お姉ちゃんドキドキする

第1話 鞠絵の場合


 今日4月4日は、僕のお姉ちゃんの誕生日。だからじゃないけど、お姉ちゃんは昨日からそわそわしているわけで…。もっとも僕もお姉ちゃんと同じようにドキドキしてるわけなんだけど。と言うのも、昨日のことなんだけど久しぶりにお父さんたちが外国から帰ってきたから、みんなで温泉にでも行こうって言うことになっちゃって車で1時間くらいの温泉地へ行ったわけだけど…。お姉ちゃんと僕とは8つ歳が違う。だからお姉ちゃんと一緒にお風呂なんかにも入ってきた。そんな僕も大きくなるにつれてだんだんとお姉ちゃんとは別に入るようになったわけだけど、温泉はみんなで入ることになっちゃったわけで…。最初はお父さんと男湯に入ることにしてたんだけど、お母さんが、“たまには親子水入らずで一緒に露天風呂なんてどうかな?” なんて言い出して…。お姉ちゃんと僕は最初は反対したんだけど、お姉ちゃんはお母さんに何かしら言われて、うんって首を縦に振って僕に向かって、“航もお姉ちゃんと一緒に入りなさい!” って言うんだ。
「な、なんでお姉ちゃんと一緒に入らないといけないんだよ〜?! 僕も昔みたいじゃないし、そ、それにもう小学校6年生なんだから1人で入れるってば〜っ!!」
 僕がそう言うとちょっと悲しそうに俯きながら、“お姉ちゃんも恥ずかしいの我慢して入ろうって言ってるのに、航ってばお姉ちゃんの行為を無にするんだ…” って言ってちょっとぷぅ〜って頬を膨らましてる。その顔がいつものお姉ちゃんらしくて、あははって笑っちゃう。それが頭に来たんだろう。途端にリスが頬袋にいっぱい食べ物を詰め込んだようにぷく〜って膨らませたお姉ちゃんが、無理矢理僕の手を引っ張って混浴の露天風呂のほうに連れて行くんだ。昔は体が弱かったお姉ちゃんだったけど、今では元気いっぱい。それはとても嬉しいし、お姉ちゃん自身楽しそうに毎日勉強や家事や僕の宿題を見てくれるんだからいいんだけど、でもちょっとわがままになっちゃって僕はそれで毎日大変なんだから…。
 そうそうこの前なんか、僕がちょっと友達と遊んでて門限に1分遅れて帰ってきただけで、叱られて…。一言でも文句を言うと最後はおいおい泣かれて大変だったんだから…。これじゃあどっちが年上なのか分からないや…って思ったくらいなんだからね? そう考え込んでる間にもぐいぐいお姉ちゃんに引っ張られて露天風呂の前、連れてこさされる僕。え〜い、もうこうなったら覚悟を決めた!! そう思ってお姉ちゃんの手を持って入ろうとするとお姉ちゃんのほうが固まってた。


「恥ずかしかったんだったら最初から言えばよかったのに〜…。もう…。でも水着着用でよかったよね?」
「だ、だって…。お姉ちゃんが恥ずかしがってちゃお姉ちゃんの威厳が示せないと思ったから…。でもそうね? 水着着用で…。お姉ちゃんてっきり…、あ、あの…。ごにょごにょ…
 お父さんたちは今日からまた外交官のお仕事で留守。お姉ちゃんと2人の暮らしがまた始まる。そわそわしてるお姉ちゃんの顔も何だか可愛くていいなぁ〜なんて思ってたら、“ほら、早くご飯食べちゃって! それから今日はお友達のお家に行くんでしょ? 長居するんじゃないですよ?” いつものお姉ちゃんに戻ってた。外へ出ると気持ちのいい風が吹いてくる。お小遣いは持ったし、今日はお姉ちゃんの好きなケーキでも買って帰ろうかな? そう思いながら友達の家にてくてく歩いていく今日4月4日、僕の大好きなお姉ちゃんの誕生日だ。

END