ジャムとイチゴの狂想曲

第3話 祐一有罪確定会議


 俺たちは、秋子さんに承諾をもらうため、水瀬家に戻った。航さんと花穂ちゃんにも、秋子さんに紹介したいため無理を言ってついてきてもらう事にした…。まあ、秋子さんのことだ。
 航さんたちはあゆのことなんかで知っているんだろうが…。二人とも“そんなことかまわないで…”と言って微笑んでいる。…元はと言えば名雪たちが悪いんだ。主犯は、やはり名雪と栞だろう…。
 あいつらは、最近俺があまり奢ってやらない事に腹を立てていたんだ。だからこんな事を企てたに違いない。
 だいたい、いい子の舞や佐祐理さんたちがこうやって俺を訴えるなんてあるわけがない。きっと秋子さんの謎ぢゃむに脅されてこんなことをしているんだろう。
 そうして俺を犯人にして一生イチゴサンデーやジャンボミックスパフェデラックスを、奢らせるつもりなんだ…(怒)。その時俺は、そう考えていた。それが間違いであると気付くのは、後になってからのことだ…。
 理不尽だ! あまりにも理不尽過ぎる!! 俺は怒りと復讐心を胸に秘め、そう思っていた。
「了承……」
 秋子さんは一言そう言った。航さんたちには秋子さんと話をしてもらって、その間に俺は一週間分の着替え、その他諸々を用意した。あゆも、俺と同じように用意をしていた…。
 秋子さんと航さん(航さんの父さん・母さんも含めて…)は、あゆのことで旧知の仲だったらしく8年前からの付き合いらしい。階下で楽しそうに話している声が聞こえていた。
 俺たちは荷物を手に二階の階段を降りてくる。名雪はまだ帰ってきていないみたいだった。
「じゃあ、祐一さん、あゆちゃん…。一週間後…。ここで…」
「はい、秋子さん。それじゃあ、行ってきます…」
「秋子さん…、じゃあ、行ってくるよ……」
「はい。それじゃ、向こうの人たちに会ったら、よろしく言っておいてくださいね?」
「「はい!!(うん!!)」」
「秋子さん……。祐一君の事は僕たちに任せてください…。あゆや祐一君がいないのは、少し寂しいかもしれませんけど……」
 秋子さんは少し寂しそうな顔をしていたが、にっこりと微笑んで俺たちを見送ってくれた……。
 そうして、俺たちは航さんたちの家(教会の孤児院)に向かうため、駅の方へと向かっていた。あゆは自分の家にでも帰るようにニコニコしていた。現にあゆは8年前までそこに住んでいたんだから、当然といえば当然なのかもしれない…。
 前にも言ったかもしれないが、航さんたちの家は隣町にあるため、電車で行かなければならなかった。名雪の方がどうも気になるなぁ…。そう思っていた俺に…、
「祐一君…、名雪さんたちのことが気になる?」
 航さんは微笑みながら、そんな事を言う…。って、ちょっと待て! これは俺の心の声だ。まさか……。
「へっ? 何で分かるんです? ひょっとして、俺……」
「うん。今、口に出してたよ? 祐一君?……」
 あゆが、微笑みながらそう言った。航さんはおかしいのか、くすくすと笑っている。
「ぐあっ。またか? これは俺の癖なのかっ?」
 そう言って俺は頭を抱えた。様子を見ていた航さんは笑いながら…、
「あはははは、僕も君と同じような癖があってね。いつも妹たちに笑われるんだよ…。だから同じ人がいるんだなぁ〜って思ってね。傷ついたのなら謝るよ…。この通り…」
「祐一君と、航お兄ちゃんって何だかよく似てるよね〜。って、航お兄ちゃんは昔からかなぁ? うふふっ。ねぇ、花穂ちゃん。花穂ちゃんもそう思うよね〜?」
「うん。似てる。似てる。花穂もそう思うよ〜。うふふっ…」
「「あ〜っ? 花穂〜?!(花穂ちゃ〜ん?!) あゆ〜?!」」
 俺と航さんの声が重なった。花穂ちゃんとあゆは、俺たちを嬉しそうに見つめていた。
「………でもそんなに心配なら、僕の妹に探らせてみようか? ………お〜い、四葉ぁ〜。いるんだろ〜?」
 俺が心配しているのを見て、航さんは大きな声で妹なんだろう一人の名前を読んだ…。と、木の上のほうから…、
「チェキ〜ッ?!」
 そう言う声がして、女の子が落ちてきた。ドテンッ、と木から落ちたその子は…、
「あう〜っ。イタイデスぅー!! 膝を擦り剥きマシターっ」
 そう言うと涙目でこちらを見つめている。航さんは慣れたもので……。
「大丈夫かい? 四葉…。僕のことチェキするのもいいけど、ほどほどにね。四葉がケガしちゃうと、みんなが心配しちゃうし…、僕だって心配だから……。ねっ?」
 航さんはすぐに、四葉ちゃん?のところへ行って、笑顔で優しく諭していた。さすがは、牧師の息子だ…。こういうところは俺も見習わなければな…。
「アリガトデス、兄チャマ…。あゆ姉チャマも久しぶりデスぅ。あっ、初めましてデス、祐一兄チャマ。四葉は、海神四葉って言いマス。以後、よろしくデス。……でも、兄チャマ。四葉がいることがよく分かりマシタネ。さすがは四葉の兄チャマデス!」
 四葉ちゃんはペコッとお辞儀をする。俺は「ああ、よろしく」と単簡に答えた。ふと疑問に思う…。
 この娘は木の上のどこで俺たちを見ていたのだろうか? いや、それ以前に気配を感じなかったぞ? どうなってるんだ? と、そういうことは全く疑問に思うことなく航さんと四葉ちゃんの話は続いていた。
「あはは、伊達に四葉の兄を13年間もやっているわけじゃないよ…。ところで四葉…」
「分かってるデス。こっちにいる祐一兄チャマのお友達の動向を調べるんデスネ? じゃあ、チェキッと調べてくるデスぅ〜。早く帰るつもりデスから、晩御飯残して置いてクダサイデスよぉ〜」
 こっちを見てそんな事を言ったかと思うと、四葉ちゃんは走っていく。が、急にUターンして帰ってきた。
「テヘヘ…。四葉、祐一兄チャマのお友達のお名前聞くの忘れてマシタ…」
 俺たちは、見事にずっこけた……。


 祐一とあゆが航たちと電車に乗ろうとしていたその頃…。ここ、百花屋では…。祐一の隠密・四葉が物陰に隠れ、中の様子をじっと窺っていた…。
「あっ、あれが名雪姉チャマデスネ〜。チェキするデスぅ〜」
 祐一の隠密が隠れているとも知らず、名雪たち・対祐一検察側は祐一有罪確定会議なる会議をしていた。
 名目上は会議ではあるが、ようは甘いものを食べて祐一の悪口を言い合うというものである。
 しかし、今回は様子が違う。というのも、検察側証人の間で亀裂が生じ始めていたからである。
「う〜。お母さん。ひどいんだお〜!!」
「そうですっ! 祐一さんの肩ばかり持つなんて…。そんなことする秋子さん嫌いですっ!!」
「そうよぅ!! 祐一にだけ優しいだなんて不公平よぅっ!!」
 そう言った三人は対祐一強硬派。すなわち、名雪、栞、真琴である。
「でも、相沢君の言うことも少しは信じてあげていればよかったんじゃないの? あたしたちがあのときに声をかけていればよかったわけだし……。第一、尾行なんてしたらダメだと思うのよ…。それに…、相沢君にだって事情っていうものがあったと思うし…。だいたい、あの相沢君が本気であたしたちの悪口を言うと思う?」
「あははー。そうですねー。祐一さんが佐祐理たちの悪口を本気で言うはずありませんよー。ねっ? 舞」
「うん……。きっとあれは冗談…。祐一が私たちのこと…、嫌いになるはずない……」
「…そうですね。相沢さんがそんなこと言うはずありませんし…。相沢さんはああ言うところではいつも冗談しか言いませんから…。もしかしたら、私たちのほうが間違っていたのでは?」
 そう言ったのは対祐一穏健派の四人。香里、佐祐理、舞、天野である。
「みんな甘いんだお〜。祐一は絶対クロなんだお〜。ねぇ〜。栞ちゃん? 真琴?」
「そうですっ! 祐一さんがみんな悪いんですっ!! 祐一さん嫌いですっ!!」
 そう言って気炎を上げる二人。だが、真琴は一人…、
「あ、あぅ〜」
 と、気のない返事をする。真琴の親友である天野美汐は、すでに対祐一穏健派のメンバーの一人となっていたからである。最初はぶりぶりと怒っていた天野の変容ぶりに真琴の動揺の色は隠せなかった。
 真琴の動揺を見た名雪は真琴にしか聞こえない声で…、
ふっふっふっ、ジャムだお〜。オレンジ色のジャムだお〜。お母さんのジャムだお〜。ふっふっふっ……
 それは、あたかも呪いの言葉のように真琴の頭の中に入っていく…。真琴は……、
「あっ、あぅ?!! 祐一が悪い…。祐一のバカ…。祐一の鬼…。祐一の悪魔…。祐一のすかぽんたん……」
 などと目の焦点が定まらないまま、ぶるぶると体を震わせてそんなことを呟いていた。
 名雪は「ふふふ」と邪悪に微笑むと、検察側証人が一致団結して祐一を有罪にもっていくよう、命令口調でこう言った。
「だお〜っ!! みんなで祐一を有罪にもっていってイチゴサンデーを一生おごらせるんだお〜!! 敗訴したりなんかしたらジャムの刑なんだお〜。ついでにわたしに逆ってもジャムの刑なんだお〜!!」
「ええっ??」×
 そこにいた8人全員が凍りついたのは言うまでもない。8人? 7人の間違いじゃないかと思われる諸君もいるだろうが、8人である。ではその8人目とは誰か……。
「いいんだ…。いいんだ…。どうせ俺なんて…、ほんのチョイ役さ…。ううう…(泣)」
 部屋の片隅で体育座りをし、滂沱の涙を流して夕日にたそがれる…。北川潤、その人だった…。
「これは大変なことになったデスぅ。すぐに兄チャマに報告デスっ!!」
 四葉はそう呟くと、名雪たちに気付かれないようにしながら孤児院(四葉たちの家)へと向かった。
「……くっ、あ、相沢ぁ〜。お前ばかりがなぜモテるんだっ! 相沢ぁ!! 俺は、俺は必ずお前を地獄の底へ叩き込んでやるぅ〜!! ついでに美坂もあのバカの魔の手から救い出してやるからなぁ!! 待ってろよ〜っ、美坂ぁ!!」
 百花屋からの帰り道…、北川はもうとっくに沈んだ冬の夕日に向かって、一人吠えていた…。近所迷惑ったらありゃしない。どこかの親父に怒鳴られそうだ…。その後、案の定北川は…、
「うるせぇぞっ!! ちっとは静かにしろぃっ! まあったく、近頃の若いもんは……。おぅ、そこのアンテナ野郎っ! ちっと、そこに座れいっ! 俺が若い頃はなぁ……。ぶつぶつぶつ……」
 タイヤキ屋の親父に説教を食らっていた。しかし、転校生・相沢祐一に高校の綺麗所、すべてを持っていかれた男子生徒全員にかわっての復讐…。そして、恋人(?)の奪還を誓う、北川潤18歳であった…。

第4話へ続く