(片瀬)けんちゃんの厄災日
今日10月23日は、俺の腐れ縁の女友達でもあり、また彼女だったりする小野崎清香の誕生日だったりする。まあ俺自身はドキドキ感も何もなく普通に暮らしているわけだが、清香はちょっとドキドキしてると言うか何と言うかそんな感じだ。そう言えば清香の誕生日の3日後くらいか? 俺の中の傍若無人なちょうど彼女と背格好がそっくりの従姉の誕生日は? 昨日くらいか、家のほうに電話があって“今年はそっちに行くからよろしく〜” とのことだった。だったと言う断定形の助動詞がつくのは俺が留守のときに雪希が受けたからだ。押しに弱いマイシスターのことだから、今回もどうせ口八丁手八丁な感じで押されたんだろう。そう思う。同じ名前の従姉の友達の彼も大変だなぁ〜っと思いつつ、今あっちをバタバタ、こっちをバタバタと駆け回っているマイシスターを見つつ、軽めの朝食を取る。
大学3年になってそろそろ就職活動を行わなければならない時期になった。まあうちの従姉は一応ではあるが社会人なのでその辺も聞いてはいるんだが、“あんただったらどこでも行けるでしょ? 頭さえあればね?” と笑いながら言うわけで…。って言うか最後の一言が気に入らなかったんだが、これを俺の彼女に言ったところで“美空さんの言う通りじゃないの?” と至極当然のように言われるので文句は言えず、ぽんこつな幼馴染みの頬をむに〜っと引っ張ることでイライラ感は収まった。まあその代わり、後でバカ高いケーキを買わされたことは言うまでもなかったが…。とほほ〜。
いつものように大学へ向かうため車に乗り込む。マイシスターは今日は学校は休みだそうだ。歯科衛生士の資格を取るためそれの専門学校に通っている雪希。いつもは一緒に乗り込んで来るんだが…。いつも隣りに乗ってるやつがいないと意外に寂しいもんだな…、そう思いつつ車を走らせていると特徴的な髪形と見慣れた髪型を発見。ブッブーッとクラクションを鳴らすと気がついたのか手を振って嬉しそうにこっちにやってくる。
「おはよう。健二。って、雪希ちゃんは?」
「ああ、休講日なんだと。今頃は家で大掃除だ。美空姉も来るしな…」
「そうなんだぁ〜。せっかく雪希ちゃんにお料理教えてもらおうかなって思ってたのになぁ〜、はぁ〜、残念…」
そうため息交じりに話す俺。“うふふっ” と嬉しそうに微笑む清香。まあ電話がかかってきてから俺の知ってるいつもの連中に電話をかけてみたんだが、生憎と(?)先輩と進藤は用事があって来れないと言う返事が返ってきた。まあ先輩は残念だが進藤はどうでもいい、と言うか来なくてほっとしている。あいつは喋り出したらあることないこと全部喋って俺をピンチに追い込むんだからな? 今回はちょっとばかり静かな誕生日会になりそうだぜ…。そう思いながら大学へと車を走らせる俺がいた。
「こんなもんか?」
土産物の魚や菓子折りを手に俺はそう言う。魚は今朝方近くの海岸の磯で釣ったものだ。今、俺はバイクと車の修理屋を営んでいる。もうかれこれ1年くらいか。今じゃすっかり腐れ縁な美空から電話がかかってきたのが一昨日だったか、“修理屋もどうせ暇なんでしょ? だったらちょっと付き合ってよ…” と電話の向こうで笑いながら言ってやがる。“そんなに暇じゃねぇ〜っ!!” とは言いたいものの、こんな田舎町の修理工場なんてそうそう忙しいはずもないわけで。まああるとしても2日に1回な程度だから暇を持て余していると言うのが現状なところか…。そう思い“何のようだ?” と言うと今年も同名の彼の家に行くんだそうだ…。俺たちはいいが同名の彼の家は大忙しなんじゃないのか? そう思って美空に言うところが、“大丈夫よ” と言う感じで笑っている。まあ笑っているんだから大丈夫なんだろう。そう思いOKの返事をして、準備を開始する。
「健ちゃん、これで全部?」
「ああ、そうだな。じゃあそろそろ行くか?」
と俺の嫁である七海が言う。幼馴染みと言う間柄だった俺たちではあったが、今年の6月に結婚した。結婚式当日におばさん(今はお義母さんなんだけどな)から、“娘をよろしくお願い致します” と涙交じりに言われて嬉しいやら恥ずかしいやらで顔が真っ赤になってたっけか。ひかりや多恵先輩からは定番の昔の恥ずかしいことをばらされたりして、結婚式後数日は結婚式に来た友達から大いに冷かさえたことは言うまでもない。でもそうか…、向こうの健二は知らないんだったな? だったら驚かしてやろう。そう思い密かに結婚式の写真を数枚胸のポケットに入れる。“じゃあ行くか?” と嫁に言うとうんと笑顔で首を縦に振る。自宅によって妹も連れ出す。もちろん向こうの健二の家に行くって言ったのはうちの嫁だ。
ガサツで粗暴だった妹だったが、健二の妹、雪希ちゃんに出会ってから大分女の子っぽくなってきた。昔は俺を投げ飛ばす名人だったのになぁ〜っと思うと何だか懐かしい。しかし柔道の練習は毎日欠かさずやっている。で、いつ投げられるかびくびくしながら毎日を送っているわけだ。“また雪希ちゃんにお料理教えてもらうんだ〜” そう言ってニコニコ笑顔の妹。ちなみにうちの妹のほうが2歳ばかり年上なんだがな? まあそれもご愛嬌ってところか。道は幹線道路に入る。ここから約15km行った先が、同名の彼の家となるわけだ。走る走る走る。幹線道路を下りてカーナビを頼りに道を回ってようやく向こうの健二の家に着いたときには夕暮れ時だった。ふっと家の前の駐車スペースを見ると美空のバイクが止まってる。早く来たのか…。と思って玄関前チャイムを押すと…。
「いきなりだからびっくりしたって言うか、驚かそうと思ってた俺の計画が台無しじゃねーかよ?」
と健次さんが美空姉に言っている。まあ先に来た美空姉に“彼ね、七海さんと結婚したのよ” って聞かされた時にはびっくりしたって言うかなんて言うか…。だけどあの2人はまあ結婚しても不思議じゃないだろうな? と言うか、結婚しないほうが不自然なわけで…。幼馴染みと言うのはすごくお互いの心が分かり合っているものかもしれないな? そう思い、俺のぽんこつへっぽこ幼馴染みのほうを見れば…、はぁ〜っとため息を一つ。こいつにも彼氏が出来るんだろうかと一瞬不安になってくる。日和と目が合う。“どうしたの? けんちゃん…” とやや不思議そうに首をかしげて聞いてくる。
「いや、お前に彼氏と言うものがもし出来たとして、彼氏がどんなに苦労するかシミュレートしてただけだ」
そう言う俺に対して途端にぷぅ〜っと頬を膨らませるぽんこつさん。“わたしにだって彼氏ぐらいできるよぉ〜っ!! それに苦労なんかさせないんだからぁ〜。もうけんちゃんのばかぁ〜” そう言いながらうわーんと大声で泣き出す日和先生。やばい、やばいぞ〜。今は清香に美空姉もいるんだ。こんなところ見られたら何をされるか分かったもんじゃない。そう思い“分かった、俺が悪かったから泣かないでくれ〜” と言って謝っても泣き止まない、と言うかますます大声になる。と…、
「なになに? 何だか泣き声がするんだけど?」
「また健二が日和に何かイタズラかイジワルしたんでしょう」
と向こうで料理を作っていた俺の彼女がマイシスターと話をしていた従姉と一緒に来てしまう。“また日和を泣かして〜!!” とぷんすか怒る清香。そんな清香に身振り手振りで俺がこんなに悪いことを言ったんだとこっちを涙目に睨みながら伝える日和。って言うか“ちびっ娘”なんていつ言ったんだ? と清香と美空姉のほうを見てみるとしっかり怒スジが浮かんでいらっしゃる…。はっきり言って恐ろしいことこの上ない。またさんざん言われるんだろうなぁ〜っと思いきや、美空姉が今にもガミガミ言おうとしていた清香にウインクを一つして、マイシスターに料理を教えてもらっていた鈴夏さんに何か言っているのが見える。とゆら〜りとおもむろにこっちにやってくる鈴夏さん。顔を見れば不気味に微笑んでいる。
「ふぅ〜ん、あたしが料理なんて教わったって全然うまくならないって思ってるんだぁ〜。健二くん。ふぅ〜〜ん」
い、いやそんなこと一言も言ってないし!! と思って美空姉のほうを見てみると、ぷぷぷっと笑っていやがった。じりじり精気のない目で近づいてくる鈴夏さん。健次さんのほうを見てみると、どうしようもできないと言う風に首を横に振っていた。じりじりっと近づく。じりじりっと後ろへ後退。そんなことを何回かやってるうちについには壁際まで追いつめられた。こ、これはひょっとしなくてもいつも健次さんを投げ飛ばしている鈴夏さんの十八番、“巴投げ” ですか? と思うが早いか、もう体は宙に舞っていた。投げ飛ばすときにちらっと見えた鈴夏さんの白いパンツがやけに印象的だったことは俺だけの秘密だ。
う…、ん? と気がつくとそこは自分の部屋。階下から賑やかしい声が聞こえてきているんだからもう誕生日会は始まっているんだろう。と、ふと額が冷たいことに気付く。何だぁ〜っと思って見てみるとタオルが置かれていた。と、たんたんたんたんと階段を上がってくる音が聞こえる。これは雪希のものじゃないと直感的に思った。がちゃっと扉を開ける音、とそこに見える特徴的なリボン。間違いない、俺の彼女だ。ともう1つ、いや、2つか。サイドに結わいだリボンも見える。これはうちの従姉だな? そう思った。
「あっ、健二、起きてたんだ」
と言う彼女に、“ああ、今起きたところだ” と言う俺。美空姉のほうは何だか申し訳なさそうに立っているので、“何そんなところで突っ立ってるんだ? いつもの美空姉らしくもない…” とちょっと発破をかけてやる。と、“な、なによ! こっちは心配して見に来てあげたって言うのに…。もう!” とちょっとぷぅ〜っと頬を膨らませる。ああ、いつもの美空姉だ。そう思っていると、“さあさ、いつまで寝てるの! 早く起きて。一緒にお祝いしてよ? ねっ?” と彼女が俺を立たせる。まだ頭のほうはくらくらするが、まあいつものようにバカやっているうちに治ってくるだろう。そう思いながらポニーテールに結わいだ大きな白いリボンと、サイドの淡い水色のリボンとを見て、同じくらいの背でも結わい方で違うもんだなぁ〜っと思った今日10月23日は俺の彼女、小野崎清香の、そしてその3日後の26日は俺の従姉の鮎川美空の誕生日だ。
END
おまけ
階下に下りてくると、そこはお祭り、あるいは戦場か、もしくは地獄絵図? とも思われる状態だった。派手にパンツを露出させてぶっ倒れているもの、ぐぅぐぅと寝息(と言うかいびきだなこりゃ)を出して寝ているもの、淡々とお酒を飲み続けるもの…。と言うか日和に七海さん、お酒、そんなに強かったの? と一瞬目を疑う。が相当に酔ってるみたいで、“けんちゃん、チュ〜して〜” と迫ってくる始末。こういう事態に我らが健次さんはと言うと…、これまた気持ち良さそうに寝入っていらっしゃる。取りあえず清香と美空姉と3人で手分けして布団に運ぶ。鈴夏さんは手酷い一撃を喰らっているので俺としてはもう勘弁願いたかったわけだが生憎と力のない2人なもんで布団まで俺が持っていく事になったわけだが、これが数分後の大惨事となることを俺はまだ知らず…。
持ったまではまだよかったんだ。うん。布団に寝かそうと思って寝床に体を置いた瞬間、むぎゅっと俺の顔を胸に押し付けてちょうどプロレス技のように身動きが取れなくなってしまう。まあボリュームと柔らかさだけは実感出来たわけだが、でもこれ以上は危険だ! と思いヘルプを出すものの、助けは来ず…。何でだ〜っと思って回らない首をちょっと回して見てみるとこっちを恨めしそうに見つめる二人の姿があるわけで…。多分俺がちょっと嬉しそうにしてたのが原因だったのかと思う。で、そのあと2時間ぐらい正座をさせられて2人からお説教を受けたことは言うまでもない。更にはその翌日、清香が告げ口したのかは知らんが、鈴夏さんにいきなり一本背負いで5メートルも投げられたことは言うまでもなかった。とほほー…。
TRUE END?