつも思うんだが、もう少し大きな声で言ってくれねーかな…。ってこんなことを言うと、先輩泣いちまうからな…。話を進めることにしよう…。オレは言った。
「で? いつ?」
「………」
「えっ? 来週の金曜日?」
コクッと先輩は頷いた。頷いてオレの顔をじ〜っと見つめる。多分オレの返事を待っているんだろう…。来週の金曜日は…と考えるが別段これと言って用事はなかった…。まあ、せっかくお嬢様が誘ってくれてるんだ。断る理由もない。そう思ったオレは言う。
「ああ…いいぜ? で? オレはどんなことをすればいいの?」
先輩はちょっと嬉しそうな顔になってまたぽそぽそと話し出す。オレは耳を傾けた。
「………」
「えっ? 犬のボス? ああ、会いたいな…。で、交霊にちょうどいい日が来週の金曜日ってこと?」
「…はい、そうです……」
春の交霊会のときは失敗して、違う霊を呼びだしちまって部屋ん中をめちゃくちゃに壊されちまったからな。片付けるのに一苦労だったぜ。先輩も責任感じて何か落ち込んでたしな…。まあ、ここはこのオレ様が一肌脱いでやろうじゃんか…。
「よし! やろうぜ先輩! 交霊会」
「……はい、ありがとうございます……」
そう言った先輩の顔はどことなく嬉しそうだった……。しばらくお嬢様との優雅な時間を過ごしながら校門の所までくると…、見たくもない顔がぬっと現れる。
「お嬢様ぁぁぁぁぁ!! と、小僧……ではありませんでしたな、藤田様。わーっはっはっはっはっはっ…」
「ちっ! 相変わらずなじじいだな…。ったくよ…」
「じじいではなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!」
耳元で怒鳴るな! 鼓膜が破けちまう! と、そう文句を言うと、じじいはギロリとオレの顔を睨む。
先輩を見ると何事もなかったようにぼ〜っと、オレたちの方を見ている。もう、慣れてるんだろうな…。あの顔と声に…。先輩とはそこでサヨナラだ…。走り去っていくリムジンに手を振ると、先輩も手を振り返してくれた。
それから一週間後…。現在に至るというわけだ。とりあえず泣いている先輩を宥めて、泣き止むのを待った。10分後、何とか泣き止んでくれた先輩に、オレは聞く。
「なあ、先輩。これって治るのか? まさかこのままってことは?」
ふるふるふる…。首を横に振る。
「………」
「えっ? 絶対治します? そいつは頼もしいなぁ〜」
「……もし治らなかったら、私が一生面倒見ます……」
今、先輩が何か言ったような気がしたんだが、まあ気のせいだろう。聞くのが怖い気がする…。先輩の顔を見る。何故かポッと頬を赤らめていた。
オレは先輩と帰ることにする。冬至も過ぎてだんだんと日は長くなってきてるみたいなんだが、5時ともなると暗くなる。で、校門には案の定じじいが待っていた。
「お嬢様、お迎えに上がりました…。んっ? 誰ですかな? 横にいる薄汚い坊主は…」
悪かったな…。薄汚ねえ坊主でよ…。オレはじじいの顔をぐぐっと睨む。先輩が事情を話してくれた。
「なんと? 藤田様でしたか…。これは失敬。わーっはっはっはっはっはっ」
じじいは顎だけをかくかく鳴らしながら笑う。こ、こいつは! とは思ったが生憎こんな体じゃ戦うことが出来ない。オレはじじいの顔を悔しそうに見遣った。と、そこへ……。
「え〜っと、今日はお母さんにお夕飯の材料買って来るようにって言われてるんだっけ? うーん。どこのスーパーが一番安いかな?」
げっ?! ありゃ、あかりじゃねーか? 何であかりが? いつもならこの時間帯は家にいるって言うのによ…。んっ? ちょっと待て! あかりがいるってことは、まさかヤツも? 慌ててヤツの姿を探したが幸いなことに、ヤツの姿はなかった。ほっと息をつく。
が、あかりにこんな姿は恥ずかしくて見せられない。こそこそと隠れていると、
「藤田様!! 何を隠れておいでなのですかな?」
……じじいが大声でオレの名前を呼びやがった。くそぅ、じじい!! なんかオレに恨みでもあんのか? 隠れた車の隙からオレはじじいの後ろ姿を睨んだ。…と、あかりが…。
「えっ? 浩之ちゃん? ……あっ、来栖川先輩、こんにちはー」
あ〜あ…、振り向いちまった。どうするよ、オレ…。あかりに見つかる前に退散するか、もうしばらく様子をうかがうか。悩んだ挙句、オレは様子を伺うことにした。だって考えても見ろよ…。もし逃げる途中で見つかったりなんかしたら…。こっ恥ずかしくて、あかりの顔を見れねーじゃねーか…。
「………」
こんにちはと先輩も言う。オレはリムジンの陰からそっと様子を伺う。世話焼きのあかりのことだ。こんなオレを見ると、こう言うに決まってる。
“浩之ちゃん、可愛い〜(はぁと)” だの、“私の弟だよ? 浩之ちゃん” だの、“一緒にお風呂に入ろっか…” だの…。いいや! 違う! 違うぞっ! 最後のだけは断じて違うっ!! 首をブンブン振りながら、妄想を打ち消す。…が……。
「帰るよ? 浩之ちゃん…」
妄想している時間が長すぎて、先輩に事情をぜ〜んぶ喋られてしまった。くそぅ!! オレのアホ!! 妄想してる暇があったら、逃げ出せたんじゃねーのか? とは思ったがそれは後の祭りだ…。はぁ〜、仕方ねーのか? あかりに手を引かれて歩くオレであった。
「ねえ。浩之ちゃん…」
「いやだっ!!」
「うぅ〜…。私、まだ何も言ってないのに〜…」
帰り道…。オレはあかりと家路を歩いていた。背がマルチより随分低くなってるため、鞄が持てない。しょーがないからあかりに持ってもらうことにした。あかりがオレの顔を見て何か言いかけた。
ちなみに買い物はあかりが、“どうしても行かないと今夜のお夕飯が…”とか何とか言いやがるのでしょうがなくついていった。世の奥様連中には姉と弟という具合に見えているんだろう。オレたちを微笑ましそうに見つめる表情が印象的だった。
で、今。買い物袋と、鞄(オレの分も含めて)を持って、重たそうによろよろとしながらあかりはオレと帰っている。さすがにその荷物は女の子には重いだろうと思ったオレは、自分の鞄と小物の入ったスーパーの袋を持ってやることにした。
「えっ? いいよ。浩之ちゃん…。大変そうだから…、それに私の家、もうすぐだし…」
あかりはこう言うと自分で持つと強情を張っていたが…、無理矢理鞄と下げていた買い物袋をひったくって持つ。買い物袋は見かけによらず軽い。夕焼けが目に染みるそんな時間だ。もうすぐ満天の星が瞬くんだろう。そう思いながらオレは歩を進めた。
あかりはさっきからオレの顔をじ〜っと見つめている。まあ、こいつの言いたいことは顔を見ただけで分かっちまう。こいつとは物心つく前からの長い仲だ…。今、何を言おうとしているのか…。それは…、“浩之ちゃんのことが心配だから、この一週間、私のうちに来ない?” と、こう言うことだろう。
はぁ〜、イヤだね〜。幼馴染みっつうもんは…。妙にお互いの考えてることが分かっちまうんだもんなぁ…。オレはふぅ〜と溜め息をついた…。
あかりは心配そうにオレのほうを見ている。ため息を吐きつつオレは言った。
「オレはお前のうちになんか、ぜってー行かねぇ!! おばさんのいい笑いもんになるだけだっ!!」
「でも浩之ちゃん…。ご飯とかお風呂とかどうするの? 一人で全部できるの? それにお母さんだって事情を話せば分かってくれると思うよ?」
「嫌だっ!! オレはぜってーいかねえぜっ…。それにオレは何でも出来るんだぞ!!」
そう言って、あかりのほうに振り向こうとした瞬間…。
ぼてっ!!
音が出るくらいの勢いでこけてしまった。痛てえ。こけたほうを見ると、自分の鞄を引っ掛けてるじゃねーか。うううっ…。ちくしょう!! 何でオレがこんな目に…。もっとオレより相応しいヤツがいるじゃねーかよ…。
小憎たらしいヤツ…。オレの学校生活を脅かす悪魔。歩くスポーツ3面記事。長岡志保がよ…。
「大丈夫? 浩之ちゃん…」
あかりが駆け寄ってくる。心配そうにオレを抱き起こしたあかりは、真剣な目でこう言った。
「やっぱり、浩之ちゃんのことが心配だよ…。だから……。私の家に行こうよぅ…。浩之ちゃんが心配なんだよ〜……」
涙目でオレの顔を上目遣いで見つめてくるあかり。もちろんオレの背を考慮して中腰でだ…。今にも涙が零れ落ちそうな、まるで捨てられた子犬のような瞳でオレを見つめてくる。ある意味破壊的な表情だった。そんなあかりを無下に断ることも出来ず……、
「しょーがねーなー……」
とオレは、そう言ってあかりの頭を撫でてやるのだった。
「へぇ〜。浩之ちゃん、こんなに小さくなって…、懐かしいわね〜。あの頃が…」
あかりんちヘ来たオレは今、あかりのおばさんにしげしげと顔を見られている。ちなみに事情はあかりが話してくれた。おばさんは最初はびっくりしていたが、それもすぐに解消した。何でこの親子は物分かりが早いんだ? とは思ったが口には出さないでおこう…。
「それは浩之ちゃんを子供の頃からず〜っと見てきてるからね。何でも分かっちゃうのよ…。うふふっ…」
って、声に出してたのか? オレ…。
ちなみにおじさんは単身赴任で大阪の方に行っていない。一番の常識人のおじさんがいないとなると先が思いやられる。おばさんは相変わらずオレの顔を嬉しそうに見つめている。そんなおばさんに“あまり見つめねーでください”と言いたいが、それも出来ず…。
「うううっ……」
とおばさんの顔を涙をこらえてみるしかなかった。と、おばさんが口を開く。
「あっ! そうだ、浩之ちゃん…。これから私のことは“ひかりさん”って呼んでくれない? ねっ?」
「へっ? な、何で? おば……」
オレがそう言おうとするとおばさんは急に悲しそうな顔をする。な、何でだ? おばさんはオレの顔を上目遣いで見つめると寂しげにこう言った。
「私の友達に水瀬秋子って言う娘がいるんだけど…、その子の従姉妹の子供に男の子がいるんだって…。秋子はその子に“秋子さん”って呼ばれてるらしいの…。私、一人っ子だったでしょ? だから兄弟がいなくてね…。甥がいたら、私も呼んで欲しいなぁ〜って、そう思ったわけ…。浩之ちゃんは言わば甥みたいなもんじゃない?…。だから、呼んでくれたら嬉しいなぁ〜って………」
おばさんは、上目遣いでじ〜っとオレのほうを見つめてる…。オレは悩んだ。たしかにおばさんにはいろいろと世話になってるが…、なってるが……、でも“ひかりさん”はねーだろーがよ。
「ねえ、浩之ちゃん…。ダメ?……」
「ダメですっ!!」
「どうしても……、ダメ?」
ううっと泣きべそをかくおばさん。あかりに顔が似ているせいか、まるであかりを泣かしているような錯覚に襲われる。それにこんなところをあかりに見られると、まるでオレが悪いことをした? ように見られちまう。あかりは怒るとものすごーく怖い。
どう怖いのかって言うと…、そりゃあ…。オレの口からはとても言えねえくらい怖いんだからな……。前に喧嘩をしたときなんか一週間も口を聞いてくれなかった。
それだけならまだいい。あかりがオレの彼女になってから毎日弁当を作ってきてくれるんだが、喧嘩をしたときは恐ろしいものがある。何かというと、白ご飯の上に梅干しが一個という(俗に言う日の丸弁当というヤツだ)、非常に味気ない弁当が待っているんだ。
オレの顔をぷぅ〜っと頬を膨らませながら上目遣いで睨んでくるあかりに、可愛らしさを通り越して恐ろしさを感じてしまうオレ…。男として情けないがしょーがねえ…。今、あかりを怒らせるわけには行かねえ。しかもここはあいつの家だ。
そんなことを0.03秒で考え、オレはおばさん、いや、ひかりさんの顔を見る。ひかりさんは完璧に拗ねた顔をしていた。ぷぅ〜っと頬を膨らまして、オレを上目遣いで見つめている。こうしてみると、ひかりさんは若い。とても39歳とは思えない。って、痛てててて…。
「ふふふっ、浩之ちゃん……。私はまだ38よ?」
オレの頬を抓りながらにっこり微笑んで見つめるひかりさんは、まるであかりが本当に怒った姿をさらに大きくしたような、そう言う感じだ。まるでグリズリーがそこにいるかのようだった……。
あかりお手製のハンバーグが今日の夕食の献立だった。ひかりさんは豆腐とわかめのお味噌汁と、ナスの浅漬け…。それにグラタンだ。料理教室の先生をやっているひかりさんはあかりに負けず劣らず料理が美味い。
まあプロなんだからと言うこともあるがとにかくめちゃくちゃ美味い。ご飯を三杯もお代わりしてしまった。腹がいっぱいになったところで、オレはふと流しの方を見る。あかりがひかりさんと、夕食の後片付けをしていた。
あかりの横顔は、何て言うかとっても可愛かった。こんな可愛い彼女がオレの彼女だなんてな…。俺はつくづく幸せもんだな…。志保に前に言われたことを思い出しながらオレはぼ〜っとあかりの顔を眺めていた。
風呂も頂き(ひかりさんは一緒に入りたがっていたが…、って、逆○○○?)、そろそろ寝る時間だ。って、寝床はどこだ? ひかりさんに聞くが……。
「ふふふっ、な・い・しょ(はぁと)」
ウインクをしつつひかりさんはそう言う。オレの脳裏に一瞬ではあるが嫌な予感が過ぎった。って、あかりは? とあかりの方を見ると、恥ずかしそうに俯いている。な、何でだ?
とりあえず、寝床はどこだ? あちこちと見て回るがオレの布団はどこにもなかった。嫌な予感がだんだんと膨れ上がる。たんたんたんたんと二階に上がるとおじさんの部屋を覗いた。が、そこにはオレの布団はない。…と言うことは……。
だだだっ! がちゃ!
「ぐあっ!! やっぱり……」
2階はおじさんの部屋と書斎、そして…、あかりの部屋。一抹の不安を抱えて、あかりの部屋を覗いたオレはそのまま頭を押さえて蹲ってしまった。
“ひかりさん…、あなたは一体何を考えていらっしゃるんですか?”
そう思わざるには得なかった。二人寝るには小さすぎるベットに、枕が二つ…。暗に、オレに性犯罪者になれと? そうおっしゃっているのですか? お母様…。と、とにかくあかりを呼ぶ。あかりが階段を上がってくる。階段を上がってきたあかりはポッと頬を染めて、
「じゃあ、浩之ちゃん。一緒に寝よっか…」
何か勘違いしたように布団をはぐるあかり。ま、待てあかり。いくら子供の体に戻っているといっても一応オレは男だ! 健全な男子高校生なんだ!! しかし…、
「子供の頃はいつもこうして一緒に寝てくれたじゃない…。むぅ〜」
あかりが、頬を膨らまして拗ねた表情でオレの顔を見ていた。全く女の子の心の中は分からん。もしこの心の中(の心理)が分かれば絶対間違いなくノーベル賞もんだな…。こりゃ…。オレは言う。
「子供の頃は子供の頃だっ! だから……、って、お、おい!!」
突然あかりの手が伸びてくる。逃げようとするオレを羽交い絞めにするあかり。素早く電気を消すとそのまま布団をかぶってしまった。ぷにゅぷにゅした感触が手にあたる。どけようとは思うが羽交い絞めにされているためどけられない。じ、地獄だ……。で、当のあかりはというと…。
「く〜……す〜……」
気持ちよさそうな寝息が聞こえていた…。
結局……、一晩中抱き枕状態にされていたオレは一睡も出来なかった。ぷにゅぷにゅした感触は気持ちよかったが…。だがあれは地獄だ…。紛れもない地獄だ…。オレはそう思った。
ちなみにあかりはもう起きている。今は朝食の準備だ。おばさ…、いや、ひかりさんは今日は料理の研究会とかで朝早くに出掛けて行った。オレはやっとあかりから開放されたせいか、夢見心地だったので覚えていない。
「浩之ちゃん…、起きた?」
「ふぁぁぁ〜。まだ寝みぃよ…」
あかりの顔を見ると、いかにも“しょうがないな〜”っていう顔だ。誰のせいだと思ってやがる!! とは思ったが、嬉しそうなあかりの顔を見ていると何だか気が引けた。ふっ、とあかりの顔を見るとにっこり微笑んでいる。何だかその顔を見るとオレの顔にも自然と笑みが零れた。
「あかり、オレのことは誰にも言うんじゃねえぞ? 雅史にも言うな…。分かったな?」
「ええーっ? 何で?」
「何でって……、そりゃ、お前…。……と、とにかく! このことは他言無用だ!! も、もし約束破って言ったら、でこピン1万回だっ!!」
あかりの作った朝食を食べながらオレはそう言った。あかりはもう目をつぶっておでこなんか押さえてやがる。しばらくおでこを抑えていたあかりは、きゅうりの浅漬けをもきゅもきゅ食べているオレの顔をじーっと見つめて、こう言った……。
「浩之ちゃん…、……志保にも? 志保にも言っちゃダメ?」
ぶーっ!! と飲んでいた味噌汁を口から勢いよく噴射しそうになるがすんでのところで飲みこんだ。あ、あかり? お前は何を考えているんだっ? オレは言った。
「ダメだって言ってるだろ?…。お前は何を考えているんだ? あかり…。あいつに言ってでもしてみろ…。10分後には全校生徒に広まってるんだぜ? しかも尾鰭をつけてな……。だから絶対あいつにだけは言うんじゃねえ!! もし言ってみろ…。デコピン10万回だからな…」
あかりはおでこを押さえて涙目でこっちを見ている。多分前にデートに遅刻したときにオレがデコピン100回したことでも思い出したんだろう。って、そんなことで泣くなよ…。ったく、しょうがねーなー。ため息を吐きつつオレは言う。
「お前がオレの言うこと、ちゃんと守ってればそんなこたぁしねえって…。だからよ…」
俯いたあかりの頭に手をやるとオレは優しく撫でる。マルチもそうなんだがオレの知ってる娘は頭を撫でられるのが好きらしい…。なんでだ?……。
「じゃあ、浩之ちゃん、私は学校に行ってくるけど、大人しく家で待ってるんだよ?」
「ああ、分かってるって…。おまえも早く学校行けっての…。あっ、朝飯時にも言ったけどあいつには絶対このことは言うなよ…。絶対だぞ!!」
「うぅ〜っ…。分かったよ〜…。だからデコピン10万回はやめて〜。……でも私一人じゃ…、心配だなぁ…」
あかりは心配そうに上目遣いでオレを見つめると、そう言う。ちょっと最後の方が聞こえなかったがまあいいだろう……。しぶしぶ家を出ていくあかりを玄関から見送る。でこピン10万回も出来るわきゃね〜だろ!? 理屈で考えろよな…。そう考えて家の中へと戻った。
さて、ここからはオレの時間だ。あかりにはオレが“風邪を引いたので一週間休む”ということを担任に伝言するように言ってある。とにかく昨日の一件で眠くてしょうがない…。ともかくも眠ろう。そう思い応接室のソファーに横になる、夢の世界に旅立つにはそう時間はかからなかった。
ううん? 今、何時だ? 目が覚めて辺りを見回すと、ちょうど昼を過ぎたばかりだった。腹が減ったのであかりの作ってくれた弁当を食うことにする。相変わらずうまかった…。飯を食い終え、だらりとする。暇だ…。この時間帯のテレビって、何もいいのがやってねえんだよな〜っ…。
結局その日はあかりんちでごろごろと過ごした。家に帰ってきたあかりがオレのだらけた姿を見るなり、“しょうがないなぁ…、浩之ちゃんは…”という顔になっていたことは言うまでもない。後編に続く…