看病します

第1話 鞠絵の場合


「う〜っ…。ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ…」
 突然だけど、風邪を引いてしまった。この時期に? と言われるとちょっと恥ずかしいんだけど…。咳は出るし喉も痛い。おまけに熱まで出てきて…。ああっ、体を起こすのもつらいや……。
「兄上様? まだ寝ていないとダメですよ?」
 そう言って甲斐甲斐しく僕を看病してくれるのは僕の妹。名前は鞠絵という。幼い頃から体が弱く、ここから2、30km離れた遠くの療養所で暮らしていた妹だったけど、今ではすっかり元気になって僕の面倒をあれやこれやと見てくれる。父さん、母さんも“まあ、鞠絵に任せておけば大丈夫だろう…”という風に言っている。もっとも僕が妹に弱いって言うことを知ってて言うんだから卑怯だなぁ〜っと思うわけで…。
「ねえ、鞠絵…。桜も見頃だし、お友達でも誘って行ってきたらどう?」
 4月、川辺の辺りは桜の花で華やいでいる。元気になったのだから友達でも誘って一緒に行けばいいのに…。そう思ってそんなことを言うと、少々怒ったような拗ねたような顔になる鞠絵。
「いいえ! わたくしは兄上様の看病をします…。兄上様がダメって仰っても!」
 僕の言う言葉を遮るかのようにそう言う妹。顔を見るとぷ〜っと頬を膨らまして僕の顔を上目遣いに見遣っていた。普段顔が可愛いだけに怒った顔もすごく可愛い。元気になって一緒に暮らすようになってから友達も増えたんだし…。とは思うものの、療養所生活が長かった鞠絵にとって本当に頼れるのは僕や家族だけなのであり…。
 兄としては嬉しいような悲しいような…、そんな感じだ。でも桜もちょうど見頃のこの時期に風邪を引くなんて、我ながら情けないと思う。鞠絵は当然このような性格だから僕を放っておいて一人だけで行こうなどとはしないわけで…。昔、家の庭には1本の桜の木があったんだけど、僕が小学校に上がる前に枯れてしまって今はない。だから毎年この時期には川沿いの桜並木へ散歩がてら花見に行くんだけど…。今年はダメだなぁ〜って思って…、ふと思い出した。


「ごめん、鞠絵。今日はお前の誕生日だったんだね? プレゼントも何も買ってないや……。はぁ〜、ダメだなぁ〜。僕は…」
「…わたくしは、兄上様さえお元気ならそれで構いませんよ? …他のどんな高価なプレゼントだって兄上様のお元気な姿に比べたら…。さ、さあ、お粥を作ってきましたのでよろしければ召し上がってくださいね? きょ、今日はわたくしがお作りしましたから……」
 優しい笑みを浮かべながら、でも恥ずかしそうにこう言う鞠絵。机の上にお粥を置くとそそくさと部屋を出て行ってしまった。その後ろ姿を見ながら心の中でこう言うんだ……。
“鞠絵……、今日はありがとう。そして、誕生日おめでとう。こんな頼りない兄だけど、これからもよろしくね?”
 ってさ……。

END