あの青い空のように

〜 奇跡の価値 最終章 〜

エピローグ


 小さなチャペルの鐘が鳴る。あれから3ヵ月半が過ぎた。私のリハビリも順調に進みほぼ事故から2ヶ月で退院できた。実際私自身ももう少しかかるのだろうと思っていたけれどそれは杞憂に終わった。退院後すぐに職場復帰した私。今まで患者の立場で見てきたせいか、患者の立場になって…という気持ちがより一層強くなったように思う。彼は医者として働いている。そんな彼からプロポーズの言葉があったのは退院後すぐのことだ。私の言葉ももう決まっていた。彼の親への挨拶や私のお父さんへの挨拶などいろいろ時間はかかった。特に私のお父さんなんかは、会う日の前日になってもまだ彼のことを根掘り葉掘り聞いてくるから困った。でも最後には打ち解けちゃって私のほうがちょっと拍子抜けだったけどね?
 彼の愛していた人のお姉さん・香里さんにも会った。と言っても病院とかでよく話をするからその辺はお互い分かってるんだけど…。彼の愛していた人、栞さんの仏壇に手を合わせると蝋燭の火がボボボボッとなった。香里さんのお母さん曰く、“栞も喜んでるのかな?” そう言いながら微笑んでいたっけ…。私の家のお兄ちゃんの仏壇でも栞さんの家と同じように蝋燭の火がボボボボッとなっていた。“お兄ちゃんも喜んでくれてるんだね? ありがとう…” そう心の中、私は言った。
 お墓へも行って墓前で手を合わせる。栞さんの好きだった百合の花をお兄ちゃんのお墓にも手向けると優しい風がまるで私たちを包み込むように吹いてくる。二人で顔を見合わせてにっこり笑顔になった。そして…。今日、私は結婚する。来賓席には私の幼馴染みの日和お姉ちゃん、お兄ちゃんのお友達だった清香さんや麻美先輩、私のお友達の進藤さんなんかが座っている。彼の来賓席にもいっぱいの人が座っていた。その中には、栞さんのお姉さんの香里さんと香里さんの旦那さんの北川さんがたおやかに微笑みながら座っていた。来賓席の一番前には2つ誰も座っていない席がある。でもそこには一番重要な人の席だから誰も座ることはない。バージンロードを歩く。お父さんから手を離される。離される前、静かにお父さんが言った。
「幸せにな? 雪希…」
 私は無言のままうんと頷く。彼の前まで来ると優しい顔で手を差し伸べてくれた。賛美歌を歌いキスを交わして式は終わった。ブーケを投げるためもう誰もいなくなったチャペルの会堂を見回す。ふと、最前列の二つの椅子を見た時、思わず涙が零れてきた。だってそこには、一瞬ではあるもののお兄ちゃんと栞さんがにっこり微笑んでいたんだもの…。彼に言おうと思って見ると栞さんが人差し指を口の前に持ってきてし〜っとまるで彼に言わないようにって言うかのようにウインクしていた。やがて、お兄ちゃんと栞さんはいなくなる。いなくなる前、女の人の声(多分これが栞さんの声だろう)で、“いつまでも幸せにね?” って言う声が私の耳に聞こえた。彼が独り言のように呟く。“健二さん、俺が雪希を幸せにしてみせます…” って…。多分彼にも見えていたんだろう。そう思った。
「さあ行こうか…。雪希」
「はい、祐一さん」
 そう言い合って、表へ出る。後ろ向きになって持っていたブーケを空高く投げた。真っ青な秋の空にブーケは吸い込まれるように飛んでいく。それは今までの涙とこれからの笑顔を、私と彼の将来を空が祝福しているかのように…。

FIN