誕生日の憂鬱
今日…、4月4日は、わたくしの誕生日。
今年は、療養所の皆さんと、看護士さんたちがわたくしの誕生日を祝ってくれるそうです…。それはとても嬉しいことなのですが、一つ残念に思うことがあります。それは………。
それは…、わたくしの大好きな兄上様が一緒ではないと言うこと…。毎年この日はわたくしの元に来て一緒にお祝いしていただけるのに…。今年はお仕事が入って来れないみたいなのです。
兄上様に会えない…。そんなことが頭を駆け回り…。
「あ、鞠絵。僕だけど…」
誕生日の朝…、兄上様から電話がかかってきた後、お部屋に戻って、わたくし…、一人で泣いてしまいました。せっかく、年に一度のわたくしの誕生日なのに…。
……いいえ…。分かってはいるんです。こんなこと、わたくしのわがままだってこと…。
でも、この日だけは兄上様と一緒にいたい。だって、わたくしの誕生日なんですもの…。
「? どうしたの? 鞠絵ちゃん? 何か、考え事?」
「えっ? い、いいえ……」
「あっ! 分かった! 鞠絵ちゃん…、お兄さんが来れないから…」
看護士さんたちは、ふふふと微笑んでいます。わたくしは……。
「ええ…、でもなぜ分かったんですか?」
そう、一人の看護士さんに聞きました。その看護士さんは……、
「分かるわよ…。鞠絵ちゃんのその顔を見ていたら…」
そう言って、わたくしの顔をじ〜っと見つめています。わたくしは何だか恥ずかしくなって…。顔を下に向けてしまいました…。
わたくしのその様子に、看護士さんたちやお友達は「あはは」と笑って…。
「じゃあ、鞠絵ちゃんが、お兄さんのことを忘れるくらい今日は盛り上げていこう!!」
そう言って、とても楽しいお誕生日会にして頂きました…。兄上様のいないお誕生日会…。こんなに楽しかったのは初めてです…。
でも……。お誕生日会が終わって、一人、お部屋に入ると……、
「あに…うえ…さまぁ……。ぐすっ……」
寂しくて…、一人、泣いてしまいました……。弱虫ですね…。わたくしって……。
本当はもっと強い、この病気に勝つくらいの強い心を持っていないといけないのに…。
次の日の朝…。わたくしがお部屋で本を読んでいると、コンコンとドアを叩く音が聞こえてきます。
誰だろう? わたくしはそう思いました。ドアの方へと向かい、顔を覗かせます…。そこには、白い小さな花…、かすみ草を両手いっぱいに持った兄上様の姿が…。
「鞠絵…。お誕生日、おめでとう…。ほんとは昨日、来たかったんだけどね…。急な仕事が入ってしまって…。許しておくれ…。あっ、でも会社の人たちがね…。「今日は君の妹さんの誕生日じゃなかったっけ? ああ、すまないね。妹さんも待っていたんだろうに…。今日頑張ったお礼だ…。明日は一日妹さんと一緒にいてやりなさい…。仕事の方はこれで大丈夫だから…」って言ってくれたんだよ…。だから今日はずっと、鞠絵と一緒にいるつもりだ…。…でも、鞠絵の誕生日…。僕は祝えなかったね…。ごめんね…、鞠絵…」
そう言うと、すまなそうにわたくしの顔を見つめる兄上様…。
兄上様…、わたくし、あなたの妹で本当に良かった。わたくしは何も言わず、兄上様に抱きつきます。兄上様はちょっと驚いた顔をしていましたが…、
ぎゅっ……。
わたくしの体を、抱きしめ返してくれました。
わたくしは思います…。兄上様に聞こえないように小さな声で呟きました。
「早く、この病気を治して兄上様に恩返しをしよう…。いいえ…、必ず恩返しするの…」
と……。兄上様と一緒の澄んだ青空を見ながら…。
…そして、その向こうにある兄上様とわたくしの町のことを思いながら…、わたくしはそう小さく呟くのでした…。
〜END〜