何気ない1日が今日も過ぎていく…。
 僕がこの島に来て、18年が経とうとしていた。初めてこの島に来たとき、僕はまだ1歳だった。そのせいだろうか…。そのときのことは何も覚えていない。
 そうか…、もう18年も経つのか…。僕は、自分の部屋から外を見ていた。雨が降ってきていた。部屋の外から雛子と亞里亞の楽しそうな声が響いていた…。


雨の日のポエム


「おにいたま〜、ご本読んで〜」
「兄や〜、亞里亞も〜」
 ちょうど勉強も一段落ついたところへ、雛子と亞里亞が僕の部屋に入ってきた。
 季節は6月中旬、梅雨もこれから本番といった感じだ。雛子と亞里亞はてるてる坊主を何個も作り、お日様が出てくるのを待っていた。
 雨ばかりだと家の中で遊ぶことが多くなる。うちは幸い家が大きくて助かった。
「よーし。雛子、亞里亞、こっちにおいで…」
 僕は、雛子と亞里亞を僕のベットの横に座らせて雛子が持ってきた本を読んであげていた。
「むかーしむかし、あるところに一匹のくまさんがおりました…」
 コンコン。
「お兄ちゃん、ちょっとお勉強教えてほしいんだけど? ダメかな?」
 可憐が部屋の外から尋ねている。僕は…、
「入っておいで、可憐。どうせ僕、今は休憩中だったし。雛子と亞里亞に本を読んであげてるところだったから…。雛子も亞里亞もいいよね?」
「うん、ヒナはいいよ〜。亞里亞ちゃんもいいよね?」
「うん…、亞里亞もいいの…」
「わあっ! ありがとう。お兄ちゃん。雛子ちゃんと亞里亞ちゃんも、ありがとう」
 そう言って、可憐が部屋に入ってきた。手には数学の教科書があった。
「それで、分からないところってどこなんだい? 可憐」
「うん。え〜っと、ここの公式のところなの…。ごめんなさい、お兄ちゃん…。可憐おバカさんだから、こんな簡単な問題も分からないの…」
「そんなことないと思うよ…。可憐。この問題、高校1年生にしては結構難しいんだ…。僕も苦労したよ〜」
「え〜っ? そうなんだ…。うふっ、でも良かった…。お兄ちゃんも苦労したんだって聞いて、可憐安心しちゃった」
「うん。それで、ここの公式なんだけど、ここはこういう風にして解くといいと思うよ」
 僕は、そうやって問題の解き方を教えてあげた。
『どんなに難しい問題でも、ヒントさえあれば解けるから…。頑張って! 海神君』
 これは僕が中学3年のときに教えてもらった数学の先生の言葉だ…。
 その先生も、一昨年、事故で……。
「あっ、ありがとう。お兄ちゃん。それからごめんね。雛子ちゃん、亞里亞ちゃん。可憐お邪魔しちゃって…」
「うん、僕は別に構わないよ。また分からないところがあったら、いつでもおいで…」
「うん。ヒナはいいよ〜。可憐ちゃん。ねっ、亞里亞ちゃん」
「うん…、亞里亞もいいの…、可憐ちゃん」
 可憐はにっこりと微笑んで、僕の部屋を出て行った。僕はまた雛子と亞里亞と一緒に、絵本を読み始めた。


「ありがとう、おにいたま。亞里亞ちゃん、ヒナのお部屋に行ってあそぼー」
「うん…。ありがとう、兄や…。あっ、雛子ちゃん、待ってぇ〜。くすん…」
「あっ、亞里亞ちゃん、ごめんね。おててつないで行こう」
「うん……」
 絵本を読み終えて、雛子と亞里亞はそう言うと嬉しそうに手を繋いで僕の部屋を出て行った。
 僕はまた自分の勉強に取り掛かろうとする……。ふと、誰かの視線を感じた。四葉だな…。僕はそう直感する。そこで僕は、わざとに…、
「あ〜っ。疲れたなぁ〜。ふぅ…。………よーし、息抜きに四葉の部屋でもチェキしに行こうかな?」
 そう言った。突然、押し入れから“ゴンガラガッシャーン”という音がした。と思ったら…、
「あう〜。痛いデスぅ〜。兄チャマ〜」
 四葉が頭を痛そうにおさえて押入れから出てきた。案の定だった。
「四葉、大丈夫? どこもケガとかしてないよね? 僕のこと、チェキするのはいいけどほどほどにね…。四葉がケガしちゃったら、僕も心配だし…、みんなだって心配すると思うんだ…」
「兄チャマ…、うん。四葉どこもケガしてないデスよ。ありがとデス。兄チャマ…。チェキもほどほどにするデスね」
「うん。ところで四葉、今日の夕食のメニューって何かな? 四葉は知らない?」
 ちょうど、時刻は午後5時半…。みんなで昼食をとってから、部屋に篭りっきりだった…。
「さあ? 四葉も知らないデス。あっ、でも、そう言えば白雪ちゃんが、『今夜は姫特製スペシャルワンダフルグレイトデリシャスオムライスですの。これでにいさまにいっぱい栄養つけてもらうんですの…。むふんっ…』って言ってなんだか張り切ってたみたいデス。多分、四葉の推理によると、オムライスじゃないんデスか? 最近兄チャマ何だか疲れてるみたいデスから、白雪ちゃんも頑張ってるみたいデスね」
 確かに最近疲れ気味だ。衛と毎日走っているからだろうか…。でも、僕は昔から運動がからっきしダメだった。運動神経が全くって言っていいほどない…。
 花穂の方が幾分ましな方だ…。この間も花穂とお花屋さんに行ったときのこと…。


「うーん。どれにしようか迷っちゃうよ…。お兄ちゃま、どれがいいと思う?」
「この白いお花なんかいいと思うんだけどなぁ…。小っちゃくって、花穂みたいで…」
「ふぇ〜ん、花穂、もう14歳だよ〜。小っちゃくなんかないもん! お兄ちゃまのいじわる〜」
 花穂がぽかぽかと僕の胸を叩いていた。と、花穂が突然…、
「あっ!!」
 バランスを崩してこけそうになった。花穂を助けようと思い手を伸ばした刹那…、
「うひゃぁっ!!!」
 ズッテーン!!!!!
 僕の方が倒れてしまった。花穂は何とかその場に踏みとどまって僕の事を心配そうに見つめていた。
「お兄ちゃま…。大丈夫? …………ごめんなさい。お兄ちゃま…」
 花穂が涙をいっぱいためて、手を伸ばして僕を起こそうとする。僕は何とか起き上がった。そして…、
「あいたたたたっ…。ふぅ〜。ぼっ、僕の方こそごめんね。花穂ももう14歳だもんね。小っちゃいだなんて…」
「ううん。花穂の方こそ、ごめんなさい。でもお兄ちゃま、花穂よりドジッ子なんだね〜。うふふ。あっ、そうだ、お兄ちゃま。衛ちゃんにまた運動教えてもらおうよ! 衛ちゃん、最近…『あにぃったら、最近全然マラソン付き合ってくれないんだもんなぁ〜。あーあ、何だかボク寂しいよ…』って一人で呟いてたみたいだったし…。お兄ちゃまがまた衛ちゃんと走ったら、衛ちゃん、きっと嬉しいと思うんだぁ…。あっ、そのときは花穂、チアで応援するね」
「はぁ〜…、花穂にまでドジッ子って言われちゃったな〜……」
「ああっ!! お兄ちゃま、失礼なこと言ってる〜。花穂、もう14歳だもん! 気をつけてるんだよ? お兄ちゃまのいじわるぅ〜。ふぇ〜ん」
「なっ、泣かないで、花穂。僕が悪かったよ。謝るから…。ねっ」
「うう〜。もう花穂のことドジッ子って言わない? お約束だよ…。お兄ちゃま…」
「うん。約束するよ。花穂」
 花穂は、僕の顔を見て、にっこり微笑んだ。花穂も、いつのまにか大きくなったんだなぁ〜。僕はそう思った。


 そういえば最近衛と走ってないなぁ。何だか最近元気がなかったみたいだったし…。ようし、衛と一緒に走ろう! それから僕は毎日、衛と走っている。雨の日も風の日も…。が…、
「ふぅ、ふぅ…。す、少し休まない? 衛…。ふぅ、ふぅ…」
「もう、だらしないなぁ〜。あにぃは…。じゃあ、少しだけだよ?」
「ふぅ、ふぅ…。あっ、ありがとう、衛…。ふぅ、ふぅ…。……はぁ…、僕も年だなぁ〜」
「何言ってるの…、あにぃ。19歳になったばっかりじゃない。あにぃは…。はぁ…、やっぱりボクが鍛えてあげないとダメだね!!」
「ええっ?! も、もういいよ…」
「あにぃ…、ダメだよ!! ちゃんと体も鍛えておかなくっちゃ。日ごろから体を動かしてないと、どんどん体って硬くなっちゃうんだって…。よーし、あにぃのために夕方も走ろうっと。いいでしょ? あにぃ」
「ぼっ、僕の体、もつのかな?」
 とまあ、いつもこういう感じである…。それから毎朝夕、衛と一緒に走っている。でも、いつも僕の方が息が上がってしまうんだ…。自分で言うのもなんだけど…、情けないよなぁ…。


「兄チャマ! 兄チャマ!! もう、何を考えてるんデスか? あっ、分かりました。兄チャマ…、もう四葉たちと一緒に暮らすことが嫌になったんデスね〜。うううっ」
 僕が考え事をしていると、急に四葉が泣き出してしまった。何でだろう? ともかくも今は、四葉を泣き止ますのが先決だ…。僕は四葉の肩に手を置いて言った…。
「四葉…、何を泣いてるの? って、わっ!!」
 そう言った僕の目の前には、眼鏡ごしに涙で潤んだ瞳を僕に向ける鞠絵、そして艶やかな着物の裾で涙を拭いている春歌の姿があった…。
「兄上様…。わたくしは…、わたくしはずっと兄上様のお側にずっといたいです…」
「兄君さま…。ワタクシに何か至らぬところがあったのでしょうか?…」
 鞠絵と春歌はそう言って黙り込んでしまった。僕は…、
「なっ、何でみんな泣いてるの?」
 そう尋ねる。僕には何でみんなが泣いているのか分からない。
「だって、兄チャマ、黙って窓の外をじっと見てるデスから…。……。四葉、急に不安になって…」
 何だ、そういうことか…。四葉も鞠絵も春歌も心配性だなぁ〜。
 でも、僕のことをここまで思ってくれているなんて…。すごく嬉しいなぁ……。僕は、優しく鞠絵と春歌、それに四葉の目を見て、
「そんなことないよ…。僕はみんなに、優しい心、素直な気持ち、そういうものをいっぱい貰ったから…。いっぱい、いっぱい貰ったから…。だから、僕は少しでも返したいんだ…。一生かかってもね…。だから僕はどこにも行かないよ…」
 そう言った……。みんなの顔を見た。みんなの顔にはもう不安の色はなかった。
「兄チャマ…、やっぱり四葉の兄チャマデス。四葉とっても、とっても嬉しいデス」
「兄上様…、わたくしは兄上様にご迷惑ばかりかけているのに…。わたくし、もっと頑張りますね!」
「兄君さま…、ワタクシはこれからも兄君さまをお慕い申し上げますわっ。ぽっ…」
 みんなが微笑んでいた。そうだよ、やっぱり泣いている顔よりこうやって微笑んでる顔のほうがいいよ。僕はそう思った…。
「にいさま〜。みんな〜。お夕食の用意が出来ましたの〜。せっかくのお料理が冷めてしまいますの〜」
 一階から白雪が呼んでいる声が聞こえた。時計を見た。午後6時、我が家の夕食タイムだ…。
「四葉も鞠絵も春歌も、白雪が呼んでるよ。さっ、行こう…って、あっ、咲耶たちがまだだったんだ。悪いけど先に行ってて…。咲耶たちを呼んでくるよ…」
「分かったデス。兄チャマ」
「兄君さま、今日は……うふふっ」
「春歌ちゃん、兄上様には内緒だって、咲耶ちゃんが言ってたじゃないですか…」
「ご、ごめんなさい。鞠絵ちゃん。駄目ですね…。ワタクシって…。はぁぁ……。兄君さま…、どうか春歌のこと、はしたない娘だって思わないで下さいましね…」
「僕はそんなこと、初めから思ったりしてないよ…。……それより内緒って?」
「さ、さあ、兄チャマ、咲耶ちゃんたち呼びに行くデス。白雪ちゃん、もう、待ちくたびれているデス」
 話をうまくはぐらかされたみたいだなぁ…。まあ、いいか…。白雪が待ってるもんね…。
 僕は四葉たちと別れて、咲耶たちを呼びに行った。咲耶たち3人の部屋は二階の奥の方にある。
 しかも、鈴凛の部屋(ラボと化しているが…)から出る音が大きくて、ちょっとやそっとの音では聞こえない。だからいつも僕が呼びにいってるんだ。
 最近、鈴凛はラボに篭りっきりだし、千影は何か魔術の研究に没頭してるし…。咲耶は僕のために何かしようと考えてる…。
 って四葉から聞いた(四葉は“しまった!”って顔をしてたけど…)。誕生日はこの前済んだしなぁ…。
 そう言えば…、最近妹みんな、咲耶と同じで僕に内緒で何かやってるんだよなぁ〜。
 何かやってるの? って何度か聞いたことがあったけど…、決まって「内緒よ。お兄様っ」って咲耶に言われちゃうんだよね〜。
 はぁ〜、兄としての威厳がないのかなぁ〜。僕って…。


 最初は鈴凛からだ…。僕は鈴凛の部屋の前に立つとノックした。
 コンコン…。
「鈴凛。夕食だって。早く降りなきゃダメだよ…」
「えっ、ア、アニキ…。あ、うん、もうちょっと待っててね。……。これをこうして…、っと。やった〜。出来たよ〜。これは夏休みまでのお楽しみっ!! はぁ〜、でもなあ、この機械造るのにお金掛かちゃって、お小遣いもうなくなってきちゃったんだよね〜。てへへっ! ということでぇ〜、アニキ、お小遣いちょうだい!!」
「またぁ? ……はぁ〜…、僕も金欠なんだけどなぁ〜。仕方ないか…。……僕も甘いなぁ…」
 そう言って3千円を財布から取り出して鈴凛に渡した。鈴凛は嬉しそうに…、
「サンキュー、アニキ。さすがはアタシのアニキだね!!」
 そう言って、僕に抱きついてくる。僕は…、
「わぁっ? りっ、鈴凛?」
「あはははは。アニキ、赤くなってるぅ〜。純情なんだねっ。アニキって…」
 そう言いながら、鈴凛は階段を下りていった。もしかして、からかわれたのかな? 僕…。まあいいか。


 次は千影だ。でも千影の部屋って、何かおどろおどろしくて不気味なんだよね〜。
 後輩の子に聞いたんだけど、千影って自分のこと「魔界のプリンセス」って言ってるみたいだし…。確かにオカルトっぽい趣味はあるけど…。
「おーい、千影ー。夕食だってさ〜」
 僕は、千影の部屋をノックした。だけど、何も反応がない。この雨だから、どこにも行ってないと思うんだけどなぁ〜。
 部屋を開けたいんだけど、何か不気味なんだよねぇ〜。千影の部屋って……。僕が途方に暮れていると…、
「兄くん…ちょっと…待っててくれ…。今から…自分の体に…戻るところだから…。外で待ってても…しょうがないから…部屋に入っててくれ…」
 きぃ〜。
 千影の声がしたかと思ったら、千影の部屋の扉が音を立てて独りでに開いた。
 千影の部屋に入るなんて何年ぶりだろう…。確か、2年ぶりだ…。前にギロチンを見せられたときには、足がすくんでしまった。
 あれ以来だろうか…。千影の部屋に行ってないのは…。
 いろんなもののホルマリン漬けがあるなぁ…。はっきり言って僕は怖がりだ。だからこんなところからは一刻も早く出て行ってしまいたい。だけど、僕の大事な妹がこの部屋にいるんだ。僕は千影のベット代わりの棺を開けた。
「千影、千影…って、わぁ!! つ、つ、冷たくなってるぅ…。お、おい、千影!! 千影ってば!!」
 僕が冷たくなった千影を揺すっていると、どこからともなく千影の声がしてきた。
「兄くん…、少し私の体から…離れてくれないかい?…。これでは…戻ることが出来ない……」
 言われた通り僕は、千影の体から離れた。と、その途端、千影の体が怪しく光った。そして…、
「やあ、兄くん…。もう夕食なんだな…。私もお腹がすいてたところだったし…。あっ…兄くんは咲耶くんを呼びに行くんだったね…。まあ、頑張ってくれ…ふふっ」
 千影は起き上がってそう言うと、部屋を出て行った。な、何だったんだ〜。
 ま、まさか幽体離脱?! そんなバカな…。でもまあ、千影にも何とか夕食だってことをを伝えることが出来た。良かった、良かった。

 さあ、最後は咲耶だ…。咲耶は妹としてじゃなく一人の女の子として見てほしいみたいで、僕とショッピングに行ったり、手を繋いで歩いたりする。
 それもまあ成長過程だと思うんだけど…、咲耶の場合、ちょっと誤った方向にいってるような気がするんだよなぁ〜。
 僕はよく、シスコンって言われてるし、咲耶は、ブラコンなんて言われてる…。
 僕がシスコンだって言われるのは構わない。妹達、みんな可愛いから…。でも、咲耶はこれからのこともあるし…。
 って、咲耶に話したら、咲耶ったら……、
“いいじゃない。お兄様。私たち愛し合っているんですもの…”
 って言って、まるで気にしていないみたいなんだよなぁ〜。はぁ〜、先が思いやられるよ…。兄としては早く恋人でも作って独り立ちしてほしいものだけど…。
 でも、それも寂しいなぁ〜。あれこれ考えてるうちに、咲耶の部屋についた。
 コンコン。
「咲耶〜、夕食だって〜」
「まあ、お兄様!! 私をディナーにエスコートしてくれるの? ああっ…、やっぱりお兄様と私は離れられない運命なんだわっ!!」
 咲耶は、部屋の扉を開けて僕に抱きついてきた…。はぁ、やっぱり一人でイッちゃってるよ…。
 咲耶は目をきらきらと輝かせて僕を見ている。僕は何だか急に恥ずかしくなって咲耶の顔から目を背けた。
「まあっ、お兄様! 照れていらっしゃるの? んもうっ! 恥ずかしがり屋さんなんだから…。お兄様は! うふふ。でも、そんなところもラブよっ! ……さあ、早く行きましょ? もうみんな待ちくたびれてるはずだから…」
“みんな待ちくたびれてる?…”
 何のことだろう…。まあ、いいや。これでみんな揃ったし…。


 僕は咲耶と一緒にダイニングへ向かった。ダイニングの扉の前で、咲耶が…、
「お兄様、ちょっとここで待っていて下さらないかしら…」
 そう言った。また鈴凛の発明か何かかな? また、楽しい発明品なんかを見せてくれるのかな?
 それとも千影のマジックかな? 雛子と亞里亞のお歌かな? 可憐のピアノか花穂のチアか…、うーん。分からない。ともかくも待ってみよう。そう思った。だから…、
「うん。待ってるよ…」
 そう言って、微笑んだ。咲耶は嬉しそうに頷くとダイニングへと消えていった。しばらくして、可憐のピアノの音が聞こえてきた。と思ったら…、
「さあっ、お兄様、お入りなって!」
 咲耶の声がした。がちゃ…、僕はダイニングの扉を開けた。と、同時に…。
 パンパンパパンパーン。
 クラッカーの鳴る音がした…。次に妹全員の声で…、
「お兄ちゃん、いつもありがとう!!!!」
 妹全員がそう言っていた。僕は何が何だかさっぱり訳が分からない。僕の誕生日はもう済んだし…。う〜ん、何だろう? 僕が途方に暮れていると、白雪が…、
「にいさま? 何を考えてるんですの? 今日は6月16日、父の日ですの!! とうさまは、もういませんけど…。そのかわりに、にいさまがとうさまの代わりになってくれましたの! 姫たちが困ってたり悩んでたりしたとき、いつもにいさま、姫たちを助けてくれましたの!」
「そうだよ、お兄ちゃん…。可憐が困ってると、いつも可憐のこと助けてくれるもん。やっぱりお兄ちゃんは可憐たちのスーパーマンなんだよ。可憐、いつもそう思ってるの…」
 可憐もそう言った。みんなも、うんうんと頷いていた。……。そうだ…。僕たち全員の父さんはいない。というかいるはずがない。
 だって妹たちはみんな孤児なんだから…。父さんは、牧師だった。父さんはよく…、
「航、世の中には、恵まれない子がたくさんいるんだ…。私は、その子たちを一人でも助けたいと思ってる…。これは、父さんの生涯の目標だ…」
 そう、言っていた…。
“父さんの生涯の目標……………”
 僕は父さんの遺志を継ぎ、牧師になろう…、そう決意した。
 そして、今年の4月から島にある、プロテスタント系の大学に通っている…。勉強は大変だ…。だけど、僕は頑張るんだ…。そう心の中で誓った…。
 みんなも、もちろんこのことは知っている。雛子と亞里亞はまだ小さいので、まだよく分かっていない…。
 だけど、いずれ分かる時が来るだろう…。長女の咲耶は僕が2歳くらいのときに孤児院から貰われてきた。僕は朧気ながらその時のことを思い出していた。
「航、今日からお前もお兄ちゃんだ。しっかり妹の面倒見てくれよ…」
 あれから、17年…。妹たちも12人に増えた…。男手1つで僕たち13人を育ててくれた父さん…。
 その父さんも、去年他界した…。ガンだった。母さんは僕を産んですぐに亡くなった。だから僕は母さんを写真でしか見たことがない…。
 もともと体が強い方じゃなかったらしく、僕を産むのにも医者に反対されていたらしい…。
 自分の命と引き換えに僕を産んでくれた母さん、母さんのいない僕たちを一生懸命育ててくれた父さん。
 僕は、父さんと母さんには本当に感謝している…。そして、この12人の僕の大切な、本当に大切な妹たちにも…。
「おにいたま、どうしたの?」
「あっ、ううん。なんでもないよ。雛子…。ちょっと考え事をしてただけさ…」
「兄や〜。早く行くの〜。みんなが待ってるの…」
「うん。じゃあ、行こうか…。亞里亞」
 雛子と亞里亞は、嬉しそうに僕の手に自分たちの手を重ねて、みんなのもとへ近づいていった。
“みんな、ありがとう…。”
 僕は、心の中で何度も何度もそう言った…。それと同時に兄として、どんなことがあっても、例え泥を被っても、僕は、みんなを守っていこう…、いや、守る義務があるんだ。
“恥ずかしいこと考えてるかもしれないけど…、みんな、本当だよ…”
 僕はそう思った…。


 外は、梅雨の鬱陶しい空だった。だけど、僕たち兄妹の心は、夏の青い空のような感じだった。
 やがて、この島にも青く澄んだ夏空がやってくるだろう…。僕は、雨雲の向こうにある青い空を見つめていた………。

〜 Fin 〜