「駄目だっ! あんな高いものどうやったら買えるんだっ! 俺にはそんな余裕はない!」
「う〜っ…。恋人がこんなにお願いしてるんだよ? 買ってくれたっていいじゃない…。祐一、嫌い。むぅ〜…」
「そう可愛く膨れたって無駄だっ! 第一お前、今日はそんな用事で来たのか?」
 俺こと相沢祐一は、今、隣町の大きなデパートに来ている。と言うのも、今日は大事な用事があるわけで…。
「祐一君、ボク、あれが欲しいな!」
「あゆあゆは黙ってなさいよぅ。あっ、祐一! 真琴、これがいい!」
 ハハ…、ハハハハハハハハハハハハ……。はぁ…。
「お前たち! いい加減にしろっ!!」


誕生日には花束を…

前編


 今週の木曜日…、そう9月23日は、俺の叔母である秋子さんの誕生日だ。今日は秋子さんへの日頃の感謝を込めてプレゼントを買いに来たわけだが…。
「うぐぅ〜。ボクは真琴ちゃんみたいに高いものじゃないよ〜。200円だよ? 祐一君…」
「真琴だって300円よっ? 100円しか違わないじゃないのよぅ! だいたいあゆあゆのくせに生意気よぅ!」
「ボクはあゆあゆじゃないよ〜! ひどいやひどいや、真琴ちゃん…。うぐぅ!」
 俺は大きな溜め息を吐く。料理屋の続くショッピングモールのど真ん中で真琴とあゆは睨みあっていた。端から見れば小学生と幼稚園児の言い争いだが、ここは公衆の面前だ。しかも奥様連中はくすくす笑ってるし…。
 かなりこっ恥かしいので俺は諭すように言う。俺が言ったって秋子さんのように期待出来ないとは思うが…。
「あのなぁ〜…。今日は何を買いに来たんだ? ええっ? 今日は秋子さんの誕生日プレゼントを買いに来たんじゃないのか?」
「なによぅ〜。そもそも祐一がお金をけちって何も買ってくれないのが悪いんじゃないのよぅ!」
 真琴は俺の顔を睨むとそう言う。隣を見ると名雪とあゆがうんうんと頷いていた……。今週の木曜日、そう9月23日は秋子さんの誕生日。俺たちはそのプレゼントを買いにやってきたということは前述にも述べたが…、見ての通りのこのありさま…。
 くっ…、今、小学生と幼稚園児とイチゴガールが同調しやがった…。こうなりゃこっちにも考えがあるぞ…。俺は睨んでくる三人に逆に睨み返した。こう言う。
「いいのかぁ? 秋子さんのプレゼント…。俺は今年貰ったお年玉がまだご〜っそり残ってるから、一人で買えるけどなぁ? 確かピンチなんだっけ? “ピンチだがら助けてぇ〜”って言ってきたのはどこの誰だったけか?…。なあ〜?。それを踏まえて、買おうとしてるんなら、まあ、好きなだけ買いたまえ。わーっはっはっはっはっはっ…」
 少し様子を見てみる…。


 根が素直なあゆは青ざめて俺の方を見ている。それに比べて名雪は“イジワルだお〜っ”と言う目で見てるし、真琴に至っては、俺の顔を睨み付けてくる始末。反省しているのはあゆだけか…。そう思った。
 だいたいお小遣いが少ないから俺に応援してくれと言ってきたのはお前たちの方じゃないのか? ええっ? 俺が手伝ってやろうか? と言った途端、イチゴサンデーやら肉まんやらたいやきやら買い漁りやがって…。
 一番悪いのは名雪と真琴だ。
 名雪が“奢って攻撃”をしてきたり、真琴が公衆の面前で駄々をこねて泣いたりするもんだから、いい子のあゆにまで伝染したんだ! それは、奢った俺にも原因はあるが…。真琴はそれほどでもないが、でも、名雪の場合…、
「祐一の今夜のご飯は餡子…。餡子に餡子を乗せて食べるんだお〜。お味噌汁はお汁粉だお!…」
 って、俺の弱点をついてくるんだもんな…。俺は甘いものが苦手な人間だ。昔は紅しょうががどうも苦手だったんだが好みと言うのはかわるもの…。昔食えてた甘いお菓子が今じゃ喉を通らなくなってしまった。そう考えると女の子はいいよなぁ〜なんて思ってしまう。
 真琴は真琴で夜に復讐とか何とか言って、いたずらしてくる始末…。元々根は素直でいい子のはずだったのに…。今じゃ名雪色に染められてしまった。はぁ〜。素直に俺の言うことを聞いてくれるのはあゆだけか…。そう思った…。
 ここはあゆや真琴に言っても無駄だと判断した俺は、元凶である名雪に一言がつんと言ってやろう…。そう思い俺は言った。
「名雪…、今日からイチゴサンデーは禁止だ! もし、食べたら秋子さんの謎ジャムだからな…」
「えっ? ええっ? ええええええええーっ? そ、そんなぁ…。わたし、明日から何を楽しみに生きていけばいいんだお〜…。強権だお〜! 職権乱用だお〜! 祐一、嫌い…。うううっ…」
 そう言うと、名雪がうううっと俺の顔を恨めしそうに睨んだ。何が職権乱用だか分からないが、名雪は涙目になりながらそんなことを言う。拗ねる顔が結構可愛い。が、ここは心を鬼にして俺は言う。
 真琴やあゆも俺が怒っていると分かったんだろう。謎ジャムのことを言うと、体を寄せてぶるぶると震えていた。
「そんなこと言ったってお前、“わたしね、お小遣いそんなに持ってないの…。だから協力して?”って言ってたじゃないか。だから俺は協力しているんだぞ?!」
「うううっ…。今月のお小遣い、もう800円しかないんだよ? ピンチなんだよ?」
 おかしい…。この前(3日前)俺と出掛けたときには2200円くらいはあったはずだ。と言うことは…。
「なあ、名雪。お前…、またイチゴサンデー食べただろ? 俺に隠れて……」
「うっ…、だ…、だって、運動した後は疲れてるから甘いものを取った方がいいって本に書いてあったんだよ〜。わたし、マラソンとか走り幅跳びとか一生懸命頑張ったんだよ〜? そんな自分へのご褒美にって…」
「で、結局食べてしまった…、と、こういうわけだな? ……はぁ〜。何て自制心のないやつなんだ! 全く〜。そんなことだから、授業中に寝てばかりいるんだぞ?…」
 俺はこう言うと名雪の顔を睨んだ…。もう名雪は半泣き状態、真琴やあゆも泣きべそをかいていた。ちょっと可哀想になった。そこで俺は妥協策を講ずることにする。
「じゃあ、三人で一つのプレゼントにしたらどうだ? それだったら俺も協力してやる…」
「ええーっ?」
 異論が上がった。真琴からだ…。あゆはとみると素直にうんと頷いている。やっぱりいい子だな…。あゆは。
「この真琴様があゆあゆと一緒のものにしろって? ど、どどど、どういうことよぅ。祐一!」
「うぐぅ。ボク、あゆあゆじゃない…。って、真琴ちゃん、仕方ないよう。二人合わせて500円しか持ってないんだよ? どうやってあのお洋服を買えって言うの〜?」
 真琴はあゆのことを妹分のように思っている。あゆはあゆで、お姉さんだから妹である真琴の言うことを我慢して聞いているんだろう。だが俺から見れば、小学生と幼稚園児のお子ちゃまだ…。二人を見ると、まだ言い争いをしていた。
「うっ!! そっ、それは…。それはあゆあゆの“うぐぅ魂”の見せ所じゃないのよぅ…」
「“うぐぅ魂”って何のことだよ? “うぐぅ魂”って……。真琴ちゃんこそ、“あぅ〜魂”の見せ所じゃないの?」
「“あぅ〜魂”って何よぅ? …ぐぐぐっ。…もっ、元はといえば名雪お姉ちゃんのせいなんだからねっ!」
「わたしのせいってなに? わたし、分からないお〜?」
 びしっと名雪の顔に人差し指を突きつける真琴。当然名雪は分からない顔をしていた。あゆは攻撃対象が変わってほっとしたような顔をしている。真琴は名雪を睨みつけて言う。
「だってそうじゃないのよぅ。真琴が昨日肉まん買おうと思って出かけようとしてたら、“わたし、今月ちょっとピンチなんだ。だから…。ねっ”って言って700円も借りていってたじゃないのよぅ。あれがなければ真琴はお金持ちだったのよぅ〜! 名雪お姉ちゃんが悪いのよぅ〜!」
「…そう言えば、ボクもこの前名雪さんにお金貸したかなぁ〜?…。う〜ん。どうだっただろ?」
 真琴は名雪を睨んでいるし、あゆは思い出すように頭を捻っている。元凶はやっぱりこいつか…。
 俺はギロリと名雪の方を睨む。俺が睨んでいるということが分かったのだろう。名雪はあからさまに目を逸らしていた。それは運動部に所属しているのだから、疲れるというのは分かる。甘いものを食べて体力を回復させようと言うのも分かる。
 だけど誰彼なしにお金を借りる、奢ってもらうと言うのは良くない。良くないと言うよりは間違っている。怒ってやろう思ったが…、いや、と考える。怒ってしまって名雪に泣かれても困るし、それはあゆや真琴を敵に回すということだ。そうなったらもっと厄介だ。
“ここで怒っては元も子もない…”
 そう思った俺は、なるべく優しく諭すようにこう言った。
「なあ、名雪。もうちょっとだけ我慢と言うものは出来ないか? お前だって自分が奢らされるのは嫌だろ?」
「そっ、それは分かるけど…。でも、仕方ないんだよ…。毎日ハードな運動してるんだよ? それに運動した後は疲れてるから甘いものが食べたくなるんだよ〜。祐一だって何か運動してたらわたしの気持ちもわかるよ…。う〜っ…」
 そう言って名雪は俺を睨む。睨む目には、少しばかり非難の色が写っている。が、こう毎日毎日お金を借りるだの、嗜ってもらうだのしていると俺たち3人のの財布がからになってしまうことは必至だ。
 と言うより、いつしか部費を使ってまで食べに行くとかされたら非常に厄介だ。ぽわぽわ〜んな名雪のこと…、やりかねん(などと、考えるのは俺の思い過ごしか?…)。と、とにかくあゆや真琴まで悪の道に引き摺り込むのはどうかと思う。しまったとは思ったが、俺は少々怒った口調で言った。
「いい加減にしろっ! 全く…。あゆや真琴まで引き込んで…。お前、それでも水瀬家の長女か? ええっ? もうちょっとちゃんとしてくれ…。あゆや真琴だってお前がそんなだから真似して俺に“奢って攻撃”なんて仕掛けてくるんだぞ?」
「わたしだって、一生懸命頑張ってるんだお…。勉強だって、部活だって、頑張ってるんだお? それなのに…、それなのに……。酷いんだお〜っ! 祐一〜。う、う、うえ〜〜〜ん!!」
 だだだだだっ……。
 名雪は涙をぽろぽろと流して、そんなことを言うと走ってどこかへ行ってしまった。やっちまったか? 後ろを見るとあゆと真琴が俺に非難の目を向けていた…。


 祐一、酷いんだよ〜。わたしだって最近一人で起きてるし、授業中も真面目に聞いてるんだよ? 部活だって、もうすぐ卒業だから一生懸命頑張ってやってるのに…。それなのに…。うううっ…。
 もうお弁当も作ってやらない! 勉強も教えてやらないお〜! ぷんぷん!! ……お母さんにはわたし一人で何かしよう…。もう、祐一になんか頼まないお〜っ! はぁ〜。でもおなか減ったな〜。
 いつもの道に出る。かなり眠い。でもいつも通っている道。体が覚えている。今日もふらふら〜っといつもの場所へ向かう。
 カランカラン…。
 カウベルが鳴るとお店のマスターがにっこり微笑んで…、
「おっ? いらっしゃい。名雪ちゃん。いつものやつでいいかい?」
「うん、いいお〜?」
 マスターが厨房へと消える。ウェイトレスのお姉さんは優しそうにわたしを見つめていた。夢見心地でイチゴサンデーが出てくるのを待つ。実際このとき、わたしは半分以上夢の中にいた。店内からは小気味よいジャズの音、窓からは気持ちのいい秋の日差しがきらきらと店内を照らしている。何分か経って…。
「お待ちどうさま。さあ、どうぞ……」
「いただきまふ……」
 スプーンを一匙、イチゴのところへと持っていって掬う。イチゴのつぶつぶが綺麗に赤い果肉と合わさって“早く食べてー”と言ってるように聞こえる。早速一口…。
 ぱくっ……。
 今、このときがわたしにとっての至福のときなんだお〜。心の中で何度も思った。
 夢中でイチゴサンデーを食べていく。いつもの味だけど、いつも食べてるけど…。やっぱりおいしっ!
 …イチゴサンデーも食べ終わり、人心地ついた。お金を払って百花屋の表へ出たとき、わたしの顔から血の気が引いた。…思い出した。わたしはお小遣いが少なくて、お母さんのプレゼントが買えないということを。どうしよう……。
 慌てて猫柄の財布を見てみる。
 ちゃリーん……。
「ど、ど、どうしよう…。これじゃお母さんのプレゼントなんて買えないお〜っ!」
 目の前が真っ暗になった…。手のひらには100円玉が一枚の乗っかているだけだった。途端にわたしは泣きそうになる。あまりに自分が情けなくて……。はぁ…。溜め息を吐くとお母さんや祐一たちが待ってる家へと向かった。足取りはかなり重かったけど…。


「祐一君! 酷いよっ! 酷すぎるよっ!」
「そうよぅ! 祐一は女の子の気持ち、全然分かってなーい!」
 俺たちは、走っていった名雪を追いかけてあちこち見てまわっている。名雪のよく行くお店や何かをしらみつぶしに廻った。が、なかなか見つからない。どこに行ったんだ? 全く…。あゆと真琴はさっきから、俺を睨みつけてはこんなことを言い責めてくる。二人の声が、俺を町行く人たちの視線を釘付けにしていた。
「だーかーらー! 悪かったって…。俺も言いすぎた部分もあると思う。家に帰ったらちゃんと謝るから、あまり大声出さないでくれー! こっ恥ずかしいったらありゃしない!」
 くすくす笑いながら、通り過ぎていく町の人たち。はぁ…。これじゃ謝り損じゃないか? と言おうとしたが、またあゆと真琴に文句を言われそうなので止めにした。
 まあ、女の子なんだから甘いものが好きと言うのは分からない訳でもない。現に甘いものが苦手な俺でも、あの店のイチゴサンデーはおいしかった。でも毎日はちょっとと言うか、かなり嫌だぞ。あゆにしたって真琴にしたってたいやきや肉まんは、そういっぱいは食えまい。
 だけど名雪は違うんだ。あいつの頭の中にはイチゴと猫にだけ反応するセンサーみたいなものがついているんだぞ? 猫を触りながらならイチゴサンデー百杯は軽くいくに違いないんだぞ…。多分今ごろでも、ふらふら〜っと百花屋の方に…。そう考えて横を見ると…。
「祐一君…。名雪さんがいくら猫好きだからって…。そこまではしないと思うんだけどなぁ〜。うぐぅ…」
「だいたい祐一じゃないんだし、イチゴサンデー百杯なんて食べられるわけないわよぅ」
 ギロリとあゆと真琴が睨んでいた。今の言葉、聞かれてたのか? う、うぐぅ…。
「祐一君…」
 あゆがジト目でこちらを睨む。多分俺が独り言か何かで“うぐぅ”を言ってしまったんだろう。はぁ、これで80円が消えるなぁ。とほほ…。そう考えながら俺たちは名雪が帰ってきているであろう水瀬家の方に向かった。


 水瀬家に帰る。玄関を開けると、名雪の靴があった。多分百花屋から帰ってきたんだろう。あの後、もう一度名雪を探した俺たちは、ふと気付き百花屋へと向かった。
 案の定、名雪は百花屋で…、
“イチゴサンデーをおいしそうに食べてたよ…”
 と、店のマスターから聞かされた。ということは、つまり名雪は?…。心の中でため息をつくと、思った。
“はぁ…。プレゼント、また考え直さなくちゃな…”
 と…。そうこう考えているうちに秋子さんが出てきた。
「あら? おかえりなさい。祐一さん。あゆちゃんに真琴も…。欲しい物は見つかったんですか?」
 秋子さんには誕生日プレゼントのことは言っていない。当日まで黙っていてみんなで秋子さんを驚かそうと言ったのは真琴だ…。あゆも名雪も大賛成。俺も別に異論はなかったので賛成した。
“このことは俺たち4人だけの秘密にしておくこと。もしこの約束を破ったら謎ジャム……”
 暗黙のうちにそう言うことが了承された。
「ただいま、あっ、その…、見つかりませんでした…」
「そうですか…。じゃあ、晩御飯の準備をしますね…。あゆちゃん、真琴…。お手伝い、お願いできるかしら?」
「うん、ボクはいいよ。真琴ちゃんもいいよね…」
「あうっ? う、うん…」
 元気に言うあゆと、自信がなさそうに言う真琴。こうしてみると、やっぱりあゆのほうがお姉さんなんだなと考えてしまう。俺は、台所へ入っていく二人を見ながらそんなことを思った。
「秋子さん。名雪は?」
「10分ほど前に帰ってきましたよ? でも、どうしたのかしら…、困った顔をしてましたけど…」
「そうですか…」
 俺は名雪の事を聞く。秋子さんはそう言うと心配そうに階上の名雪の部屋の方を見ていた。そう言うと秋子さんは、嬉しそうに台所の方に消えていった。多分あゆと真琴に料理を教えているんだろう。まあ、あの二人にとってもいい経験になるわけだしな…。そう考えるとおれは二階へと上った。
 自分の部屋へと向かう。俺の部屋は階段を上がって一番奥の部屋だ。ちなみにあゆと真琴は階段側の部屋を共用している。名雪の部屋は真ん中だ。今、俺はその部屋の前に来ている。中を伺ってみる。声が聞こえてきた。
「う〜っ、困ったよ〜。イチゴサンデー食べちゃったから、もう100円しか残ってないよ〜。祐一に怒られるよ〜。もう一生口を聞いてもらえなくなるかも…。うううっ…」
 …案の定、困ったと言う声を出して、う〜う〜唸っている。こういうことには、分かりやすいので結構楽だ。しばらく反省させる意味でこのまま放っておこうと思ったが、そういうわけにもいかないので名雪の部屋の戸を開けた。
「名雪、入るぞ?」
「あっ、ゆ…、祐一…。ごめんなさいっ!」
 俺の顔を見ると途端に名雪は頭を下げる。ふふふっ…。どうやら反省はしてるみたいだな…。意外と今回は素直じゃないか? まあいいや…。名雪が自分から謝ってくるなんて、そうそうないんだしな…。
「今回は反省してるみたいだな。よしよし…。まあ、名雪も反省していることだし、今回の事は水に流そうと思う…。だけど、お金がないと何も買えないぞ? どうするんだ?」
「ありがとう。祐一〜。でも…、う〜ん…。困ったね〜。あっ、そうだ、祐一。あゆちゃんや真琴にも聞いてみようよ…。きっといいアイデアが出てくるかもしれないし…」
 俺と名雪は考え込んだ。たしかにそれはいいアイデアかもしれない。ただ相手が相手…。小学生と幼稚園児と名雪じゃあなぁ〜…。やっぱり俺が考えるしかないのか…。はぁ〜…。


 夜、9時半になった。俺たちは名雪の部屋に集合する。もちろん秋子さんの誕生日プレゼントのことでだ。名雪たちに任せたら話しがとんでもない方向へ行ってしまう可能性があるので、進行役は否応なく俺になった…。
「お金は4600円…。まあ、このお金で服が買えないわけじゃない。でもほとんどが俺のお金だ。みんなでお小遣いから出し合って買う。最初はそう言う約束だったよなぁ?」
 そこで言葉を切り3人の顔をじっと睨む。今回は反省しているのか、みんな反論はしてこなかった。
「うぐぅ…」
「あぅ…」
「だお〜…」
 三者三様、そんな声を出して涙目でこっちを見つめてくる。どうやら本当に反省しているらしいな。よしよし…。そう思った俺は意見を求めてみることにした。
「…そこでだ。みんなからいいアイデアがないか聞いてみようと思うんだが、何かないか?」
 う〜んと考え込む3人。いいアイデアがなければ俺が考えたアイデアを言うつもりでいる。と、あゆが手を上げた。
「…祐一君。ちょっといいかな? あのね、秋子さんのプレゼントなんだけどね…。た…」
「却下!」
「うぐぅ! ボク、まだなにも言ってないのに〜!」
 あゆが涙目でこっちを睨んでいる。まあ、子供だから睨んでいてもそんなに怖くはない。俺は言った。
「お前、またたいやきをプレゼントしようとか考えてるんじゃないだろうな? しかも自分で焼いて…。やめておけ…。秋子さんだったらいざ知らず、俺たちが焼くと碁石になるのがオチだっ。料理っていうのは経験が必要なんだぞ? そうそう、タイヤキ屋の親父も言ってたぞ。『あゆちゃんにやってもらったのはいいんだけどなぁ…。見てくれ! この黒こげの山をっ!』って…。涙を流しながらな…」
「うぐぅ〜…」
 あゆはそう一言唸って黙り込んだ。料理に関して言えば、真琴は皆無。あゆはちょっと齧る程度。秋子さんから手ほどきを受けているもの分かるような気がする。かく言う俺はまあ何とかという具合だ。実際にこのメンバーの中で料理が出来るのは名雪だけだった。
 でも名雪も秋子さんほどじゃない。黙って聞いていた真琴が言う。
「じゃあ、秋子さんのお手伝いとかは?」
「毎日やってるだろ? それじゃあ普段と変わらん!」
「あぅ〜。じゃあ、祐一の意見を言ってみなさいよぅ!!」
 真琴はそう言ってギロリと俺の方に目をやった。名雪の提案がまだだったので名雪の頬をつんと突ついた。
「なぁ、名雪。お前の意見は?」
「うにゅ? くぅ〜。イチゴのケーキを作るんだお〜。ふふふっ…」
 名雪はそんなことを言う。もう半分以上夢の中なんだろう…。目が糸目になっていた。う〜んと考える。…一番最後に残ったのは俺の提案だけだった。実はここ一週間前から考えてきたことなのではあるが…。みんなの方に顔を向けると俺は言った。
「なあ、みんな…。花束をプレゼントするって言うのはどうだ? 秋子さん、花が好きそうだしさ…。よく花を活けてたりとかしてるだろ? だからさ…」
「確かにいい考えだけど…。でも、最近はお花だってすごく高いんだよ? ボクたちのお金じゃあ…」
 そう言うとあゆは目を伏せる。真琴も名雪も悲しそうに俺の顔を見た。
 確かに物価の高騰で物が高くなっている。10年前の母の日のカーネーション一本が80円くらいだったのに、今では100円にまで跳ね上げられてしまった。ここ10年で20円も物価が上昇している。
 少々高いものになってくると、5、600円はくだらない。花の種なら安いんだがなぁ。それじゃあガーデニングになってしまうし…。うーんと考える。と、そこで閃いた。俺はみんなの顔を見て言った。
「そうだ! みんな。じゃあ、こんなのはどうだ? 俺たちでコスモスとか菊とか、秋に咲く花を見つけて、それを花束するんだ…。どうだ? この提案は…」
「うん、それいいね。ボク、祐一君の提案に賛成するよ!」
「祐一にしてはいいアイデアねっ! 真琴も賛成するわよぅ!!」
「くぅ〜。誕生日には花束だお〜。くぅ〜」
 俺の提案に水瀬家シスターズ全員が賛成してくれた。さあ、明日から調べなくては…。花の事はほとんど皆無である俺たち。明日香里にでも聞かなくてはな…。そう思い、この会はお開きになった。

後編に続く…