雨がしとしとと降っている。今日も俺は彼女の墓の前、立っていた。もう10年目になるのか…。そう思い線香を手向ける。黒い黒曜石の“美坂家之墓”と言う文字はあの当時のまま刻まれていた。ここに来るとどうしても時間が戻ったように感じられる。そう、それは、あの水鳥の羽のような俺の最愛の彼女の軽い体を抱いて、病院の屋上のベランダからあの街の景色を見ていた時間のように…。最愛の彼女の体の温もりは10年経った今でも俺の体に、いや、心に染み付いていた。でも俺の愛した彼女は、もういない…。
あの青い空のように
〜 奇跡の価値 最終章 〜
前編
「10年…か…。早いもんだよ。栞…。そっちはもう俺のことなんか忘れているとは思うけど、俺は忘れられない…。いや、忘れたくないんだろうな? お前と言う存在を。お前は今でも俺の心の中で生きているんだ。この先いろんな苦労や悲しみがあると思う。でもお前のくれたすべてを胸に俺は生きていこうと思うんだ…。だから栞…。俺のこと、見守っていてくれ…。そうそう、何回も言ってると思うけどあの子とも仲良くしてやってくれよ? ってお前のことだ。仲良くしてくれている。俺はそう信じてるよ…」
墓前の前、手を合わせて一人心の中で呟いた。毎月の彼女の月命日の日には必ずここを訪れる。医者になり北海道に戻ってきたときからの習慣だった。しとしとと降る雨。それは俺の手の中で空に帰っていった少女の一滴の涙のようにしとしと降っている。開いた傘の隙間から空を見る。鉛色の雲が低く垂れ込めていた。医者になりもう3年が経つ。いろいろな人の人生を見てきた。中でもあの少女は可哀想だったと未だに思う。そう、俺の研修医時代に出会った少女は。いつも泣き腫らせた真っ赤な瞳で俺の顔を見つめていたっけ…。そんな彼女も栞と同じように最期は…。医者として人の最期を見てきた俺ではあるがあの子の最後ほど可哀想なものはなかったように今更ながらそう思う。小児科の免許を取得したのもそんなことがあったからだ。外科だけでは命は救えないんじゃないだろうか? こんな可哀想な少女や多くの病気と闘っている子供たちに少しでも勇気を与えてやりたい…。そう考えて免許を取ったんだったけどな…。ふと、彼はどうしているんだろう…。そう頭を過ぎる。ぶっきらぼうなやつだった記憶はあるがそれ以上はもう忘れてしまった。この空のどこかで今も悲しみを背負って生きているんだろうか。そんなことを考えながら肩に掛けた傘を再び手に取ると立ち上がる。
「それじゃあ栞…、また来るよ…」
短くそう言葉を切ると、立ち上がる。墓石にかける柄杓と水を汲んだ桶を返そうと寺の境内まで行く途中のある墓の前、俺の知ってる看護師を見かけた。そう片瀬雪希。俺と同期に入ってきた看護師で子供たちに人気の看護師だ。今日は確か3時間ほど用事があるとか言っていたような気がするがこのことだったのか…。そう思い声をかけようとした刹那向こうのほうが俺の存在に気がついたみたいだった。
「あっ、先生。先生もこちらだったんですね? 愛していらっしゃる恋人さんは…」
「ああ…、ってそう言うお前のお兄さんもこっちだったのか? 気がつかなかったよ…」
こくんと首を縦に振る彼女。俺自身は彼女のことは詳しくは知らない。また彼女も自分からはそう言うことを話したがらないのであまりそのことは聞かないことにしてある。ただ俺が知っていることは、彼女と彼女の兄とは血が繋がっていないと言うことと、彼女の兄が交通事故で亡くなったということだけだった。前述の通りあまり詳しく話したがらない片瀬だから俺が知っていることと言えばこのことくらいだけだけどな?…。寺の境内にいた住職に柄杓と桶を返す。住職は何も言わずにっこりと微笑んで受け取った。
「ちょうど車で来てるんだ。何だったら一緒に帰るか?」
ここは山の中腹に建てられているので帰りは1人で山を降りなければならない。日は長いとは言っても女性1人で降りるとなると心配だ。だから俺はそう言う。が彼女はふるふると首を横に振った。“そうか…。じゃあ気をつけて帰れよ? また明日な?” そう言うと1人止めている車のほうに向かう俺。片瀬も一人前だ。バスは1時間に6本ほど通るし、それにこんな過去をいつまでも引き摺っている男とはあまり関わりたくはないんだろう。そう思う。車に乗り込むときにもう一度片瀬のいた方向を見ると低く垂れ込めた山間の雲をじっと見つめていた彼女が、こっちに向かって手を振っている。ブッブーッとクラクションを鳴らすと俺は1人街の道へと帰っていく。なだらかな勾配のS字カーブのところからふっと境内の方を見ると、彼女はまだ立っていた。
私は1人境内にいる。私はお兄ちゃんを亡くした。ちょうど私が16歳になって間もない頃だ。私のお兄ちゃん、生きていたら相沢先生と同い年だった。元々私は今のお父さんの親友の子で私だけを置いてみんな事故で亡くなってしまって今のお父さんに養女として家に引き取られた。だからお兄ちゃんとは血の繋がりはない。だけど私にとっては大切な存在だった。イタズラもいっぱいされた、イジワルもいっぱい言われた。だけど、そこには隠れた愛情があった。何だかんだとお兄ちゃんは言うけれど、そこには深い愛情があったんだ。今更ながらそう思う。それは私がまだ片瀬の家に来て間もないころ、寂しくて部屋のベットの上で泣いていたとき、コンコンと壁から音がする。不思議に思い泣いていた顔を上げて私もコンコンと壁を叩いてみる。するとまたコンコンと叩く音がする、誰だろう。お兄ちゃんかな? そう思った。またコンコンと叩くとコンコンと壁から音が返ってくる。泣いてばかりだった私の顔が笑顔になる瞬間だった。
でも、そんな心の中からの笑顔は10年前のあの事故からもう出なくなった。元気さをモットーにして病院では努めて明るく振舞っている私だけど、家に帰れば今でも10年前のあの日に戻ってしまう。10年前、私が高校1年生でお兄ちゃんが2年生。ちょうどこんな雨の日だった。いつものようにお兄ちゃんを起こして一緒に朝ごはんを食べて、一緒に学校に行く。当たり前だけど、いつもの平和な日がその日も続くんだろうな…。そう思っていた。日和お姉ちゃんに会う。進藤さんに会う。清香さんに会う。神津先輩に会う。いつもと同じ朝…。だけど……。
“雪希!! 危ねーっ!!”
どんっ! と最後尾を歩いていたお兄ちゃんに背中を押される。“もう、何? お兄ちゃん” 振り返ってみる。お兄ちゃんの姿はない。えっ? 今さっきまで後ろを歩いてたんだよ? えっ? えっ? 状況が全く分からない。途端に“きゃ〜っ!!” という同じ学校の人の声。それと、“救急車! 救急車!” という同じ学校の人の声も聞こえる。私が立っていた場所を見る。車があった。その前方を見る。男の人が血をいっぱい流して倒れていた。お兄ちゃんは? と探してみる。だけどお兄ちゃんの姿はない。もう一度男の人を見る。赤い血溜まりの中、その男の人は倒れていた。顔を見てみる。最初は誰なのか分からない。でも、“けんちゃ〜ん!!” て言う日和お姉ちゃんの叫び声とも似つかないような声とともに倒れている人物に駆け寄っていく風景を見てそれが誰なのかが分かった。でも、ウソだと思った。夢だと思った。お兄ちゃんが…、私の大好きなお兄ちゃんがそんなことになるはずがない。そう思った。いつもの登校中の惨事はニュースでも取り上げられた。相手の人は急な心臓発作を起こしていたらしく、アクセルをかけたまま突っ込んだそうだ。その人もハンドルを握ったまま亡くなっていた。制限速度30km/hのところを80km/hで突っ込んできたんだもの…。生きているはずがない。そう思った。でも…。私は恨んだ。その人を恨んだ。初めて人を本当に恨んだ。もちろん恨んでもお兄ちゃんは帰ってこないことは分かっている。それでも私はその人のことを恨んだ。
お葬式でたくさんのお花に囲まれて、いつもと変わらない寝顔で、まるで眠っているの? と思わせるような顔は先生の恋人の栞さんと同じような感じだろう。先生が話してくれた恋人の栞さんとお兄ちゃんの情景が重なってくる感覚を覚えた…。斎場で骨になったお兄ちゃんを見る。嘘のような感覚がある…。実は隠れて私たちを見ていて、“俺はここだぞ?” って出てくるんじゃないだろうかと思った。でも…。1ヶ月、2ヶ月過ぎてそれが現実であることを身に詰まされる。私が心から好きだった人、それはお兄ちゃん。義理とはいえ兄妹だったけど私が心から慕っていた人。いや、愛していた人。その人を目の前で亡くしたショックは計り知れない。泣いても泣いても涙が溢れてくる。そんなときだ。あのラジオを聴いたのは…。もう昔のことだからラジオ名とかは忘れたけど、手紙に綴られていた女の子の思いはある意味私の思いそのものだったんじゃないかな? と思う。今でも口ずさむ曲、“サヨナラ”。もともと恋人との別れを歌った曲だそうだけど、私にはその曲以上に思いがあった。心の隙間は今でもある。サヨナラの言葉なんてこの世になくなってしまえばいいのに…。と言う文言を歌の中で歌っているけど、私は心の中、今でも思っている。だから斎場で骨になって出てきたお兄ちゃんの姿を私は直視することは出来なかった。今でも出来ることならあの日の朝に戻りたいと思うほど。戻ってお兄ちゃんを助けたい。もしタイムマシーンと言う乗り物があって戻りたいと思う“時”があるのなら私はあの忌まわしい事故の朝に戻りたい…。いつもそう思っている。
10年経った今でも昨日のことの出来事のようにあの場面場面が思い出される。夢にもしょっちゅうあの場面が出てくる。でも、時間と言うものはある意味残酷なもので、このことを覚えているのは私と、私の極々身近な人だけとなった。この間法要があったけど、日和お姉ちゃんたちしか来なかった。日和お姉ちゃんも、進藤さんも清香さんも神津先輩もみんな結婚して新しい家庭を築いている。お父さんが、“雪希もそろそろ…” と言うけど私はそんな気にはなれなかった。
だから今、看護師として働いていると言うわけだ。そうそう、看護師を目指そうと思ったのもあのラジオに投稿された一通のお手紙からだったっけ? どんな内容だったかは忘れてしまったけど、私の心を慰めてくれる曲だったように思う。頑張らなくっちゃって思ったのもその手紙のおかげ。今の自分があるのもあの一通のお手紙のおかげなんだって、今でもそう思って頑張っている。そうして今、看護師として働いている自分。もちろん苦しいこともいっぱいある。悲しいこともいっぱいある。でもそれ以上に喜びがある。無事に退院していく人たちを見ては、“よかったね?” と思う。もっとも私が看ているのは小児病棟のほうだけど…。
そんなことを考えているうちに時間は経っていく。片瀬家之墓の前、小雨越しに掃除をし終わり、線香を灯した。手を合わせる。もう10年もなるのに真新しいままそのお墓はあった。あっ、いけない。また涙が零れてきちゃう。すんでのところでこらえると立ち上がった。“また…、来月来るね? お兄ちゃん……” 独り言で誰に言うともなくそう呟くとお兄ちゃんのお墓を後にする。ふと、先生のいた場所を見る。私のお兄ちゃんと同じ黒曜石のお墓の前、きれいな白い百合の花が小雨に映えていた。
あたしは今、仏壇の前に座っている。ちょうどあの子の好きだったお菓子を置いて。隣りには北川君…、いえ、今はあたしの愛する旦那様と言うほうが正しいのかな? そう思う。その人とともに座っていた。ちょうど2年前かな? あたしは彼と結婚した。今は1歳になる息子にも恵まれて幸せな日々を過ごしている。9年前、最愛の妹からの天国からの手紙を聞いてからあたしは妹のために生きようと決意し、今を生きている。3年前心臓の大手術を受け、奇跡の生還を果たした鞠絵ちゃんは、あたしの学校の生徒として転入してきた。そんな彼女も来春卒業する。今年は進路問題とかで忙しくなるんだろうな? そう思った。彼女の兄、航くんは今は学校の近くの作業所で働いている。待ち合わせなのかどうかは知らないけど、よく2人で帰るところを見かける。で、いろいろと話をするんだけど、ニコニコしながら話しかけてくれる。それがあたしにはとても嬉しい。航くんたちを見ると心が温かくなる。そんな航くんたちを見ては、ふと大学4回生の頃の教育実習先の男の子のことを考える。教育実習のときに見たあの社会を恨んだような目、そして悲しみに満ちた瞳を思い出しては、“あの子も生きていれば楽しいこともいっぱいあっただろうに…” とふとそんなことを思い出した。あたしの顔や体を殴りながら泣いていた顔は今でも心に残っている。彼のお姉さんが今どうしているかは知らない。ただ風の噂では幸せな家庭を築いていると言うことだけだった。鞠絵ちゃんは定期的に相沢君のところに診察を受けに行ってるんだけど、異常もなくて正直ほっとしている。生きると言うのは簡単なようで難しい。栞も生きていたらどんなにか幸せだったことだろう…。そう思うこともある。だけど、それはもう過去のこと…。過去にいつまでも囚われてはいけない。そのことを9年前のあの歌に教えられた。最愛の妹の天国からの手紙とともに…。だから、今を生きている。
でも…、と一瞬過去に囚われたままの人物の顔が目に浮かぶ。そう、相沢君。今あたしが一番幸せになってもらいたい人。彼は郊外の病院の医師をしている。4年前、あたしや妹との約束通り彼はこの町に戻ってきた。小児科の免許も取得しているので、あたしもよくお世話になっているんだけど診察室の彼のテーブルの上には今でも妹の写真が飾ってある。彼曰く、“もう習慣になってな?” ということらしいけど、まだ妹のことが忘れられないんだろう。そう思った。でも、いつまでも過去に囚われてはいけないと思う。特に彼は……。彼自身それは分かっているはずなのに、一向にあの約束を守り通している。それがあたしの心を苦しめる。いや、あたしだけじゃない。名雪たちや天国の妹も心配していることだろう。そう思う。ふっと立てかけられた写真立てを見る。10年前の妹の微笑んだ顔はとても可愛い。相沢君も同じ写真を持っている。飾られている写真もこの写真と同じもの。こんな可愛い笑顔を毎日見ているんだ。“あなたもつくづく罪な女ね? 栞…” そう笑顔の妹の写真に問いかける。当然のように何の返事も返ってこない。でも…、彼には幸せになってもらいたい。これはあたしたち夫婦や名雪たちやみんなの願いでもある。彼の病院のいつも一緒の看護師の女の子なんてちょうどいいんじゃないの? と冗談半分本音半分で問いただしたことがあるんだけど……。
「ああ、片瀬のことか? いや、俺にはもったいないよ…。性格もいいし顔も可愛いし、俺なんかとは雲泥の差だしな?」
と言ってまともに取り合ってくれなかった。彼女にもつらい過去があったんだそうだけど、あたしにはそれがなんなのかは知らない。彼女は入院している子供たちの人気者らしい。相沢君が、“俺が“薬を飲んでね?” って言うよりあいつが言ったほうが何故か言うことを聞くんだもんなぁ〜” とぼやいてたけどね?…。だけど、遠目に彼女の姿を見ているとなぜか寂しそうにしているのが印象的だった。でもそれも一瞬だけ…。もとの笑顔に戻って子供たちの相手をしている。でも、それでも彼女の寂しそうな姿がいつも目に浮かぶ。なぜ寂しそうにしているのだろう? 友達も多そうなのに…。そう不思議に思った。
息子の定期健診の日を迎える。旦那の運転する車に乗って相沢君のいる郊外の病院へと向かった。旦那も相沢君に会うのを楽しみにしているようで、この間も独り言で、“会いたいなぁ〜” と呟いていたっけ。うふふっ。そう心の中で微笑みながら息子の頭を優しく撫でた。行く途中でちょっとぐずった息子をあやすため、旦那に頼んで病院の近くの花畑でとめてもらう。車から降りると爽やかな風があたしたちの間を吹き抜けていった。背伸びをすると息子も同じようにまねをする。それを見た旦那は大笑いに笑っている。ちょっとぷぅ〜っと頬を膨らませると、ぺこぺこ頭を下げてくる旦那。その姿が妙に懐かしくておかしくて、ぷっと噴き出してしまう。北海道独特の地平線に赤や黄色や青のきれいなコントラストが見える。花も木も草も、みんな生命力に満ち溢れているように見えた。
「うん、異常無しだな? 元気なもんだ。さすがは香里と北川の子供って言うところか…。あはは」
そう言いながら息子の頭を優しく撫でる相沢君。幸い息子の検診はどこも異常はなくてほっとする。2階建ての広い病院は北海道の自然を最大限に利用した造りになっていてここを利用する人は道内からも多いと言うことらしい。特に小児科はすごく多いと言うことだ。相沢君も大変なんだろうな? そう思った。小児科医の数は足りないとは聞いている。少子高齢化がその際たるものらしいけど、その他にもいくつか理由はあると思う。前述の少子高齢化によってあまり儲からないと言うのも1つだろう。だけどその他にもいくつか問題はあると思う。例えば小児科医は訴訟沙汰になりやすいと言うのが1つの大きな問題なのではないだろうか? この間も個人経営の小児科で医師の不注意が原因の死亡事故の裁判の判決が出てたけど6000万円の慰謝料と言う判決だそうだった。個人経営で6000万円は払えないだろう。ましてや少子高齢化のこのご時勢だったら尚更のこと。最近では故意に因縁をつけてお金を騙し取ろうとする詐欺も続出していると聞く。他にも虐待して死なせたりしている事件もかなり多くある。そんな親にあたしは一言言いたい。
“子供は親の道具じゃないのよ?! 1つの大切な命なのよ! 自分の都合ばっかりで大切な命を取らないでっ!!”
と…。産む瞬間の激痛と産声を聞いたときの感動は1年経った今でも忘れられない。あたしも栞もこうして生まれてきたのかと思うと優しい気持ちになる。そんな我が子をいとも簡単に死なせる親も最近は多くなった。不注意もある。でもあたしが最も許せないのは、親の身勝手さが原因の子供たちの死だ。幸いあたしの学校ではそんな親は見受けられないけど、旦那の学校ではあるんだそうだ。現に児童福祉施設に入っている子供も何人かいるらしい。子供は親を選べない。だからこそ親がしっかりしないといけない。あたしはいつもそう思う。相沢君がよくあたしに言う言葉がある。
“本当なら病院なんてない方がいいんだ…。医者としてこうして飯を食ってる俺が言うのも何なんだけどな?”
って。本当にそうだと思う。みんなが健康であったら病院なんていらないわけだ。でも彼はこの病院の医者として働いている。彼に助けてもらった人も多くいることだろう。そう思って、そろそろ彼にも自分の幸せと言うものを考えて欲しいと思った。いつまでも過去に囚われてはいけない。それは彼自身が一番よく分かっていることなのではないだろうか? でも、彼にこんなことを言っても笑って返されるだけ。その笑顔があたしにはとてつもなく痛く感じられた……。
中編へ続く