山荘に行こうよ


 今日10月26日は、ふとしたことから知り合ったケンカ仲間・鮎川美空の誕生日だ。でその3日前の23日はその美空の従弟で俺と名前の同じな彼・片瀬健二の彼女である小野崎清香の誕生日でもある。で、今年もまたどこかへ連れてけ〜っと向こうの健二が彼女に言われたんだろう。10日くらい前にケンカ仲間である美空から電話がかかってきたわけだ。七海が出る。去年だったか…、ず〜っと幼馴染みを続けていた俺たちではあったのだが、ついにゴールインを果たして今は楽しい新婚生活を送っている。そのことを去年の今頃だったか、向こうの健二にも話してやろうと思って内緒にしておいたのだが、美空に先に喋られていて、秘密も何もなくなってしまっていたわけだ。まあ向こうの健二たちからは“今更分かってました” 的な目で見られてちょっとばかり悔しくも思ったわけだが…。
 まあそんなこんなで今年もまたみんなで出かけることになった。今度は向こうの健二が手配やら何やら全部用意してくれたんだそうで、俺たちは行くだけと言う非常にありがたいことになっているわけで…。今七海が着替えやらのチェックに余念がない。その間に鈴夏のところにでも連絡を入れておくか…、と俺は席を立つ。まあ23歳にもなって彼氏の1人も出来やしない妹に少々憐みも覚えるようになってきたこの頃なのだが、もうすっかりひねくれてしまった妹は“ずっと独身でいる!!” なんて言い出す始末で。妹贔屓することでもないんだが顔も童顔で可愛いし、スタイルは俺の知ってる女の仲間の中では一番いいほうなんだからこれでモテないと言うほうがおかしいわけだ。まあ外見は素晴らしくグラマーでも内面がお子ちゃまじゃあなぁ〜? とも思うわけで…。兄としては非常に妹の行く末が気がかりなのだが。と言うか向こうの健二の妹(義妹とか言っていたっけか?)の雪希ちゃんの爪の垢でも煎じて飲ませてやりたいとも思う。あれこそ妹の鑑だよな…。とそんなことを考えつつあれやこれやと荷物をまとめたり大型のワゴンに乗せたりなんかしているうちに時間は昼を迎えた。と見知った仲間がぞろぞろとやってくる。今回も大所帯だな? そう思い大型のワゴンに乗り込むと家を出発する。途中でひかりや美空も詰め込まにゃならんので目的地に着くのは夕方くらいだろうな? そう思いながら幹線道路に続く道を走った。


「なあ清香? 本当にこの道であってんのか? なんか木々が鬱蒼としてきたぞ?」
「間違いないわ。この道であってる。昔通ったことがあるもの…」
 と横の健康優良児でちびっ娘な彼女の道案内の下、俺は山荘へと向かって車を走らせていた。山荘は清香の家の別荘だそうで、なんでも親父さんが半年前に購入したらしく、誕生日パーティーを開くにはちょうどいいって言うことで親父さんが快く貸してくれた。のは表向きで…。実のところ購入したのはいいが一度も別荘に行っていないので俺たちに様子を見に行ってもらいたいというのが本音なんだろうな? と思うわけで。と言うか清香自身もそう思ってる節があるらしく、“帰ったらお父さんを問い詰めてやるんだから…” とぶつぶつ文句を零していた。しかし…、俺がこんなに苦労してるって言うのに後ろでは日和と進藤が歌ったり喋ったりの大騒ぎ。雪希や麻美先輩が止めても聞かずじまいで、特に進藤なんかは、“まだ着かないんですか〜?” などと言う始末で…。よっぽど“お前はここから歩いて行け!” と言いたくなったんだが、それを言ってしまうとここにいる女性陣全員を敵に回してしまうので、困ってしまうわけだ。言ってしまうのは簡単なんだが、その後当然のように先輩の“めっ!” もあるだろうし、それにもましてマイシスターがぷぅ〜っと頬を膨らませて上目遣いで睨んできて、あと家に帰ってから俺の小遣いを減らされるわけだから言うに言えず仕舞いでほとんど地獄状態で車を走らせる。
 何度か道を上り下り、左に曲がったり右に曲がったり、あとくねくねとした山道を登って行きようやくそれらしい山荘が見えてくる。まあここまで要した時間約6時間なり。何だかやけに後ろが静かになったな? と思って後ろを見るとみんな寝てやがる。先輩と雪希はまあいいとして日和と進藤は何かイタズラしてやらんと気が収まらん。彼女は、“まあ今回はあんたも頑張ったんだから大目に見てあげる” って言う目をしている。イタズラと言っても水性マジックで額に定番の“肉” と言う文字を書くだけなのだが、これで心が晴れるんだから俺ってまだまだ子供なのかも知れん。とにかく目的地に到着したのでみんなを起こそうとして、がさごそと動く物影を見つける。いや見つけてしまうといったほうが正しいか。この辺りは山ん中だし日本で最強の獣・熊が出てもおかしくはない。取りあえずそこら辺に落ちていた棒切れを手に寝ている雪希たちを残して清香と2人、山荘のほうに進んで行ったわけなのだが…。


「ここでいいのか? 別荘って…」
 バタンと森の中、木々の隙間から見える白い壁を前に車のドアを開け降りる俺。隣りの嫁は気持ち良さそうな寝息を立ててるし、後ろの連中もすかぴゅ〜っと寝てやがる。特に我が妹と向こうの健二の従姉・美空なんかはどこぞの“爆睡眠り姫” のように眠りこけている。俺がどれだけ神経を使ってきたと思ってるんだ? そう思うと無性に腹が立つわけで…。定番だが思わず一人一人の額に“肉” でも書いてやりたかったが、それをすると俺の命にかかわってくるのでここはぐっと堪えて見に行くことにした。しかし南側の道はきれいに舗装されてたよな? 北側はほとんど手つかずの状態だけど…。と鬱蒼とした北側の森を見る。さて寝てる連中でも起こすか…。と車のほうへ行きかけたとき、何かの音が聞こえてくる。なんだぁ〜? とばかりに振り返るも風の音にかき消されて聞こえなくなった。と思ったらガランゴロンと言う音とともに何やら動く物影が二つ。な、ななな、何だぁ〜? ま、マジで幽霊とかが出るんじゃないだろうな? そう思うと動けなくなった。
 何分か経っただろうか。正確には1、2分しか経っていないのだが俺には何分もそこにいたような感覚になっていた。冷や汗がたらたらと背中から顔から流れ落ちるのが分かる。幽霊とかじゃなくて熊だったらと思うと余計に怖くなった。と、向こうがこっちに気づいたんだろうか、駆け寄ってくる2つの影。もうおしまいだ〜。と思って顔から血の気が引いた状態で呆然と突っ立っている俺に向かって…。


「健次さんにも怖いものがあったんですねぇ〜。鈴夏さんの投げ技以外に…
「お、俺にだって怖いものくらいあるんだっ!! そ、それよりも、どこをどう間違えればあんなところから出てこられるんだ?」
 と半ば呆れ顔になりつつ健次さんは言う。まあ俺自身清香に道案内を頼んだのがそもそもの間違いだったと思うわけで。その清香はと言うと部屋の隅っこのほうで美空姉とともに健次さんに叱られて黄昏ていた。おまけにいつも俺や健次さんを投げてくる鈴夏さんまで清香たちと一緒に黄昏てるんだから驚くのも無理はない。さすがは年長だなぁ〜っと改めてリスペクトしてしまうわけで…。まあ最年長は、健次さんの先輩であるしっかり者の多恵先輩と、俺の彼女と背格好のそっくりなひかりさんなわけだが…。にしても、あんなに驚かれるなんてなぁ〜っと今思い出してもこっちのほうもびっくりした。まあ辺りも薄暗くなり始めているころだったし、森の中の一軒家という状況の中だしな? 俺たちを見たときの健次さんの慌てっぷりは凄まじかったわけだ。それこそ、“くぁwせdrftgyふじこlp!!” と言う悲鳴にも似た叫び声にも似たそんな声でガタガタ震えているんだから…。“俺ですって! 片瀬健二ですって!!” と駆け寄って肩を掴んで揺するように言うと、開きっ放しだった瞳孔も次第に落ち着いてきて、“な、何だ。健二じゃねーかよ。脅かさないでくれ…” そう言って深いため息を一つつく。と、“お前たちは一体どこから出てきたんだ? 南側に幹線道路が通っているだろ?” と健次さん。そ、それは…。と俺は清香のほうに目を遣る。ギロリと鋭い目が清香を貫いた。まあ攻めには強い俺の彼女だが、守勢に回ると意外に脆いところがあるから今回は怒られるんだろうなぁ〜っと思っていたわけだが。
 で、今現在、部屋の隅っこで向こうの女性陣初め清香はずっとうなだれたままだ。意外なことに鈴夏さんまで項垂れていることに驚きを隠せない俺がいるわけだが…。健次さんはと見るとまだぶつくさ文句を言っている。しかしこうなってくるとちょっと可哀想になってきて、“そろそろ許してあげません?” と助け舟を出す俺。“ああ、まあそうだな? 十分に反省したと思うしこれで許してやるとするか…” と言うが早いか、じりじり女性陣が俺たちのほうに詰め寄ってくる。な、何だ〜っと思ってると…。
「この額に“肉” ってお兄ちゃんだよねぇ〜? 健二くんも教えてくれなかったし〜…」
 と、髪の毛を持ち上げて額を見せながら鈴夏さんはこう言う。いっ? いや、俺は今まで気が付かなかったし!! でも定番中の定番なものでう〜っと上目遣いに俺たちの顔を睨んでいる鈴夏さん初め美空姉たちや俺の彼女の顔を見て、同じような顔に思わず“ぷっ!” と笑ってしまうわけで。そうなってしまうと最早定番になりつつある鈴夏さんの巴投げを喰らわされた挙句、俺の彼女と従姉にこれでもかっていうくらい文句を言われて、それに輪をかけて進藤が俺のあることないことをいつものマシンガントークで喋りまくり最後は最早恒例行事となってしまった麻美先輩の“めっ!” をやられるわけで、非常に参ってしまう。向こうの健次さんはと言うとまあ俺と同じように文句をぶつぶつ言われている。しいて違うところを上げればこっちは言うだけだが向こうは実力行使も伴っているわけで…。ひかりさんはうちの従姉と背格好といい性格と言いどっこいどっこいだよなぁ〜っと、頭をぐりぐりやられている健次さんを見ていてまるで自分がやられているような感じがして非常に頭が痛いような感じがした今日10月26日は俺のうるさ型の従姉で、向こうの健次さんのケンカ仲間? な美空姉の、その3日前、10月23日は俺の彼女の小野崎清香の誕生日だ…。余談だが、その後で女性陣からの命令で? バカ高いケーキを買いに行かされる俺と健次さんがいたわけで…。男って一体なんだろうな? などとと2人で言いながら(少なくとも俺の心の中は滂沱の涙を流しつつなわけだが…)街へと進む車の中だった。ぐふっ…。

END