家族の証
第8話 亞里亞と僕の家族
「ねえ亞里亞? アントワネットは寒くなると眠たくなっちゃうもんなんだよ?」
くすんくすん泣いている妹に向かい優しくそう言う僕。父さんたちももう少し表へ出してあげてもよかっただろうに…と思う今日は妹・亞里亞の誕生日なわけだけど、ご覧の通り妹は冬眠した亀を死んだと勘違いしてくすんくすん泣いているわけで…。ここのところ寒い日が続いているからかどうかは分からないけど、どうやら冬眠時期が来たらしく、亀などの爬虫類はほぼ眠ってしまっているのが事実なわけだ。かく言う亞里亞の大事なペットと言うかお友達な“アントワネット” も首や手足を引っ込めて眠ってしまったわけで…。また春になったら動くよって言ってもくすんくすん泣くばかりなわけ。“亞里亞様、兄上様も申していらっしゃる通りなのですから…” と亞里亞のお付きの女性・じいやさんもそう言って妹を窘めるんだけど…。“じいやも兄やと同じことを言うの? くすんくすん!” と言ってカーテンの裾に隠れておどおどとこっちを見ている。
はぁ〜、しかし困ったなぁ〜。あんまりきつく叱っちゃうとおどおどと他人の目を気にして自発的に出来ない子になっちゃうし、かと言ってアントワネットを無理矢理起こすわけにもいかないし…。いつもなんやらかやらで僕を助けてくれるじいやさんも今回ばかりはどうにも出来ない様子でふるふると首を横に振ってるしなぁ〜。まずはどうやって亞里亞の関心をアントワネットから違うものへ向けさせるか…。簡単なようで意外にこれが難しいんだよね? まあ何かやってみよう。そう思っていつぞやかのお人形作戦に出る僕だったんだけど…。“お人形さんはそんなお声ではありませんの。くすんくすん!” そう言って裾に隠れたままプルプル体を震わせてるし…。違う亀でも見に行こうなんて言ったらそれこそ死んじゃったなんて勘違いされてしまうんじゃないだろうか? ほとほと困ってしまう。と、そこでじいやさんがインターネットで調べた情報を見せてくれる。え〜っと、なになに? 亀の飼い方…と、冬眠と加温越冬? そんな飼育方法もあるなんて知らなかったなぁ〜。まあ爬虫類は変温動物なわけだから温度を上げると動き出すって言うことは分かってるんだけど、かと言って眠りかけてると言うかもう冬眠しているアントワネットを無理矢理起こすって言うのも可哀想な気もするし…。取りあえず、このまま冬眠させる方向で説得してみるかな? そう思い僕はカーテンの裾に隠れている妹に向かいこう言ってみる。
「ねえ亞里亞、アントワネットも含めて亀さんは冬になると眠たくなっちゃうものなんだよ? それを起こしてしまったら嫌に決まってるじゃない。亞里亞だって眠たいのを起こされるとすごく嫌でしょ? アントワネットだって同じなんだよ? だからここは静かに寝かしておいてあげよう? ねっ?」
と妹の目線にまで下がって優しく諭してみた。父さん母さんとも10年来出来なかった待望の女の子だからか妹には甘やかしていたために少々我がままに育ってしまっている。そんな原因の父さんたちは外交官なため日本に帰ってくるのは年に2、3回がいいところだ。その弊害? を今僕が受けていると言うわけで…。まあ意外と僕の言うことには素直に答えてくれるところが可愛いと言えば可愛いところなわけだけど、これと決めたことには意外と頑固なところもある妹のことだから今回はどうなるのかな? そう思い妹の答えを待つ僕。もしどうしても起こさないと嫌! と言ったら今回は少し眠りかけてると言うか眠っているアントワネットには悪い気もするけど、起こしてやろうかな? なんて考えてる僕がいたりなんかするわけだけど…。と妹が顔を覗かせる。くすんくすん涙に濡れた瞳がおどおどとこっちを見つめている。妹が口を開く。言った言葉に僕はにっこり微笑んでいた。
「“やっぱりねんねさせておいて…。亞里亞我慢する…。くすん” か…。言い聞かせることの大切さが身に染みて分かったような気がするよ…。でもよく我慢出来たね? それだけでも兄やは嬉しいよ。また春になったらアントワネットと一緒にお散歩でもしようね?」
妹の寝息の聞こえる中、僕は静かにこう言って優しく頭を撫でる。じいやさんも、“さすがは兄上様です!” そう言って労ってくれていた。まあ生き物を飼うに当たっては自然に近い形で飼うのが一番だと言うことを聞いていたし、かつ僕自身も昔飼っていたこともあったので、その頃の我がままさの犠牲への罪滅ぼしなのかな? と思う今日11月2日は僕のちょっぴりワガママだけど可愛い妹・亞里亞の誕生日だ。
END