引っ越してきて…
第8話 亞里亞が引っ越してきて…
「わぁ〜、兄やとお誕生日会久しぶりなの〜」
と僕の隣りでちょこんと椅子に腰掛けたフランス人形みたいな可愛い妹がこういう。今日11月2日は僕の妹・亞里亞の誕生日だ。家は明治期から代々貿易商を営む。まあそんな関係からか僕の父さんも同じ貿易商として世界中を飛び回っている。母さんはその通訳と言うわけで一緒にいることが普通な感じだ。昔(とは言え中学卒業までだけど…)は僕も父さんたちと一緒にあちこちと世界中を飛び回って珍しい文物や書画骨董などに触れてきた。まあ学問のほうも母さんの勧めで通信制の小・中学校を出たわけだから人並みには学力はあると思う。日本の高校を一応出て昨年の4月から大学に通っているんだけど、問題が1つ、いや2つかな? あるわけで…。
1つは妹の身辺のお世話をする人がおじいさんから若い女性に変わっていたと言うことだ。昔は僕もよくお世話になっていたおじいさんが腰のほうを悪くしてしまって妹の成長にはついて行けず、おじいさんの孫娘に変わっていたと言うことらしかった…。後で父さんたちに聞くところが、“お前をびっくりさせてやろうと思ってな?” なんて言う。こっちは当然聞かされていないものだから空港に迎えに行くと妹と一緒に来る人がいつものおじいさんじゃないことに驚く。と言うか昔よく遊んでくれた知花姉じゃないの? と朧気な昔の思い出を投影していくとやっぱり知花姉だったわけで。まあ昔は女の子よりは男の子と遊ぶことが多かったやんちゃな女の子のイメージがあった知花姉だったけど、すっかり変わって大人の女性らしくなっていてびっくりしてしまう。僕より3つばかり年上な彼女。向こうの大学では幼児教育科と小学校の教師の免許を取得している知花姉なので妹の教育係としてはぴったりだったんだろう。そう思った。
そんな知花姉を妹はなぜか、“じいや” と呼ぶ。まあ妹はその頃はまだ年端もいかない赤ちゃんだったし、仕方ないと言えば仕方がないんだけど…。知花姉のほうは、“まあ物心がついた時には私が教育係としてやってたんだけど…、何でいっつも‘じいや’って呼ぶの?” と少々ご立腹な様子だ。そんな知花姉を宥めるのがここ最近の僕の役目になりつつあって少し怖いんだけどね。でも、そんなことを言ってもちゃんと面倒などを見てくれているところはやっぱりさすがだなぁ〜っと思うし尊敬もする。
で、問題なのがもう1つのほうで…。まあ父さんたちも妹が可愛かったんだろうけど、箱入りに育てすぎてしまっていて世間一般のことを全く知らない感じになってしまっている。ここは妹の名誉のために言うけど、最近は徐々にではあるけども直ってはきてるんだけどね? 日本に帰って来て最初の頃はそれは酷かった。スーパーのお菓子の棚の物を全部欲しがったりして、知花姉が叱ると、“じいや怖い” って言って僕の服の袖をぎゅっと掴んで離さない。それで僕も一緒になって叱られたりすることなんかがしょっちゅうあって…。まあそれだけならいいほうで、妹の場合はすぐに泣いちゃう癖みたいなものがあってまま大変だったわけだ。一度、しくしく泣く妹が可哀想になって内緒でお菓子を買ってあげたんだけど、買って帰ってから案の定、知花姉に見つかって、“もう! またこんなに買ってきて〜! 航ちゃんも航ちゃんだよ〜っ!! 亞里亞ちゃんに甘いんだから〜っ!!” と叱られたことは言うまでもないことなんだけどね。そんなわけだからうちの妹の“じいや怖い病”にますます拍車がかかって最近じゃあ寝るまで僕のもとから離れてくれないわけで。まあ妹はすべからく兄を慕うものだとは思うけど、このままじゃあますます僕に依存するんじゃないかな? と少々不安になったりもするわけで。それが今まさに具現化している証拠なのかな? と思った。だって…、ねえ?
「兄やのお膝の上で食べるディナーってとっても美味しいの…。これからもディナーを食べるときには兄やのお膝の上で食べたいな…」
なんて目をくりくりさせてそんなことを言いながらお行儀よく夕食を食べている。と言うかそろそろ僕も食べたいんだけど、妹が膝の上に乗っているものだから食べるに食べられなくて困ってしまう。知花姉は知花姉でそんな僕たちを怒ったような羨ましそうな目で見つめているし…。はあ〜、と一つ大きなため息が出る。とにもかくにも妹には早く自立してほしいなぁ〜っと切に願う今日11月2日、僕の可愛い妹・亞里亞の7歳の誕生日だ。
END