引っ越してきて…
第10話 花穂と引っ越してきて…
「お兄ちゃまが悪かったから、もう泣き止んで〜」
とべそをかきながらぽろぽろ涙を流している妹に向かいぺこぺこ頭を下げる僕がいる。今日1月7日は僕の可愛い妹・花穂の誕生日。実のところ、引っ越しをした。と言うか、田舎で暮らしていたんだけど、僕の大学入学と共に新しくアパートを借りて住んでいたんだけど、父さんたちが海外転勤が決まって、妹をどうするかと言う問題になって、妹に直接聞いたところが、“お兄ちゃまと離れるのは嫌” と言うことで、僕と暮らすことになった。まあ暮らしはそこそこうまくやれていると思う。妹も積極的に手伝いとかをしてくれている。…のだけど、妹は極度のおっちょこちょいと言うかドジと言うかそう言う性分のため、必ずどこかでドジを踏む。この間も朝ごはんを作ってくれたのはいいんだけど、目玉焼きの塩と砂糖を間違えて入れたためものすごく甘い目玉焼きになった。謝る妹の目には涙が零れ落ちそうになっている。食べ物を粗末にしてはいけないといつも言っている手前、捨てると言う選択肢はなく、甘い目玉焼きを食べたわけだけど、普段塩と胡椒で味付けされたものを食べなれているせいか、とても独創的な味付けだったなぁ〜っと思う。
とにかく生来の性分なドジなため、常におどおどした性格になっている僕の妹。そんな妹を勇気づけるため、待ち合わせをしてどこか美味しいものでもテイクアウトして帰ろうと約束していたんだけど…、降りる駅を間違えてしまい電話をしようと見たらバッテリー切れ、おまけにどこにも公衆電話がないので連絡のしようもなく遅刻してしまった。ここで怒るか拗ねるかしてくれるとどんなに心が楽になることだろう。だけど、僕の妹はそんな想像の斜め上を行っている。他人に対して怒ることはあまりと言うか絶対にしない僕の妹は、すべて自分のせいにしてしまうと言うある意味、とんでもなく良心にダメージを与えると言う癖を持っている。その主なる被害者は常に僕なんだけど、今日はそれがものの見事に当たってしまった。
急いで待ち合わせの駅に向かうと、寒空の駅前のベンチの下、ちょこんと佇む影が見える。あれは間違いなく僕の妹だ。そう思って、明るめの声で呼んでみた。“花穂〜。ごめ〜ん。お兄ちゃま、電車間違えちゃった〜” そう妹に呼びかけると、今まで泣いていたんだろうか鼻をぐしゅぐしゅにしていた妹がこっちに振り向いて、“ふぇ〜〜〜ん、お兄ちゃま〜〜” と言いながら僕のほうに飛び込んできた。今日は特に寒い日だ。頬も真っ赤にして、ずっと待ってたんだろう。そう思うとなんだか済まない気持ちでいっぱいになる。ぺこぺこと謝り合いをしていると、周囲から、笑う声が聞こえてくる。ふっとその方向を見てみると、サラリーマンのお兄さん数人が目元を下げていた。それが恥ずかしくなり、ぺこぺこお兄さんのほうにお辞儀をしながら未だにぐしゅぐしゅ言っている妹を連れてその場を後にする僕。お兄さんたちの温かい目が非常に痛かった。で、妹を連れてテイクアウトできるお店が立ち並ぶ商店街の一角までやってきた。一昨年から流行り出したコ〇ナの影響でなるべく接触は避けようと言うことでこう言ったテイクアウトできる店が多くなったわけだけど、僕としてはやっぱり食べに行くのが一番だと思うわけで…。少しばかり不満に思う。かと言ってコ〇ナに掛かるのはもっと嫌だなぁ〜っと思う。まあ妹はいろいろとドジをやらかしているせいか、家でゆっくり食べられるこういうテイクアウトがいいと思っているらしく、“花穂はこっちのほうがいいんだけどなぁ〜” とんぅ〜っと顎に指を置いて何か思案気にしていた。妹が言うんならそのほうがいいんだろう。そう思ってテイクアウトのお店をまわる僕たち。帰る頃には両手にいっぱいな荷物になっていたんだけど…。
「お兄ちゃまは悪くないよ〜。忘れちゃう花穂が悪いんだ〜」
そう言って僕に非があるにも関わらず、全肯定してくれる妹に余計に悪い気がする僕がいた。誕生日の重要アイテムであるケーキを買い忘れてしまい、妹に謝ってはいるんだけどどっちともが頭を下げるものだから、せっかく買ってきたものが冷めてきちゃってて…。結局レンジで温めなおすことになった今日1月7日、可愛い僕の妹・花穂の12歳の誕生日だ。余談だけど、忘れちゃったお詫びに一緒に寝ることになって、布団に入ったわけだけど、寝相がよさそうで悪い妹は寝惚けて、“お兄ちゃまがぴょ〜ん” と飛び跳ねたりしてはたまた抱き枕みたいに抱きつかれて膨らみかけのモノを腕にあてがわれて寝るに寝られない一夜を送ったことは言うまでもなかった。
END