家庭菜園始めました

第1園 鞠絵の菜園


「兄上様〜? この苗はここの迂路でいいんでしたよね〜?」
 今日4月4日はわたくしのお誕生日。春の麗らかな日差しがついついお昼寝を誘ってしまいそうではあるものの、わたくしは兄上様と一緒に家庭菜園を始めました。家庭菜園とは言っても本格的なものではなくて家の庭の一角を畑代わりに使用するって言うものですけれど。昨年の秋ごろでしたか、兄上様が父上様と相談しているのを見ていまして、何を相談していらっしゃるのだろうと思って聞いてみたところが、この家庭菜園だったというわけなのです。土を触ることが昨今では難しくなってきていて都心では土に触ったことのない人たちもいるとテレビで見ていて、“ちょっと可哀想だなぁ〜” って思いました。ここは田舎の原風景が広がっている本当にのどかなところです。春には蝶が飛び、夏には夜に蛍が舞い蛙の鳴き声が絶えず聞こえ、秋には秋の虫たちの声が涼やかに聞こえ、冬は一面の銀世界に覆われる、そんな自然豊かなところ。昔、体の弱かったわたくしを見越して空気のよいこの地に引っ越してきて早12年以上が経ちます。今ではほぼ普通に生活できるようになっているわたくし。でも時々風邪を引いてしまうこともあるのですが、わたくしの体もだんだん強くなってきているのかな? そう思っています。昔は風邪を引くと2、3日は寝込んでいたのにここに来てから寝込むことも少なくなりましたしね? 現に今もこうして普通に暮らしているんですもの…。それに、何よりこうやって大好きな兄上様と一緒に何かが出来る(今は畑仕事なのですけれど…)ことが嬉しくてたまらないのです。“ああ、それはそこでいいよ〜?” そうにっこり微笑んで仰る兄上様はわたくしより3つ年上。今は10km離れた農業系の高校に通っています。普段は寮で生活しているのですが、毎週の土日と休みのときには帰ってきてはいろいろと家の用事を手伝って下さるのです。今は春休みですから家でこうやって菜園作りのお手伝いをなさってくれているのですけどね?
 父上様、母上様はともにとある農家の方のご厚意でその農家の一角を借り切って農業指導を行なっています。今は痩せた土から肥えた土への重要なプロセス時期で朝早くから夜遅くまで技術を大学生の方たちに教えているとのことらしいのですが、わたくしには一向に分かりません。元々大学のほうで農業について教えていたらしいのですが、わたくしのことを考えて大学のほうには週に1、2回と言う感じで遠く離れた都会のほうへと講義をしに行っています。こんな体にならなかったら…と自身の体を呪ったこともありましたが、その都度兄上様から、“鞠絵はそんなこと気にしなくていいんだよ?” そう仰ると優しく肩を抱き寄せて頭を撫でてくれます。“もう子供ではないのですから…” とは言うもののそれがわたくしにとってはとても嬉しい時間なのです。
 春物のお野菜の採集と夏物のお野菜の植え替えを春休みである今日に一気にしてしまおうと言うことを今朝兄上様から聞かされて今、苗やら種やらの選別に追われているところです。苗植えはこれで良し! とかぶっていた帽子もそのままにトントンと腰を叩きつつそう心の中で言うと種植えのお野菜の畑へと向かいます。種植えの畑にはもう兄上様が来ていて迂路を作り終えてふぅ〜っと一息ついているところでした。と、何気なく種や苗を運んできたリヤカーを見たわたくしの目に映ったきれいな紙に包装されたものがありました…。何だろう。そう思い手に取ってみるとそこには?…。


「いつも体操服じゃあ悪いかなぁ〜って思ってさ…。だから僕とお揃いにしてみたんだけど…。でもちょっとぶかぶかだったね? ごめん…」
 と頭を下げて謝る兄上様。わたくしはそんな兄上様のことがもっともっと好きになってしまいます。だってこの作業着は兄上様とのお揃いのものだもの。兄上様に失礼して早速着替えてみましたけど手も足もぶかぶかで裾を二重に捲ってちょうどいいくらいでしょうか。着替えて出てくると、“ああ、やっぱり…” と言うお顔になる兄上様。わたくしはにこっと微笑みながらそんな兄上様に言いました。“ぶかぶかでもわたくしが大きくなったらちょうどよくなりますから…。それにお揃いなんて小さかった頃に戻ったみたいで何だか嬉しいです” って。お揃いの作業着で大好きな兄上様と一緒に家庭菜園が出来ることこそわたくしの喜びです。そう思いながら縁側に座って微笑みながらぽかぽかした陽気に目を細める今日4月4日はわたくしのお誕生日なのです。

END