家族の証

第10話 花穂と僕の家族


「花穂〜? お兄ちゃま、たっくんの散歩に行くけど一緒に来る〜?」
 1月7日、松の内も今日で開けて明日からいよいよ3学期が始まる今日は頑張り屋さんな僕の妹・花穂の誕生日だ。3年前に柴犬の赤ちゃんを父さんの友人から譲り受けた。妹は今年小学校を卒業する。かく言う僕は今春高校3年生になる。そろそろ進路を考えないといけないわけだけど…。まだ学びたいことが山ほどあるので大学進学かなぁ〜っと思ってる。学校の先生にその旨を伝えると、“航君なら大抵の大学は受かるんじゃないかな?” と微笑みながらそう言ってくれた。しかし油断大敵とも言うし、努力に惜しむことはないので日々の学習キチンと行なっているつもりだ。で今、勉強の息抜きにと妹を誘って“たっくん” の散歩に出かけようと靴を履いていた。3年前に家に来た“たっくん” ももう立派な成犬だ。そう考えると月日の経つのは早いなぁ〜っとつくづく思ってしまう。で、今いつもの“たっくん” の散歩に妹を誘っている僕がいるわけで。“うん、行く行く〜。お着替えするからちょっと待ってて〜” とぴょこっと階段の上のほうから顔をのぞかせた妹がこう言うとまた顔を引っ込めた。父さんたちは外交官と言う仕事柄か帰ってくるのは年に2、3回が常で、それも日帰りで次の予定とかが入ってしまっているので実質家にいるのは半日がいいところだ。この間帰ってきて、“花穂も大きくなったなぁ〜?” なんてしみじみ言っていたっけ? まあ実際に会えなくても今はネットって言う便利なものがあるからか、妹も極端には寂しくはないようで時々僕の部屋に来ては、“花穂ね? パパやママとお話したいんだけど…” と言って僕のパソコンで話してるんだけどね?
 とまあこんな感じで今日も“たっくん” のリードを持って散歩に出る。まだまだ寒い時期だからか人はほとんど出ていない土手道を歩いて河原へと来た。昔は凧上げなんかもしていたなぁ〜っと思うけど今はそう言う光景もほとんど見なくなった。それがいいことなのか悪いことなのかは別にして少し寂しく思うことは事実なわけだ。まあ高圧電線とかが張り巡らされた街じゃあ無理もないのかなぁ〜っとは思うけど、それでも最近は外で遊ぶ子が少なくなったなぁ〜っと思う。最近は誘拐とかが多発してるから、親もおちおち遊ばせられないんだろうとは思うけど、でも子供はやっぱり元気に外で遊ばせなくっちゃ…と考えるわけで。とまだ成人にもなっていない僕が言うのもおかしな話なんだけどさ…。と、妹が僕のほうを心配そうに見遣りながら、“お兄ちゃま、どうしたの?” と言ってくる。
 妹は極度の心配性なのか、僕が普段何気なく押し黙っているとこうやって訊いてくる。ぽんっと妹の頭に手を乗せて優しく撫でる僕。これが僕の大丈夫だよ? って言う合図のつもり。妹もそんな僕の合図ににっここり微笑む。“でも凧揚げする人も減ったねぇ〜” と妹に言うと、あっと何かを思い出したように、“お兄ちゃま、ちょっと家の鍵貸してくれる?” と言ってくる。何だろう? そう思い鍵を渡すと、“ちょっとだけ待っててね? お兄ちゃま” そう言って家のほうに走り出す。“あんまり急ぐと危ないよ〜” と言ってるそばからこけそうになっていた。えへへへっと照れ笑いを浮かべると家のほうに向かって歩いて行く妹。土手からその方向を見て大丈夫かな? そう思いつつも危なっかしいので“たっくん” と一緒に家のほうを見つめていた。と2、3分経って妹が家から出てくる。鍵をかけてこっちに歩いてくる手には何か持っているんだろうか。何だろう? とよくよく目を凝らして見てみると…。


「お兄ちゃま〜、花穂、端っこ持ったからもう走ってもいいよ〜?」
 “じゃあお兄ちゃまが放してって言ったら手を放すんだよ〜?” と言うとうんと元気よく頷く。リードと凧糸を持ちながら妹の足のペースに合わせて走る。しかし、凧揚げなんて何年振りだろうか。なんて考えていたらちょうど良さそうな風が吹く。“花穂、放してっ!” と言う僕。ばっと持っていた凧を放す妹。みるみる上空へ舞い上がる凧。“ほんとに上がっちゃうんだねぇ〜? 花穂びっくりしちゃった〜” と妹は舞い上がった凧を見つめてこう言う。工作の時間に作った凧はぐんぐん冬の澄んだ空へ上がっていく。この辺でいいかな? そう思い妹に、“お兄ちゃま、ちょっと疲れちゃったから花穂、代わってくれる〜?” と言って代わってもらう僕。河川敷の芝生の上にふぅ〜っと息をついて座る僕。傍らにははっはっと息を弾ませた“たっくん” も一緒だ。凧は風に乗ってどんどん上がる。“見て見て〜、お兄ちゃま〜。もうあんなに高いところに行っちゃったよ〜?” と嬉しそうに言う妹に、にっこり微笑みながら冬の青い空へ上っていく凧を“たっくん” と一緒に見つめる今日1月7日、何事にも頑張り屋さんな妹・花穂の誕生日だ。

END