秋の牧場に行こう
肌に心地いい風が吹く今日10月9日、秋の行楽シーズンも始まったのでオレこと藤田浩之と、5、6年来からの友人である朝倉純一とで、同じ誕生日の彼女を祝うべく計画を立ててきた。初めはどこか旅行にでも行くかと言うことで計画していたわけだが、何分万年金欠状態なものなのでそう言う旅費があるわけでもなし、かと言って近場の映画館ではいつも通りの1日になっちまう…ってなもんで、ああでもないこうでもないと悩んでいるところへ、新聞の広告欄が目に留まる。“日帰り栗拾いツアー” と言う見出しであれやこれや書いている。まあこの手のツアーは人数が足りなけりゃ打ち切りと言う可能性もある。昔、オレもそれですごく悔しい思いをしたので行くなら個人旅行に限るな? と思う。そんなわけで、朝倉と連絡を取り合って、ああでもねぇこうでもねぇと議論を重ねつつ、地図を見ながらまた言い合い、と言う感じに話を進めて…、とある風光明媚な場所を見つけて行くことに決定したわけだ。もちろん双方の彼女には現地到着までそのことは内緒…ということで。
朝は早く目が覚めた。いつもならあかりか彼女が起こしに来るのだが、こう言う日は自分から目が覚める。志保の野郎からは“相変わらずお子ちゃまねぇ〜、ヒロって…” とよく言われて口ゲンカになるのだが、まあその通りかもな? とも思うわけだ。ともかくこう言う清々しい日にはのんびりと牧場にでも行って空を眺めながら過ごすって言うのは案外いいもんだと思う。まあ彼女には弁当の準備だけしてほしいと頼んでおいたので持ってきてくれるだろう。それに朝倉の彼女である萌先輩は鍋料理と言うゴージャスなものを持ってくることは分かり切ってるんで、それも楽しみなわけだ。ともかく支度を整えて家を出る。と、その前にプレゼントも持ってと…。うん、完璧だ。そう思って再度玄関に鍵をかけ出掛けるオレがいた。
集合場所に着くと、もうみんな来ていた。“わりぃわりぃ” と言いながらみんなの輪に入る。まあ朝倉からは、“遅いぞ。楽しみにしていてなかなか寝られなかったのか?” と案の定な言葉が飛んでくる。“意外とおめぇもそうなんじゃねーのか?” と切り返してやると、うっと言葉に詰まってやがる。ははは、まあ男って言うもんは案外そういう生き物かもな? と思った。そんなオレたちのやり取りを彼女・琴音ちゃんと萌先輩はニコニコ顔でオレたちのほうを見ている。まま話をしながら歩き出す。切符を買いホームに降りる頃には朝日が燦々と降り注いで少しばかり眩しかった。
青い空と緑の草原と点々とした白やら白黒の模様のコントラストが見事な風景が広がっている。時間は2時間ほどかかったが、来てよかったな? と思った。先輩が、“朝倉く〜ん、羊さんがいっぱいいますねぇ〜?” とやや目をとろ〜んとさせながらそんなことを言う。どこぞの爆睡眠り姫と同じくらいかそれ以上かくらいに俺の彼女は寝るのが好きなわけだ。もっとも昔みたく睡眠薬等は用いず、自然体に寝ているわけだ。昔(とは言え3〜4年前だが)魔法が使えた時期にちょっと彼女の心の内を覗いてしまったわけだが、それが今の彼氏彼女の関係に発展したことは言うまでもなく。まあこんなボケボケしたような彼女でも結構料理とかはうまい。それが証拠に夜は鍋料理が毎日だ。今日はと言うか今日も朝から鍋を探す彼女がいたわけだが、さすがに昼間の牧場で鍋をやるわけにもいかず、“普通の弁当にしてくれない?” と言った。そう言ったときのあの残念そうな顔は俺の(心の中での)彼女の残念顔コレクションの中でもトップテンに入るくらいな顔だったことは言うまでもない。
藤田と藤田の彼女の琴音ちゃんが、琴音ちゃんの故郷である北海道についていろいろ議論しているが、まあ向こうは向こうで楽しんでるし、こっちも何かないかと探してみるに、“牛の乳絞り体験” なる文字が飛び込んできた。早速彼女を呼んで、“行ってみないか?” と言うと、嬉しそうにうんと首を縦に振る。係員のお姉さんに言って早速させてもらうのだが、これがなかなかに難しい。痛くもなく、かと言って力を抜くわけでもなく乳首を掴んでぎゅむっと押し出すように乳を出すお姉さんの姿に素直に感動した。早速俺が挑戦することになったわけだが結果は惨敗だった。ところが彼女にさせてみると思いの外上手くてじゃばじゃばと出てくる。“前に一回体験したことがあるんですよ〜” と言うことらしいのでそりゃ体験者と一般人とでは格が違うわな? と思った。こういう繊細さが求めらるものはやっぱり男より女の子のほうがいいのだろうな。そう思い立ち上がると2つ向こうで藤田たちも乳絞り体験をしていた。まあ言わずもがな結果は女性陣に軍配が上がったのだが…。
「コツは掴んだつもりだったんだけどなぁ〜…」
と残念そうに藤田が言う。聞けば数年前にも体験していたそうだ。まあ数年前と今とじゃ感覚も違ってくるだろうし、何と言っても彼女付きなんだ。格好いいところを見せようとしているに違いない。実のところ俺がそうなんだがな。しかし男2人が出来なくて彼女が2人とも出来ると言うと何となく居心地が悪くなるもんだが、“出来なくても別にいいですよ…” と言う優しいオーラが流れてくるんでそれはそれでいいかな? と藤田と顔を見合わせて目で合図し合ったわけだ。
夕暮れの電車内はちょっと混雑気味だ。はぐれないようにしっかりと手を握る。しかしこういうデートもなかなかに味わいが深くていいもんだよなぁ〜っとは思う。気の置けない仲間となら更にいい感じだ。萌先輩はいつもとは違う弁当なんかを用意してきて少々と言うか大いに驚いたわけなのだが…。お相伴に預かってみるに親指をぐっと立てたわけだ。やっぱり鍋だけではなくて料理一般に美味いもんだよなぁ〜っと改めて思った次第。向こうも向こうでオレの彼女の料理が気になるらしく分けてやるとオレと同じく親指をぐっとおっ立ててきやがった。まあそんなこんなで彼女の誕生日がもうあと6時間ほどで終わる。とプレゼントを渡し忘れていたんだっけか? と思って分からないようにすっと取り出して彼女のリュックサックに入れておいた。帰ってからびっくりするだろうなぁ〜っと内心イタズラが成功したようにぷぷぷっと笑いを押し殺して沈みゆく秋の夕日を車窓から眺める今日10月9日、オレの彼女・姫川琴音ちゃんと友人、朝倉純一の彼女・水越萌先輩のそれぞれの誕生日だ。
END
おまけ
「ヒロくんってばこったら感動的なことされたらあたし泣いちまうべさ〜。うわぁぁぁぁ〜ん」
と受話器の向こうでぐしゅぐしゅと泣きながら喜びを爆発させている彼女を耳にするオレ。まあこれも分かっていたことなんだがなぁ〜っと思い取り合えず泣くのは止めてくれ〜っと言う。まあプレゼントの端っこに思いの丈を書いて忍ばせておいたのだが、我ながらこっ恥ずかしいことを書いたもんだと思う。内容はとてもじゃないが言えんのだが…。まあこう言うちょっとしたことでも感動してくれる彼女を持って恥ずかしいと言う気持ちと嬉しい気持ちが入り交わって、こっちも涙声になりながら2人で今日の出来事についてああでもねえこうでもねえと話し合うそんな今日も終わり掛けな夜のことだ。朝倉のところもうちと同じ感じだろうなぁ〜? あはは…。
おまけ2
「眞子ちゃ〜ん、見て見て〜。朝倉くんから素敵なものもらちゃった〜」
とお姉ちゃんはあたしのほうを見ながら本当に嬉しそうにこう言う。“あ〜っ、でも〜、何で朝倉くん、わたしの欲しいものが分かったんでしょう? う〜ん、不思議ですぅ〜” と小首をかしげるように言うお姉ちゃん。“そりゃ“愛”でしょ。“愛” ” と言うあたし。実際は朝倉にお姉ちゃんの欲しい物の調査を頼まれたんだけどね? で結果が今日のこの笑顔ってわけ。まあ朝倉もにくいことをしてくれちゃったじゃないの…。と思いながら今日の出来事(と言うか、惚気話?)を延々と聞かされる(と言うよりあたしが聞いてるんだけど…)あたしがいたのだった。あっ、あたしの今度の自分のお誕生日にもそうさせちゃおうかしらねぇ〜? うふふっ…。
TRUE END