家族の証

第3話 四葉と僕の家族


「お〜い、四葉〜。ちょっと待ってよ〜。そんなに慌てなくてもすぐに見つかるってば〜」
 今日6月21日は僕の妹・四葉の誕生日。父さんたちの外交官の仕事柄か外国(特にイギリス)暮らしが長かった僕たち。妹が生まれたのもロンドンのとある病院だった。まあ一般的にイギリスと言えば妖精さんやら心霊現象やらで有名なんだけど、僕はイギリスと言えば探偵だと思っていた。そのことを日本に帰って来て学校で話すとみんなから笑われてちょっと恥ずかしい記憶も残っている。でも探偵物の代名詞だろうシャーロックホームズと言うあまりにも有名すぎる名探偵の物語を書いたサー・アーサ−・コナン・ドイルが生まれ育った地なんだからそれでとやかく言うのはおかしいかな? と思う。もっともみんなもコナン・ドイルの作品は読んでいるのかあそこが良かった〜っとかあの場面は怖かった〜とかなどと話し込んでいてその日は帰ってくるのがちょっと遅くなってしまい、妹から“心配したんデスよ〜っ! 兄チャマ〜” と涙をぽろぽろ流させてしまったことは反省すべきところかな? と思う。そんなこんなでどう言うわけか僕の妹はその架空のヒーローが実際にいると信じてしまい、日本に帰って来てから探偵の真似事をするようになった。帽子とコートはどうしても欲しいと珍しく駄々をこねられて買ってあげたものだ。そんな四葉の相棒と言うべき存在はダックスフントの“ワトスン” なわけで…。まあ探偵には相棒が存在するのは探偵小説では当たり前のことだ。僕はその助手的な役割なのかな? ともかくも今日は妹の誕生日なので、プレゼントは買っておいたんだけど、普通に渡すんじゃあまりにも味気ないと思ってとある場所に隠してそれを妹に探させようと思ったわけで…。父さんたちは僕が高校に入った時に、“もう高校生だし大丈夫だろう” と言うことで家のほうを空けることが多くなった。前述の通り今もイギリスで仕事中だ。日本に帰ってくるのは年に2、3回くらいかな? 実際会えないのは寂しく感じるんだけど、今の時代ネットでいつでも話せるようになったので、それほどの寂しさと言うのは感じない。四葉は毎日のように話してるしね?
 で、今だ。愛用の虫眼鏡を取り出して、“ムムムム〜ッ” と言う声も発しながら四葉は僕の隠した誕生日プレゼントを探し回っている。“ワトスン” はそんな四葉のお手伝いかくんくん足元の匂いを嗅いでいる。まあ家の中にあるって言うことは“ワトスン” でも気がつかないだろうな? なんて考えつつ街をぶらりと名探偵・四葉の後をついていく。と、ケーキを買うのを忘れていたことを思い出して四葉に“ケーキ買うのを忘れたから買いに行ってくるね?” と言って、“ワトスン” と一緒に買いに行く。眉間にしわを寄せて考え込んでる四葉を尻目に“ワトスン” にだけそっと答えを教える僕。陽は長いとはいえ、もう暮れかけだし、おまけに雨も降り出しそうな気配もする。それに夜遅くまで探し回ってると明日がまた大変だ。一度寝るとなかなか起きない僕の妹は起こすのにも一苦労なわけで…。この間も遅刻ギリギリになってたっけ。僕は不幸にも遅刻扱いになっちゃって、後で先生に叱られたんだけどね? そんなわけだから“ワトスン” に教えると、“ワンッ!” って言う元気のいい声が聞こえてくる。ケーキを買って戻る。ケーキを持っているので四葉と“ワトスン” のリードを交換だ。と、四葉が少々ムッとした顔で、“兄チャマ、ワトスン君と何を話してたんデスか?” と怪しげに見つめてくる。と、“ワトスン” が何か分かったかのように“ワンッ!” と鳴いて四葉のリードを引っ張っていく。ケーキを持ったままにこにこ顔の僕がいた。


「兄チャマの四葉へのプレゼントを盗もうとするとはいい度胸デスね? でも盗んだものを置いていくナンテちょっとお間抜けさんな泥棒さんデス」
 そう言いながらもほっとしたような顔になる妹。そんな妹のかたわらには今回の事件で大活躍だった名探偵の助手が尻尾をぶるんぶるん揺らしながらご主人様のほうを見て“ハッハッ” と言っている。“でもさすがはワトスン君デスっ! やっぱり名探偵には名助手がつきものデスねっ! ねっ! 兄チャマ!” と今回の事件? の功労者である“ワトスン” の頭や体を撫でて回る四葉。“ワトスン” はそんな四葉の手に嬉しそうにしていたが、一瞬僕のほうを見た。僕はし〜っと口に人差し指を持っていく。それが何なのかは僕と“ワトスン” だけの秘密な今日6月21日、自称・名探偵な僕の可愛い妹・四葉の誕生日だ。

END