お姉ちゃんドキドキする

第12話 千影の場合


 今日3月6日は僕の姉さんの誕生日だ。姉さんは今年で21歳になる。21歳…、もう年頃なんだからそろそろ彼氏でも見つけてほしいところなんだけど、僕の姉さんにそんなことを言うと、すぐに涙目の上目遣いになってぷぅ〜っと頬を膨らませて睨んでくるから言えない訳なんだけどさ。でもって今朝も僕がそのことを言うと、“私より自分のことを考えなさい!” って叱られたんだけど。姉さんとは3歳違う。だからではないけど(と言うかだからかな?)、僕と一緒にいると恋人同士に見られることが多々ある。姉さん自身はそんなことは一切気にならないタイプなのか、やれ弁当を作って来ただの、やれ買い物に付き合ってだの、何かにつけて引っ張りまわすわけで…。で、僕が一言でも文句を言おうものなら、前述のような顔になって恨めしそうに見つめてくるんだから、はぁ〜っとため息が出てくる…。
 今日は普段遣り込められているから、そのお返しとばかりにこっちから誘ってみることにする。と、“ああ、別に構わないよ?” と呆気ない返事が返ってきた。もう少しドキドキしたりするのかな? と思っていた僕にはちょっと拍子抜けだ。でもまあこれで、プレゼントのことも考えなくて済むと思うと半分(と言うかほとんどかな?)ほっとしたような気分になる。毎回プレゼントには悩まされている僕。特に女の子へのプレゼントなんかは選ぶのが大変だ。この間もちょっとした高校の部活の後輩の女の子への誕生日プレゼントを1日がかりで探していたって言うこともある。だから姉さんのこう言う返事はちょっとどころか大いに嬉しいわけだけどさ…。そう言えば姉さん、去年はすぐに分かる変装なんかしていたなぁ〜っと思って今年もするのかな? なんて一瞬考えながら、朝の食事を取る僕がいた。
 用事はもうないけど高校に向かう。卒業式ももうすぐだけどもう一度校舎を見ておきたいと思った。と僕と同じ理由なんだろう、いつもの仲間に会う。しばらく談笑し、食堂へ…。昼食は姉さんの手作り弁当をよばれる。言わずもがな美味しかった。途中、友達の何人かに冷やかされてムキーッとなったりしてようやく夕方になる。待ち合わせは〜っと。駅前の大時計の前か…。そう思って大時計の前に着く。と見知らぬきれいな女の人がこっちに向かって歩いてくるのが傘越しに見える。その清楚な感じの女の人に僕の目は釘付けになった。顔は傘に隠れてよく分からないけど感じがとても素敵だったわけで…。冬と春の境目の雨の中。だんだんと僕のほうに近づいてくる女の人。もしかして違う人なのかな? そう思って見渡してみるけどここにいるのは僕だけだった。な、何か用事かな? どぎまぎしながら言葉を待っていると、いつも聞いていると言うか聞き慣れている声が聞こえてきて…。


「今年はうまくいったようだよ…。ふふっ…」
 と姉さんはイタズラ成功とばかりに微笑む。対する僕はドキドキ半分、安堵感半分(とがっかり感ちょっと…)と言う複雑な気持ちだ。でもまあこう言うイタズラなら逆にドキドキして嬉しかったりするからいいのかな? なんて思う。“でも、よく似合ってるよ? その格好” と白いブラウスの上に紺色の上着を羽織って上着と同じ色の長いスカートの特に纏めていない長い髪のいかにもお嬢様と言う感じな姉さんにこう言う。とぽかっと頭に軽い衝撃。
「お姉ちゃんをからかうんじゃない!」
 そう言いながらもまんざらって言うほどのこともないような顔の姉さんにまた大笑いに笑ってしまって、今度は“うううっ…” と泣きべそをかかれてぺこぺこ謝っている僕がいる、そんな小雨に煙る今日3月6日は僕の姉さんの誕生日だ。

END