引っ越してきて…
第11話 白雪と引っ越してきて…
「にいさま! 朝ですの! 朝ごはんちゃっちゃと食べてくださいですのっ!!」
妹の拗ねたような怒ったような声が家の中に木霊する。約1か月前の2月11日は僕の目の前、ぷく〜っと頬を膨らませて恨めしそうに上目遣いに見遣っている妹・白雪の誕生日だったわけだ。でも今年はいつもなら何かしら祝ってあげているんだけど、それも出来ない状況に追いやられてしまったわけで…。一昨年末から流行り出した得体のしれないウイルスのせいで昨年はどこもかしこも中止や延期に追いやられてしまって一番期待していた五輪も今年に延期と言う有様なわけだけど、そればかりでもなく僕自身がそのウイルスに感染してしまって大変だった。
一般的に罹患してしまうと味覚障害になってしまうと言う感じなんだけど、僕もその口で妹の料理の味がまるっきり分からなくなってしまって慌ててそれ専門の外来に行って調べていたら罹患していたことが分かったわけで…。一番の濃厚接触者である妹も調べたんだけど幸い妹にはうつっていなかったのがせめてもの救いかな? と思う。福祉関係の仕事に従事している僕は外回りでいろいろと出掛けることも多くある。1月の下旬くらいに回らせてもらったとある家で罹患したのかな? と思った。そこの家は少々複雑な家族関係でおじいちゃんおばあちゃんとお孫さんで暮しているんだけど、どうやらお孫さんがもらってきてしまったらしく、それがおじいちゃんおばあちゃんを介して、僕に伝播されてしまったらしい。まあ不幸中の幸いと言うのはおかしな話だけど、おじいちゃんおばあちゃんのほうも症状は軽くて済んだことかなと思う。
で、今だ。普段から家庭的で料理教室に通っていた妹もこのウイルスのせいでリモートアクセスで料理教室に通おうとしていたんだけど、IHと洗濯・掃除機以外はろくに機械を触ったことがなくて、携帯電話さえ僕がいるときだけ使ってるくらいなんだ。だからタブレットなんてもってのほか! と言う感じなので、料理教室も休みがちになってしまって、それが余計に妹をぷんすか怒らせる要因の1つになったんだろうな、そう思いながら出て来た料理に箸をつける。まあ怒っていても作る料理は美味しいし、カロリーバランスもしっかりしているので最近健康志向の強い僕にとってはとても嬉しく思う。
まあこんな田舎に引っ越してきて最初はどうなることやらと思ってたけど、まあまあうまくやれているみたいでほっとしている僕がいる。田舎と言ってもここは父さんの実家があった場所なので見ず知らずの土地ではないことは言うまでもなくて…。で肝心の父さん母さんは外交官とその通訳と言う間柄で年に帰ってくるのは1回くらいでそれも1日いればいい感じだ。まあこんな風光明媚な場所に引っ越してきたのも実のところ妹のためでもあるんだけどね。僕には言わないけど前にいた土地では、“いじめ” を受けていたみたいで隠れて泣いていたみたいだった。無理して僕の前では元気そうにしていたみたいだけど、先生にこっそり呼び出されてそんなことを聞かされてショックを受けたことを思い出す。何でいじめを受けていたのかについては、妹の料理が原因らしかった。いつも手の凝った料理を作って持っていく妹は一躍人気者になる。それを妬む人も必ずしも少なくなくて…。そう言う感じで集団からの孤立が目立つようになって最終的には身の危険を感じるようになってしまった。具体的には端折るけど、警察沙汰の一歩手前まで来ていて…。父さんたちに言ったら即転校と言う形で、この土地に来たと言うわけ。住み慣れた土地を離れて違う土地で新たに生活できるのかどうか、特に妹に関しては心配でならなかったけど、それは杞憂に終わった。それは妹の“いじめ”の原因だった料理だったことは言うまでもなくて…。
「うん、今日も美味しいね? 白雪の料理は…」
そう言う僕に、“当たり前ですの。だって姫はにいさまの料理番なんですから…” と言ってにこっと微笑む。その顔が本当に嬉しそうで僕もにっこりしてしまう。今日は誕生日の遅れた代償でこれから妹と食べ歩きなんかをしようかなと思ってる。一応妹にも話してあるので問題はない。と言うか妹が前に行きたいと言っていたお店に今日お詫びとして行くことにしたわけなので、妹にしてみれば約束みたいなものなのかもね…。そう思いつつ急いで朝ご飯を食べる今日3月6日、妹の誕生日から約1ヶ月経った今日だ。
END