今、私は男の子を待っている。
遅い……。もう3時間近く待っているって言うのに、なかなか来てくれない。
しかし、なぜ私が3時間近くも待っているのかというと……。
舞ちゃんのどきどきデート大作戦
前編
そう、あれは一週間前…。
私が佐祐理といっしょにいつもの公園のベンチでお昼を食べていると、祐一がやってきた。
「よう、舞、佐祐理さん」
「みまみま…」
「あっ、祐一さん。こんにちはー。祐一さんもいかがですか? 佐祐理のお弁当…」
「えっ? あっ、お、俺は…。もう、たらふく食べちゃったんで…」
祐一は申し訳なさそうに佐祐理に言う。多分、栞にいっぱい食べさせられたんだろう…。そう思った。祐一の友達くらいは私も知っている。栞や真琴(狐さんみたいで可愛い)、あゆや名雪とは祐一を介して知り合った。今ではいいライバルであり、お友達でもある…。
私は佐祐理と祐一の話を聞きながら、食を進めていた。
「みまみま…」
「はぁ〜。なあ、佐祐理さん…。こいつってマイペースだよなぁ…。例えば、ここで俺が『デートしてくれ!!』って言ったって、この超絶無愛想娘には効かないだろうなぁ〜。ははは…」
祐一はそんなことを言って笑う。祐一…、失礼……。私だって好きな男の子に誘われたら嬉しいに決まってる。私を何だと思っているの?…。これでも私…、祐一の彼女…。お弁当を食べる手を止め、私は怪訝そうに祐一を睨んだ。
「……って、ま、舞? もしかして、その…、怒ってる?」
「……」
こくん。と、私は頷く。と…、
「あたりまえじゃないですかー。 祐一さん! 舞だって女の子なんですよー?」
佐祐理が祐一にそう言う。顔を見るとにっこり微笑んでいたが、目は怒っていた。私は佐祐理のことは何でも分かる。だから、今も目を見ただけで怒っていることが分かった。祐一は佐祐理の顔を伺うと…、
「ごめんなさい…。佐祐理さん」
そう謝る。佐祐理を見ると、途端にぷぅ〜っと頬を膨らませた。もう怒っていない。佐祐理も祐一にいたずらしてみたくなったんだろう…。佐祐理の目を見て私はそう思った。佐祐理は言う…。
「佐祐理じゃなくて、謝るのは舞のほうでしょ? 祐一さん!! そんな方だとは知りませんでしたよ…。もう! 佐祐理、幻滅ですっ!! ぷんすかぷんっ!!」
佐祐理の目を見ると、もう笑っていた。多分、祐一をからかっているんだろう…。佐祐理は昔、弟を亡くした。“自分が、一弥を…、弟を殺したようなものです…” と佐祐理はそう言っていた。佐祐理は、どれだけの深い傷を引きずって生きてきたんだろう…。私はそう思った。
だけど祐一と出会って、佐祐理は弟のことを祐一に話した。祐一は優しい顔で佐祐理の言葉を聞いて、そうして抱きしめてくれた…。親友の私でも出来なかった佐祐理の心の傷を癒すこと…。私は嬉しかった…。それからだろう。佐祐理は自分を許せるようになった。
まだ「私」とは言えないものの、佐祐理の心の傷は消えてきている。それが私には嬉しかった。これも、祐一のおかげ…。私はそう思った。
今は、あの頃とは違う。佐祐理はよく怒るし、すぐに泣く。弟…、一弥からの呪縛から徐々にではあるが、解き放たれてきているんだろう……。私も変わった。その際たるものが、祐一が私の大切な人になったこと…。
だからではないが、私も少しわがままになる。大好きな人の前では甘えたり拗ねたりするものだとは、祐一の弁…。私は祐一の顔をじっと睨む。それだけ祐一のことが好きだから…。当の祐一はたじたじになりながら…、
「…佐祐理さん。まっ、舞。俺が悪かったよ。このとおり謝りますから…、その…、許してください……」
そう言って、芝生の上に手をついて土下座して謝っていた。佐祐理はふふふといたずらっぽく微笑むと………。
「…祐一さん。舞を困らせた罰です。ですから今度の日曜日、舞とデートすること!! いいですねっ?!」
「えっ? え〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ?! ままま…、舞とっ?」
祐一の声が公園に木霊した。佐祐理は、またふふふといたずらっぽく微笑むと……、
「え〜っ? じゃありませんよ。もう…。祐一さん!! これは佐祐理の命令ですっ!! 逆らうことは不可ですからねっ! 聞いてますかっ? ぷぅ〜」
ちょっと怒ったようにお姉さんぶって言う佐祐理…。それは当たり前…。現に生まれは佐祐理のほうが早いんだから、祐一は素直に言うことを聞くしかない……。半分諦めた声で祐一は言う……。
「はい……。分かりました……」
そう言うと祐一は私たちの隣に座る。横に座った祐一を見ると、何だかお母さんに叱られた子供のように“しゅん”となってしまっていた。私は、何だか可愛そうになった。けど、今までの私に対する言葉を聞いていると、叱られても当然だと思った。
だって私のことを「無愛想娘」だとか、「無口女」だとか失礼なことばかり言ってくる…。私…、これでも少しは改善したつもり…。少しは知らない子とも話せるようになった。大学でも、友達出来た…。それなのに祐一は…。
私のことをなんだと思っているの? また私は祐一を睨んだ…。
「なあ、舞…。悪かったよ…。で、お詫びとしては何だけど…、デート、するか?」
「……えっ?」
私は驚いた。祐一は真剣な目で私を見ている。佐祐理は嬉しそうに私たちを見ていた。佐祐理は言った。
「あははー。よかったねー、舞。でもこれが舞の初デートなんですよね? ……、よーし、舞のために佐祐理が一肌脱いであげますよー。そうと決まれば…、舞。今から衣装あわせですよー!! あははー」
そう言って、突然私の手を引いて佐祐理は走っていった。祐一の呆然とした顔が印象的だった……。
「ねえ、舞? 舞にはこんな服が似合うと思うんだけどなー」
あの後、佐祐理の家に連れて来さされた私は、佐祐理にいろいろな服を着さされていた。佐祐理の家は大きい。部屋だけで20以上ある。今、私がいるお部屋は衣裳部屋…。ドレスや可愛い服がいっぱいあるお部屋。
今、佐祐理は自分のことのように私のために一生懸命になって服を選んでいる。そんな佐祐理に私は“ありがとう…”と、一言心の中で言った…。
「舞には、こっちの可愛い服が似合うと思うんだけどなー。それとも、こっちの大人の女性をイメージさせるようなシックな服のほうかなー? 舞? 舞はどっちがいいと思う?」
「……」
私は考える。可愛い服…、着たい…。だけど祐一は最近、私のことを子ども扱いしているように見える。いや…、高校時代からそうだったっけ…。そう思った。でも、今のほうが余計に子ども扱いしているように見える。…これでも、私のほうが一つ年上のお姉さん…。
佐祐理にはちゃんとした言葉で話してるのに、私にはどうしてそんな子ども扱いしてくるの? そう考えると何だか無性に腹が立った…。ここはやっぱりシックな服で、私がお姉さんだって言うことを祐一に分からせる必要がある。そう考えた私は…、
「そっちの大人の服……」
そう言った。佐祐理はちょっとびっくりしたような顔をしてたけど、にっこり微笑んで…、
「じゃあ、こっちにしましょうかー。舞。あははー」
そう言って、服を渡してくれた。ちょっときつそうかな…。そう思った。着てみると、やっぱりちょっときつかった。服には余裕があるほうがいい、と、どこかのテレビでやっていたことを思い出す。となると…、
「こっちの可愛い服の方だよー。舞。やっぱり佐祐理はこっちの方がいいかなー? 可愛くて…。あははー」
佐祐理はそう言って微笑んでいる。大人の服…、着たかった。これだと祐一にまた子ども扱いされる…。未練が残った。だけど、あの服は小さくて着れない。佐祐理に頼んでほかの服も着させてもらったけど、いまいちだった。お気に入りはやっぱりあの服…。
結局、初めてのデートには可愛い服を着ていくしかなかった……。ぐしゅぐしゅ…。
「祐一…。遅い……」
私は一言そう呟いた。あれから一週間後、祐一の提案で私の好きな動物園に行くことが決まった。佐祐理と衣装合わせをした日の夜、祐一から電話がかかってきた。祐一はちょっと緊張した声で話す。
「あっ、舞か? え〜っと…。デートなんだけどな…。そ、その…、舞の好きな動物園にしないか?」
嬉しい…。私はそう思った。おさるさんやぞうさんやかばさんに会える。そのことで、大人の服のことは一気にどこかへ吹っ飛んでいった…。祐一に言われたその日は興奮してなかなか眠れなかった。次の日、佐祐理に動物園のことを言う。佐祐理はふふふと微笑んで…、
「よかったね…、舞。舞の大好きな動物園に行けるなんて……。佐祐理、羨ましいです…」
「……じゃあ、佐祐理も一緒に行こう?」
私はそう言う。佐祐理は私の一番のお友達…。前にも言ったかもしれないけど、大学でお友達がいっぱい出来た。だけど一番はやっぱり佐祐理…。私だけ楽しい事をしようとしているのに、佐祐理が楽しくないんじゃ、いや…。だから私は佐祐理も誘ってみることにする。
祐一も佐祐理と行けるのなら嬉しいはず…。だけど…。
「う〜ん。あっ、舞…、ごめんね…。佐祐理、その日はお父様の用事で一緒について行かなくちゃいけないの…。佐祐理の分まで楽しんできて……。ねっ? 舞……」
「分かった……。じゃあ、お土産買ってくる……」
「うん! 楽しみにしてるね! あははー」
佐祐理は何か考え事でもしていたんだろうか。ちょっと慌ててそう言った。少し残念……。
で、現在……。2時間も早く待ち合わせの場所に来た私は、こうして祐一を待っている。
動物園……。いろんな動物さんがいるところ。なんだかドキドキする。早く祐一は来てくれないだろうか…。
でも、ちょっとだけ恥ずかしい…。みんなの視線が私のほうへと向けられていた。私は困った顔をする。祐一…、早く来て……。
もう1時間経過……。
祐一はまだ来ない……。ひょっとして私との約束…、忘れたの? ぐしゅ…。寂しくなって涙が零れ落ちそうになったとき、遠くから私を呼ぶ声が聞こえてきた…。私は呼ばれたほうに振り向く。遠くから祐一が走ってきていた。
「ごめーん、舞ー。遅くなったー」
「ぐしゅ……。祐一……、遅い……」
私の元へやってきた祐一を涙目で睨んで、私はそう言う。祐一は呆れた顔でこう言った。
「はぁ、はぁ…。ま、舞…、俺はたかだか5分遅れただけじゃないか…。お前はいったい何分待ったんだ?」
5分でも遅れは遅れ…、そんな偉そうに言えるものじゃない…。そう思った私は胸を張ってこう言った。
「3時間……、待った……」
私がそう言うと、祐一の呆れた顔が、もっと呆れた顔になって…。
「はぁ? 3時間って、約束は9時だから……、って、ええっ?!! ……なあ、舞。ひょっとすると俺の聞き間違いかもしれないが……、舞は何時にここへ来たんだ?」
「6時に来た……」
「……」
私の言葉に唖然として、何も言えない祐一。お互い無言が続く…。と、突然祐一が私のほうを見て…、
「ま、まあ、あまり突っ込むのは止めよう…。なっ?…。これから楽しいことが待ってるんだしな…。……それにしても舞……。ぷぷっ。その格好…、ますます子どもみたいな格好だな……、お前。うぷぷっ」
祐一が私の格好を見て、笑いながらそう一言言った。それはそうだろう。だって今の私は、ツインテールでフリフリの服にふわっとしたスカート、長靴下にぶたさんのポシェットと言う、いかにも小さい女の子をイメージさせる格好だったから…。
でも失礼…。私だって、もっとお姉さんらしい格好をしたかった。だけど私に合う服はこれしかなかったから仕方がない。もともとおしゃれや最新の流行には無頓着な私だ…。だけど、好きな人に言われるとやっぱり傷つく…。
「まっ、そのほうが可愛いけどな…。俺には…。なっ? 舞…」
不意にぽそっと、祐一がそんなことを言う。一転、私はポッと顔を赤らめた。祐一はこんな格好が好きなんだろうか? たしかに祐一の周りには小さくて可愛い格好の子が多い。あゆや栞はその典型…。
……う〜ん、と考える…。と…、
「さっ、さあ。こんなところでぼーっとしてないで、動物園に行くぞ!! 舞」
祐一は顔を赤らめながら、慌ててそんなことを言うと私の手を取って歩き出した…。ぶたさんポシェットが楽しそうに初夏の風に揺れていた…。
舞と祐一が歩くその後をつける、複数の怪しい影…。怪しい影には憎悪と悲しみと羨望と困惑…、そんなものが漂っていた。舞と祐一をつける影たち…。影の一つがこう言った。その後に続いてほかの影たちはこう言う。
「うぐぅ〜。祐一君、ひどいんだよっ!! あんな可愛い女の子とっ!!」
「そうですっ!! 祐一さんには川澄先輩って言う彼女がいるって言うのに…」
「そうよぅ〜!! まいまいに言いつけてやるんだからっ!!」
「あ、あのね…。みんな…。あれは実は…」
「「「名雪(名雪さん)は黙ってて!(黙っててよっ!・黙っててくださいよっ!!)」」」
名雪と呼ばれた影…。そう、水瀬名雪は困っていた。名雪は祐一から舞とのデートのことを聞かされて知っていたのである。祐一はイチゴサンデー3杯で名雪に口止めをした。あの三人のこと…、きっと妨害してくるに違いない。祐一はそう思って名雪に口止めをしたのだ…。
だが…、うっかり名雪は親友の香里にこのことをぺろっと言ってしまったのである。言ってしまったから、もう大変!! 香里はこのことを栞に喋ってしまったのだ…。特に「内緒にして」と言わなかった名雪に責任はあるだろうが、このことを尾鰭をつけて栞に話した香里にも責任はある。
途端に祐一の恋人と自称する三人に知れ渡り…、哀れ名雪は、この子供と分からず屋な娘といたずら娘に捕まり、祐一の尾行に付き合わされることになったのである…。三人はううう…と名雪を睨む。名雪は心の中で叫んでいた。
“お母さ〜ん!! 香里〜! 北川く〜ん! 天野さ〜ん! 誰か助けてお〜!!”
と……。名雪の母、秋子は町内会の旅行で朝早くから出かけていて留守だった。今日は帰って来れないらしい。香里と北川は、今日はデートに行くと言って、これまた朝早くから出かけていった。ここにいる、最愛の妹のことも放ったらかしにして……。で、天野美汐は…、
「はぁ〜。いいお湯ですね〜…。秋子さん…」
「ほんとね〜。美汐ちゃん……」
秋子と一緒に町内会の旅行に行っていて、これまた留守だった…。
「えぅ〜。お姉ちゃんも北川さんも祐一さんも、みんな不潔ですっ!! みんな…、みんな大嫌いですっ!!」
そう言って前を歩く二人を恨めしそうに見る少女は美坂栞…。その横から…、
「うぐぅ〜、舞さんに言いつけてやるんだからっ!! 祐一君!!」
「あゆあゆの言う通りだわっ!! 祐一っ! 枕を高くして寝られるのも今のうちだからねっ!!」
そう言う少女、二人…。月宮あゆと沢渡真琴である…。前述にも述べたが、彼女たち三人は祐一のことが好きだった。祐一に奇跡を起こしてもらった三人だ。それだけ祐一に対する恋慕は深い。だが祐一は舞を選んだ…。
仕方のないことだと、あゆ・栞・真琴の三人は涙を飲んであきらめた…。
が…、今は違う。目の前を歩く祐一と可愛い格好の少女(もちろん、この少女は舞であるのだが…)、特に祐一に腹を立てていた。これは明らかな浮気だ…。と三人の少女は思った。こうなってしまった彼女たちを名雪が止められるはずもなく…。
“ううう…、祐一、ごめんね……”
滂沱の涙を流し、三人に引き摺られてゆくのであった…。と、その後を、ビデオカメラを持った少女が一人…、いた…。少女はふふふと微笑むと…。
「さあ、祐一さん、舞…。試練ですよー。この試練を乗り切ればお互いの心は、ぐっ、と近づくはずですー。二人とも、頑張ってくださいねーっ。あははー」
そう言った。そう、その少女の名は倉田佐祐理である。佐祐理が舞と祐一の初デートを見逃すはずもない。彼女は祐一と舞との初デートの記念撮影をしようと決めたのだ…。しかし彼女は、親友にちょっとだけ嘘をついた。
彼女らしい、実に可愛い嘘ではあるのだが……。
これには祐一も舞も怒ることは出来ないだろう…。そして今、彼女はビデオカメラを手に、祐一と舞の後を追っていた。祐一たちを追いかけていた佐祐理は、ふと、ある三人組に気付く。祐一たちの後ろをこそこそと尾行しているように見える。
こっちに向かってきているようではあるが距離が遠いため判然とは分かりづらい。佐祐理は望遠レンズで覗いた。そこには、あゆ・真琴・栞のお子様三人組と、その後ろにずるずる引き摺られる少女が一人いた。はっとした佐祐理は咄嗟に物陰に隠れる。
見つかればやばいと感じたのであろう…。やがて、彼女が隠れている前を瘴気を張り巡らせたお子様三人組が通り過ぎていく…。口々に“うぐぅ〜”とか“えぅ〜”とか“あぅ〜”とか、いつもの口癖を言いながら前を歩く祐一と舞を恨めしそうに見つめて、後をつけているようだった。
佐祐理は“ふぅ〜”と溜め息をつくと、その後姿をビデオカメラで撮った。引き摺られている少女は、ふと佐祐理の存在に気付くと…。
「あっ!! 倉田せんぱ〜い。助けてだぉぉぉぉぉ〜〜〜……」
そう涙ながらに訴える。その声は虚しく佐祐理から遠ざかっていった。少女・水瀬名雪はずんずんと三人の少女に引き摺られていってしまったようだ。名雪を助けようと思えば助けることは出来た。だが、佐祐理は名雪を助けることはしなかったのである。
なぜなら、恋の成就には、時には邪魔者が必要だ…。と、どこかの雑誌で読んだことがあったからだ。佐祐理はいたずらっぽく微笑むとビデオカメラを手に、彼女たち…、そして祐一たちの後をつけていった…。
動物園に着いた。私と祐一は手を繋いで、正面ゲートをくぐる。ちょうど秋子さんに貰ったフリーパスがあるからと、祐一が係員さんにそれを見せる。係員さんは嬉しそうに、
「楽しんで来てくださいね?……」
と言ってくれた。動物園の地図の前にきた。祐一は地図とパンフレットを交互に見ながら…、
「さあ、舞。何から見ようか? ここは158種類くらいの動物がいるんだってさ…。すごいよなぁ…」
「うさぎさん……」
「うさぎかぁ…。うさぎ、うさぎっと……。え〜っと……。…おおっ?! ふれあい広場っていうものがあるらしいぞ!! そこに行ってみるか?」
「はちみつくまさん……」
私たちはそう言って、ふれあい広場へと向かった。途中で、かばさんやさいさんを見た。さいさんも可愛いけど、私はかばさんのほうが好き…。口を大きく開けている格好が可愛い。へびさんも見た。祐一は怖がっていたけど、そんな風に怖がるとへびさんが可哀想…。
そうこうしてるうちにふれあい広場へと辿り着いた。
「うさぎさん……いっぱい………」
「ああ、そうだな。……って、ちょっとそこで待ってろ。舞」
そう言って祐一は係員のおじいさんのところへ行く。何か交渉してるみたいだった。
何を交渉しているんだろう?…。ふと、さっき係員さんに貰ったパンフレットを見る。ふれあい広場のところに目をやった私は、恥ずかしくて顔を赤らめてしまった。祐一が笑顔で手を振っている。
「舞ー。OK出たぞー!!」
祐一…、恥ずかしい。祐一の声にお母さんやお父さんや子供たちが一斉に私のほうへと顔を向けた。それはそうだろう。だって、このふれあい広場は小さい子供たちの動物に対する好奇心や愛情を育てる場所なのだから…。止めようかと思った。
でもうさぎさんは可愛い…。う〜んと悩む。
「舞ー!! どうしたんだよー!! うさぎ、可愛いぞー!!」
祐一がうさぎさんを抱きかかえて私のほうに向ける。うさぎさんの鼻がひくひくいっている。可愛い…。私はいてもたってもいられなくなり、祐一のもとへと向かった。
「ほら…。可愛いだろ?」
そう言って祐一がうさぎさんを渡してくれた。頭を撫でてみる。うさぎさんは、目を細めて鼻をひくひくいわしていた。
「お姉ちゃん…、うさちゃん、可愛いねぇ」
ふと、隣の女の子が私に話し掛けてきた。私は…、
「うん……。可愛いね……」
そう言った。自然と笑みが零れる。微笑みが自然と出るようになった私。それはやっぱり祐一のおかげかもしれない。私はそう思った……。
「ああっ、可愛いですぅ〜。舞〜。佐祐理、思わず抱きしめたくなっちゃいますぅ〜」
遠くからビデオカメラ(望遠)で舞たちを撮っていた佐祐理は一人、くねくねと悶絶をうっていた。遠くから見れば一種異様な光景だ…。……と、佐祐理は気づいた…。
「あれっ? そういえばあのお邪魔虫さんたちはどこでしょうか?…」
と…。あたりを見回すと…。……いた!! ちょうど祐一たちがうさぎと戯れてるすぐ近くの小屋の影…。周囲に異様な空気を漂わせてじっと様子をうかがっている三人を…。
もう一人いたはずですが?…。と佐祐理があたりを見回すと、3人の横で小さくなっている人影を発見。
佐祐理はカメラをそちらの方向に向けた。かすかだが、雑音に紛れて話し声が聞こえてくる…。
「まいまいというものがありながら…、あんな可愛い子といちゃいちゃしちゃって〜!! 許さないわよぅ〜!! 祐一ぃぃぃぃぃ!! あぅ〜〜〜〜!!」
「そうですっ!! 許せません、祐一さん!! 舞さんと言う素敵な恋人さんがいながら…。絶対舞さんに言いつけてやりますからねっ!!」
「うぐぅ〜〜〜!!」
そう言うと、三人組は祐一をギロリと睨みつけた。
「あ、あのね…。あ、あれは……」
「「「名雪さん(名雪)は黙っててよ!!(黙ってなさいよっ!!・黙っててくださいよっ!!)」」」
「だお〜〜〜……」
名雪はもう全泣き状態。やっぱり香里に言うんじゃなかったと名雪は思った。今にして思えば、あの香里の不自然な笑みが引っ掛かってしょうがなかったのである。香里に話す→栞に伝わる→お子様二人に伝わる…。分かっていたことなのに…。
と、名雪は後悔してもしたりないように、今の心中はただただ後悔のみであった…。と、突然真琴がこんなことを言った。
「よ〜っし、あの女の正体を暴いて、まいまいに言いつけてやるんだからっ!!」
「うぐっ? でもどうやってあの女の子の正体を暴くの?」
「う〜ん。ドラマだと、やっぱりここは変装とかじゃないでしょうか?……」
そう言うあゆと栞…。もう完璧に主導権は真琴だ…。と、名雪は思った。このメンバーの中で一番悪知恵の働く真琴は、いつも祐一にいたずらをしていた。が…、詰めの甘さから祐一にばれて逆に返り討ちにあうことが多かったのである……。
あゆは、祐一にここ最近たいやきを奢ってもらえずストレスは溜まる一方だった。栞は、四次元絵のモデルを祐一に頼むが断られてばかり……。三人三様、それぞれ事柄は違うものの祐一に対しては、ここ最近いい感情は抱いてはいなかったのである……。
真琴は、あゆと栞の顔を見つめて高らかにこう宣言した…。
「あぅ〜〜〜〜!! こうなったら変装でも何でもして祐一たちに近づくのよぅ!!」
「「うん!!(はい!!)」」
「だっ、だからねっ……」
「「「うるさいわよっ!!(うるさいよっ!!・うるさいですっ!!)」」」
「えぐ…えぐえぐ……」
三人の剣幕に押され、何も言えない名雪だった………。佐祐理はというと…、
「あははー。これは面白くなってきましたよー。どうなるんでしょうかー? 佐祐理、どきどきですー」
ビデオカメラを片手に、悶絶をうつ佐祐理。端から見ればさぞかし恐怖だったことだろう…。通行人F氏は語る。
「オレがあかりとその人の傍を通ったら、なんだか恐怖を感じたね。あかりなんぞはもう帰ろうとか言ってきやがるしよ…。ちっ、これじゃあ何のためのデートなんだよ…。ったく……」
と……。
後編へ続く…