家庭菜園始めました

第2園 春歌の菜園


「これはこっちで…、あれはあっちで…」
 今日5月16日はワタクシのお誕生日。今年、すっと長い間温めていた計画を実行に移すことにしました。そう、それは家庭菜園。つい最近お友達のおうちを訪ねたとき、窓からお庭を見ていたのですけれど、その一角にちょっとした畑みたいなものがあって、何だろうと聞いてみたところが家庭菜園だったらしいのです。お友達曰く、“最近税金が上がっちゃったでしょ? だから少しでも自給自足しなくちゃって思ってね?” と仰っていました。そう言えば最近税金が上がっておりましたわね。買い物もちょっとしたものは買わないように心掛けませんと…。特にお野菜などは…。そうですわ! 買えなければ自分で作ればいいのですわ! と、そこで一念発起してワタクシも家庭菜園と言うものに挑戦していると言うわけなのです。ここは郊外の一軒家。父君さまと母君さまは外交官と言う仕事柄か、帰ってくるのは年に2、3回くらいです。最近はネット環境と言うものが発達しているので、家のパソコンで話をしたり出来るわけなのでそれほど寂しくはありません。それに何と言ってもワタクシには…。
「この苗はどう植えればいいのかな? 春歌」
 そう、ワタクシが最も敬愛している兄君さまがおられますから…。“あっ、その苗は普通に植えていいのですわ” にっこり微笑みながらそう言うワタクシ。兄君さまとは2歳違います。でも時々ワタクシのほうが姉に見られることがあるのですけど…。顔は童顔で背のほうもワタクシより1、2cm高いだけと言う兄君さま。普段はワタクシのほうが主導権を持って何でもやっているのですけどやっぱりここぞと言うときには兄君さまが仕切って下されるわけで…。そうそうこの前もちょっと厄介な押し売りの方が参られてちょっと困っていましたところ、向こうの部屋で勉学に励んでいらっしゃった兄君さまが押し売りの方の前にずんっ! と出てこられて、“要りませんのでお引き取り下さい” そう言って追い返してくださいました。お優しくていざとなったときの度胸はワタクシも見習わなければなりません。昔も今もそう思います。
 さらに土を耕していきます。途中モグラなんかも出てきて、思わずびっくりして兄君さまに抱きついてしまいましたけれども、どうにかこうにか畝を作ることが出来ました。畝が出来れば後は植えていけばいいだけなのですが、さて何を植えようかな? と一瞬悩んでしまいます。この時期は夏野菜を植えるのが一番いいわけなのですけれども、もう夏野菜は全部植えてしまいましたし…。まあ一つ、二つ夏野菜ではないものの植えてみたいものがあって秘かに購入しておいたわけなのですが、兄君さまには内緒にしておきたいものもありまして…。一つはまあ種まきの夏大根ですのでこれは問題はないのですけれど、問題なのはもう一つのほうで…。こればかりはワタクシの口から“植えたい” なんてとても言えないわけなのですけれど…。はぁ〜っとため息をついて苗を置いてある場所のほうを見たワタクシは思わず、“ぼっ” と顔から火が出てしまいました。何故かと言うとそれは…。


「おイモさんは食物繊維も豊富だし栄養価も高いし、植えるにはいいものなんだよ? 何で恥ずかしがる必要があるの?」
 と苗を植えた後、不思議そうな顔でそう尋ねてくる兄君さま。それはワタクシだって重々分かっているつもりなのですが、やっぱりサツマイモとなると秋の収穫時の後のことが不安にもなってくるわけで…。男である兄君さまにはまあどうでもいいことなのかも知れないですけれど、女であるワタクシにとってはそうそう手が出せない代物なのです。まあ植えてしまった後でこんなことを考えてしまうのは良くないことだとは分かっているのですけれど…。しかしあの芳醇な甘さと言うのについつられて苗を買ってしまったワタクシが一番の原因なのは言うまでもありませんけれど…。
“秋には友達を呼んで焼き芋パーティーだね?”
 とイタズラっ子のように微笑む兄君さまにちょっとむぅ〜っと膨れるワタクシ。と、そんなワタクシの顔を見ていたのか、途端にぺこぺこ頭を下げて謝りだす兄君さまに膨らませた頬も萎んで代わりににっこり笑顔になってしまいます。庭の畑も涼やかな初夏の風に吹かれて気持ち良さそう。さて今日の夕餉の支度でもしましょうか。兄君さまから頂いたこの割烹着を着て。うふふっ…。そう思いつついつものようにお野菜をお野菜置き場から取り出す今日5月16日、ワタクシのお誕生日です。

END