ジャムとイチゴの狂想曲

第4話 あゆと海神家


「と言うわけデス」
 俺は今、航さんの家(孤児院)にいた。家を見て俺はびっくり。花穂ちゃん、四葉ちゃんを含め、女の子が12人。一番上の咲耶さん・千影さん・春歌さんの3人は俺より1つ上、舞や佐祐理さんと同い年ということだった。だから大学一年生だろう…。
 舞と佐祐理さんはこの春、高校を卒業して近くの大学へ通っている。聞けば咲耶さんたちも同じ大学へ通っているということだった。ちなみに航さんは昨春、キリスト教系の大学を卒業したばかりらしい…。
 個性的な妹が12人もいる家庭。その全員が何かの理由で両親を失った孤児だ。でもここの子達は全員素直で優しい。あゆもこういう環境で育ったのか……。俺はそう思った。
「あゆちゃんも元気になって良かったですわ…」
「ふふっ……。祐一君も…、嬉しいだろう?」
「そうね…、初恋の人だものねっ? 祐一君? よかったわね、あゆ」
「うっ? うぐぅ…」
 そう言って、俺たちに話しかけてきたのは、上から順に春歌さん・千影さん・咲耶さんの三人…。この三人は凄い。航さんに、ここに来る電車の中でそう聞かされた。でもそのことは言わないほうがいいと航さんに言われた。
 なぜって? それはここではうまくは言えないが、彼女たち三人はここら辺の不良グループをことごとく壊滅させて更正させてきたのだから…。三人をRPG風に考えてみる。
 春歌さんは侍(斬鉄剣なんかを持っていそう(笑))、千影さんは黒魔導師(メテオ・フレア・アルテマなんか唱えられた日には…(死))、咲耶さんは武闘家(ドラゴンクローなんて持たせたら…(汗))、と言う具合だ。
 それを聞いたとき、謎ジャムを丼茶碗いっぱい(しかも三杯…)ついでアークデーモンと化した秋子さんに“食え”と言われているくらい怖かった…。でも、そのことを言おうものなら俺はこの世から抹殺されるだろう…。それくらいの恐怖をひしひしと感じた…。
 咲耶さんと千影さんの声は、あゆと香里の声に似ている。特に咲耶さんの声は、あゆに瓜二つと言った具合だ。もし、咲耶さんが「うぐぅ〜」などと言おうものなら…(汗)。
 しかし、見た目に違うよな。咲耶さんはスタイル抜群。あゆは…、悲しいかな。幼児体型のお子様だ…。
「うぐぅ〜。ボク、お子様じゃないもん。祐一君と同い年だもん…」
「ああっ。私って、なんて魅力的なのかしら?……。でもだめよ、祐一君。私にはお兄様がいるんだから…」
「またか? またなのか?」
 あゆはジト目で、俺を睨む。咲耶さんは夢見心地でそんな事を口走っていた…。いい加減この癖…、治さなきゃな…。俺はそう思った。…と、
「……兄チャマ! 祐一兄チャマ!! 聞いてるんデスカ?」
「へっ?」
「聞いてなかったんデスネ…。もう!」
 四葉ちゃんはぷぅ〜っと頬を膨らませている。今現在、俺は四葉ちゃんの「名雪たち・対俺連合」への偵察の報告を受けていた。俺の席は、真ん中…。右隣は、航さん。左隣には、俺の弁護をしてくれると言う鞠絵ちゃん。
 鞠絵ちゃんは、栞と同じ病弱な女の子だった。ついでを言うと、俺は知らなかったんだが、栞と鞠絵ちゃんは同じ病院に入院していたらしく気の合ういいお友達だったらしい。鞠絵ちゃんからそう聞かされた。
 二人を比較してみる。栞は、悲しいかな(どこからどう見ても)小学生のお子様だ。一方鞠絵ちゃんはと言うと、お淑やかで思慮深い、日本女性の鏡のような存在だった(これを言うと春歌さんも同じなんだが…)。
 お子様な栞なんかと比べてはいけない気がする…(笑)。これで、栞の方が年上なんだから驚きだ…。
 その他、機械いじりが大好きな鈴凛ちゃん(反物質反応炉は凄かった(驚))、お料理大好きな白雪ちゃん(ご飯をご馳走になったのだが、とっても独創的な味だった。まるで栞の絵の様だ(笑)。でも味はとても美味しかった…)、スポーツが大好きな衛ちゃん(この娘はあゆと同じボクっ娘らしい…)、音楽が大好きな可憐ちゃん(得意なピアノ曲は、シューベルトの「魔王」らしい(怖))…。
 で花穂ちゃんと、一番小っちゃい雛子ちゃんと亞里亞ちゃんの二人、そして、この最強三人衆と言う面々だった。
「で、四葉。分かった事は?」
 航さんは、いまだに膨れている四葉ちゃんに向かって言う。
「あっ? はいっ。兄チャマ。どうやら、意見が分かれているみたいだったデス。名雪姉チャマと、栞姉チャマは祐一兄チャマの悪口ばっかり言ってたデス…。あとの四人の姉チャマたちは祐一兄チャマに謝ろうと…。真琴姉チャマはどっちつかずといった状態デシタ。あと名雪姉チャマと、栞姉チャマがオーダーしたのがストロベリージュースだけデシタ……」
 ノートを見ながら四葉ちゃんはそう言った。くぬぬ…、あいつらめ。裁判で俺に勝ってイチゴサンデーやジャンボミックスパフェデラックスを、これ以上ないと言うほどに奢らせる気なんだ。
 こん畜生め! 俺は心の中でそう叫んだ…。四葉ちゃんの話は続く…。
「どっちつかずの真琴姉チャマに、イライラした名雪姉チャマが怖いお顔で何か耳打ちしていマシタ。そしたら真琴姉チャマのお顔が青くなって、ぶるぶる震え出して、何かぶつぶつ呟いてたデス! 以上、四葉の報告デシタ…」
 ノートを閉じると四葉ちゃんは静かに座った。さっきからの四葉ちゃんの話を聞いていて、俺はますます腹が立った。名雪はついに独裁者、栞は悪の帝王となっている。
 しかも秋子さんのジャムでも中和できるほどに名雪と栞の胃腸には抗体が出来てしまっていた。それが今、名雪と栞を増長させているんだ。多分真琴も秋子さんの謎ジャムで脅されたんだろう…。
 畜生っ!! こんな不条理な事が許されるのか? 俺は絶対勝ってやる…。そう決意した。でも、どうやったらあいつらに勝てるんだろう? 勢いでこんなことになってしまった俺たち…。
 いったいこれからどうしたらいいのだろうか?…。
「こういうのはどうでしょうか?…」
 左隣に座って四葉ちゃんの話をじっと聞いていた鞠絵ちゃんが静々と言った。
「祐一兄上様に対して強硬な意見を申しているのは名雪姉上様と栞さんのお二人でしょう?…。後の人たちはみんな同じような意見のようですわ…。ですからここは、祐一兄上様に同情なされている方、祐一兄上様に対して穏健なことを言っておられる方、すなわち穏健派と呼ばれる方々をこちらに引き込むのです。こちらに引き込んでしまえば名雪姉上様も栞さんも慌てるに違いないでしょう? そうなったらこちらのものですわ…」
「でも、鞠絵…。そうなったときに私たちがいたらまずいんじゃないの? 彼女たちは少なからず祐一君に好意を持っているのよ? そのときに私たちがいたら、彼女たちの反感を買って祐一君にマイナスになるんじゃない?」
 咲耶さんは、そう言って鞠絵ちゃんに疑問を投げかける。鞠絵ちゃんは落ち着いたように…、
「ええ…。ですからわたくしたちは、あくまで交渉に失敗した時のための…。いわば安全装置ですわ。まあ、このような安全装置を働かせる前に、何とかしなくてはいけないんですけどね…」
 やさしく微笑みながらそう言った。鞠絵ちゃんの作戦、それは懐柔策…。うまく行けば、これほど有利なことはない…。もし失敗したとしても…。この娘達が俺の無実を証明してくれる。そう思うと凄く安心できた……。


 その夜……。ここ、水瀬家では……。
「だお〜っ!! 祐一がいないんだお〜。きっと逃げたんだお〜っ!!」
「そうですっ! 怖くなってどこかに身を潜めているに違いないですっ! そんなことする祐一さん嫌いですっ!」
 察しのいい二人。確かにその通りである。ちなみに栞はあの会議の後、香里と姉妹喧嘩(祐一の処遇問題)をして家出をしていた…。
 かといって、他に行くところのない栞は、結局…、名雪の部屋に居候する事になったのである。
「あぅっ? そんな事、祐一はしないと思うけど……。今までだってそうだったじゃない…。ねえ、名雪お姉ちゃん、しおりん!! もうこんなことやめにしようよぅ。元はと言えば真琴たちが祐一に奢らせていたのが悪かったんだしさ……。それに祐一が真琴たちの悪口を本気で言うと思う? 真琴はそうは思えないよ……」
 真琴はそう言うと名雪たちとの一線を隠した。真琴の心は、もう天野たち、対祐一穏健派に傾いていた。出来る事なら早く祐一に謝って、祐一に帰って来てもらいたい。祐一にこの二人の悪魔から守って欲しい。そう思った。
祐一にいたずらばかりしていた真琴ではあったが、それは祐一へのうまく言えない愛情がそうさせていたのだ。いわば、愛情の裏返しだったのである。
 真琴は裁判を止めたかった。祐一に早く謝りたかったのだ。しかし真琴の言うことなど気にも止めず、名雪と栞は祐一に対する悪口をとめどなく言っていた。
「だお〜? 真琴〜? 今、わたしたちが悪いとか何とか言わなかっただお〜? ふっふっふ、真琴がわたしに逆らった…。ふっふっふ。真琴…、わたしに逆らうとどういうことになるのか…。その身に焼き付けておくがいいお…」
 三白眼の虚ろな瞳で真琴を見つめる名雪…。髪の毛を前に垂らしているので、怖さ倍増である。殆ど映画にあったリ○グの○子のようだった。真琴は心の底から恐怖を感じた。
 今夜、ここにいれば自分は殺されるかもしれない…。妖狐だった頃の記憶が、真琴にそう語りかけていた。それでも真琴は訴えかける。この裁判の無意味さを…。
「もう止めようよぅ。祐一だって言ったら分かってくれると思うし…。本当は、いつも奢ってもらってばかりだった真琴たちが悪いんだから…。ねえ、名雪お姉ちゃん、しおりん。もう、こんなこと止めにしようよぅ……」
「嫌だおっ! 祐一にイチゴサンデー一生奢らせるんだお〜。ううう…。真琴のバカ〜!!」
「真琴さんっ!! 私たちを裏切るつもりですか? そんなことする真琴さん嫌いですよっ!!」
 そう言って、真琴を睨み付ける二人。真琴も負けじと睨み返す。真琴は、頭の線が一本切れたこの二人に言った。
「もぅ、分かったわよぅ。じゃあ、二人で裁判でも何でも頑張ることねっ!! 真琴は美汐たちのところへ行くからねっ。美汐達のところへ行って祐一に謝って許してもらうんだからぁ〜!!」
 真琴は部屋を出て行こうとする。名雪と栞は出て行こうとする真琴の背後から…、
逃がさないお…。ふっふっふっ。……ジャムだお〜。オレンジ色のジャムだお〜。お母さんのジャムだお〜ふっふっふっ…
真琴さん…。ジャムですよ〜。オレンジ色のジャムですよ〜。秋子さんのジャムですよ〜
 背後から、虚ろな目で真琴を睨みつけ、恨みのこもった声でそう言う二人…。真琴の体はガタガタと震えた。体は震えたが、真琴の心は「祐一に謝って許してもらう…」、その事ばかりだった。
 自由を求めて出て行こうとする真琴…。栞はストールを真琴の体に巻き付かせようと試みる。名雪もオレンジ色のジャムの瓶から、一匙取り出すと真琴の口目掛けて投げた。だが、真琴はその攻撃をかろうじて交わすと、ガタガタと体を震わせながら名雪の部屋を出ていった。
 真琴は、対祐一強硬派を脱して穏健派の方へと行ってしまったのだ。
 真琴が出ていった後…、暫く経って名雪がぽつり、一言こう言った。
「もういいお…。真琴なんて最初からあてにしてなかったんだし…。栞ちゃん!! 二人で頑張ろう!!」
「はいっ!! 名雪さん。祐一さんを有罪へ!! そして、祐一さんから一生奢ってもらえるように!!」
 二人の声が夜の水瀬家に木霊していた……。
 一方、その頃……。
「ぐお〜っ。ぐお〜っ。むにゃむにゃ。美坂〜。愛してるぞ〜。ぐぅ〜、ぐぅ〜」
 にやついた顔でそんな寝言を言う男…。眠っている顔が異様に気色悪い、北川潤18歳であった。

第5話へ続く