たまにはこんな団体旅行
ぶす〜っとした顔が2つ俺の間抜け面を居貫いている。と言うのも去年の10月、このちびっ娘2人の誕生日を忘れていた俺はこうやって非難の目を延々半年近くも向けられているわけだ。思い起こせばあの日の前日くらいからぞくぞくと風邪の症状が出ていたわけだが無理をして学校に行っていたのが悪かった。風邪から気管支炎になりのマイシスターが慌てふためいてぽんこつさんに助けを求め〜のマイシスターよりおろおろあたふたしたぽんこつさんから初音島の近くの大学病院に緊急搬送され〜の大変だったわけで…。1か月くらい入院治療を続けて退院したのが寒風が身に沁みるようになった11月の末でこのちびっ娘2人の誕生日なんぞこれっぽっちも思い出せんかったのが運の尽き。今こうやって睨まれながらの生活を送っている。学校では清香、家に帰れば美空姉と役割分担しているところに微妙な悪意を感じるわけだが。そうは言ってもいつも何がしらなことをやっているのに今年(正確には去年なんだが)誕生日を開かないと言うことは何だか後味が悪すぎるし、こんな顔を延々見続けている俺にとっては精神的苦痛が計り知れない。と電話だ…。とマイシスターが進藤と勉強会でいない部屋を見渡して1人受話器を取ると同名の先輩からだった。
「おう、健二。久しぶりだなぁ?」
と健次さん。向こうは向こうで近況なんぞを話しているし俺も俺で話した。と言うか入院生活からこっち蛇に睨まれた蛙状態であることなんかを事細かく話す。と隣りで何やらぶつぶつ文句を言う声が聞こえてくるが関係ないやいっ!! とばかりに話した。話し終えると健次さんが、“お前も大変だったんだなぁ〜” と労をねぎらう声を掛けてくれる。やっぱり分かってくれる人には分かってもらえるもんなんだなぁ〜と思って感極まって思わず涙がちょちょ切れそうになるがすんでのところで堪えた。と健次さんが、“ひかりの誕生日会を1泊2日でするんだがもし都合が空いてたらどうかと思って電話したんだけどよ” と、まさに天の助け的なことを言ってきてくれる。否も応もないと思って即座にOKの返事を出す俺がいたわけだ。
春休みのとある日、俺たちは電車に揺られていた。まあ今年も何やかんやあって旅行に来ているわけだ。友達である藤田から電話をもらったのが1週間前。そこから話はとんとん拍子に進み、今現在に至っている。まあ俺も美春とアリスには何かしてやらんとなぁ〜っとか考えていたので、藤田から電話がかかって来たときにはラッキーってなもんで喰いついたわけだが…。にしても女の数のほうが多いよなぁ〜っと思うわけだ。藤田のところのメイドロボ・マルチ始め芹香先輩やら藤田の彼女の神岸やら後輩やなんかを含めると10人は越すし、俺のところもそれくらいはいる。あと1年前に藤田とともに友人関係を構築した友坂のところのひかりさん? の誕生日が近いと言うことで一緒に旅行に行くことになった。加えて友坂の後輩である片瀬の同級生・小野崎? と従姉で友坂の遊び仲間である鮎川? の誕生日を去年やり忘れていてぶりぶり怒られて青菜に塩状態の片瀬に助け舟を出したんだろう、先日の電話で、“どうしてもあと7人ほど増えると思うんだがいいか?” と藤田に言ってきたそうだ。まあその辺の詳しいいきさつは俺は知らないが上手くいったんだろう。そう思ってると藤田がこっちにやってくる。“お疲れさん” と言うと、“ああ、オレ自身は何もしてないから言うんだったら先輩に言ってくれ” と言う。今回の旅の総元締めである先輩に電話をして、難なくOKをもらったんだそうだ。じゃあ先輩にと挨拶しに行ってみると、友坂が片瀬? を伴ってもう先に来ていた。“いやぁ、良かったよ〜。ありがとうな。芹香先輩。字が違うけど同じ名前だからこいつが叱られる姿を見てるとこっちまで叱られてるような感覚になってな?” などと言っている。どう言う感覚なんだ? そりゃ…。とは思ったが俺も昔親に怒られていて偶然居合わせていた義妹が泣いてしまって往生したことがある。その感覚に近いのか? と思った。
まあそんなこんなで駅に集合する面々。おなじみの顔もあれば久しぶりの顔や今回初めてな顔もあったりする。初参加の片瀬は少々緊張しているのかドギマギした顔が目にとれた。“まあそんな固くなんなって…。とって食ったりしねーんだからよ” と片瀬の肩に手を掛けて言う藤田に、同じく友坂も、“せっかくの旅行なんだ。楽しくいこうぜ” と言う。“そうですね。楽しませてもらうッス” そう言って緊張の糸が解れたのかほっとした様子になる片瀬がいた。“で…、藤田、今日はどんなところに連れて行ってくれるんだ?” と俺。“いやぁ〜、オレも詳しくは知らねーんだけどな。芹香先輩の御用達のところとかなんとか…” と藤田が言う。話を聞くところによると、とある日の午後、そろそろマルチの誕生日だよなぁ〜っと先輩と話していると、“それでしたらちょうどいいところがありますから、そこにしませんか?” と嬉しそうに言ってきたんだそうで…。ちょうど何かはしないとなぁ〜っとは考えていた藤田だったんだが、具体的に何をしようかと思案中だったのでこの申し出は本当にありがたいと思ったと話しているわけだ。“じゃあそこ、そこにしようぜ。先輩!” と手を取って言う藤田に薄く微笑んだ先輩の顔が何とも可愛かったのが印象的だったことは言う間でもなかったと述懐している。
昼飯に七海たちの作った弁当を食う。片瀬の妹の雪希ちゃんの弁当も摘まんでみたんだが相変わらず美味かった。まあ藤田のところの神岸や松原や姫川や雛山、朝倉のところの水越姉妹や鷺澤や胡ノ宮なんかも料理上手なわけでいろいろとつまんだりし合って電車の旅を満喫する。しかし春休みともなると観光客で一杯だな? と穏やかな海岸線を走る電車の車窓を眺める俺。遠くのほうではもう潮干狩りなんかをしている家族とかもいたりして長閑な風景が広がっていた。と横に座った妹が、“記念写真でも撮ろうよ? お兄ちゃん” と言うので1枚撮ってもらった。デジカメだからその場で見られるので見てみると、朝倉のところの幽霊女・霧羽が俺たちの横でピースサインなんぞを作っていた。前に1回藤田のところの来栖川先輩の魔法で完全体として出てきたことがあったわけだが、全然変わってねえなぁ〜とか考えてると静電気が頭にびしっと当たると同時に、“変わってなくて悪かったわね?!” と言う女の声が聞こえてくるわけだ。
これが例に言う霧羽の声か? と思う。朝倉のほうを見るとビシバシ静電気が飛んでいた。デジカメをそっちのほうに向けてモニターを 見ると空中に浮かんだ女がぷく〜っと頬を膨らませながら朝倉の頭をバシバシ叩いているところが見える。まあ俺の腐れ縁な従姉といい勝負だな。おい。と向こうのほうでぺちゃくちゃくだんねー芸能話に花を咲かせている女のほうを見る。まあいろいろな関係が築けるこんな場所は結構貴重だな? と思う。強いて言うならあのマシンガントークな女2人がとてつもなくうるさいわけだ。と言うか片瀬のところの進藤は今日は輪をかけて良く喋るよなぁ〜。っと片瀬のほうを見るとはぁ〜っと深いため息をついている。よくもまあ次から次から言葉が出てくるもんだよな。藤田のところの長岡もまあうるさいわけだが、それに輪をかけてうるさいわけで…。とこっちのほうを見ればこれまた片瀬のところの神津が主催者である藤田のところの来栖川先輩や朝倉のところの水越先輩や多恵先輩なんかと景色を見ながら餅を頬張っている。まあ極端な静と動に分かれたもんだ。これが所謂“類は友を呼ぶ” って言う状態か? とも思いながら電車にまた揺られる。遠くの山々には残雪がまだ残っていてそれが通る列車の軌道の横の菜の花畑の黄色い花とのコントラストが見事なわけで…。カシャッと携帯のシャッターを切る俺がいた。
旅館には5時ごろに着いた。と言うかここって前に一回綾香と葵ちゃんと山籠もりをして死ぬほど散々な目に遭ってそのあと泊まった旅館じゃねーのか? と思ってると、“まあ姉さんも浩之と一緒にお風呂に入りたかったんじゃないの〜。憎いわねぇ〜。この色男” と綾香に肘でついついやられる。葵ちゃんは葵ちゃんで友達である琴音ちゃんやほか今日仲良くなった女の子なんかに旅館のことを話している。男部屋と女部屋に分かれるのだが当然女のほうが多くなるのは必然と言っちゃあ必然か大部屋は女に取られちまった。まあ男5人で大部屋なんて言うのもおかしいしな。と思って何の気なしにカメラのモニターを覗くと、いやがった。女幽霊・香澄。朝倉にそのことを言うと、“まあそのうち退屈になって出て行くだろ…って! いたっ!” と静電気攻撃を受けたのか頭を擦っている。朝倉から聞いた通りオレも念を飛ばしてやると、“あたしはこじんまりとした雰囲気のほうが好きなの!!” と言いながらモニター越しに怖い顔をしてくる女幽霊。いや、しかしだな? 霊体とは言え女なんだから大部屋に行ってもらわんと…。とさらに念を送ると、“え〜っ? 別にいいじゃないのさ〜? 減るもんじゃなし…” などと訳の分からんことを言う。これはもうあれだ。オレの不倶戴天の敵で、歩くスポーツ新聞の3面記事であり、またムードメーカーな存在な志保をさらに強力にした存在だな? 生きていたらひっちゃかめっちゃかにされそうだ。しかし出て行ってもらわんといろいろと困ることもあるわけで…。相手は相手でむむむむむむぅ〜っとどこぞの乳神様の様な擬音も発している。先輩の魔法でどうにか出来ないだろうか、この前の旅行のときは確か実体化していたんだよな? オレたち男衆は酒に酔っていてその時のことをあまり覚えていないんだが。だとしたら魔法にはある程度の攻撃適性はあるわけだ。そう思ってまた念を飛ばすと、“わ、わわわ、分かったわよ。出て行けばいいんでしょ、出て行けば! くぅ〜っ! あんた、覚えてらっしゃいよ?” そう捨て台詞を発しながら女幽霊・香澄の気配は消える。ほっとするオレがいた。
旅館と言うと温泉だ〜っとばかりに大浴場に向かう男5人。まあここのことを知ってるのはオレだけなものなのでオレが先頭に立って行く。まだ雪の残っている中庭を見ながら進むと大浴場の看板と青と赤の暖簾に定番の温泉マーク。ご丁寧に男・女の立札まで置いてあった。後混浴等マークも向こうのほうに見えるわけだが今回はパスだ。以前綾香たちに無理矢理ずりずり首根っこを引っ掴まれて連れて行かされて非常に往生した経験があるもんだからな。あそこにはもう絶対に行かん! とばかりに大浴場(男)の扉をガラガラと開けて中へ入る。服を脱ぎ、タオルを腰に巻いていざ温泉へと向かう。壁の向こうからはもう入っているんだろう女性陣の嬌声やなんかが聞こえてきていた。まあ今回初めて参加する片瀬にとっちゃあこんなに女率の高い旅行は初めてだったんだろう。少々疲れたような顔をしていたもんなので、いろいろと話をした。まあどこの家庭もそうだが家族の物語はあるもんだ。ただ片瀬の家は少々複雑なようで…。妹さんは実のところ義襟の妹さんらしく妹さんが3歳くらいの頃に片瀬の家に貰われて来たんだとか。今じゃ仲のいい兄妹のように見えるが、昔はイタズラやイジワルもいっぱいしたと話してくれた。そう言えばオレも昔、あかりに同じようなことをやってたなぁ〜なんて感傷に耽っていると朝倉や友坂もその話題に食いついてきてさながらお互いの過去の暴露話に発展していった。まあ朝倉の妹のジェラシー話にはちょっと引いてしまったのは事実なわけだが…。友坂は友坂で毎日妹に投げ飛ばされて生傷が絶えないと言うし、どこの家庭も大変だよなぁ〜っと思う。オレはオレであかりには長年幼馴染みの枠から抜け出せずにいて、高校2年の春にあかりの気持ちにやっと答えることが出来たが普段からグータラなオレはあかりの世話になりっ放しだ。そう考えるとどこの男も同じだよな? と思っちまう。隣りは隣りでわいわいがやがやと賑やかにしているのかと思いきやシーンと静まり返っていた。おそらくオレたちが話し込んでる間に上がっちまったんだろう。そう思ってさっぱりして温泉から出たまでは良かったんだが…。
「はい。浩之さん、あ〜んしてください」
と豪華な料理を前にマルチがおずおずと箸をオレの口元へ持ってくる。他の面々も実にやりたそうにうずうずしながら待っている節があるわけで。そうだ、雅史は? と幼馴染みNo.2のほうをみるとにこにこ顔でオレや他のやつらのほうを見ながら黙々と料理に舌鼓を打っている。そう言えばあの後、部屋に帰ってくるなりいつの間にか上り込んでいた香澄と一悶着も二悶着も起こして、いつ女性陣が上がったのか分からなかったわけだが飯を食いに行くときにやけに頬の上気が激しいな? と思っていたらこう言うことだったのかと理解した。つまりはあの時耳を欹ててオレたちのこっ恥ずかしい惚気話を聞いていやがったんだなぁ〜っと。それに一役買って出たのが香澄だったんだな? と思って香澄に念を飛ばすオレ。と相手からは至極当然な感じで、“そうよ?” との返事が返ってくる。早くどこかに転生しろ! と念を送ると、転生申請してないからできないだの、あんたとあかりちゃんが結婚したら考えなくもないわだのと言う始末。まあ普段からの付き合いじゃないからちょっとはセーブしてる部分もあるんだろうがこんなおかしな霊体と普段から一緒にいる朝倉は大変だろうなぁ〜とつくづく思った今日3月24日、オレの可愛い後輩のメイドロボ・マルチと友人朝倉の後輩2人・天枷美春と月城アリスともう1人の友人友坂の従姉・仲里ひかり、それと、誕生日を忘れられていた友坂のもう1人の友人・鮎川美空と友坂の後輩の片瀬の友人・小野崎清香のそれぞれの誕生日だ。って! 待てんからって一斉に口の中に放り込むんじゃねぇ〜っ!!
END