ジャムとイチゴの狂想曲

第11話 戦い


 千影と芹香は古文書の解読にまわった。葵と琴音、香里と舞は、名雪たちの攻撃に対しての防衛に正面と裏口に待機。
 咲耶と春歌と衛には万が一名雪たちが秋子たちのところへ入ってきた場合に対しての防衛として、待機している。あかりと白雪と佐祐理と秋子には解読した古文書の通りに、秘薬を作ってもらう役を頼んだ。
 四葉には、教会の尖塔で名雪たちの動向を監視してもらうことにした。鈴凛には、メカを使って名雪の家の方を偵察して随時報告…。
 可憐にはぴりぴりした現場の雰囲気を少しでも和ませるように、心が落ち着く曲を弾いてくれるよう祐一が頼んだ。花穂は、そんなみんなを応援している。マルチとあゆと真琴には、雛子と亞里亞の世話を頼んだ。
 そして、航には鞠絵を守ってもらうため、部屋に残ってもらうことにした。祐一と浩之は、謎ジャムに対抗しうる兵器を作るため、秋子たちと一緒に、部屋に残り秘薬作りを手伝うことにした。
「万全の策だな……」
 朝、作戦会議の後、浩之は部屋を見渡して一言そう言った。それに対して鞠絵は首を横に振って……。
「いいえ…、浩之兄上様…。世の中に万全という言葉はありませんわ……。これだけやったからといって自分たちを過信する。その過信が命取りになることだってあるのですよ…。旧約聖書のバベルの塔や、ソドムとゴモラなどがいい例ですわ…」
 そう言うと浩之を諌めた。浩之は、恥ずかしそうにぽりぽりと頬を掻いて……。
「そうだよな……。勝負は下駄を履くまでわからねえって言うもんな…。すまねぇな。鞠絵ちゃん…」
「いいえ、わたくしこそ偉そうなことを言ってすみませんでした……」
 そう言って微笑む二人。和やかな雰囲気が広がっていた。が……、そう長くは続かなかった。
 鈴凛の「偵察くん」と言うメカが水瀬家を出る四人の姿を捉えたのである。早速鈴凛にモニターに出してもらう。
 そこに映し出されたものは、髪の毛を前に垂らし虚ろな目をした名雪と、おかっぱ頭のこれまた虚ろな目の栞、それにオレンジ色のジャムの大瓶を抱えて名雪たちの後に続く志保と矢島の姿があった。
 謎ジャムに操られているかの如く、または謎ジャムが四人の体に寄生しているかの如く、ふらふらと孤児院の方に近づいて来ている。四葉からの報告はそう時間はかからなかった…。
 葵と琴音、香里と舞たちは戦闘配置についた。
「お母さん……。許さないんだお〜。わたしたち(謎ジャム)の嫌いなものを作るなんて……」
「秋子さん。許しませんよ……。私たち(謎ジャム)を殺るつもりですか? そんなことする秋子さん嫌いですよ…」
 もう完全に精神が謎ジャムに乗っ取られた二人はそう言いあって、ゆっくりゆっくり祐一たちのいる教会へと進んでいく。名雪たちの後を志保と矢島もついて行った。
 二人とも、名雪(謎ジャム)に操られているかのようだった。目にいつものような生気がない……。
「けんちゃ〜ん。こわいよぉ〜」
「見るな!! 日和!」
 通行人たちの奇異、恐怖の目にも厭わず、真っ直ぐに…、そしてゆっくりとその足を教会の方に進めてくる…。
 その足が、止まった…。そう、祐一たちのいる教会に着いたのだ…。ゆっくりとドアノブを廻す名雪。
 だが、昨日千影と芹香が掛けた呪術のせいで、なかなか開かないらしい。しばらくの間、ガチャガチャとドアノブを動かしていた。動かすだけは動かすが一向に開ける気配がない。
 謎ジャムの真の力を持ってすれば開くのは時間の問題だろう。だが開けようとしない。ガチャガチャとドアノブを動かすだけだ。四人はおかしいと思った。
“罠かしら…”
 と香里が思った刹那…。
「チェキーーーーーーーーーーーー!!」
 四葉の悲鳴が講堂に木霊した。上を見る。パリーンと聖人を象ったステンドグラスが破壊されて、教会の中へ瘴気を張り巡らしながらさっと飛び込んでくる二人…。そう、名雪と栞だ。名雪の肩には気絶した四葉が乗っている。
「ふふふっ……。味なまねをしてくれるお…」
 ドサッと、名雪は肩に乗っている四葉を下ろした。舞は素早く四葉を助けると奥の部屋に消えていった…。
「名雪……。あんた……。心の底まで謎ジャムに?」
「香里に…。香里に何が分かるんだお…。わたしたちの苦しみ…。香里に何が分かるんだお!! お母さんが…、お母さんがあそこで祐一を有罪にしておけばよかったんだお……。それに香里たちだって、わたしたちを裏切って…。許さない……。許さないお〜〜〜っ!!」
 名雪はギロリと香里を睨むとそんな言葉を吐き捨てた…。名雪の心の奥底に眠っていた感情…。憎しみという感情…。今、香里はこれ以上ないという恐怖を感じていた。と、その横から……、
「許せません……。祐一さん! いつもいつもいつも私のことをからかってくる祐一さん……。そんな祐一さんを擁護するお姉ちゃんたちは、もっと許せません!! 覚悟してください!! お姉ちゃん!」
「香里……。戦う……」
 戻ってきた舞は、香里にそう言った。ちなみに四葉は気絶しているだけだった。そのことを舞は香里に伝える。ほっとした、安堵の顔に香里はなった。が、すぐに険しい顔に戻ると…、
「ええ……、そうですね……。名雪、栞、あんたたちには悪いけど…、この勝負、勝たせてもらうわ…」
「ふふふ、香里、川澄先輩…。どうなっても知らないお〜?」
「お姉ちゃん…。必ず秋子さん、そして祐一さんを私たちの手に奪ってみせます。そのためには、たとえお姉ちゃんであろうとも容赦はしません!!」
「絶対に……勝つ……」
 舞はそう言うと名雪たちを睨みつけ、抜いていた剣を鞘に収めた。抜刀術だろうか…。
 香里は何も言わず威嚇するような鋭い眼光で、その手に金色のメリケンサックをはめた。戦闘モードに入る二人…。いよいよ、戦いの火蓋が切って落とされようとしていた。


 一方、裏口では……。
「葵ちゃん…。琴音ちゃん…。ヒロはどこ? 隠すとためにならないわよっ!!」
「松原さん…。姫川さん…。長岡さんの言う通りだ…。隠さないほうが身のためだぜ……」
 裏門の前で葵、琴音と対峙する、志保と矢島………。不敵にニヤニヤ笑う二人に、葵は真剣な表情で言った。
「ふ、藤田先輩はここにはいません!!」
「そうです! あ…、相手だったらわたしたちがなります!!」
 琴音も真剣な目で言う。志保は不敵な笑みを浮かべて……、
「あ〜ら、二人でかかってくる気? あたしは新たな力を得たのよ。あんたたちじゃ相手にならないわ。さあ、大人しくヒロを出しなさい!!」
 そう言うとさらに不敵な笑みを浮かべた。葵は思った。今までにない力が今の志保たちにあると…。葵の第六感がそう告げている。
 と、同時にそれは葵たち二人には抗えないものなのではないのかと…。葵はそう思った。
 横にいた琴音を見る。琴音は迫り来る恐怖に顔を引きつらせていた…。
「どうしても隠すって訳だな…。なら、容赦はしねぇぜ!!」
 矢島が動いた。謎ジャムで強化された体はまるで電光石火の如く葵たちの元へとやってくる。矢島の手にはオレンジ色のバスケットボールが握られていた。
 それはジャムをフリーズドライし、特殊コーティングして作ったものである。バスケットボールが葵たちの元へと迫り来る。反射的に避けようと思った葵だったが後ろに琴音がいることに気付く……。
 バンッ!!
 とっさの判断で、ガードした葵。手にはバスケットボールの跡がくっきりと付いていた。ボールはぽんぽんと跳ね返って、矢島の元へと返っていく。矢島は不敵に微笑むと……、
「さすがだな。エクストリームのチャンピオンは……。だけどな。オレは今、無敵なんだぜ…。へへへっ」
 そう言った。と、それと同時に志保は琴音と対峙していた。志保は琴音に向かってこう言う。
「ふふふ、琴音ちゃん…。あんたがヒロから手を引いてくれさえすればこんなことにはならなかったのに…。恨むんだったらヒロを、そして、自分を恨みなさい。あかりの心を踏みにじった、ヒロとあんた自身にね…」
 志保はおもむろに、マイクを取り出すと歌いはじめる。その歌声はまるで、毒電波のように琴音と横にいた葵を苦しめた。葵がふらっとしたところへ、矢島はボールを何度も何度も葵の体にぶつけた。
志保はチャンスとばかりに琴音を攻めた。そして……、
「さあ、二人とも…。ヒロのところへ案内してもらいましょうか?」
 立つのがやっとの葵と琴音に向かって、勝ち誇ったように言う志保。葵と琴音は黙っている…。
「……あくまでも黙ってるつもりね。ふふふ、まあいいわ。二人にはちょっと大人しくしててもらいましょう。さあ、矢島! 殺るのよ!!」
「ああ!! わかったぜ。長岡さん……。松原さん、姫川さん。あんたたちには恨みはないが、これも全部あかりさんのためだ!!!!!」
 そう言って、ジャムバスケットボールを投げようとする矢島。志保はマイクを持って毒電波な歌声を響かせようとしていた……。
「藤田先輩……」
「藤田さん……」
 志保と矢島の攻撃を受け続けて、もう一歩も動けない葵と琴音。そんな二人に、迫り来る最期の時…。
「「グットラック……」」
 そう言うと二人は、攻撃態勢に入った。まずは矢島が攻撃を加えようとする。矢島は渾身の力を込めて葵と琴音目掛けてそのジャムバスケットボールを投げつけた。もう駄目だっ! 葵と琴音は目を瞑る。その刹那…、
 バンッ!!
 という大きな音がして、矢島の武器であったジャムバスケットボールは破裂した。葵と琴音は恐る恐る瞑っていた目を開けた。そこには、真っ赤な手袋をした男が一人、立っていた…。
「へへへっ、すまねえな。葵ちゃん、琴音ちゃん。あかりたちに頼んで、この野苺入りの手袋を作ってもらってたんだ。おかげですっかり遅くなっちまったぜ…」
「ふ、藤田先輩!!」
「藤田さん!!」
「げっ!! ヒ、ヒロ!!」
「ふっ、ふっ、藤田!!」
 葵と琴音は歓声をあげた。対して志保と矢島は驚愕の声…。そこに立っていた男は葵たちの一番信頼している男性、そして志保たちの最も恐れる男…。藤田浩之その人だったからである。浩之はギロリと志保と矢島を睨む。志保と矢島は驚いた。
 それ以前にもう、野苺が完成していることに恐怖した。志保は…、
「ふ、ふんっ!! よよよ、よくここまで来たわね。ヒ、ヒロ。こ、こ、ここがあんたの墓場となるのよ…」
 恐怖に顔を引きつらせながら志保はまだ強がりを言う。攻撃も出来たのだろうが、矢島の武器が一撃で破壊されたことに志保は動揺していたのだ。
 志保の口調を聞いて精神的に有利になったとみた浩之は、不敵に笑って…。
「へっ! その言葉、そっくりてめぇに返してやっぜ!!」
 そう言うと真っ赤な手袋を手にゆっくりはめ直した。はめ直すと、浩之は志保と矢島の方へと向かっていく。恐怖に顔を引きつらせる二人。
 ジャムで強化された人間とは言っても、もともとは普通の人間だった二人だ。ジャム汚染は比較的浅い。名雪や栞のように心の奥底までもジャムに汚染されているわけではないのだ。
 何の抵抗も出来るわけもなく、ただただ恐怖に身を震わせる志保と矢島。と、浩之は志保と矢島目掛けて走り出した。勝負に出たのだろう…。と同時に……、
「琴音ちゃん!! チカラであいつらの足を封じてくれ! 葵ちゃん!! 崩拳だ! 矢島に崩拳食らわせろ!」
 そう言う浩之。不思議と浩之に言われると元気が戻ってくる葵と琴音。二人は元気に言った…。
「「は、はい!!」」
 琴音はチカラを使って、志保と矢島の体を動けなくした。そして矢島の動けぬ体目掛け、葵の崩拳が炸裂した。浩之も志保の鳩尾目掛けてパンチを見舞う。
 程なくしてオレンジ色の粘着性のある物質を口から吐き出し、志保と矢島は「うぷっ」と悲鳴にも似た言葉を発して倒れた…。浩之は、ふぅ〜っと息を吐くと、
「……まあ、これで一段落だな…。葵ちゃんも琴音ちゃんもありがとうな。後は…、表だけか…。……さっ、さあ、二人とも、こいつら、ここにのさばらしてっと、後が怖ええからな。秋子さんたちのところに運ぶぜ…」
 そう言って、矢島の手を自分の肩にかける浩之。葵たちは志保の手を自分たちの肩に担いで、秋子たちのところへと戻っていった。浩之は心の中で思った…。
“負けんじゃねえぞ。相沢…”
 と……。

第12話へ続く