焚き火がしたい
「ほら、ヒロ。ちゃっちゃと木をくべなさいよ! この可愛い志保ちゃんが風邪引いちゃってもいいの?」
とボブカットの女がオレの頭を小突いてくる。その隣りで、“まあまあ長岡さん、藤田くんも頑張ってくれてるんですから” と優しくフォローを入れているもう友人となって久しい朝倉の彼女の美咲がそう言って諌めていた。今日11月7日はこのボブカットのオレの学校生活を脅かす悪魔にして不覚にも彼女となってしまった長岡志保と、朝倉のところの深窓の令嬢と言う言葉がぴったり似合う彼女・鷺澤美咲の誕生日なわけで…。木枯らしも吹いていよいよ寒くなってきた今日この頃、そんな中で何が悲しゅうてオレのネコの額ほどの庭で焚き火なんぞをしなくてはならんのかと思うんだが…。昨今の火の取り扱い事情とかもあって市の消防署とか隣近所に書類やら口頭やらで理由や説明なんぞをしなくてはならずめんどくせーとは思いながらも行なって晴れて今日の焚き火パーティー? となった。
それにしても、志保の野郎にしては質素だよな? いつもならカラオケでバトル〜ッとか、ゲーセンでバトル〜ッとかオレに対してだけ張り合ってくるくせに今回はただの焚き火なんて志保らしからぬことをしようと言ってきやがって…。まあそこは深窓の令嬢がいるからか? とも思うわけだが、いつもとは全然違う構図に戸惑っていると言うのが正直なところだ。一応、消火器はオレの足元に置いてある。まあ用心と言うわけだ。昨今火事が多くて夜中にウーウーサイレンを鳴らしていく消防車とか救急車とかを見ることが多くなってきた。
この間も極々近所で小火があって夜中にサイレンが鳴って慌てて飛び起きて野次馬根性なのか見に行くと小池さんが消防士から注意されていたっけか。後であかりに聞いてみたら、ラーメンを作っていてちょっと目を離したら火が出ていたんだとか。まあ天井を少し焦がしただけで大した被害はなかったそうでそこのところは一安心というところかもな。そんな昨今の事情からか火の始末はきちんとしておかなかければならないわけだ。あと、火の粉が飛ぶ可能性=危険性があるため必ず囲い等を利用するようにとのお察しが消防署のほうからあったので、自作して作ったやつを使おうと思って予行演習で使ったらまるで役に立たねぇ〜。結局近所のホームセンターに行って市販のやつを買う羽目になっちまったわけで…。何で志保ごときにこれほどまでの金を使わにゃならんのか? と思うわけだが、一応彼女と言う立場上こう言うこともせにゃならんのかな? とも思う。
とにかく、火を起こして木をくべるオレ。赤々と燃える火が何だか寒空の下では心落ち着く。朝倉のほうを見ると、ホッとしたような顔になっている。やっぱり寒いのは誰も苦手なんだろう。そう思った。と、志保のほうを見ると何やら持ってきたカバンの中に手を突っ込んでごちゃごちゃ探してやがる。何してるんだ? と思って見てると…。
「はぁ〜、やっぱりおめぇはそうだよなぁ〜。うんうん」
と妙に納得したような表情の藤田が長岡の肩をパンパン叩きながらそう言う。対する長岡は、“そう言ってあんただって食べるんでしょ?” と少々拗ねたように口を尖らせている。このやり取りの絶妙さはそこら辺の芸人にも匹敵する面白さで美咲と2人顔を見合わせて、ぷぷぷっと肩を震わせる。“何よ〜。ジュンとサギーまで〜!” と俺たちのこの行為に少々ご立腹な様子の長岡が言う。“要らないならいいわよ〜” そう言ってぷぅ〜っと頬を膨らませる長岡。“いや、要らないとは言ってないだろ?” と言う俺。“そう言って人数分用意してきたんですね?” とカバンの中を覗き見た美咲がにっこり笑ってそう言う。“うっ!” と言葉に詰まる長岡に藤田が…、
「ほれ、早く芋入れろ! 火もいい頃合いだぞ?」
そう言って芋の投入を今か今かと待っていた。予めアルミホイルに包んでおいたんだろう芋を下のほうから投入する。芋の種類は“紅はるか” とか言う種類らしい。何でも最近流行? の“安納芋” と言う種類の芋よりも甘いと言うことをこの間の情報番組で見たんだが、俺はその“安納芋”も食べたことがないのでどっちが甘いのいかはてんで分からないわけだ。美咲は食べたことがるのか? と聞いてみるがぶんぶんと首を横に振っていた。と言うよりこんな焚き火なんて見たことはあっても実際にやったことはないらしく、終始物珍しそうに見ていた。まあ深窓の令嬢そのままな感じがしたことは言う間でもない。
藤田が囲いの上に網を乗せる。長岡が手際よく網の上に餅を乗せる、その連係プレーたるや息を呑んだわけだが…。マシュマロを刺した串を俺たちに渡すと、“それ、か〜るく炙ると美味しいわよ?” と長岡がウインクしながら言うのでその通りにしてみたわけだが、こんな食べ方もあったんだな? と言うくらい美味かった。美咲なんぞは一口食べて美味かったのか知らんが3、4個串に刺して焼いている。まあ女の子は甘いものと可愛いもので出来ているとは聞くが自分の彼女がそんな食いしん坊だったとは…と改めて気付かされた。時が経つのも忘れお互いのことを談笑する俺たち。そうしているうちに焚き火ももうそろそろ終わりに近づく。入れておいた芋もいい頃合いだろう。そう思っていると俺の考えが分かったのか藤田が火ばさみで焼けた芋を取り出していた。
「やっぱりお芋はこうやって食べなくちゃね?」
と志保さんが私のほうを見てウインクしながらそんなことを言います。私も口いっぱいに頬張りながらこくんと笑顔で頷きました。島ではあまり他人との接触をしてこなかった私。1人で外出するのに恐怖感があって、どうしても1人では外出なんて出来ません。恐怖感と言うものがあったように思います。でも憧れと言うものもありました。それは彼と彼の義妹さんが楽しく登校するところを窓から何度も何度も見ていて…。一度でいいから外の世界へ出てみたいと思うようになって、いつも頼子に話しかけていた私。そんな私のお願いを一年中枯れない魔法の桜が聞き入れてくれて…。と、それも2年くらい前の話になるのかな? って思います。ただ今言えること、それは頼子には本当に感謝してもしきれない、ということと、彼への感謝だけですね。寒空の中もう日暮れ時。焚き火の火はもう消えかけています。お誕生日会はこれでお開きとなりますが、これからもこんな楽しい日々が続くようにと、現れた一番星に願う今日11月7日は私・鷺澤美咲と、彼・朝倉純一さんのお友達、藤田浩之さんの彼女な長岡志保さんのお誕生日です。
END
おまけ
「あ〜あ…。帰っちゃったわねぇ〜。サギーたち。まあまた今度初音島にでも遊びに行こっか〜…」
ってサギーの乗った電車が駅を離れていった後、ヒロにそう言うあたし。対するヒロはと言うと、いつも通りやる気のなさそうな顔で、“あのなぁ〜。そんなしょっちゅう会いに行ったら向こうも迷惑だろ?! おめぇは特にだ!” って言うの。相変わらず失礼しちゃうわねぇ〜。あたしのどこが迷惑って言うのよ? 全くこの男はぁ〜!! 何だかムカムカしたからヒロの腕を取っていつものカラオケに連れて行くあたし。ヒロはと言うと、“やっぱりおめぇはここなんだよな?” とげんなりした顔でそんなことを言う。でもどことなしか安心した顔であたしを見ていた。“悪かったわねぇ〜。いつも通りのカラオケで…。あっ、それよりももっと高級な場所のほうがよかったの?” って言ってやると、途端に肩をすくめて、“もう金がねぇ〜。って言うかそもそもおめぇにそんな場所は不釣り合いだろ?” とこれまた失礼極まりないことを言う。あたしだって着飾って行けばまだまだ…って考えて、そう言えば来栖川先輩の家のパーティーにお呼ばれした時に何かあたしたちだけ浮いてたなぁ〜なんて思い出した。“ま、まああんな窮屈なところなんて自由人のあたしからしてお断りだけど…” とちょっと強がってみせる。
「へいへい、で? 入るのか? 入らねぇのか?」
とカラオケ店の前、ヒロが言う。“もちろん入るわよ〜っ!!” とヒロの手をむんずと掴んで中へ入るあたしがいたの。いっつもカラオケ店に入るとバトルになっちゃうから今回はそうならないように気をつけようとしたわけだけど、いつの間にかまたいつも通りのカラオケバトルになっちゃうわけで…。まああたしとこいつにはこれくらいがちょうどいいのかもね? って改めて思う今日11月7日・あたしのお誕生日よ…。
TRUE END