散歩に行こう
第12話 桜坂
今日3月6日は私の誕生日だ。だからか、兄くんの行動がちょっとおかしい。紅茶を飲むときでも普段砂糖はスプーンに1杯しか入れないのに最近は2・3杯くらい入れて、“甘い…” って言ってるし、ぼーっと窓の外を見つめていることも多い…。どうしたんだろう? そう思った私は兄くんに訳を尋ねてみる。すると、
「いや、たいしたことじゃないよ……。それより千影、昼から空いてる? もし空いてるんだったら僕と散歩に行かない?」
そう言って私の顔をにっこり笑顔で見つめる兄くん。その顔は私の一番好きな顔だ。今日の予定はと考えてみるがさして何もなかった。ヴァイオニック写本の解読にはまだまだ時間が掛かりそうだし、マンドラゴラはまだ芽も出ていない…。まあ、暇といっては暇なんだろうね? そう思いすぐにOKを入れた。
三寒四温の天気のもと、兄くんと歩く。でも私をどこへ連れて行くつもりなんだろう。図書館はこの前行ったし…。古書店にもこの前行った。分からない…。そう思いながら兄くんと歩いた。町並みを見ると、もう春の気配が感じられる。家の軒下には早咲きのパンジーの花が咲いているし風も穏やかに吹いてる。“もう春なんだね?” そう思いながら歩いた。やかて目的地が見えてくる……。
“すごいね…” 私はそう言う。兄くんも、“そうだろ? 僕もこんなに早く咲く桜は見たことがなかったんだ” そう言って見上げる木の先には、白い小さな避寒桜の花が満開に咲き綻んでいたんだ。こんな時期に咲く桜は避寒桜じゃないのかな? そう思ってみるものの私はあまりそういうことには暗いので分からなかった。
「まあ、いいんじゃないのかな? そんなことで考えるのは…。せっかく見にきたんだしさ、もう少し見ていこうよ…」
そう言いながら坂を下りていく兄くん。ふふっ、兄くんには完敗だな。そう思って私は兄くんと一緒に坂を下りたんだ。
「今度はソメイヨシノが開花したときに行きたいね?」
「うん、そうだね…。お弁当は私が作るよ…。腕によりをかけて…。ねっ?」
そう言う私。手には兄くんからのプレゼントがある。兄くん、今日は本当にありがとう。“また桜が満開のときにでもお弁当を作って行こうね?…。兄くん” そう心の中で言う今日3月6日。私の誕生日だった…。
END