舞ちゃんのどきどきデート大作戦

後編


 昼時になった。俺たちは園内のレストランへ向かう。舞は「動物さん…もっと見たい…」と言っていたが……。
「何も拗ねることはないだろ? 舞…。また昼から見られるんだからさ」
「……」
 ぷぅ〜と頬を膨らましている舞。服装もあいまってかかなり子供に見える。ふと舞を見ると、怪訝そうな目で俺を見つめていた。頬を膨らまして舞は言う。
「祐一…私のほうがお姉さん…。そんなこと言う祐一……嫌い……」
 ちょ、ちょっと待て、これは俺の心の中の声だ。なんで分かったんだ? と俺が尋ねると舞は…。
「祐一の目が言ってた…。目は口ほどに物を言うとはこのこと…。それに私…祐一の彼女……
 そう言って頬を赤らめた。最後の方がちょっと聞きづらかったが、もう怒ってはいないらしい。ほっとして食事を注文することにした。
「すみませーん」
「はーい」
 ウェイトレスを呼ぶ。注文をするとウェイトレスはすっと厨房の方に消えていった。…後ろから何だか敵意に満ちた視線を感じる。ふっと振り向くと帽子にサングラスにマスクにコートと言う、いかにも怪しげな三人が座っていた。背が低いから小学生か何かだろうか?
 少し怖くなったので気付かないふりをして前を向いた。う〜ん。どうも後ろが気になるなぁ。しばらくして、もう一度振り返ってみる。が…、そこには誰もいなかった…。俺の目の錯覚か? いや、確かに怪しい三人組がいたぞ? 舞に聞いてみるが舞は分からないような顔をしていた。
 まあ、いいか……。せっかくのデートだ。楽しむことにしよう…。


「お待ちどー様でしたー。ゆうい……いやいや、お客様」
ゆういちさ……いやいや、お客様…。こちらが注文なさった照り焼きキムチバーガーとなっておりますー。うぇっぷ…
 舞とこれからの予定をあれやこれや話しているうちに、ウェイトレスがやってきたようだ。舞との話が夢中でウェイトレスの顔をいちいち確認することはしなかった。って、今、何か名前で呼ばれたような…。まあ空耳だろう…。
そう思い注文しておいたハンバーガーに手を伸ばす。
 ここの料理は結構うまいと有名だ。俺も食べるのが楽しみだった。が……、一口食べて、それはあくまで噂にしか過ぎないと思った。
「な、な、ななな…、なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 某刑事ドラマの刑事のように俺はそう叫ぶ。一瞬みんなの目が俺の方へと向いた。かなり恥ずかしい。舞は俺の顔を睨んでいる。何で俺が睨まれにゃならんのだ! と…、舞のハンバーガーが気になった。
 舞も俺と同じハンバーガーを頼んでいるんだから、当然と言えば当然かもしれない。舞の方に目をやると…、
「ハンバーガーおいしい……、もぐもぐ……」
 何食わぬ顔で食べていた。ということは俺だけか? くそぅ! だんだんと腹が立ってきたぞ。
「おい!! ウェイトレス!! 何だ? このハンバーガーはっ!! 黒焦げじゃないか!!」
 ウェイトレスを呼びつけ文句を言う。ウェイトレスは分からないような顔をしてこう言った。
「へっ? お客様? お客様のオーダーされたものはまだ出来ておりませんけど??」
「舞のは出来てたじゃないか…」
「あっ、はい。そちらのお客様のは先に出来ていまして…。って、あ、あれ? 何で食べていらっしゃるんですか? 一緒にお出しするつもりでしたのに…」
 鳩に豆鉄砲を食らったように目をぱちくりさせながら言うウェイトレス。と言うことは…。……う〜ん、謎だ…。謎だが仕方がない。この場合ウェイトレスも被害者だろう。そう思った俺は、さっさとウェイトレスを仕事に戻させた。
「何だったんだろう? この黒焦げハンバーガーは?……」
「さあ?……」
 俺は、よく考えてみる。あのウェイトレス達は、明らかに俺を知っているようだった。おまけにこの黒焦げハンバーガー、俺にいたずらしているようにしか見えない。焦げたハンバーガーを見つめる。まるで碁石だ…。んっ? 碁石…。そこで俺はピンと来る。
 あいつだ…。でもあいつ一人でこんな大それたことが出来るはずがない。と、そこで俺は気付く。こんないたずらを思いつくやつなんてあいつくらいしかいない。で、作戦を考えたのはあいつだろう…。実行に移したのはあいつらだな?…。
 そう、あの三人組、すなわち、真琴。栞、あゆの三人だ…。なぜ俺が真琴たち三人組のいたずらの標的にされにゃならんのだ! くそう!! 一人ぶつぶつ言ってる俺に…。
 びしっ!!
 舞の手刀が襲ってくる。舞を見ると怪訝そうに俺の顔を伺っていた。
「祐一…。何を一人でぶつぶつ言ってる……。それに私はもう食べた……。祐一は食べないの? 新しいハンバーガー……」
「へっ?」
 舞が、そう言って俺の方を見ている。手元にはいつ来たんだろうか新しいハンバーガーが置いてあった。俺は急いでそれを食うと、また舞の手を引いて歩き出した。


 祐一たちの様子を、影からビデオカメラで撮っていた佐祐理は、一人、どす黒いオーラを出していた。
「あの三人はちょっと度が過ぎますね…。少し大人しくしててもらいましょうか…。あははー」
 そう言うと虚ろな笑みを浮かべながら、ビデオカメラを手に今度は真琴たちを追いかけて歩き出す…。不気味な笑みが印象的だった。その光景を目にした通行人・M氏は…。
「いやぁ、驚きましたよ……。あの子を見た瞬間、雛子や亞里亞なんて泣き出しますし…。鞠絵は気絶するし…。千影は魔術師だって言って追いかけようとするし…。他の妹たちはぶるぶる震えて僕に抱きついてくるありさまで…。せっかくの動物園が……。散々な一日でしたよ……」
 そう後述している……。


 さて変わって、ここでは……。
「うぐぷぷぷ…。祐一君、驚いてたねー」
「はい!! あのあゆさんの碁石ハンバーガー。あれは人類の食べるものじゃないです!!」
「栞ちゃん…、どさくさに紛れて酷いこと言ってない? 何だかすご〜く傷つくんだけど……」
 うぐぅ〜っと栞を睨みつけるあゆ。元来子供であるあゆに睨まれても怖くはない。姉・香里の睨みを経験してきた栞である。このような子供だましの睨みは通用しなかった。
「この調子で祐一に復讐するのよぅ!!」
 真琴はそう言う。と、今まで空気のように漂っていた名雪が、申し訳なさそうにこう言った…。
あの〜。今までの主旨と微妙に違ってきてるんじゃ……ないかな〜っと……。思うんだけど?……
 ギロリ…。
えぐえぐえぐ……
 何も言えない名雪だった……。


「うぐぅ〜。お腹減ったよ〜」
 あゆが一言そう言った。ちょうど、お昼を過ぎた頃である。それはそうだろう…。朝8時に食べて以来、何も口にはしていなかったのである。栞の例の四次元ポケットには、サプリメントや怪しい薬品ばかりで食べられるものは何も入っていない。
 真琴のお小遣いも少ししか残っていなかった…。名雪は朝、気持ちよく寝ていたところを無理やり三人組に起こされて、強制連行されたため、何も持ち合わせてはいなかった…。
ね、ねえ…帰ってお昼ご飯食べない? み、みんなもお腹減ってるでしょ? だ、だから…ねえ?
「うるさいです。名雪さん!! 名雪さんは黙っててくださいっ!!」
「そうだよそうだよ!! 名雪さんは少し黙っててっ!! ぷんぷんっ!!」
「そうよぅ!! うるさいわよっ! 名雪!! 名雪がもっと早く真琴たちに言っていれば、こんなことしなくてすんだんだからね!! これはもう真琴たちに対する裏切りよぅ!! さあ、最後まで付き合ってもらうからねっ!!」
 女の子はお腹が減ると怒りやすくなるとは言ったもの。ギロリと名雪を睨むと三人はそう言ってずるずると引き摺って行く。名雪の心の中には、ある音楽が流れていたことだろう……。そう、それは…。

♪ ドナドナドーナドーナ。子牛を乗せてぇ〜〜〜〜。
   ドナドナドーナドーナ。荷馬車が揺れるぅ〜〜〜〜〜〜〜。♪

 であった……。
 名雪は素直に従うしかなかった。いや、従うことにしたのだ。こう見えても、彼女は昨年のインターハイで優勝した陸上部の部長である…。隙を見つけて逃げ出そうと思えば逃げ出せたのだ。
 だが、そうなってしまうとこの三人のこと…。きっと祐一たちの邪魔をもっとしてくるに違いない。
 ここは自分がこのいたずら三人組の囮になるしかない。名雪はそう思って自ら犠牲となったのだ。それがこの三人組に話してしまった祐一への償いであるように…。
「お腹減ったよぅ〜。……んっ? くんくん…。に、肉まんの匂いだわっ!!」
「…あっ、あんなところに露店が! 行ってみましょうよ? 皆さん!!」
「うぐぅ〜。ボクはたい焼きがいいな!!」
だおぉぉぉぉ〜〜〜……
 いやいやと首を振る名雪を、ずるずる引き摺りながら露店へと向かう三人。三人が向かう前方に古めかしい露店があった。最も外装は装飾して新しそうに見えるのだが…。露店の中央には親子らしい二人が退屈そうに、空を仰いでいた。

「だーれもこうへんなぁ? むっちゃ可愛い屋台やのに……」
「往人さん言ってた。博打…あまりよくないって…。はぁ……。何でこうなっちゃったのかなぁ〜?」
 この親子、神尾晴子と娘の観鈴は、借金のかたに家を追い出され、各地を転々としてついにはここ、北海道まで来てしまっていた。元々博打好きな晴子のこと、こうなることは目に見えて明らかだったはずなのだが…。
 このことが上の、観鈴の台詞を言わしめたことは言うまでもない。
 こんな時…、往人がいてくれたら…。観鈴はそう心から思うのだった。そう、観鈴は往人のことが好きだったのである。しかし往人はここにはいない。彼は今ごろ、どこで何をしているのだろう…。のたれ死んではいないだろうか…? と観鈴は思った…。
「あんた…、ウチとあの居候とどっちの言うこと信じるんや? 悪いやつってあの居候ほど悪いやつがおるかいな…。思い出してみぃな、あの目…。いかにも悪人の目やったで……」
「ひどい…、お母さん…。わたしの好きな人だったのに…。が、がお……」
 ボカチンッ!!!
 晴子の鉄拳が観鈴の脳天を襲う…。途端に涙目になる観鈴。観鈴は晴子が打ちつけた後のたんこぶをしきりに撫でた。そうとう痛かったのだろう。観鈴を見ていた晴子は、にやっと微笑むと観鈴にこう囁いた。そう洗脳したのである……。
「誰に向かってそんな口が聞けるんや? 観鈴…。ええっ? …ってそんな口聞いてる場合やなかったわ。金儲けや、金儲け…。これで儲けてウッハウハや。ええか? 観鈴…。がおがおも買い放題やで…。買い放題…」
「がおがお……、買い放題……。ウッハウハ……。うん、観鈴ちん、頑張るね!」
「そうや、その意気や!! 観鈴!! じゃんじゃん売るで〜。売って売って売りまくるんや〜!!」
 ああ、なんと哀れであろうか…。観鈴は晴子に言いくるめられてしまったのである。洗脳されてしまったのである!! 元々、根が素直な観鈴である。こういうことには、結構騙されやすかった…。
 しかも自分の大好きな“がおがお”である。騙されない方がおかしい。
 笑顔で見つめる観鈴を横目で見ながら晴子は内心、しめしめと思った。…と、そこへ例の三人組(+一人)がやってきた。
「おばちゃん。肉まんちょうだい!!」
 晴子に向かってそう聞き捨てならないことを言う真琴。晴子のこめかみがピクッと動いたのは言うまでもない。
「……」
 真琴はこの状況に気が付いていない。野生のカンも衰えてきたのだろうか? 観鈴は小さい声で…、
わわわっ、そんなこと言っちゃダメ。お母さん、年寄り扱いされるの、ものすごく嫌だから…
 と言った。この話を晴子が聞き漏らすはずもなく…、観鈴の頭を、ボカチン!! と叩いた。
「イタイ……、が、がお……」
 途端に頭を押さえてたんこぶを撫でる観鈴。真琴はこの険悪な状況を飲み込めず、黙っている晴子にまた言った。観鈴はもう逃げていない。あゆや栞たちも危険を察知したのか、木の陰から様子を伺っている。
「おばちゃんってばぁ!! 聞こえないのっ?! この真琴様がお願いしてるのよぅ!!」
「………だ、誰が…、おばちゃんやて?」
 ギロリッと真琴を睨む晴子。“謎ジャムを抱えてうふふと悪魔のような微笑みを浮かべている秋子さんのようだったわよぅ”とは、真琴の後日談である。晴子は何も言わず真琴の頬に手を伸ばす。そして……、
「あ、あぅ〜〜〜〜〜。目が怒ってるよぅ。わっ、ひはひっ、ひはひはほぅ」
 むにゅ! ぎゅぅぅぅぅぅぅ〜〜〜〜!!
 思いっきり抓る。さらに縦々横々と真琴の頬を引っ張る。真琴はもう半泣き状態だ…。一通り真琴の頬を引っ張った後、晴子は言う……。
「ウチは、まだ29やっ!! おばちゃんとちゃうんや!! よう覚えとけ…。どアホっ!! ……で、あんたら…、ウチの店に来たんやさかい、何か買っていってくれるんやろなぁ?」
 そう言うと、泣きべそを掻きながら抓られた頬を摩る真琴と、その後方に隠れている栞たちを睨みつける晴子……。栞たちは何も言うことが出来ない。
 秋子(アークデーモン)や香里と同じくらい怖かったと、四人は後にこう述べている。そして…、
「あっ…、あの〜。ボ、ボ、ボク、た、たいやきを……」
「す、す、すすす、すみません……、ア、アイスクリームはありますか?」
「あっ、あぅ〜〜〜〜〜。に、肉まん」
「わ、わたしは、イチゴクレープ……。あっ、でもわたしたち、お金そんなにないよー?」
 四人は恐る恐るそう言った。途端に晴子は嬉々とした表情になるとこう言う。
「よっしゃ!! 分かった。用意したるさかい、そこらへんに座っておとなしゅうしとき…。まあ、金のことは気ぃ遣わんでええ。あんたら、うちの店に来た初めてのお客さんやさかいな。どれでも50円や。……あっ、そうそう、イチゴクレープとか言ってたヤツ…。ウチにはイチゴクレープはあらへんねん。堪忍な…。ママレードやったらあるけど…、それでもええか?」
「えっ? あっ、はい。それでいいです……」
 名雪はちょっと残念そうに晴子のほうを見て言った。
「観鈴…。オーダーや。たいやきにママレードクレープ、アイスクリームに肉まんやで!!」

 十分後…、端から見た目はおいしそうな品々が並んでいた。観鈴が運んでくる。
「お待ちどうさまでした。にはは……」
 出てきた品を見た四人は愕然とした。クレープ・たいやき・アイスクリーム・肉まん、ことごとくオレンジ色をしていたからである。不安になった四人は晴子に問う。
“何でこんなオレンジ色をしているのか?”
 と…。晴子は言った。
「ああ、それかいな? さっきな、ここを通りかかった女の子にやな、「このジャムどうですかーっ?」って言われてな…。おいしそうやったさかい、もろたんや。でもこのまま出すんはあまりにオリジナリティーにかけるやろ? せやからちょこーっとアレンジ加えて生地とかに練り込んでみたんや。どうや? おいしそうやろ?……」
 四人の顔から生気か抜けた……。口に出すのも恐ろしい。このまま逃げようか、とも思った。だが逃げられない。この晴子のこと、地獄の果てまでも追って来るような気がした。
 ぷるぷると震える手でそれぞれの注文したものを手にとる。晴子は嬉々とした顔で四人を見つめている。
 手は震える…。食べたくない。食べれば多分意識不明の重体に陥る。…しかし食べなければ、あのハリセンで叩き殺される。彼女たちは意を決した。恐る恐る口を開ける。
 ガブッ!! もぐもぐ…。バタンッ!! 四人は白目を剥いて気絶した。
「なっ? 何でや?」
 晴子は一言、唖然としながら、そう言った……。

「よーしっ。これで当分はあの四人も動けないでしょうねー。さあ、祐一さんと舞の後でも追うことにしましょうかー。でも秋子さんからあのジャムをお預かりしてよかったですー。あははー」
 佐祐理はビデオカメラを手に望遠機能で倒れている四人を見るといたずらっぽく微笑んだ。そして祐一と舞のデートを撮るため気付かれないようにその場を後にする。


 私たちは午後からも動物さんを見た。パンフレットに目が止まる。そこに書かれていたものに私の目は釘付けになった。パンフレットにはちょうど今年生まれた動物さんの赤ちゃんが見られると言うことが書かれていたから…。
「動物さんの赤ちゃん…。見たい……」
 きりんさんを見ながら、私はぽつりそう言う。祐一がにこっと微笑んで言った。
「時間はまだあるし…、それじゃあ、動物の赤ちゃん、見に行くか? 舞…」
 私は微笑んで、うんと頷く。祐一は私の手を繋いで歩き出す。祐一と話をしながら歩く。動物さんや、いろいろなことで話は盛り上がった。目の前に“動物の赤ちゃん大集合!!”と書かれた大壇幕の前に着いた。
「楽しみか? 舞…」
 祐一はそう言う。祐一の顔を見る。優しそうに私の顔を見て微笑んでいた。優しそうな祐一の顔を見ていると、私は恥ずかしくなって、こくりと何も言わず頷いた。
「じゃあ、見に行くか…」
 そう言うと祐一は私の手を取り歩き出した。オランウータンさんの赤ちゃんはお母さんのおっぱいを飲みながらすやすやと眠っていた。ツキノワグマさんの子供は、兄弟なんだろう二人で相撲を取って遊んでいる。パンダさんの赤ちゃんは木の上ですやすやと眠っている。
 お母さんがやってきて赤ちゃんを呼ぶと、赤ちゃんは木から降りてすぐにお母さんのもとへと走っていった。ラッコさんの赤ちゃんは、気持ち良さそうにぷかぷか水面を漂っている。
「可愛い……」
「ああ、そうだな……。んっ? ま、舞…」
 私は祐一の腕に自分の腕を絡ませて、祐一の肩に頭を置いた。祐一はちょっと驚いた顔をしていたけど、私の頭を撫でてくれた。いい雰囲気。しばらくそうしていた…。


「さあ、もうそろそろ閉園時間だぞ。舞…。俺は楽しかったけど、お前は楽しかったか?」
 午後五時。閉園の音楽を聴きながら俺はそう言う。舞は恥ずかしそうに、でも嬉しそうに、こう言った。
「うん。楽しかった…。また…、来たい」
「ああ、そうだな……。今度は佐祐理さんも誘って三人で一緒に来ような?」
 俺はにっこり微笑んでそう言う。舞も、うん、と微笑んで頷いた。と、誰かの足音が近づいてくる。それも複数だ。あの三人組だな? 俺は思った。でも、何であゆたちにばれたんだろう…。考える……。
 答えが見つかった。名雪だ…。あいつが口でも滑らせたんだろう…。
 家に帰ってお仕置きだな、こりゃ…。そうこうしてるうちに影たちはやってくる。俺の前…。影たちは止まった。影の一人、真琴が俺の顔を睨みつけて言う。
「あ、あぅ〜。今日は踏んだり蹴ったりだったわよぅ!!」
「真琴〜、昼間俺に黒焦げハンバーガー持ってきたのってお前達だろ? 何でそんないたずらばかりしてくるんだっ? 何か悪いことしたか? 俺…」
 俺はそう言うと首を傾げる。別に悪いことはしていないつもりだぞ…。俺は…。と、栞がぷぅ〜っと頬を膨らまし、俺の顔を睨みつけてこう言う。
「それもこれも、全部祐一さんのせいなんですからねっ!! えぅ〜!!」
「何でだ? 何で俺のせいなんだっ?」
 あゆ、真琴、栞の顔を見ながらそう言う俺。舞も不思議そうに頭を傾げた。あゆが静かにこう言った。
「祐一君……。じゃあ、聞くけどねぇ…。祐一君の隣にいる可愛い女の子は誰なのっ?」
「まいまいという彼女がいながら……、ふ、ふふふふ、不潔よぅ!! 絶対まいまいに言いつけてやるんだからねっ!!」
「あっ、いや。お前たち…、何か勘違いしてるぞ…。可愛い女の子って、この超絶無愛想娘か? 冗談はよしてくれ…。あゆ、真琴に栞も…。よ〜く顔を近づけて見てみろ…。なっ?」
 あゆ、真琴、栞の三人は、じ〜っと舞のほうを見る。舞は恥ずかしそうに俯いた。そして……、
「ああっ?!」
 やっと気が付いたのか三人は目をぱちくりとさせていた。俺は勝ち誇ったように言う。
「なっ? 舞だろ? 少し可愛くはなってるけどな…。俺も初めて見たときは騙されそうになったんだ。ははは…」
 びしっ!!
 俺がそう言うが早いか、舞のチョップが飛んできた。
「祐一……」
 舞が俺を睨む。体裁が悪くなり舞から目を離す。と、どこからか声が聞こえた。どこからだろうか? 声の主を探す。と、俺が舞から目を反した先に……。蹲っている人影を発見。人影は何か言っている。
 舞とアイコンタクトをして、そおっと聞いてみることにした。
祐一…、わたし、もう、笑えないお…。笑えなくなっちゃったお……。えぐ、えぐえぐ……
 周囲に漆黒のオーラを出し、体育座りをして黄昏ている名雪がいた…。

 ……このあと、あゆ、真琴、栞の三人には、俺と舞へのいたずらと、名雪を無理矢理拉致したということで…、お仕置きとして辛いカレーを食べさせることにした。栞なんぞは見ただけで気絶しそうになっていたが…。
 涙を流しながら食べる三人を見つめていた名雪はちょっとだけ嬉しそうだった…。俺と舞のどたばたなデートはこうして終わった……。


 ここにも、嬉しそうに微笑む人が一人……。
「ああーっ、今日は舞と祐一さんのラブリーなところがいっぱい撮れましたよー。佐祐理、とっても幸せですー。あははー。さあ、舞が帰ってくる前におうちに帰って早速編集しましょうねー。るんるるん…」
 そう言うと佐祐理は一人スキップをしながら、舞と同居しているアパートへと帰っていった。春の心地よい風が吹く月夜だった…。

おわり

おまけ

「なあ、観鈴…。ウチら、関西へ帰ろ? なっ? こんなところにおったら命がなんぼあっても足らへんわ。もいっぺん真面目にやり直そ? なっ? 観鈴…」
「うん、そうだね、お母さん…。北の町、とても怖いところだった……。が、がお…」
 ボカチンッ!!!!
 その後、関西へ帰った晴子が真っ当な職…、保母の仕事についたのはいうまでもない…。

ほんとにおわり