鍋奉行の2人


「だぁ〜っ!! あんたは何回言ったら分かるの?! そこは今入れたばっかりでしょうが〜っ!!」
「全く…、名前だけじゃなくって性格までそっくりなんだから…。キミたちって…」
 ぐぐぐぐぐっと睨む目と呆れたように見る目が一対ずつ俺たちの前にあった。秋も終わりな今日10月23には我が宿敵にして、恋人と言う矛盾の塊みたいな存在である小野崎清香の誕生日なわけで…。でどういうわけか、俺の従姉の鮎川美空姉とその恋人の友坂健次さんと妹の鈴夏ちゃんと幼馴染みの近衛七海さんがうちに遊びに来たと言うわけだ。バイクは2台ともサイドカー付きに改造してあって正直びっくりしている。と言うか改造できるもんなのか? と思って健次さんに聞いてみると、
「俺もあまり詳しいことは知らないんだけど、サイドカー仕様はどの車種でも出来るみたいだぞ?」
 と言うことらしかった。まあそれはいいんだ。うん。じゃあ何が不服なのかと言うことなのだが、それはそう、このチビッ子2人組、清香と美空姉なわけで…。何故に鍋奉行なもんをやってるんだ? と言うか雪希はどうした? と辺りを見回してみる。台所のほうで七海さんと何か談笑しながら何か作っていた。ああ、あれか。と納得して今度はテーブルのほうを見る。ぽんこつさんと鈴夏ちゃんがやけに羨ましそうな目つきでマイシスターたちを見つめている訳だが…。本当なら進藤と麻美先輩も呼びたかったのだが、今回は2人が2人とも用事があるということなので、パスと言うことになったわけだが。まあ、進藤はともかくとして麻美先輩は残念だったよな…と思うわけで。と、こんなことを進藤に言おうものなら何か得体の知れない恐怖に凍りつくから言えないんだけどな…。でも賑やかしいのはいつもと変わらないわけで…。ふう、とため息を一つ。でも、どうしてうちで合同パーティーを行なうようになったのかと言うことなのだが、それはそう、俺の目の前で偉そうにあれやこれや指図するチビッ子姉の差し金だと言うことはここにいる全員が分かっているわけだ。
 まあ俺のほうも、大してイベントもないことだから電話で言われたときに、“OK” の返事を出してしまったわけで…。今考えると何故に“OK” と言ってしまったんだろうかと思い悩むこと数日間。で今もそのことを考えているわけだが…。まあ賑やかしいのは嫌いではない。むしろ好きなほうだ。賑やかしすぎるのはどうかと思うが…。うちには“進藤” って言う賑やかしいのを遥かに通り越してうるさいやつもいるんだしな? とあれやこれや考えてると頭を小突かれる。な、何だ? と辺りをきょろきょろ見回すと美空姉がこめかみをぴくぴく言わしながら、
「片瀬健二!! 早く食べちゃいなさい!! 次のがもう出来上がっちゃってるんだから!!」
 とフルネームで呼ばれる。“ってちょっと待て! 何でフルネームなんだ?!” と言うと、“だって両方同じ名前なんだから仕方ないじゃない…” と言う。まあそりゃそうだが…。でもちょっと腑に落ちない。“じゃあ健次さんはなんて呼ぶんだ?” と言うと、極々当たり前のような顔で、“健次” とこう言う。その当たり前な反応に怒りを通り越して、笑いさえ出てきてしまう。と、清香は健次さんのことをどう呼ぶんだろう。と清香の方を見ると、“友坂さん” と極々一般的な呼び方だった。何か俺だけすごく理不尽な気がしてならないのだが、周りはみんな敵だらけなのでそんなことも言えない訳だ。悲しいなぁ〜。しくしくしく…。
 でもなぜに誕生日パーティーに“鍋” なのかと言うと、健次さんの家のすぐ裏が海なのでよく海釣りに行くそうなのだが、一昨日にも海釣りに行ってカワハギをたくさん釣ったんだそうだ。それが今日の鍋パーティーの主役だったりする。“でもそんなに釣れるんもんなんですか?” こっちは住宅密集地で海なんて何かの行事でもなけりゃ行かない訳だ。ましてや釣りはしたこともないので分からないから聞くと、“ああ、結構釣れるぞ? 今度来て一緒に釣るか?” と笑顔で答える健次さん。“じゃあ今度の冬休みにでも” と言うとにっこり微笑んで、“楽しみにしてるよ?” こう言って料理に手をつける健次さん。俺も同じように手をつける。ぐつぐつ煮えた鍋は当たり前だが美味い。こうやって気の合う人たちと食うともっと美味く感じる。
 さて、鍋料理の醍醐味は雑炊にあると言うのが定説だ。幸い昨日は雪希と2人でちょうど駅前に出来たと言う評判の? 美味い店に行っていたのでご飯は冷蔵庫にしまってある。まあそこを紹介したのは何を隠そう清香な訳だ。で、味の方はと言うと…。清香には失礼な言い方だが、まあ家で食うほうが何倍か美味いと思ったことは言うまでもない。和気あいあいと食事の方は進む。美空姉の首には可愛いネックレスがある。こんなチビッ子姉には似合わない程のものだが、こんなことを言うとオタマで叩かれるのが常だから言えない。まあ俺の方も、デカリボンな彼女に似合いそうな指輪なんぞ購入して今朝のうちに渡しておいたわけだが…。今嬉しそうに美空姉たちと女の子特有の話題で盛り上がってるその左手の薬指にしっかりとそれはある訳で…。
 と、突然窓を乱雑に叩く音が聞こえる。な、なんだぁ〜? 泥棒か? とは思ったが、泥棒はこんなに派手に入ってくる訳でもない。じゃあ何だ? と思いちょうど窓側にいた日和に、“ちょっと開けてくれ…” と頼もうと思ってその方向を見ると…、いない。ありゃ? さっきまでそこで七海さんと楽しそうに話をしていたのに…、って言うか七海さんは? と思い辺りを見遣ると…。いた。七海さん…。あなたもやっぱりって言うか、ぽんこつだったんですね? まあ声も似てるって言えば似てるのでもしや…、とは思ってたんですが…。健次さんの妹の鈴夏ちゃんに抱きつきながらぶるぶる震えている七海さんを見ながらそう思った。で、肝心のぽんこつ日和先生はと言うと…、どこだ? 見当たらねぇ〜。部屋から出た形跡はなし、と、部屋の隅のタンスとタンスの隙間に挟まっている人影を発見。何かじだばた暴れるような格好で、“うわぁ〜ん、出られないよぉ〜” とこれまたぽんこつな声を発している。俺の知っている中でこんなぽんこつな声は2人。その1人はもう見つけたからあいつしかいない訳で…。はぁ〜っとため息をつきつつ、“何やってるんだ? 日和” と半ば呆れた声で言うと、“だってだってぇ〜。びっくりしちゃって…。とっても怖かったんだも〜ん。そんなことよりここから出してよぉ〜。うわぁぁ〜ん” と言う我が幼馴染み・日和。やっぱりキングオブぽんこつはこいつのためにあるようなものだろう…。そう思って救出もそこそこにまだバンバンと叩かれている窓の方へと向かう俺。まずはカーテンの隙間から覗き込んでみるが暗いせいかよく見えない。しようがない。開けてみるか。もちろん、健次さんには用心のためにバットを持って待機してもらっている訳だが…。ふふふ…。どこの間抜けな泥棒かは知らんが運が悪かったな? そう思って窓を全開に開けるや……。


「先輩は極悪人ですっ!! こんな可愛い後輩を何時間も家の外に放ったらかしにしてたんですから!! インターホンも何回も鳴らしたのに出てこないし…」
 とこうのたまっては俺の顔をぐぐぐと睨む口やかましい女の子。その横から、清香と同種族のようなちびっこい体の女性が健次さんの方をぐぐぐっと見つめている。“あのな? お前今日は用事があるとか何とか言ってたんじゃねーのか? それ以前に俺たちがここにいるって誰から聞いたんだ? 多恵先輩か?” と言う健次さんに対して、“うっさい!! そ、そんなことどうでもいいでしょ? それよりも、あたしだけ…、いいや、あたしたちだけのけ者にしてこんな楽しそうなことをやってるなんて。どう言うことなのよ?!” とこう言ってぶりぶり怒る女性。いったいあの人は誰? と、近くにいた鈴夏ちゃんに尋ねてみると、“あたしとお兄ちゃんの従姉のひかりお姉ちゃんだよ? でもひかりお姉ちゃんにはお兄ちゃん、何も言っていなかったはずなのに、何で知ってるんだろ?” と少々不思議そうに2人のやり取りを見ている。と、そのことを聞いていたのかぶつぶつ俺に向かって文句を言っていた進藤がこう言う。
「仲里さんは学校の先輩の方なんですよ? 神津先輩の1学年上ですから知らないと言う人は知らないんでしょうけど…。って言うか先輩も知らなかったんですね? 幸い私とは近所ですし、今日のことを話したら“夜にでもちらっとのぞきに行こうか?” ってなことになっちゃいまして……。でも先輩! 何でインターホンを鳴らしたのに出てこなかったんです?」
 とやけに恨めしそうに上目遣いに睨んでくる進藤。“お前が来るかもしれないからわざとにインターホンのブレーカーを下げておいたんだ!!” とは口が裂けても言えない訳だ。が、清香が妙に分かったように、“そう言えばあんた、健次さんたちが来たときにブレーカーのところを触ってたようだけど…、あれってもしかして?…” とこめかみをぴくつかせながらこう言う。“み、見てたのか?” 少々ビビりが入りながらそう聞く俺にこくんと素直に頷く清香。こう言うところは妙に素直だから困る。“ほほー、健二…。お姉ちゃんのお誕生日のお祝いに知ってる人はなるべく呼んでね? って言っておいたはずなんだけどねぇ〜え?” と言って近づいてくる美空姉。その顔は昔、俺を尻に敷いていたときと同じような顔だ。やべぇ。とは思ったが、進藤と仲里先輩? に両脇を押さえられて身動きが取れずさらにはマイシスターたちにちょっと非難の目で見つめられている上に、清香と美空姉がじりじり近づいてくる有様。唯一の味方であろう健次さんも、“すまん。もうこうなったら俺の手には負えない…” と、手を合わせてくる始末。で結局…。


「大丈夫かな〜? 片瀬君。美空さんにあんなに怒られて…。でもちょっと意外だったね? 健ちゃん」
「あ、ああ…。そうだな?」
 1泊泊ったあくる日の帰り道、前を走るサイドカーを見ながら言う七海に俺はそう生返事をする。昨日は本当にわいわい賑やかで楽しかった。特にあの進藤とか言う女の子は佐倉にちょっとだけ似ていた気もする。まあ彼女ほどなことはないんだけどな? でも美空も何だかんだ言ってちゃんとお姉ちゃんやってるんだな? と思うと妙に微笑ましかったりする訳だ…。俺も怒られたことは何回かあるのだが、ありゃひかりと同じくらいじゃねーのか? と言うぐらいな怒り方だったように思う訳で…。まあもっともひかりがあの町に住んでいるなんて重要な? ことをすっかり忘れていた俺はその後でこってり絞られた訳なのだが…。でも、同名の彼にはちょっとと言うか大いに同情したり、羨ましかったりする訳だ。特に妹辺りは相当にうらやましいと思う訳で。何せうちの妹は料理・ドがつくくらい下手、家事・全然出来ない、勉強・体育以外苦手と3拍子揃ってるんだからなぁ〜? はぁ〜…。出来ることなら、健二のところの妹さんを家に持って帰りたかったよ…。何てことを思ってると、七海がちょんちょんと俺のふともも辺りを押してくる。“何だ?” と尋ねると、前を見て? ってな感じで目線を一旦前にやって、くいっと後ろに逸らしている。どうやら前の美空のバイクを見ろと言うことなのでそ〜っと前をに見てみると、凶悪そうな妹のぷぅ〜っと頬を膨らまして涙目で俺の方を睨んでこっちに向いているのが、俺のゴーグル越しに映り込んでいる。どうやら俺の言った大きな独り言が向こうに聞こえていたらしい。美空は面白いのか肩をぷるぷる振るわせている。ああ、これで家に帰ったら確実に一本背負いは食らうだろうな…。あと、鈴夏の十八番の巴投げと、腕ひじき逆十字固めは間違いないだろう。そう思うと健二のところに戻りたいと思った昨日10月23日は俺の知り合いの彼女・小野崎清香ちゃんの、そして明後日26日は前を走る俺の彼女・鮎川美空の誕生日だ。

END