家族の証

第12話 千影と僕の家族


「お〜い、千影〜? 千影はどこに行ったのかな? “影千代” をこんなところに置いておいて…」
 僕はそう言って妹の飼っている猫を抱きかかえる。今日3月6日は僕の妹・千影の誕生日だ。妹の飼っている猫、“影千代” は妹が5年くらい前だったかな? 父さんの友人の人からもらわれてきた猫だ。種類は…、何だったっけ? 僕は猫の種類には明るくないので分からないけど結構いいところの猫らしい。ただ毛並みが黒なものだからか、ちょっとだけ怖いイメージがあるんだけど、実際触っているとこれが結構触り心地がいいわけで…。この間もずっと触ってたら、“兄くん…、そろそろ“影千代”を返してくれないかい?” っていつものクールな佇まいの妹がふぅ〜っとため息を吐きつつ立っていた。“ああ、ごめんごめん” と言いつつ撫でていた手を放すと自分から千影のほうへ行く。やっぱり妹のほうが面倒をよく見ているせいか妹が呼ぶとすっと妹のほうへ行ってしまうんだよね? でも後ろを振り返って“にゃっ” って鳴いてくれるところはまだまだ僕も友達だと思ってくれてるのかな? と思うわけだ。
 で、今。抱きかかえた“影千代” と一緒に妹を探す僕。って言うかさっきまでそこで静かに本を読んでいたように思うんだけど…。寝てるってことはまずないよね? だって7時だもん。うん。じゃあお風呂かな? そう思ってまたソファーにもたれかかって“影千代” と一緒にテレビを見る。途中喉のところをこしょこしょしてやる。“にゃにゃにゃっ!” と言う鳴き声とともに“影千代” は目を細める。それが何とも面白い。1時間が経過…、まあ妹のお風呂は長いわけだからこんな時間がかかってもどうって言うほどのことでもないわけだけど、何か気になるなぁ〜。そう思い席を立って風呂場のほうへと向かう僕。“お〜い、千影〜? 大丈夫〜?” と呼んでみるものの返事はない。まさかとは思うんだけど…。逆上せて倒れてる? 妹は極度の低血圧なのか、運動をした後なんかには必ずって言っていいほど倒れては保健室へ運ばれてたっけ…。それから何気に大変なのが朝。まあこれは今も何だけど、起こすのに一苦労も二苦労もいるわけで…。って言うか今朝もだったんだけどね。どんなにゆさゆさ揺すっても起きないし大きな声で言ったところで“うっ、う〜ん” って言う程度だからある儀式をして起こすことになるわけだ。僕にとってややもすれば非常に恥ずかしいことなんだけど、それをするとパチッと目が開くんだから不思議でたまらないわけだけど…。実際起きていて僕がそれをするのを待ってるんじゃない? って思うほど正確に起きるんだから、不思議と言うか何と言うかなんだけど…。
 さらに30分経過。これは絶対中で逆上せてるなぁ〜っと思い覚悟を決める。母さんがいるときは母さんに頼むんだけど生憎父さん共々仕事でアメリカのほうに行っていてここにいるのは僕と“影千代” だけだ。と言うのも僕の父さんと母さんは外務省の外交官と言う立場なわけでいろいろな国を回ってるんだ。そのせいか日本に帰ってくるのは年に2、3回がいいところで、その2、3回も日帰りになってしまうと言う忙しさで…。かく言う僕や妹も昔は父さんたちと一緒に外国を飛び回っていたんだけど僕が高校生になった時に、“航ももう大丈夫だろう…” ってことで日本に帰ってきた。それから4年この暮らしが続いてるってわけ。今僕は大学1回生をようやく終えた。来月からは2回生になる。と言うことは妹は大学生か…。と考えてるうちにもう30分が経過してしまう。2時間経過、さすがにヤバいと思った僕は勢いよくお風呂場のドアを開けるんだけど、そこには誰もいない。一瞬頭がおかしくなる。と玄関の鍵を開ける音なんかが聞こえてくる。半ばパニック状態の僕は“影千代” そっちのけで風呂場に隠れたんだけど…。


「そそっかしいなぁ〜…。兄くんは…。私は“買い物に行くからね?” って言っていたじゃないか…」
 そう妹に呆れ顔で言われてしまう。言われてそうだったね? と気づく。目の前のシュークリームは2時間くらい前に僕が確かに頼んだものだ。でも何でこんなに時間がかかったの? と言うと、“いや、たまには夜風に当たるのも悪くないかな? って思ってね?…。公園で1人いたら友達と偶然出会って話し込んでしまったんだ…” とちょっと顔を赤くする妹。どんな話かは聞くのは野暮って感じだから聞かないけど、多分僕のことを話してたんだろうね。だって、やや上目遣いに僕のほうを見つめる目がそう言ってるんだもんなぁ〜。そんな今日3月6日はクールなくせにお茶目なところもあるミステリアスな雰囲気の漂う僕の大好きな妹・千影の誕生日だ。

END