散歩に行こう

第1話 花の首飾り


 今日4月4日はわたくしの誕生日。
 昔、胸の病で長期療養を強いられていたわたくしだったが、その病も完治して今は元気でいる。それも療養所の先生や看護師さんたち、そして何よりわたくしの大好きな兄上様のおかげでわたくしは今、元気で暮らしているの。
「ねえ、鞠絵。天気がいいからこれから散歩に行かない?」
 わたくしがお部屋で本を読んでいると兄上様からそうお誘いを受けた。“はい、喜んで!” そう言うとわたくしは支度をする。ミカエルも何だか嬉しそうに尻尾をぶるんと振った。以前、療養所にいた頃に買って頂いた帽子を持って兄上様と家を出る。ミカエルはお散歩が大好き。いつもわたくしたちがお散歩に出かけるときにはついてくる。リードを持ちながら兄上様の顔を帽子越しに見る。
「どうしたの? 鞠絵? 僕の顔に何かついてるかい?」
 不思議そうにわたくしの顔を覗き込むとぺたぺたと自分の顔を触る兄上様。そんな兄上様を見てわたくしは、“うふふっ” と微笑んだ。ますますはてな顔になる兄上様。そんな兄上様がちょっと面白い。しばらく歩いていると河川敷に出てくる。白爪草の白い花が河川敷に吹く風に揺れている。気持ちのいい風が、わたくしの髪の毛を揺らしている。
「降りてみようか…」
 そう言うと兄上様はわたくしの手を引いて河川敷に降りてきた。少し休憩とばかりに横になる兄上様。うふふと微笑むとわたくしも兄上様の隣に座った。しばらく風に吹かれていると兄上様の寝息が聞こえてくる。ミカエルもわたくしの横で目を閉じている。どうやらどちらも本格的に寝ちゃったみたい…。わたくしはそっと兄上様の頭を自分の膝の上に乗せる。寝顔を見ると幸せそうな顔…。わたくしの顔が一層ほころんだ。


「ごめんね。ついうとうととしちゃって…」
 夕方。ぽりぽりと頭を掻きながら兄上様はぺこぺこと頭を下げている。“お寝坊さんなんですから…、兄上様は…” と、わたくしは頬を膨らませてこう言う。ミカエルも“ワン” と一吠え。“うふふ、でもミカエルも眠っていたでしょう?” わたくしが小声で言うと、“くぅん” としょげてしまった。さらにぺこぺこと頭を下げる兄上様。そんな兄上様を見ていると、ぷぅ〜っと膨らました頬も緩んで、いつの間にか“うふふ”と微笑んでしまう。兄上様の首にかけられた白爪草の首飾りが4月の風に揺れていた。

END