秋祭りの朝に
秋も晩秋になり風も冷たく感じられるようになってきた今日この頃。明日10月23日は、俺の同名の知り合いの彼女・小野崎清香の誕生日で、その3日後の10月26日は俺の彼女・鮎川美空の誕生日だ。今年は…、と言うか今年も何かしらの行事めいたことでもしようと言うことになって、それだったらとうちの町のちょっとした祭りにご招待と言う感じで呼ぶことにしたのだが…。考えたら向こうの健二をこっちに呼ぶのは初めてなんじゃないのかと思って考えてみるが、健忘症にでもかかったのかどうにも思い出せなかった。まあ七海にでも後で聞いておくか。そう思ってジュースやら酒やらをしこたま買い出して海沿いの街を走っている。
2つ違いの同名の彼は今年から大学生になって、車の免許を取ったらしい。中古ではあるものの車も購入したんだとか。俺はまあ小回りが利くバイクのほうがいいので普通車の免許は取ってないわけだが。俺を投げ飛ばす名人な妹・鈴夏は“お兄ちゃんも車の免許取ればいいのに…” とぶつぶつ言っているが取る気もないのに取ったって仕方がないわけで。よしんば取ったとしても妹のアッシー君にされるのがオチだからな。そう思いつつ家の方向に方向指示器を出し曲がろうとすると、後ろからブッブーッとクラクションを鳴らされる。何だぁ〜っと思い振り向くとひかりとどっこいどっこいな背丈の女が手を振っていた。まあ言わなくても分かる。これは俺の彼女だ。そう思って、
「よう、今日は意外と早いじゃねーか?」
と声を掛けると、“意外は余計よ!! 全く…。キミって人は…。あっ、そんなことよりキミんちって駐車場あったよね?” とその後ろを見ながらこう言う。まあおばさんの喫茶店の駐車場なら何台か置けるが…。でもどうしたんだ? と思って美空と同じ方向を見ると、ボロっちいワゴン車が一台ある。何だぁ〜? このボロっちいワゴン車はとよくよく中を見てみて、“ああ、なるほどな?” そう思った。そういやひかりも呼んだんだっけか? 信号待ちのときに腕時計に目を通すとちょうどいい時刻だった。“わりぃ、ひかりを迎えに行かんとダメだったんだ”、と言うと、“じゃあ先にキミんちに行ってるからね〜。って、荷物持って行こうか?” と美空にしては珍しく気がつく。“ああ、じゃあ頼むわ” そう言うと俺はバイクを左に寄せる。美空と後ろのワゴン車も止まった。同名の彼も出てきて、一通り簡単な挨拶をして荷物はワゴン車に乗っけていってもらった。まあ家には親父と妹と七海もいるだろうし多恵先輩たちも着てるだろうから大丈夫だろう。そう思い、またバイクを走らせる俺がいた。
しばらくバイクを走らせて、いつものバス停に到着。後はちびっ娘な従姉を待つだけだ。しかしひかりもひかりだよな? 普段から休暇になったらうちに来ては俺に文句と言うか愚痴とか、そんなことばかり言ってくるんだからなぁ〜。困ったもんだぜ…。そう思いつつ、買い出しのついでに買ったガムを口の中に放り込んでいると、ブッブーとバス特有のクラクションを鳴らしながらバスはやってくる。見ると俺の彼女とどっこいどっこいな背丈の従姉がぶんぶん手を振っていた。プシューッと扉が開くと軽やかに降りてくる。“あんたにしては珍しく早いじゃないの” 開口一番これだ。このまま置いていこうかとも思ったが後々大変な目に遭いそうな気がするので、“早く乗れ” サイドカー部分を指差してそう言う。ちなみにサイドカー部分はこの口うるさい従姉にアルバイトなんぞを紹介してもらい貯めた金で今年の夏の終わりに買った代物だ。メットはサイドカーに置いてある。ひかりも分かっているかのように極々当然にかぶっていた。さて、それじゃ行きますか…。そう思い家へと向かう俺たちがいるのだった。
家に着いた。ひかりは“疲れたぁ〜。少し休んでるから、あんた、七海たちに言っといて…” と言って、さっさと俺の家へと入っていく。自分勝手なやつめ! とは思ったがこれがうちの従姉だからある意味しようがないのかもな? そう思いつつ家をもう一度見て、もう家のほうに上がってることだろう。親父のやけに嬉しそうな顔が目に浮かぶぜ…。そう思いながらふっとおばさんの家の駐車場をみるとまだ到着していないみたいにがらんと開いている。おばさんの店に行き美空が着てないかどうか聞いてみるが来ていないみたいだった。あっ、ついでに同名の彼のワゴン車のことも話しておこう。そう思い話すと快く承諾をもらう。と七海がいつものリヤカーに野菜をいっぱい積んで帰ってきた。“どうしたの? 健ちゃん” そう言って小首をかしげる幼馴染みにこの間話したことをもう一度話す。にっこり微笑む七海。そんな幼馴染みの顔を見てはこっちもついつい微笑んでしまう。と、ブロロロロロ…、と表で音がする。やっと来たか…。ふぅ〜っと少しばかりため息をつきつつ表へ出てみると、同名の彼が美空から文句をぶつぶつ言われていた。何があったんだ? えらく遅かったじゃないか? と聞くところによると、おおよそ俺が密かに思ってたんだが道に迷ったそうだ。美空のバイクを見失ったんだと。美空も美空で着いてきてるものとばかり思っていて、後ろを振り返ったときにははぐれた後だったそうだ。“全く…。お姉ちゃんの後をついてきてると思って安心してたらこれだ!” そうぶつぶつ言う美空にぺこぺこ謝っている同名の彼。そんな彼の姿が一瞬俺に見えたことは言うまでもない。
「おお、健次の知り合いの片瀬君だったか、まあ上がりなさい」
親父がそう言ってスリッパを揃える。妹は何だか知らんが嬉しそうに“上がって上がって〜” と健二たちの荷物を持とうと躍起になっていた。まあこいつの考えてることなんてお見通しだ。向こうの健二の妹の雪希ちゃんにでも料理を習おうとか思ってるんだろう。前に健二の家に行ったときに料理を教えてもらってたっけ。家に帰ってからしばらく献立がその教えてもらった料理ばかりになってたけどな。しかもどこをどう間違えたのか恐ろしくまずいもんになってて親父と2人、眉間に皺を寄せながら食べたもんだ。“あの、これ、つまらないものですが…” と雪希ちゃんが親父に菓子折りを渡している。相変わらず出来た子だよなぁ〜。うちの妹とは大違いだ…と思ってると親父が“是非うちの娘に”、と言って後ろでどす黒いオーラを出した妹に投げ飛ばされたことは言うまでもない。
七海とおばさんたちも家に呼ぶ。親父は少々どぎまぎしながらおばさんと一般世間で言う世間話をしていた。その他のうちの女性陣も話に花を咲かせていた。男2人そんな風景をぼ〜っと眺めている。そう言えば、夜釣りに連れて行ってってやる約束をしてたんだっけか。そう思っていつぞやの話をすると健二も“行きたい”と言うので早速釣り道具を用意して、“ちょっと釣りに行ってくるわ” と親父に言うと“ああ、あまり遅くまでするんじゃないぞ〜” と言う。まあさしてそんな一晩中粘ろうとは当然思っていない。と言うか明日メインの秋祭りがあるわけだし、同名の彼も疲れていることだろうからな? そう思いながら家を出た。磯もいいが初心者の健二には磯場はちょっと難しいだろうということで、浜辺での投げ釣りにしよう。そう思い夏によく来る浜辺に連れて来る。空には星が無数に煌いている。田舎と言うこともあり都会じゃこれほどの星は見られないのか健二は空を見上げたままだ。まあ都会じゃこれほどの星空は拝めんだろうしな? そう思いながら釣りの準備に取り掛かる俺。そのうちにハッと気がついたのか、“す、すみません。健次さん。俺も手伝います” と言うがもう支度は済んだ後だったので、釣竿を渡してこう言う。
「ああ、いいっていいって。もう済んじまったから。それよかきれいだろう。ここの星空は…。ちなみに夏もきれいなんだぜ?」
そう言って俺も空を見上げる。都会から引っ越して10数年が経つ。今じゃ俺もどっぷり田舎暮らしに浸かってしまったわけだが、初めてここに来たときはこうじゃなかったもんな? ある意味同名の彼と同じか…。そう思うと俺も田舎もんだな…。そう思う。で肝心の釣りはと言うと、キスを10匹程度釣った。と言うか釣ったのはほとんど俺だけどな? まあ釣り初心者にしては餌の点け方とかも見様見真似で点けていたし一回見本を見せるとそれに続いて投げていたから下手なことはない。むしろ上手いほうだ。家のほうを見るとまだ電気が点いているからまだガールズトークで盛り上がっているんだろう。そう思いながら釣竿を仕舞ってクーラーを担いで帰る。家に帰ると同名の彼の従姉で俺の恋人とと同じくらいの背丈の彼女が出迎えてくれる。
「何匹ぐらい釣れたの?」
と聞くのでクーラーの中身を見せる健二。“10匹程度ってところか”、と言いながら釣った魚を触っている。“そのでかいのがお前の彼氏のだ” と俺は助け舟を出してやる。同名の彼はびっくりしたような顔でこっちを見ていたが俺は彼女には分からんように目配せをして言ってやった。せっかくの釣りだ。彼女にはやっぱり良いところを見せてやらんとな? そう思って言う。“すごいじゃない、あんた” と言って釣った魚を見ている彼女に“すみません、そしてありがとうございます” と耳元で囁く同名の彼。そんな彼に肩をぽんぽんと叩く俺がいた。
次の日になる。いよいよ今日が祭り本番なわけでうちの親父はおばさんともども連れ立って出かけて行った。同名の彼と一緒に軽く朝食をとる。ちびっこい俺の従姉は朝は相当に遅い。よくこんなので職場に通っているもんだと思う。向こうはどうかな? そう思ってカーテン越しに目を凝らして見てみると、多恵先輩が起こしている姿が見える。まああいつの場合相当必死に起こさないと起きないから、先輩頑張ってくれ…。そう思い隣の部屋をのぞくと雪希ちゃんが嬉しそうに海を眺めている。“おはよう、昨日は眠れたかい?” と聞くと、にこっと微笑んで“おはようございます。健次さん。あっ、はい。ゆっくり休ませてもらいました” と言いながらうちの妹と何やら話をしている。そういや同名の彼の彼女もうちにいるんだっけか? 俺の彼女と従姉と一緒に…。まあちびっ娘3人衆とは言ったものかと思ってちょうど良いから起こしにいってやるかと部屋の前に立つ。ちょうど雪希ちゃんの様子を見てきた健二と2人立って、こんこんとノックするが起きている気配がない。大方うちの従姉に付き合って夜中過ぎまで話していたんだろうな。苦笑いを一つ浮かべて、いつものように戸を開けるところが偶然にも着替えの真っ最中だったわけである意味ラッキーすけべと言う感じだったのだが、普通ならばここでキャーッと言う悲鳴でも上げてくれれば良かったのにこの時に限っては3人ともしくしく泣き始めてしまい俺は健二と一緒に女の子の着替えを覗いた覗き魔と言うレッテルを張られ、なおかつその後でびんたを喰らわされてもみじ色の手形がはっきり出来てしまっていた。何で親切に起こしに行ったのにこんな仕打ちを受けにゃならんのだ? とは思うが着替えを覗くこと=女の敵と言う思想が根付いているためもうどうすることも出来なかった。
「全く…、うちの男連中は…。デリカシーって言うものがないのかしらねっ?!」
ひかりがそう言って俺の顔を睨みつけてくる。はぁ〜…。せっかく俺が珍しく早起きしたついでに起こしてやろうと思ったらこれだ。最初から起こさなけりゃよかったな? とは思うが、こうなってしまうわけで。まあ戸を開けて中を覗いた時点でこうなることは目に見えて分かっていたのだが、それなら何で“今着替え中”とか言う声を出さんのか! と思うが、俺の反論は許されず、なおかつすでに正座をさせられている状態だった。向こうは向こうで美空と清香ちゃんにこってり絞られてるわけだが向こうのほうが断然いいわいっ!! と思う。と言うのももうお気づきであろうから何も言わないが(って誰に向かって言ってるんだ? 俺は…)、向こうで虎が獲物を捕らえるが如くぐぐぐっと睨みつけている我が妹の存在がある意味恐怖の的になってしようがない。そう思ってると“お兄ちゃ〜ん。何でそんな怯えた目であたしを見てるのかなぁ〜?” と言うある意味死刑宣告のような声が聞こえてくる。あとはお約束の妹の十八番である巴投げを喰らって5メートルふっ飛ばざれた挙句に、どこをどう聞きつけてきたのか多恵先輩にくどくどお説教を聞かされる始末。向こうは向こうで清香ちゃんが呼んだんだろう隣り町に住む麻美ちゃんに“めっ!” と言われて真っ白になっている同名の彼がいたわけだ。とほほ…。
そして…、こってり絞られた後はお約束のお財布状態が待っているので今から財布に中身を頭で考え中な俺。同名の彼も同じことを考えていたのだろう。目が合うと“大変ですね?” と言うような顔をしてくるので、俺も“そうだな?” と言うような顔になってそれを見ていた俺と同名の彼・両方の彼女に、同じ苦手な先輩にチクられてそれが元でまたぶつぶつくどくどお説教を受けることになった今日10月23日は同名の彼、片瀬健二の彼女・小野崎清香ちゃんの、その3日後の26日は俺の彼女・鮎川美空の誕生日だ。
END