引っ越してきて…
第12話 千影と引っ越してきて…
「温かくして寝てなきゃだめだよ。いつも無理するんだからね? 千影は…」
と僕はゴホゴホ咳をする妹に向かいこう言う。三寒四温な季節の変わり目な今日3月6日は今赤い顔をして寝込んでいる妹・千影の誕生日だ。いつもならこの時期に風邪を引いて寝込んでいるのは僕のほうなんだけど、今年は妹が風邪を引いてしまった。まあ最近は気温の上下動が激しくて昨日暖かかったのに今日になったらもう寒いと言う感じが多くある。食が細い僕の妹は、あまり量を食べられないのでこんな感じで季節の変わり目には必ずと言っていいほど体調を崩しがちになる。まあこの土地に引っ越す前からこんな調子だったのでその点はもう慣れた感じだけどね?
妹とこの土地に越してきて5年が経つ。もともと家は父さんの父さん、僕たち兄妹にとってはおじいちゃんの家だったわけだけど、おじいちゃんおばあちゃんが亡くなってから随分の間放置状態だったんだ。じゃあなんで僕たちがこの家に住むことになったのかと言うことだけど、それは妹のとある日に見た夢からだったわけで…。妹は占いを生業としている。ここ数年、占いが秘かなブームらしく若い女子の間ですごく人気なんだとか…。教職についている僕の受け持ちのクラスでも“あそこの占い師さんはよく当たるねぇ〜” と言う言葉が耳に入ってくる。もともとおばあちゃんがそう言う類のことをやっていたと父さんたちから聞かされていて、隔世遺伝的なものがあるのかなぁ〜? と帰ってきた父さんたちと一杯やりながら話をするんだけど…。
僕の父さんは外交官で母さんはその通訳と言う間柄なため、年に帰ってくるのは1、2回くらいでそれも日帰りな感じだから今帰ってきたのにもう行くの? と言うような状況だ。昨今はおかしなウイルスが世界に蔓延しているせいか2年ぐらい家には帰って来ていない状況が続いている。まあその点は通信技術の発達で家にいながら顔を合わせることも可能なので寂しさはあまり感じないかな? 妹もよく週末とかに“兄くん、父くんと母くんに話があるから繋いでおいてくれるかい?” と言っては利用しているしね。
細面でクール&ミステリアスな感じの妹はどこに行っても目立つ存在だ。だからそんな妹の信奉者も中にはいて、妹の身辺をいろいろと調べる輩も多くいる。でもなかなかに妹はその辺の事情には詳しいので適当にあしらっているって言うわけで。何だか僕よりも大人だなぁ〜っと思うところも多くある。でも、妹自身は微塵もそんなことは考えていなくて…、と言うよりクールでミステリアスな顔は彼女の一面にしか過ぎない。その裏はものすごい甘えん坊で家ではひっきりなしに甘えてくる。普段の彼女とはまるっきり正反対な感じになるので正直困っている。その一面が出るのが今現在、この風邪と言う局面と言うわけ。“兄くん、1人にしないで…” と妹が寝ている間にお粥を作ったので持ってこようとすると、ふるふるふるとどこかのお嬢様のように首を横に振って行かせまいとする妹。はぁ〜っとため息をつきつつ、妹の頭をくしゃりと一撫ですると、“そこからそこだからすぐに戻るよ” と言う僕。そんな僕に対して…。
「いや、あの、ち、千影? なんでついてきたの?」
とふらふらしながらも僕の後をついてきて服を掴んでくる妹にそう言うと、“だって1人残されるのは寂しいし、兄くんが私を置いてどこかに行ってしまう気がしたから…” と頬をリンゴのように真っ赤にしながらちょっと涙目になってそう言う妹。大袈裟だなぁ〜っと思いつつもそんな妹の行動が少し可愛らしく感じる。ともあれまずはこの甘えん坊さんに栄養を付けさせないとと思いながら一旦お粥を置いて、妹を寝かしつける僕。まあそれからお粥を持ってきて食べてもらおうとするんだけど、また首を横に振って今度は、“食べさせてくれると嬉しい…” と言う妹。“いや、自分でそれくらいは食べてよ” と言うとこの世の終わりみたいな顔をして今度はぶんぶん首を横に振って頬をぷく〜っと膨らませてくるので結局食べさせる僕がいたんだけど。あの “あ〜ん” だけは恥ずかしいなぁ〜っと何度となくやっても思ってしまう、そんな春ももうすぐな3月6日の夜の帳が降りる時間、クールでミステリアスな反面、その実とても甘えん坊な妹・千影の23歳の誕生日だ。
END