家族の証

第1話 鞠絵と僕の家族


 今日4月4日は僕の妹、鞠絵の誕生日だ。春の暖かな日差しに誘われてついふらふら〜っと妹と2人で散策に出かける。体の少し弱かった妹は家から4、5キロほど離れた高原のサナトリウムで療養していたんだけど、それはもう昔の話。今は元気に暮らしている。それが僕にとっては何より嬉しい。とはいえまだ無理は禁物なので激しい運動などは控えめにしているんだけどね? まあそれは妹自身、自分が激しい運動が出来ないことは分かっているのでその辺は安心かな? なんて思う。父さん、母さんは外交官なため年に数回家に帰ってくる程度なわけで…。時々寂しそうにしている妹の頭を優しく撫でてやるんだけど、そんな僕よりもっとすごい存在が家にいる。名前はミカエルと言う。犬種はゴールデンレトリーバーと言う種類。まあペットと言うより家族の一員と言うほうが近いのかな? そんなミカエルもブルンと尻尾を振り振り一緒についてきていた。ミカエルは妹といつも一緒だ。僕が療養所に行けないときにはよくミカエルに慰められたと聞いているし、妹が一時危険な状態になった時は4、5キロ離れた家まで僕を迎えに来てくれた。そんなこともあって僕はミカエルには本当に感謝している。ゆっくり土手沿いの道を歩く。河川敷の原っぱには午後の憩いに来ている人たちを多く見かけた。その人たちをにこっと笑顔で見つめている妹の横顔が何とも可愛らしい。とふっと妹がこっちを不思議そうに見遣りながら、
「兄上様? どうかされたのですか?」
 と言ってくる。“いや、鞠絵の横顔を見ていたらついつい見惚れちゃってね?” と正直に言うと頬を赤らめながら、“もう、兄上様ったら…” と、本当に嬉しそうにでもちょっぴり恥ずかしそうに微笑んでいる。しばらく歩くといつも行くスーパーが見える。と妹が、“そう言えばミカエルのご飯が切れかけてたんだっけ?” と独り言のように呟いていた。“だったら今から買いに行くかい?” と言う僕の問いかけにうんと素直にうなずく妹の顔はとても嬉しそうだった。
 ミカエルを表に待たせて僕たちは一緒に中へ入る。籠を取るのは僕の役目だ。スーパーのペット用品売り場まで来ると鞠絵はいつもう〜んと考え込むくせがある。そう言えばプレゼントは買っているんだけどケーキはまだ買っていなかったんだっけ? と思いきょろきょろと見渡していると、スーパーの中にあるケーキ屋さんに美味しそうなケーキを見つけた。鞠絵はまだまだ悩んでるようだし…、“ちょっと向こうのほうを見て来ていいかい?” と聞いてみると、“ええ、わたくしのほうもお時間が少しかかりそうですから…” と言うので、早速見に行く。ついでに表も見てみると、ミカエルが小さな子供たちのおもちゃにされていた。まあこの界隈でもちょっとした有名犬であるミカエル。前述の通り4、5キロ離れた僕の家まで鞠絵の容体を知らせに来たことは、この界隈では有名になっているので、スーパーの店長さんも快く見てくれている。それが僕にとってはすごく嬉しい。“もう少し待っててくれよ?” そう心の中で言うと僕はケーキ屋に行く。最近はてんでケーキ屋なんて来たことがなかったんだけど、いろいろと種類があるんだなぁ〜っと思いながら見ていく。どれも美味しそうだけどやっぱりこれかな? と思い選んでいると、ふっと飛び込んできた文字に少々驚きつつも、それも一緒に購入する。
 と妹がどうやら決めてきたらしいミカエルのご飯を少々重そうに持っている。妹に今買ったものを手渡して、よっこいしょっと肩にミカエルのご飯を乗せた。清算を済ませて帰る道すがら、少々不思議そうな顔をして妹が、“何を難しそうにケーキ屋さんの前で悩んでおられたのですか?” と聞いてきた。この様子だと自分の誕生日が今日だって言うことを忘れてるね? そう思って、“家に帰れば分かるよ” と僕はやや速足で歩きだした。鞠絵は、“もう、兄上様〜” と言って僕の後を追いかける。ミカエルは嬉しそうに尻尾をブルンブルン揺らしながらリードを持つ鞠絵の前を走っていた。


「ミカエル、兄上様にちゃんとお礼を言うのですよ?」
 夜、ささやかながらバースデーパティーを開く。鞠絵は嬉しそうに僕の買ったイチゴのショートケーキを食べている。それと今回はミカエルにもケーキがあるわけで。犬用のケーキなんて実際テレビでしか見たことがなかったわけだけど、今回初めて実物を見た。スーパーから程よく離れた場所にあるペットショップの監修の元、作られた品物らしいことを聞かされたわけだけど…。“ワンッ!” と一吠えに吠えると僕の顔をペロペロなめてくるミカエルにくすぐったくて思わず椅子から落っこちそうになる今日4月4日、僕の大切な妹、鞠絵の誕生日だ…。

END