散歩に行こう
第2話 夏は来ぬ
今日、5月17日はワタクシの誕生日。だからではないけれどワタクシはどきどきしています。なぜって? それは今朝、出掛ける際に兄君さまに、
「春歌、今日はお前の誕生日だったね? それで何だけどさ…。夕方、駅前の銅像のところで待っててくれないかな?」
ってそう言われてしまいました。途端に頬を赤らめるワタクシ。そんなワタクシを父君さま、母君さまは、微笑ましそうに見つめています。ワタクシは何も言わずこくんと頷きました。“じゃあ、夕方駅前の銅像の前でね?” 念押しに言われると兄君さまはにっこり微笑んで出て行きました。
昼間は保育所の保母などの仕事をしているワタクシ。兄君さまは小学校の先生をしています。もう1年が過ぎやっと職場の雰囲気にも慣れてきたところです。ちなみに兄君さまはもう3年ぐらい勤めていますのでそんなことはないんでしょうけど。うふふっ。
仕事も終わり、一人駅前に向かいます。しかし今日は暑かったですわね…。初夏の装いというものなのでしょう。そういえばドイツにいたころ、お祖母さまに日本の歌をたくさん教えて頂きましたっけ…。この時期は、そう、“夏は来ぬ”ですわ。軽く口ずさみながら駅前へと向かいます。通りかかった駅前の商店街で一人のお婆さまに、
「あら、懐かしい歌を歌っていらっしゃる…」
とお声をかけられてしまいました…。ワタクシがお祖母さまに教えて頂きましたということを伝えると…、“まあ、いい教育をなさっておられるのですね?” そう仰ると微笑みながら去っていきました。ワタクシもにっこり微笑んでお見送り致しましたけどね…。
やがて目の前に銅像が見えてきます。と、ワタクシの姿が見えたのでしょうか。ワタクシが探す間もなく兄君さまが手を振りながらこちらへ歩いてきていました。
「嬉しそうな顔をして…。何かいいことでもあったのかい? 春歌?」
「ええ…、とっても!」
いつも歩く帰り道。でも今日はすこし遠回りをして帰ります。家の軒には白い卯の花が初夏の夕陽を受けて照らされていました。兄君さまがすっと手を差し出してくれます。髪には兄君さまが買って下さった髪飾りが初夏の清清しい風に吹かれて揺れていました。手を繋いで帰る帰り道。今日5月17日でした。
END