引っ越してきて…

第7話 衛と引っ越してきて…


「ほら、あにぃ。ボクと約束したでしょ? 今日はボクのお誕生日だからサイクリングに連れて行ってくれるって!」
 今日10月18日は僕の妹、衛の誕生日だ。スポーツが得意な妹。特に走ることが好きな妹は、毎朝のジョギングは欠かさない。今朝も早くに妹に起こされて走ったばかりなのに、サイクリングに連れて行ってとせかされる。昨夜は11時半くらいまで大学の課題をやっていて、そこからお風呂を頂いて寝たのが日付が変わって今日の0時半だから6時間ぐらいしか寝ていないわけで。でも、今住んでる町に引っ越してきてよかったと思う。ここは父さんの父さん、僕たちにとってはおじいちゃんの生まれ故郷と言うことになる。そこから父さんが生まれて巣立っていった。じゃあなんで僕たちがまた戻ってきたのかと言うことになるんだけど、それはおじいちゃんが亡くなって1年後の去年に遡るんだ。
 僕の父さんは外交官と言う仕事をしている。だから帰ってくるのは年に1、2回な感じかな? まあ今はネットで電話が出来る時代なのでそれほど不便に感じない。昨日も妹と話していたしね。そうそう昨年から母さんもついて行ってしまって妹と2人暮らしが始まって1年が経つ。まあ家事なんかは2人で分担してやっているので問題はないんだけど…。とにかく体を動かすことが大好きな妹は僕を1人にさせてくれないわけで。ボーイッシュな妹は女友達よりも男友達のほうが多い。表でわーわー言っていて何かな? と見に行くと自転車でどちらが早くゴールに着くかと言う競争していて妹が全敗していたっけ。まあ中学生にもなると体力差がついてくるのは目に見えて分かる。だから妹が負けても不思議でも何でもないんだけど、納得いかない表情で友達が帰った後、1人で練習していた。“あ〜あ、何でボクは女の子に生まれたんだろ。あにぃと同じ男の子に生まれたかったな?” って言うのが最近の口癖のようになっている。
 昨日は昨日で、学校から帰るなり僕に抱き着いてきて、“もうボクと遊んでくれないって…。‘衛は女の子だから…’ だって言うんだよ。‘女の子と遊ぶなんて出来ない’って…” と涙をはらはらと流しながら抱き着いてくる。ああ〜、これは思春期的な一種の傾向かな? 妹も一応女の子として見られているのか…。そう思うと兄としては嬉しい。だけど、妹にとっては今まで遊んでいた友達が急に遊んでくれなくなって相当にショックだったんだろう。わぁ〜っと声を上げて泣きながら、“何でみんなそんなこと言うの〜? 今まで遊んでくれてたのに〜っ!!” と道理を得ないような物言いをする。まあ今まで遊んでいたのに急に遊んでくれなくなったとなれば妹にしてみれば“何で〜?” となっても不思議じゃない。そう言えば、3ヶ月前のある夏の日の朝、寝ている僕の部屋にダダダダッと妹が駆け込んできて、“あにぃ、ボク女の子になっちゃった” と言う。
 一瞬何が何だか分からなかったけど、妹のもじもじした姿を見て、ああ、アレが来たんだな? と思った。うちではお風呂は妹が湯船に足が届くようになってからは男女は別に入るようにしている。だから妹が小学校5年生の夏から入っていない。まあそれは寝室も同じなんだけど、寝室には時々妹が僕の布団に入り込んで寝ていたりするわけで…。その時にむにゅっと何やら柔らかいモノが押し付けられたように感じたんだけど、結局はそう言うことだったんだと思った。その時は母さんに電話して何とかなったわけだけど。さめざめと泣く妹の顔はもう涙でぐしゃぐしゃだ。服の袖で拭うんだけど拭っても拭っても涙は止まらない。疎外感を感じてしまったんだろう。だとしたらここはお兄ちゃんである僕の出番かな? そう思い、“ねえ衛。明日僕の運動不足解消にサイクリングに付き合ってよ…” と言う僕。“どっちが先に目的地に着くか競争だぞ?” と更に言うと涙を拭き拭きうんと大きく頷く妹。顔を見るとにこっと可愛らしく笑った。


「ふぅ、ふぅ…ふぅぅぅぅぅ〜、は、はひぃ〜。ちょ、ちょ、ちょっと待って〜」
 と妹の後ろで必死で自転車を漕ぐ僕。やっぱり普段運動している者としていない者との差がはっきりするんだなぁ〜っと思う。そんな僕を小高い丘の上から妹が、“あにぃ〜、頑張って〜。もう少しだよ〜” とにこにこ顔で見ていた。まあ妹は妹で悩みもあったりするけど、やっぱり笑った顔のほうが可愛いよ…、そう、今みたいに。そう思いながら降りた自転車を押しながら妹の下へと向かう今日10月18日、僕の可愛い妹・衛の13歳の誕生日だ。

END