ボランティア旅行に行こう


 10月9日は可愛いオレの彼女・姫川琴音ちゃんの誕生日であり、数年前に知り合った朝倉の彼女でありまた芹香先輩と同い年の先輩である水越萌先輩の誕生日だ。今年はいろいろなところで災害が起こって大変な年だ。いや今年に限らず昨年一昨年とどこでも災害は起こっているわけだが…。思えば委員長の親が離婚する羽目になってしまたあの阪神淡路大震災からこっち災害続きだよなぁ〜っとは思うんだが、今回は琴音ちゃんの生まれ故郷でもある北海道に災害が発生してしまったわけで。災害発生時にテレビにくぎ付けになっていた琴音ちゃんを見ると相当に心配なんだろうな? と言うことがありありと分かる。最近は地球そのものがおかしくなってきているのか、はたまた地球の自助作用かは知らんがあちこちで地震や台風などの災害が頻発して起こるようになってきた。ここ首都圏でも30年以内にM7クラスの地震が起こる確率が70%から80%くらいあるらしい。東海・東南海・南海地震も近々起こる可能性もあったりと何だか日本を目の敵にしてるんじゃねーかと思うくらいだ。
 そんな中、何か出来ねーもんかな? なんて考えつつ大学の食堂で彼女のお手製の弁当を頬張っていると、とある壁の張り紙が目に飛び込んできた。そう、それは災害ボランティア募集の張り紙だ。“何ですか? 浩之さん?” と彼女がオレの後を追うように目をその張り紙へとむける。“後でじっくり読んでみましょうよ” と彼女が言うので、“ああ、そうだな” とその張り紙からいったん目を反らして弁当にがっつくオレがいた。弁当を食い終わりすごすごと張り紙の前まで来るオレたち。と彼女の親友でありオレの師匠的存在である葵ちゃんと綾香が同じように張り紙を見ていることに気がつく。“よう” と声を掛けると、“あっ、藤田先輩。琴音ちゃんも…。どうしたんですか?” と葵ちゃんが聞いてくる。いやな…とこれまでの経緯を話すとどうやら相手も同じ考えだったらしく、“じゃあみんなでボランティアに行きましょう” と言うことになった。幼馴染みNo.1のあかりにも言うと、“じゃあ雅史ちゃんや志保にも言わないとね?” と言ってくる。待て? 雅史は分かるが何であんな女も呼ぶんだ? とは思ったがまあ何かの役には立つんじゃねーのかと思い直し、“じゃあ頼むわ” と言っておいた。“うん、任されたよ” と胸をとんと叩くあかりに何故だか感謝の念が生まれたのは言う間でもない。あと委員長と理緒ちゃんなんかにも話をしてみたところ、OKと言う返事をもらってオレの知ってるやつら全員で10月前半は東北から北海道までのボランティアに参加することになったわけだ。家に帰ってから即戦力になりそうなやつを勘定してみたが、どうにも数が足らなくねーかと思う。男手と言うとオレと雅史だけだしな? あと3、4人、せめて2人くらいはほしいところだ。とそこでオレの脳がフル回転し始める。あいつら全員連れてけば何とかなりそうだ。そう思いあいつの家に電話を掛けるオレがいた。


「1ヶ月経ってもこんな程度なのか…」
 とテレビの報道を見ながら俺は独り言のように呟いた。今年は何かと台風の上陸回数が多かった。特に8月下旬のいわゆる迷走台風が酷かったように思う。最近は地球温暖化が叫ばれているが俺には関係のないことと思っていた。だがあの複雑な動きの台風を見てみるとそうでもいないことに気付かされる。冬にはよく爆弾低気圧が出来て東北や北海道辺りに猛烈な暴風雪なんかを巻き起こしているし、夏は夏で30℃越えが何日も続くようになっている。北海道でこうなのだから初音島はもっと暑いのは無理もない話で…。ほとんど体温に近い気温が8月の下旬まで続いていた。それが大元かどうかは知らないが、熱中症で運ばれる人も多かった。その中の1人が何を隠そう俺なのであるが…。とにかく北海道の酷い有様を見ると何か出来ないものか…、とも思うが俺1人じゃ何も出来やしないわけで…。こんなときにあいつの行動力が羨ましい。と、4、5年前に知り合った男のことを考えていると、トゥルルルルル…と電話がかかってくる。誰だ〜っと思って見てみると今考え事の中に出てきたあいつからだ。
「よぉ、元気か?」
 と受話器の先からいつものかったるい声が聞こえてくる。お互いに近況報告とかしあって、早速本題だとばかりにあいつが言い出した。“あのよ? おめぇ、ボランティアとか興味ねぇ?” そういきなり訊ねてくるので、“いきなり何の話だ?” と訊ね返すと、洗いざらい話してくれた。要は災害ボランティアに参加してみないかと言うことらしい。資金面に関しては向こうの来栖川グループが全面的にバックアップしてくれるとのことでこっちは身一つで参加できると言うことらしかった。ちょうど何か出来ないことはないものかと考えていたところだったんで即座に、“行くわ!!” と言う俺。大学の必要な単位は夏に取得しているため後は必要な講義に顔を覗かせる程度でいい。しかも10月は11月の学祭の準備で1ヶ月間はてんやわんやで講義どころではなくなる。
 まあ半月、いや1ヶ月くらいの旅行でどうのこうのとは言われないし、事前にボランティアのためと言うことを大学側に言っておけばいいわけだ。いや、うちの大学だけかもしれないが…。その代わり監督役に誰か教職員を1人連れて行かなければならんわけだが、これは隣りの従姉にでもお願いしよう。そう考えて改めてOKの返事をして受話器を置いた。早速眞子や美咲たちに電話を掛ける。隣りの従姉にも言ってみたが、今回はみんな同じことを考えていたらしく特に異論も出ることもなくすんなりOKの返事をもらった。びっくりしたのは我が義妹で、俺が電話を掛けて“もしもし”の“も”を言うか言わないかくらいに、“あっ、兄さん? 私も参加です!” と言われたことには本当にびっくりしたと言うか何と言うかだが、まあ看護師(の卵)が一緒について来てくれるだけでも心強い。聞くところによると俺が美春に電話を掛けた後、すぐに美春から掛かってきたそうで、ちょうど災害救助の勉強に行かなければならなかった音夢は、“これこそ天の助け” と思ったらしい。まあ男手が足らんとか藤田が言っていたので杉並にも電話を掛けて無理矢理にでも誘っておいた。来るだろうかとは思ったが案外付き合いはいいやつなので来るだろう。そう思って準備をする俺がいた。


「片付けても片付けても減らないなぁ〜。お〜い、名雪〜。そっちはどうだ〜?」
 とこの8月に来た台風やそのあとの豪雨被害の後片付けに俺は追われていた。居候先である俺の叔母・秋子さんも町内会の清掃に駆り出されてついでに俺たちも一緒に行くことになったわけだが、爆睡眠り姫こと従姉妹の名雪はいつもの糸目で寝ているのか起きているのか分からない。あと2人俺と同じ居候はと言うと…。“うぐぅ〜、祐一君、ちょっとはこっちを手伝って〜” だの、“何で真琴たちにこんな重い荷物を持たせるのよぅ〜” だのと文句のオンパレード。俺はそれの3倍くらいの重い荷物を持ってるんだ! それくらいで音を上げられちゃあ困る。とばかりに睨みつけてやると途端に涙目になる2人。はぁ〜、あとで好きなものでも買ってやるから…と妥協点を見出して言うと、今までの怠惰な動きからしゃっしゃかしゃっしゃか動きが早くなる。ほんとに現金なやつらだなぁ〜っと思いつつまた清掃作業に戻る俺。と遠くから、“祐一さ〜ん” と呼ぶ声が聞こえる。ふっと振り返ると栞に香里に北川、舞に佐祐理さんと言ういつもの面々がいる。“向こうの掃除は終わったのかな?” と佐祐理さんに聞くと、“あははー、終わったからお手伝いしに来たんじゃないですかー” と太陽のような笑顔で言う。それぞれにスコップやら箒なんかを持参してきていることを見るとここが一番まだまだだと言うことが分かっていたんだろうな? そう思い、“すまん” と名雪の頭を持って一緒に下げる俺。“まだ半分寝てるの? 名雪は…” と半分呆れ顔で言う香里に、ふぅ〜っと深いため息を吐きつつこくんと首だけを縦に振る俺。“しょうがないわねぇ〜” と言いつつ名雪の首根っこを掴んでずるずる引っ張っていく姿にぷっと吹き出してしまう。えいほえいほと道路の端や排水溝に溜まった泥をかき集めて大型の汚泥入れ袋に入れる。そう言う所作を何回か続けていると、秋子さんの俺を呼ぶ声が聞こえてきた。
「祐一さんのお友達の方からだそうですよ?」
 そう言う秋子さんの顔はなぜか嬉しそうだ。何だろう? そう思って代わってもらう。“もしもしお電話代わりました” と言うが早いか、“よう、オレだオレ” と聞きなれた声。何だ? 藤田じゃないかよ?! そう思って、“何の用だ? って言うより今忙しいんだけどな?” と言う俺。そんな俺に、“今おめぇの家の近くの駅にいるんだが…、どう行くのか忘れちまってな? それで秋子さんにも挨拶しておきたいし…” と要領を得ないことを言う。“いや、だから何しに来たんだ? 俺は今忙しいんだけどな?” と言うと、“何ってそりゃ手伝いに決まってんだろーがよ?” と至極当然のようにこう言う。はあっ? と一瞬頭がバカになる。手伝いってわざわざ東京からか? と言うと、“まっ、そう言うこった。あっ、あと今回いつもの倍くらいの人数なんでまたどこか泊まれる場所とか用意しておいてくれると助かるんだけどよ?” と言う藤田の声の後ろからわいわいがやがやと何やら見知った声と見知らぬ声とが一緒になって聞こえてくる。急に言われたってなぁ〜っと思いふっと佐祐理さんと目が合う。“どうかしましたか? 祐一さん” といつものにこにこ顔でこう言いながら俺のそばまでやって来る。事情を話すと、“それでしたらお父様に話してみますねー” と早速覚えたての携帯に電話を掛ける佐祐理さん。“今、交渉中だから待ってろ” と受話器の向こうの藤田に言う。何分か話していた佐祐理さんから丸印が出た。OKだったんだろう。“OK出たぞ〜” と言うと受話器の向こうから、おおーっと言う声が聞こえてくる。一体何人連れてきたんだ? と佐祐理さんとともかくも迎えに行くことにする。舞は真琴と一緒に掃除をしていて気づく素振りを見せないからそのまま置いておくことにした。


「ゴミとか半端ないなぁ〜。普段家で生活してる数百倍はあるかも…」
 と、北海道に来てみて思った印象がこれだった。もっとも札幌ラーメンの看板とかにも目は言ったが。我が義妹は、“もう! 兄さん。今回はラーメンが目的じゃないんですよ?!” といつものグリグリした目で俺の顔を見遣る。今回の旅のパトロンである来栖川先輩は相変わらずの無表情だ。だがそんな俺でも何となくだが嬉しそうだなと言う感じが伝わってくる。藤田が、“ああ見えて結構お茶目なんだぜ?” と言うのも頷ける。と一番前の席に座っていた藤田が、“おーい、そろそろ降りるぞ〜” と言うので慌てて降りる準備をする。もっとも俺にとっては初めての土地なだけに少々おっかなびっくりだった。路線バスを降りると色づき始めた山々が目に飛び込んでくる。空気が凛と引き締まった感じがするのは俺だけだろうか? などと考えつつ荷物の積み下ろしの作業を行なう。って鍋があるってことはここでも鍋をするつもりだな? とにこにこ顔で手伝っている萌先輩のほうを見る。眞子がこっちに気づいたのか。はぁ〜っと宮内さんがするようなポーズを取っていた。“しっかし多いな? これだけの人数で押し寄せて果たして寝泊まり出来る場所があるのかどうかだが…、って、えっ? 私に任せて下さい? い、いや、先輩にはもう十分やってもらったから…” と来栖川先輩と藤田の会話が聞こえてくるわけだが、俺には一向に来栖川先輩の声は聞こえないわけで。来栖川先輩の妹曰く、“浩之の耳がいいのか、もう心で通じ合ってるのかどっちかね?” と言うことらしい。そうこう話を聞いているうちにおもむろに携帯を取り出して電話をし始める藤田。確か北海道に友達がいるって言うことをいつぞやかに聞いたような気がするんだが、そいつのところにでも掛けてるのか? と来栖川先輩を見ると何となく寂しげだったことは言う間でもない。また違う路線バスに乗って小1時間走った。
 同じところをくねくね曲がった気もするが目的地に着いたのかバスは広い停車場に止まる。ここが最終なんだそうだ。新幹線で青森まで行きそこから青函トンネルを越えて北海道へ渡ってきたわけだが、札幌駅でバスが待っていることには驚いた。さすがは天下の来栖川グループだなぁ〜っと思う。でもそのバスには乗らずわざわざ路線バスを使ってきたわけだが…。俺としてはせっかく用意してくれたんだから乗っていけばいいのに…とは思ったが向こうには向こうの事情があるんだろう。そう思って黙っていたわけだ。見ていて気付く。札幌市内はまだましだが郊外は泥やなんかがまだまだ取れていないところもある。札幌でこんなだからニュースで何回も見た根室のほうなんかはもっと酷いんだろうな? などと考えていると、向こうのほうから、“おーい、藤田〜” と呼ぶ声が聞こえてくる。見ると野郎1人に女性2人がこっちへ走ってくる。“よぉ〜、久しぶりだな? 倉田先輩に川澄先輩も元気そうで何よりなこった…” と走ってきた野郎1人と女性2人に話しかける。“いきなりだったからびっくりしたぞ? 今度からもう少し早く連絡してくれ…” と藤田に向かって文句を言っている。でちらっと俺のほうを見て、“ああ、お前が藤田の言ってた友達の朝倉か…。俺は相沢、よろしくな” と握手を求めてくる。見ると好青年そうな風貌が印象的なやつだ。“朝倉だ。よろしく” と握手をした。“挨拶も早々で悪いんだが、ちょっと手伝ってほしいんだけど、いいか?” と済まなそうに相沢が言う。“ああ、いいぜ” と藤田が言う。俺も特に異論はないのでうんと首を縦に振った。総勢50人弱で早速清掃をする。初音島には見慣れないものも多くあって思わずなんだこれは? と思うものもあったが、どうやら雪関係のものらしかった。大型のスコップは必須なアイテムらしいとは相沢の女友達の美坂姉の言うことだ。そうこうしているうちに次第に片付いてくる。まあ50人弱でやれば早いもので1時間ぐらいで片付けてしまった。もっとも藤田のところのマルチやセリオ他みんなの頑張りもあってと言うことを付け加えさせてもらうが…。
 夜にふら〜っと一人風に当たろうと思って外へ出ると、藤田が後から俺を追いかけてくる。“今後のことを話し合おうぜ?” と言ってくるので、そうだな? と足の向くままに歩き出す。あれやこれや話しているうちに相沢の居候先の家についてしまった。“ついでだから相沢たちも誘っちまうか…” と藤田が言う。何だか悪い気もしたが、北海道の地理とかにはあんまり明るくない俺だ。現地のやつが一人でも増えるとありがたい。そう思って肯定の意味も込めて首を縦に振る。ピンポーンとチャイムを鳴らすと名雪さんのお姉さんが出てくる。“あら、藤田さんに朝倉さん。祐一さんなら2階にいますよ?” と言うことなので失礼とは思ったが上がらせてもらった。と藤田が、“なあ朝倉? 秋子さんきれいだっただろ? 実のところあれでいて名雪ちゃんの母ちゃんなんだぜ?” と恐ろしいことを言う。ほへっ? と一瞬アホな顔になる俺。“どう見てもそんな歳には見えないんだがな?” と正直な心境を話すと、“オレもここに初めて来たときにゃそう思ったもんだ” と言う藤田。階段を上がり2階の相沢の部屋まで来る。コンコンとノックをしつつ、“お〜い、相沢〜。入るぞ〜?” と扉を開ける藤田に続き、“お邪魔しま〜す” と入る俺。“ああ、藤田に…、朝倉だっけ? まあ座ってくれ” と言いながら、座布団を出してくる。早速話し合ってた内容を話してみる俺たち。相沢もう〜んと考え込む。まあ無理もない。ここだけでも手一杯なのにこれから北海道を一緒に回ってくれなんて言うほうがおかしいわけだ。“ちょっと待っててくれ…” と相沢が出ていく。
 しばらくして秋子さんを伴って戻ってきた。淹れてくれるお茶が何とも言えないくらい美味かった。もう一度藤田が話をする。じっと聞いていた秋子さんが、“了承” と言うや否や相沢の顔がほっとした顔になったことは言う間でもない。“ここも今日藤田さん、朝倉さんに清掃のお手伝いをしてもらって大分と言うかほぼ片付きましたから後はわたしたちでも大丈夫です…。それよりもここよりもっと酷いところもいっぱいありますからね?” と言いながら優しい笑顔を見せる秋子さん。その微笑みに見入ってしまう俺。藤田が肘でついつい押してくる。見遣ると笑っていやがった。“なに秋子さんの顔ばかり見てやがるんだ?” とイタズラそうに言う藤田。“まあ、朝倉さん、こんなおばさんの顔を見ていたって得なことはありませんよ?” と優しい微笑みを浮かべたまま秋子さんはそう言う。“いえ! 秋子さんはお若くて美しいです!!!” と3人の声が同時に聞こえる。それが可笑しくて大笑いに笑ってしまい起きてきた居候仲間の2人にぶりぶり怒られたのは言う間でもない。でも娘さんは起きてこなかったがあれはどうしてだ? とあとで相沢に聞くところが、“名雪は一旦眠るととことんまで寝てしまうんだよ。だからついた渾名が‘爆睡眠り姫’なんだよなぁ〜。明日でも見てみるといいぞ。どんな大きい音を出しても起きないから…” と半ば諦めた顔で言う。藤田もうんうん頷いていた。まあ大袈裟なと思っていたわけだが、それを後々知ることになるのは後のことだ。


「ここも終わったか〜。もう大体の町は終わったよな?」
 とオレは言う。あれから10日間ぐらい北海道を回ったが被害を受けた町と受けていない町とのギャップに驚きつつも粛々とボランティアに勤しんだ。その間にオレの彼女と朝倉の彼女の誕生日とかもあって非常に盛り上がったことは言う間でもない。まあオレの彼女は元々北海道出身と言うこともあってか、相沢の友達の天野だったか? と仲良くなって方言丸出しで話していて、それが如何にも楽しそうだったことは言う間でもない。まあこんなことをやっていて無駄なことと思うやつもいるだろうが、地域の人とのふれあいや清掃した後の嬉しそうな笑顔を見るとこっちまで嬉しくなってくるから不思議だな? と思うわけで…。わざわざ東京から来たかいがあったなぁ〜っと朝倉と言い合った。そうそう、差し入れにとかで食べきれないくらいの海産物をもらったときにゃ、さすがにそこまでしてもらわんでもと思ったくらいだったが…。そんなこんなで道東のとある町を清掃し、ようやく北海道清掃ボランティアも終わりを迎える。半月の予定だったのが約1ヶ月かかっちまうんだから、“北海道はでっかいどー” なんて言ってた高校時代の先生の言葉が現実味を帯びた言葉だったんだなぁ〜っと改めて気づかされた。朝倉たちも頑張ってたよなぁ〜なんて思いながら向こうの様子を見る。向こうもほぼ終わったみたいだ。朝倉の彼女の萌先輩は鍋料理を毎夜の如く振る舞われたっけか…。味もさることながらうんちくを語らせると小1時間くらい話すので鍋の具材が煮詰まってしまっていて妹の眞子から、“お姉ちゃん、語り過ぎ!!” と制されて寂しそうにしてたもんだから、“で? さっきの話はどうなったの?” とオレが言うとパァ〜っと明るくなってまたうんちくを聞いていて、2時間ばかり話を聞いてしまって、気がついたらちょろちょろ燃える火と星明りしかなくなっていて、オレの陣地へ戻ってくると、“また随分と長いお話をされていたみたいですけど、何をお話されていたんでしょうねぇ〜?” とぷぅ〜っと頬を膨らませながらオレの彼女が上目遣いに睨みながらそう訊いてくる。
 他のみんなはと見てみると向こうのほうでトランプなんぞをしながら、でも耳はしっかりこっちに向いていやがるし!! あかりにアイコンタクトで助けを求めるものの、“今回は浩之ちゃんが悪いんだからダメっ!” と異様に冷たい視線を向けられてしまった。その間にもぶりぶり怒る彼女。最後は北海道弁になって怒っていて、まるで何を言っているのか分からなくなってしまって、“だぁ〜、もう全部オレが悪かった! 何でも言うことを聞いてやるから許してくれ〜っ!!” と絶叫にも似た言葉で言うと、“じゃあこれから毎日一緒に寝て? 寝てくれんとわんわん大声で泣くべさ!!” と無理難題を言ってくる。さすがは北海道と言う地だ。普段言ってくれと激しくお願いしてやっと言ってくれる方言も自然に出てくる。と言うか相沢の後輩の天野と話が合うみたいでいっつも掃除では同じだったよなぁ〜。まさかとは思うが感化されたのか? そういや相沢の野郎は、“方言で文句を言われ続けるのがどんなにつらいものか、お前も来てみたら分かるよ…” などと言ってたがその意味を今理解した。ぶつぶつぶつぶつ地の言葉で文句を言われる恐怖は何事にも耐えがたい。オレはここ1、2年だが相沢は高校2年の冬からだ。多分に相当つらいものがあったんだろうなぁ〜っと相沢の言葉の重みをひしひしと感じた。結局その夜、一緒に寝ることになっちまったんだが、寝相が良さそうに見えてすこぶる悪い彼女に羽交い絞めにされたり、上からのしかかれたりして形のいいものも露わになてしまっていて、異常な鉄の味と戦っていたオレがいたのだった。で翌日は翌日でオレは北海道の拠点である水瀬家に帰り着くまでバスの通路に正座させられて委員長とあかりから睨まれていたわけで…。“乳繰り合うんはええけどなぁ〜、みんなのおらんとこでするもんやろ? 普通は…” とぶすっとした表情の委員長が言う。はい、ごもっともでございます。ごもっともでございますが敢えて反論を言わせて頂きたい。琴音ちゃんがあんなに寝相の悪い子だったなんて知らなかったんだ! と言うことを。と言うか琴音ちゃん? 何をそんなにクスクス笑ってるんだ? と琴音ちゃんのほうを見ていると、“浩之ちゃん! 琴音ちゃんに助けを呼ぼうたってダメなんだからね?!” と幼馴染み兼オレのおふくろ代わりなあかりがぷんすか怒ってこう言う。朝倉も苦笑いでこっちを見ていやがるし、相沢も同じような感じだ。人生で何度とある汚点を今回のボランティア旅行でまたさらけ出してしまった感じな10月も終わりに近づいたとあるバスの中の出来事。もうぜってーボランティアなんぞには参加しね〜っと心に誓った今日である。

END