雨の日の誕生日


 今日、5月16日はワタクシのお誕生日…。
 いつもは、兄君さまとパーティーなどをするのですけれど、今年はお忙しいそうなので…。
 今日は5月にしては珍しい雨…。まるでワタクシの心の中を写しているよう…。
 せめて、お日様が雲間から顔を出してくれれば、ワタクシのこの悲しみも癒されるというのに…。
 …いいえ、こんな時こそワタクシが頑張って兄君さまをご安心させないといけないのですわ!! さあ、今日も頑張りますわっ!!
 いつも愛用している番傘を開いて、御花のお稽古場まで向かいましたの…。お稽古に向かう時はいつもお着物ですから、水溜りなどには気を付けて向かいます。…と、番傘に雨粒が落ちてきました。
 ぽとん……。ぴちゃん…。
 雨を番傘が弾く音が聞こえます。多分、木に溜まった雨が雫となって落ちてきたのでしょう…。ワタクシが歩を進める度に……、
 ぽとん……。ぴちゃん…。
 そういう音が聞こえてきます。うふふっ…。こういう雨もたまにはいいものですわね。
 御花の先生のお宅に着きます。
 番傘を閉じて一振りすると今まで番傘に溜まっていた雨粒が飛沫のように飛びました。
 言い様のない美しさがありますわ。雨粒って…。まるで真珠か金剛石のよう…。
「失礼致します……」
 ワタクシはそう言って稽古場に足を踏み入れました。そして……。
「お願い致します……」
 御花のお稽古が始まりました。
 藤や菖蒲や杜若などの、季節の御花を活けていきます…。先生はワタクシの御花を活ける手を見つめて、優しく微笑んでいらっしゃいました…。
 いつものお稽古も終わり、ワタクシは帰ろうとします。すると……。
「春歌さん…。すみませんが、少しよろしいですか?」
 御花の先生が聞いてきました。ワタクシは……、
「はい、何でしょうか…」
 そう尋ねます。御花の先生はにっこり微笑んでワタクシにこう言いました。
「ちょうど今しがた、あなたのお兄様からお電話があって『これから迎えに行きますから』ということだそうですよ。よかったですね……。春歌さん。うふふっ……」
「えっ?……」
 兄君さまが? お迎えに?…。ワタクシの顔が一気に朱色になったことは言うまでもありません。しばらくして…。
「…春歌…、待ったかい?」
 声のした先を見ると、凛々しいお姿の兄君さまが玄関先に立っておりましたの…。ポッ…。


「今日は春歌のお誕生日だからね…。仕事もそこそこに帰ってきたんだ…。だからこれからケーキ、買いに行かない? …って、大事なものを忘れるところだったよ…。春歌…。お誕生日おめでとう…」
 そう言って兄君さまは小さな袋をワタクシに手渡します。
「開けてみて…」
 兄君さまにそう言われました。ワタクシは袋を開けて中を見ます。小さな、でも可愛らしいかんざしが入っていました。
「まあ!? 兄君さま…。こんな…、こんな高価な物をワタクシに? ああっ! ……ワタクシは…、春歌は…、三国一の幸せ者ですわ。ポポッ、ポッ…」
「あはは…。大袈裟だなぁ…。春歌は…」
 番傘に寄り添いながら家路につく兄君さまとワタクシ…。たまにはこんな雨もいいものですわね…。そう思う今年のワタクシの誕生日なのでした…。

END