あかりの弟くん

〜浩之ちゃん、ちっちゃくなる〜

後編


 そして…、オレが子供の体になって5日後…。もう限界だぁ!! とばかりに支度をする。こう毎日毎日家の中でじっとしてると体がなまっちまう!! 青い空がオレを待ってるぜぃ!
 …漫画でも買いに行くか…。そんなことを思い席を立つと服を着替えた。ちなみに服はオレが小学生の時に着ていたジーパンとガウンジャケットだ。何でこんなのがあかりんちにあるんだ? 疑問に思ったオレは服を出してきたあかりに聞いてみることにした。でも…。
「うふふふふぅ〜」
 含み笑いを浮かべてあかりは何も教えてはくれない。グリグリをやりたかったが背が届かなかった…。最も今はオレ一人だ。グリグリをする相手もいない。寂しかった……。パジャマを脱いで出された服を仕方なく着ることにする…。これが志保だったらこうは行くまい…。オレは考えた…。
 もしあいつだったら、これ以上となく笑われて、変な格好の服を着さされるのがオチだ…。オレに屈辱的な何かを与えてな…。そう考えてたら無性に腹が立ってきた。憂さ晴らしだ!! そう思い颯爽と出かける。もちろん鍵は閉めてな…。
 勝手知ったるあかりの家だ…。鍵の置き場は熟知しているしあかりがスペアを持ってることも知っている。ようは問題なしというヤツだ。玄関の鍵を閉めると、漫画を買いに出掛けた。
 久々にお日さまの下をてくてくと歩く。とても心地いいもんだ…。オレはそう思った。オレとしては5日間も家の中でじっとさせられていたんだし、せっかくなんだから何かスポーツとかをやりたい気分なんだが、あかりに見つかって拗ねられると非常に厄介だ…。
 何でかって?…。そりゃあ。雅史たちには内緒にしとけって言ったのはオレなんだぜ? そのオレがうろちょろするわけいかね〜だろ…。ちなみにあかりは料理クラブとかで6時くらいになるとか言ってたな…。そう思いながら本屋の前まで来る。
 しばらく本屋で立ち読みをしていると、どこからか女の子の泣き声が聞こえてくる。何だぁ〜っとその方向に目をやると小さい女の子を学生服を着たガキが数人取り囲んでいた。その女の子はランドセルを背負っているから多分小学生だろう。ガキ共は、中学生くらいか…。
 ふう…、あまりいい雰囲気じゃねえなぁ。だいたい中学生にもなってあんな小さい子、しかも女の子を泣かせるかね。何を言ってるんだ? 近寄ってみる。声が聞こえるくらいのところで、足を止めてさっき買った漫画本を読むまねをする。声が聞こえてきた。
「おい、お前! 河野と向坂と幼馴染みなんだってな? あの野郎どもに言っとけ! 『今度俺たちのことを先公にチクッたらただじゃおかねえ』ってな…」
「わたし、知らないよー。タカくんとユウくんが何か悪いことでもしたの?」
「ちっ、こいつはっ! いいか? よーく聞け…。あの野郎共はな、俺達がタバコを吸ってることを先公にチクりやがったんだ!! おかげで俺たちは先公のしょーもねー話を聞かされるわ、補導されるは…。ああっ!! 思い出しただけでも腹が立つ!!」
 そう言ってギロリと女の子を睨みつける中学生のクソガキ共。女の子は必死で反論する。
「お兄ちゃんたち、中学生でタバコなんて吸ったらいけないんだよ〜っ!! それにタカくんとユウくんがしようとしたことはいいことなんじゃないのかな?…」
 無邪気な顔でそう言う女の子。それを聞いていたクソガキの一人がいきり立つ。さすがにここまで来るとあの女の子が危ない。今もじりじりと追い詰められている。あっ! 襟首持たれた。大人はっ? とあたりを見るが昼下がりの路地裏だ。
 誰もいねぇ…。本屋の店主はじじいだしよ…。オレが相手するしかねーのか? ねーんだろーなぁ…。そう思いながら声をかける。
「おい…。嫌がってるだろ? やめとけよ…」
 途端にこっちを向く不良グループ。こっちを見るとリーダー格のヤツがこう言った。
「何だこいつ。チビの癖に俺たちにケンカ売ってきてやがるぜ…」
 ぷっと笑い、いかにも小馬鹿にした態度で見る。見くびられたもんだなぁ…、オレも…。そう思うと、ふっ、と笑みが零れた。その顔がよっぽど鶏冠にきたんだろう。リーダー格のヤツは一番ガタイのでかいヤツに言う。
「ちっ、チビの癖に俺たちを小馬鹿にしやがって! 小嶋! やっちまえよ!!」
「おうよ!!」
 そう言って、オレの前に来るガキは小太りのヤツだ…。見るからにバカっぽい顔で、オレの顔を睨みつけている。オレもまた睨み返してやった。女の子は、丸い目をして突然現れたオレのことを見ている。
「わたしと一緒に逃げようよ〜。危ないよ〜。このお兄ちゃんたち…」
 と小声で言っている。ふ、ふふ、甘く見てもらっちゃ困るな…。不敵に笑ってみせる。こう見えても、オレは葵ちゃんのスパーの相手だぜ? 今年のエクストリーム女子のチャンプのな…。
「くっ、何笑ってやがる!! このっ!!」
 いきなりガキが殴りかかってくる。オレは冷静に避けるとガキのどてっ腹に葵ちゃん直伝の崩拳をお見舞いしてやった…。吹っ飛ぶガキ…。……どたっ、と倒れたところで勝敗はついた。
「お、おええぇぇぇ〜」
 あらら…、ちょっと勢い良すぎたみてえだ…。葵ちゃんみたいな力の微妙なコントロールが出来ないため、こうなるんだと…。ふぅ〜っ。まだまだ精神集中が足りねえな……。そんなだから綾香に、“浩之って、おバカね〜”ってな目で見られるんだぞ! オレ!!
 ともかくも、逃げていくガキ共…。口々に…、“覚えてろー”だの、“今度会ったときがてめえの最期だからなー”だの、悪役っぽい言葉を発しながら去っていった。ちなみに小嶋とか言うヤツは伸びたまま、連れていかれた。ふっ…、哀れだねぇ…。そう思いガキ共の去っていった方を眺めていると…、
「強いんだねぇ〜。キミって…。まるでタマお姉ちゃんを見てるみたいだったよ〜っ!!」
 へっ? と、後ろを振り向くと目を輝かせながらオレを見る女の子が一人…。げっ!! 今のばっちり見られちまったか? 女の子は興味津々と言った様子で尋ねてくる。
「どこに住んでるの? なんて言う名前? どこの学校?」
 や、やべー。オレの顔をじ〜っと何か言いたげに見つめてくる女の子。そんな風に見つめられてもな…。ため息をつくと、オレは言った。
「オレは通りがかりの通行人Aだ…。だ、だからオレのことは忘れてくれ」
 シュタっと片手を挙げるとオレはその場を逃げるように走り出す。女の子は、はっとした顔になって…、
「ちょ、ちょっと待ってよー!! ねえ、ちょっとー!!」
 追いかけてくる…。困った…。予想外の展開だ。路地裏から大通りへ、大通りから路地へ、散々逃げ回った。女の子はへとへとになりながらも追いかけてくる。まるで昔のあかりを見ているようだった。公園に着いた。相当なスピードで走ってきたため、息も絶え絶えになる。
 ふぅふぅ息をついて公園の滑り台の下に座り込む。黄昏時になってきているためオレが滑り台の下なんかに潜り込んでいるとは分からないらしい。女の子の残念そうな呟き声が聞こえてきた。
「どこに行っちゃったんだろう…。一言お礼が言いたかったのにな…」
 そう言うと諦めたんだろう。彼女の足音が遠ざかる。ふぅ、と盛大なため息をついた瞬間、“ぐぅ〜〜〜〜〜〜っ!!”とオレの腹の虫がなる。そう、その音は公園中に聞こえるかの如く…。当然その女の子にも聞こえていたみたいで……。
「あっ! こんな所にいたんだぁ〜っ。探したんだよ〜。今日は助けてくれてありがとね。タカくんやユウくんがいないからちょっと怖かったけど…、でもキミが来てくれて助かったよ。あっ、そうだ。自己紹介がまだだったよね…。わたしの名前は柚原このみ。もうすぐ小学校を卒業するんだ〜っ。……キミの名前はなあに?」
 このみちゃんと言った女の子はオレの顔を嬉しそうに見つめてくる。咄嗟にオレはこう言っちまった。言った後で、しまった! と思ったがもう遅い…。
「お、お、オレの名前は神岸…、そう…、神岸浩之だ」
「そっか〜、ヒロくんって言うんだね〜。ねえ、ヒロくん、出来たらわたしとお友達になってくれないかな〜?」
 お、お友達?? とんでもねえことを言う女の子だぜ…。上目遣いでこのみちゃんはオレを見つめてくる。その顔はあかりに似ていた。
「うっ、うううっ……」
 しどろもどろになってるところへ、天の助けかあかりの声が聞こえてくる。多分家に帰って部屋にオレがいないので、探しに来たんだろう…。って、部活、休みやがったな?
「浩之ちゃ〜ん、ねえ、浩之ちゃんってばぁ〜。どこ〜?」
 いつもは“こっ恥かしいからやめろっ!” と言っているが正直今の状態では助かったと思った。このみちゃんは、ふっとあかりの方を見る。そして…、
「お姉さんが呼んでるよ? あの人、ヒロくんのお姉さんだよね?」
 な、な、ななな何ですと? このみちゃんは走ってくるあかりを指差して純粋な瞳でそう言う。オレは“神岸”と言った手前、素直に頷くしかなかった。くっそ〜!! 帰ったらでこピン100万回だっ!!
「はぁ、はぁ、はぁ…。さ、探したよ…。浩之ちゃん…。さあ、帰ろっ? ……って、浩之ちゃん…。そっちの“かわいい”女の子はだーれっかなっ?(怖)」
 虚ろな瞳でオレたちを見つめるあかり…。顔は笑っているが、ありゃ絶対怒ってるぞ? あかりの背中にクマのオーラが出ている。ヒグマの如くオレを睨むあかり…。あ、あかり…、あまりオレを睨まないでくんねーかなー。ほ、ほら、このみちゃんだって怖がってるし…。
「ふふふっ……。このみちゃんなら帰ったよ? お姉ちゃん、ばいばーいって言って…」
「お、お姉ちゃん?」
「あれっ? 知らなかったっけ? 浩之ちゃん…。あの子のお母さん、私のお母さんの料理教室の生徒さんなんだよ? さあ、浩之ちゃん…。帰ってじっくり話を聞かせてもらおうかな?…。このみちゃんと何があったのか…。それに私も文句とか言いたいしね…。私にはあまり行動は控えるようにって言っておいて…」
 いきなりオレを抱きかかえて家へと向かうあかり…。恐る恐る顔を覗き込み…、即座に目を背ける。もうこいつはあかりなんかじゃねーや…。そう、こいつはどこぞの黒魔術師か、もしくは戦乙女だ。オレの命運は尽きた……。


 次の日は尻が腫れて起きられなかった。あの後あかりの家に連れて帰らされたオレは…。うううっ…。言いたくねーやい! ただその結果がこのありさまというわけだ…。でこピン1億回してやるからなっ!! 恨めしそうに勉強しているあかりの横顔を睨む。
 と、まだ怒ってるのかあかりは不機嫌そうに半眼でオレの顔を睨んだ。途端に萎縮するオレ。はぁ…、これは相当怒ってるぞ? どうするよ、オレ…。
「あ、あのぉ〜。あかりさん?」
「ん〜? なあに? ロリコンの浩之ちゃん…」
 ぐあっ!! 精神攻撃…。もう、あかりには当分の間は逆らえねーや。とほほ……。……畜生!!
「うんっ? 何か言った? 浩之ちゃん…。今、“畜生!!”って言う言葉が聞こえたんだけど…」
「い、いいえ何も言っておりませんすべてあかり様の空耳でございます…」
 棒台詞のようにオレは言う。あかりはそんなオレがよほど可笑しかったのか、くすくす笑いながらこう言った。
「うふふっ、もういいよ、浩之ちゃん、このみちゃんのおばさまにあって、昨日のこと、詳しく聞かせてもらったから……。でも浩之ちゃん、それならどうしてもっと早く、私に言ってくれなかったの?」
 そりゃお前が有無を言わさずオレをずるずる引き摺っていったせいじゃねーか? オレは心の中でそう思った。そたんにあかりが不機嫌そうな拗ねたような表情になる。口に出してたのか? オレ……。
「だって、だって…。浩之ちゃん…。楽しそうだったんだもん…。私、浩之ちゃんの彼女なんだよ? ちょっとジェラシー感じちゃうよ……」
「なっ、そんなジェラシーだなんて? お前、相手は小学生の女の子なんだぜ? いくらなんでもよ……」
 そう言うが早いが、あかりはオレの体を抱き寄せてくる。ぽとっとオレの頭の上に雫が落ちてくるのが分かった。あかりが静かに言った…。
「それでも、女の子は自分じゃない誰かと話をされるだけで悲しくなっちゃうんだよ? やめてーって言いそうになっちゃうんだよ? だから浩之ちゃんには私だけを見ていて欲しいの…。わがままだろうけどそれが私のお願い…」
 あかり…。オレは、あかりが去年の5月に言った言葉を思い出していた…。あかりがどんなにオレのことを思いオレを見ていたのかがよく分かった。オレは、一言…。
「ごめん……」
 とだけしか言えなかった…。あかりは何も言わず、ぎゅっとオレを抱きしめる。2月の終わりの夕日が部屋の中を赤く染めていた…。


 次の日…。オレはあかりに連れられて学校へとやってくる。もちろんオレの体を元に戻すためだ。素知らぬ顔で職員室までやってくる。あかりが先生に事情を話しているようだ。ちなみに雅史は今日からサッカーの全国大会予選とかで、他校との試合に行っていてここにはいない。
 内心オレはほっとした。あいつはオレの幼馴染みナンバー2だ。どう変装したって分かっちまう。分かればヤツに伝わって、オレの人生はジ・エンドだ。あかりがにっこりした顔で出てくる。多分OKが出たんだろう。ってもう学校に来てるんだからセンセーも、しょうがないのだろうな…。
 教室に行くとみんながオレの顔を一斉に見つめる。慌ててあかりが言った。
「こ、この子は私の従兄弟で、今日は創立記念でお休みだから私のところへ遊びに来たんだけど…、私のお母さんが留守していないから私と一緒にきたの。ほ、本当だよ?」
 あかりにしてはナイスなフォローだ…。みんなはうんうん頷いている。いかにも“神岸さんらしいね”ということらしい…。委員長はオレの顔をにっこり見て…、
「なあ、あんたの名前、なんて言うん?」
「か、神岸浩之…」
「ふぅ〜ん……。て、浩之って言うん? あんたの名前…。へぇ〜。そうかいな〜。すごいなぁ。同じ名前の子がおるやなんて。でもヒロくん、あんたは藤田君みたいになったらあかんでー。藤田君はエロエロやからな…。って、こうして見るとあんた、なんや藤田君に雰囲気が似てる気がするんやけど、気のせいか…。まあええわ。さあ、朝礼やでえ! そこ! 静かにしいっ!!」
 委員長はそう言うと教卓の方へと向かう。オレは頭を抱えた。委員長、オレをそんな目で見てたわけね…。オレは心の中で泣いた。そう、それは盧山の大瀑布のように…。
 休み時間は客が増える。そう言う法則だ。案の定……、
「ねえねえ、あかり〜。あんたの従兄弟が来てるんだって〜? どの子?」
 オレの天敵が来やがった。歩く三面記事、長岡志保だ。ちなみに本人はこう呼ばれるのが一番気に食わんらしい。自分を知らんヤツだ…。あかりはオレの顔をちょっと見て、
「この子…」
 オレの肩を持ってこう言う。志保はオレの顔をじ〜っと見つめる。いかにも“へぇ〜。この子がねぇ〜…” と言う具合だ。まあ、仕方ねーわな…。いっつも文句の言い合いのオレたちなんだからよ…。と、志保は志保らしからぬ優しい口調でこう言った。しかも可愛く微笑んで…。
「ヒロくん、初めまして。あたしは長岡志保って言うの、あかりお姉ちゃんとは大親友よ。よろしくね」
「よ、よろしく…」
 オレは照れていた。志保が、あのオレにちょっかいばっかりかけてくる志保が…、こんな優しい言葉をかけてくるなんてよ。なんか予想と違う情景にオレは戸惑う。と、チャイムが鳴った。志保は…、
「あのバカじゃなくて、ヒロくんみたいな子がうちの生徒だったらね…。じゃあ、ヒロくん、またお昼休みにね(はぁと)」
 ウインクを一つすると志保は教室を出て行った。あかりはオレにしか聞こえない声で…。
「浩之ちゃん、志保、気付いてないみたいだよ? それに誰も気付いてないみたい…。よかったね」
「うん? あ、ああ…、そうだな……」
 オレは単簡にそう言った。オレは戸惑いを隠し切れないでいる。そこへ来るとあかりは落ち着いたものだ。そういや、前にあかりに志保のことを聞いたことがあるな。
“志保ってあれでいて結構真面目なんだから…”
 あかりが妙に真剣な顔で言ってた…。あれは本当なのか? う〜ん、謎だ……。


 やっと、下校時刻になる。オレは机に突っ伏していた。何故ってそりゃ……。休み時間に誰かがやってきて、可愛いだの何だの…。それに一番困ったのが昼休みだ…。
 昼休み、あかりの手製弁当を食べているとクラスの女子が……、“私のも食べてー” とやってくる。志保やレミィもやってきて…、しまいにゃ葵ちゃんや琴音ちゃんやマルチ、理緒ちゃんや寺女の綾香やセリオまでもがやってきて…、オレの机は一種のハーレム状態になった。
 男子の強烈な殺意の波動が感じられた。特に矢島からは…。
“死ね…死ね…死ね…死ね…”
 って言う、言葉なども聞こえてくるような感じだ。まあ、最もその後であかりに、“矢島くん、嫌い…” って言われて廃人と化してたけどな…。あいつ…。
 夕暮れ、みんなが帰るのを待ってオレとあかりは、先輩の待つオカルト研究会の部室へ向かった。もちろんオレは制服を着て……。こつこつと文科系のクラブハウスの前を通る。やがて目的地の前にやってくるとコンコンとノックする。中から、“どうぞ……”という声。
 中へ入る。魔方陣の上に乗ると先輩が、“早速ですが…、始めます…” と言う。先輩がかなり慌てて見えた。何でだ?…。まあ、オレとしても早く戻して欲しいわけだし、あかりにも迷惑かけさせちまってる。そう思い、
「じゃあ、先輩。よろしく頼むぜ……」
 オレは先輩の顔を見つめてそう言う。こくんと先輩は頷いた。ふとあかりを見る。あかりはちょっと寂しそうにオレの顔を見ていた。あかりに言う。
「あかり…、この一週間ありがとな。正直言うとオレ一人じゃ心細かったんだ。だからお前が心配してくれたとき、嬉しかった。オレは元に戻るけど、これからもオレのままだ…。だからオレのこと、これからも頼むぜ…」
「うん…。うん……、分かったよ…、浩之ちゃん。私も少しの間だったけどお姉さん気分が味わえて嬉しかったよ…。さよなら、私のたった一週間だけの弟くん……」
 先輩の呪文を唱える声が、部室に木霊する…。目を瞑った。そして……、
 ボンッ!!
 大きな音がした……。瞑っていた目を開ける。そこには……。
「あ、あかり。先輩……」
「お帰り……、私の大好きな浩之ちゃん」
 ぎゅ〜っとオレの体を抱きしめるあかり。先輩もなんだかほっとしたような表情をしていた。オレのとんでもねー一週間はこうして幕を閉じた。また明日からは平凡な生活が始まる。この平凡がどれたけ大変なことかを改めて感じさせられる一週間だった。


 二月下旬……。
“あっ、そう言えば今日はお前の誕生日だったっけか?”
 学校からの帰り道、オレはあかりにそう尋ねる。あかりは至極当然のように、でもちょっと恥かしそうにこう言う。
「うん、そうだよ……。でも、今年は今までで一番嬉しい誕生日プレゼントだったな…」
 と……。言った途端耳まで真っ赤になるあかり。そんなあかりが、正直可愛いと思った。ふと、公園を見ると…、
「タカくん、ユウくん、こっちだよ〜」
「待てよー。このみー!!」
「貴明……。お前ってまんまガキだな……。はあ…、俺たちゃ中学生なんだぜ?」
 一昨日、オレを困らせた女の子、このみちゃんと男の子二人が追いかけっこをして遊んでいた。ふと、このみちゃんがオレたちに気付く。滑り台の上で大きく手を振っていた。男の子二人はオレたちに気がついたんだろう。ペコッとお辞儀をしている。
 オレたちは微笑みあって、このみちゃんが待つ滑り台へと向かった…。もちろん手は繋いだままで…。手を繋ぐ公園の桜並木には、冬の終わりを告げる南風が吹いてきていた。

おわり

おまけ

「なあ、先輩…。何であの時、オレを急がせたんだ? 別に急がすことはなかったんじゃねーのか?」
 次の日の昼休み、中庭で優雅なお食事タイムを取っている先輩に向かいオレは尋ねた。先輩は急におどおどとしだす。何だぁ〜? 聞いちゃいけなかったのか? やがて観念したのか…。
「……………」
「はぁ? 言う前に怒らないでください? 何だそりゃ? …いいよ。怒ったりしねえぜ? それより、どんなわけだったのか、教えてくれ……」
 “本当に怒らないで下さいね?” 念を押すように先輩はそう言うと、ぽそぽそと話し出す。オレはその話に聞き入った。
「……というわけです……。って、浩之さん?」
 怒ってはならぬ、怒ってはならぬと言い聞かせる。先輩が何故あの時、オレを急がせたのか…。それは?…。
 呪文の効力はきっかり一週間。それを過ぎるとオレの体は一生元に戻らなかったらしい。と言うことはあと5分遅かったらオレの体は……。空恐ろしい…。先輩はびくびくしながらオレの顔色を伺っている。怒らないと公言してしまったオレは先輩に怒ることも出来ず…。
「うっ、うううううっ……」
 っと、唸るしかなかった……。

ほんとにおわり