ブティック店にて
「純一くん、似合うって言ってくれるかなぁ〜?」
と鏡越しに写った自分の姿を見ながら私はこう言います。そう言ったのが聞こえたのか、試着室のカーテンを覗き込んで私のコーディネートを見た彼女は、“うん! いいんじゃない? 清楚の中にも大胆な感じで結構似合ってるわよ?” と言って微笑んでくれました。明日11月7日は私と、私の隣りでうんうんと頷いている彼女・長岡志保さんのお誕生日です。明日、双方の彼氏さんである朝倉純一くんと藤田浩之さんとで誕生日パーティーを開いてくれるようですので、おめかしと言う感じで彼女からお誘いを受けて島の外のブティック店にきているところなのです。何分外に出ることがなくて、おどおどしっぱなしの私なのではありますが、そんな私をやや強引に引っ張ってくれる存在が彼女です。まあ最初の頃こそ心臓が飛び出しそうな感じもしていたのですけど、最近はそんなこともなくてごくごく普通にすっと出られるようになったと思います。そう言う感じにしてくれたのは今は枯れてしまった桜の魔法と、彼女との出会いなのかも知れませんね。そう思います。
「あたしはこれとこれにしようかな?」
と彼女は今度は自分のコーディネートをし出します。私も何かお手伝いできればと思うのですが、如何せんファッションセンスのない私ですから今日も志保さんのやや強引なお誘いがなければ今頃家で明日は何を着て行こうか…と悩んでいるところでした。彼女の選んだものを見る私。薄い桃色のブラウスに薄目のダークグリーンのジャケット、そしてこれも濃いめの茶系統のパンツと言ういかにも活動的な彼女にもってこいの格好です。“似合う?” と試着室で私を手招きして中に引き入れ、ポーズをとって見せる彼女に私はうんうんと頷きました。着こなし方も上手いし、かつ大胆さが素敵過ぎです。と、私の持っているものを見ます。いつもと変わらない普通の服。あのリオのカーニバル風な格好は自分の中では封印しましたが、もう少し大胆に攻めてもいいのかも? と思いますね。そう考えて、
「もう一つ試してみてもいいですか?」
と私。“うん! いいわよ。この際だからパンツルックも試してみる?” そう言ってにっこり微笑みながら頷く志保さん。いつもはスカート系が多い私ですので、こう言うパンツルックは珍しいと言うか、初めてなんじゃないかな? と思うのですけど、志保さんにエスコートしてもらいつつパンツルックを選んでいきます。ああでもないこうでもないと今どきの女の子のようにおしゃべりできる時間は私にとって何よりのかけがえのない時間です。何よりこの巡り会わせを生んでくれた彼に、そして神様に感謝しています。そう考えつつ、パンツのほうを見ていた私。あっ、と足が止まりました。と同時に志保さんの足も止まります。
「いいもの見つけた?…って、うん、なかなかに似合いそうね?」
と私の見ていた方向を見てにっこり微笑む彼女。“じゃあそれに合う服とジャケットを選ばないとねぇ〜?” と言って私の手を取ってそちらの方向に駆け出します。つられて私の足も動き出したことは言うまでもありません。試着室で着てみると私が私でないみたいでちょっと不思議な気分。着てみた? と彼女が言うので、“はい、着てみましたけど、私が似合っているのか私自身ではどうかは分かりません…” とちょっと自分でも情けないのですがそんな声しか出せませんでした。そんな私に、“じゃああたしが見て判断してあげる。ちょっと中を失礼するわねぇ〜?” と覗き込む彼女。着込んだ私を見て、“うん! スカートも似合うけど、パンツルックも似合うじゃない” とにっこり笑顔で言ってくれる彼女。その顔は晴れやかでウソを言っているようには見えない顔でした。“じゃあこれにしちゃおう!” と試着を終えて出てくるなり、また私の手を取ってレジのほうに向かう志保さん。そして、手にはお互いの明日の服があり、島に向かうバス停で、“純一が喜んでくれるように祈ってるわ。じゃあまた明日ね” といつものスマイルでそう言う彼女。私も何か言おうと思っていたのですが、生憎とバスが来てしまい、“今日はありがとうございました” と言う言葉しか出ませんでした。
家に帰って反省しっぱなしの私。本当はもっと言いたいことがあったはずなのに、言えた言葉は普通の感謝の言葉の1つだけ。もっと気の利いた言葉がさらっと出てきてくれれば良かったのになぁ〜っと思いつつ、カバンを見る私。そう言えば携帯電話にそう言う機能があったんだっけ? と思い出し、解説書を引っ張り出して機能の欄を見ながら見様見真似でメールと言うものを初めて打ちました。普段電話しか使わない私にとって革命的な感じです。そのことに気が付いたのは会が終わってみんなも帰ってからのことでしたのでとにかく必死だったんだと思います。と同時にこう言う便利な機能はどんどん使わないとと思った私がいました。
「うんうん、あたしの見立て通り可愛く決まってるわねぇ〜」
ってヒロの横で純一とサギーが談笑しているのを見ているあたし。清楚系ももちろんいいけど、たまには羽目を外してワイルドに極めたほうがいつもと違う感覚があっていいんじゃないかなぁ〜って思って昨日彼女の服を見立ててあげたんだけど、功を奏したみたいで可愛さもいつもより3倍強。もっともあたしの横でそんなサギーを見ている彼氏に至っては、“おい、てめぇ。美咲に何か吹き込みやがったな? てめぇと同じような格好になってるぞ? …まあ可愛いのは確かなんだけどよ?” なんて呆れ顔半分の微笑み半分の顔で言うわけで。まあ見立てたのはあたしだし、その辺は文句は言わないけど、変わりたいって言ったのはそもそもあの子なのよ? ってぐぐぐってヒロの顔を上目遣いに睨みつけながら言うあたし。まったくこいつは…、女心をまるっきり理解してないんだから。まあ普段からそんな感じだからか誰にでも気軽に話せていいところはいいって言ってくれるし悪い点も指摘してくれるわけだ。だからこっちとしてもやりやすい。男と女の間に友情があるのかと言うと普通ならその友情が愛情に変化していくことが多いわけだけどさ。あたしもその口だけどね? でも雅史を始めとする男友達然り、あかりを始めその他の女友達ともいまだに仲良く出来てるのはこいつの持ってる天性の素質なのかも…って最近になって気づいたわけで。その点はヒロのすごいところだと思う。あたしだったら多分こうはいってない。だからそんな彼で本当に良かったなぁ〜って思うの。
でも本人には絶対そんなことは言わないけどね? 言うと調子に乗ってあっちの女こっちの女と助けに行っちゃっていずれあたしが1番じゃなくなっちゃうもん。それだけは嫌! ってなわけで、サギーに見とれてるヒロのお尻をぎゅ〜って抓ってやる。“って〜っ! 何しやがる!” って言うあたしの彼。ふんっとそっぽを向いてぷぅ〜っと頬を膨らませるあたし。そんなあたしたち2人の光景を他の人(特にサギーと純一)はどう見てるんだろう。そんなことをふと思う今日11月7日、あたしとサギーはまた1つ大人の階段を上ったの…。うふふっ。
END