家庭菜園始めました
第4園 鈴凛の菜園
「ちょっとそっちのほう持っててくれない? これは1人じゃ持ちきれないよ…」
今日7月9日はアタシのお誕生日だ。最近アタシがよく行き来している場所が2つある。1つは言うでもなく電気街なんだけど、もう1つが意外かなぁ〜なんて自分でも思っちゃうわけ。というのも、そう! この家庭菜園なわけで…。アタシの大好きなアニキが家の庭で趣味で始めた家庭菜園。最初はちょこちょこっとした野菜の苗なんかを植えていたんだけど、収穫するのがやけに面白くてどんどん耕作面積を広げちゃって今じゃ庭が一面畑となっているわけで。ちょっとした八百屋でも開けるくらいになっている。お父さんたちは外交官であるために年に2、3回帰ってくるくらいだからかあまりの家の庭の変わりようにちょっとどころか目を丸くしてたみたいだけど…。でもこう言うのも悪くないかな? なんて最近は思うようになってきた。
今はそれほど嫌いじゃなくなったけど、昔(と言っても1年くらい前だったかな?)は極度の野菜嫌いだったアタシ。それはもう添え付けの野菜は残すのは当たり前。更にはチャーハンの入っている野菜もより分けると言った徹底ぶりで、何度となくアニキに“全部食べなきゃダメじゃないか” って注意されて嫌々ながら食べさせられていたわけだけど。じゃあなんで今こんな嫌いな野菜の採集なんかを手伝っているのかと言うと、やっぱり野菜の美味しさを知ったからかな? なんて思っちゃうわけで…。アニキにこの間…、と言っても2ヶ月ほど前になるんだけど庭で採れた春キャベツを食べさせられたわけだ。最初は嫌々ながら、アニキの顔色を窺いつつ食べていたんだけどそのほんのり甘いような味にすっかり病み付きになって、“美味しい! 美味しいよこれ!!” なんて普段なら絶対に言わないようなことを言ってぺろりと完食しちゃったわけ。アニキはふっふ〜んてな顔でこう言う。
「そりゃあ僕が丹精込めて育てた野菜だからね? 美味しくないはずがないよ…って言うか鈴凛も自分で作ってみれば? 太陽の下で汗水流すって言うのも案外悪くないかもよ?」
ちょっとイジワルそうな顔になってアニキはこう言う。“悪うございましたね。こっちは機械ばっかり弄る工学系で…” とばかりにちょっと涙目になりつつうううってアニキを上目遣いに見遣ると途端に慌て出すアニキ。その顔がちょっと可笑しくて内心うふふと微笑んではいるものの、アニキを見遣る目は変えない。この前もだったかな? いつものように部屋の中でゴロゴロしていると庭で夏大根の収穫をしていたアニキに、“だらしない恰好でゴロゴロ寝てる暇があったらちょっとはこっちを手伝ってよ…” なんて文句を言われる。こっちは明日の授業の工作機器の組み立て方のことで頭がいっぱいになってるって言うのに…。そうそう、アタシは今年から工業高校に入学して主にメカトロニクスを学んでいる。アニキはどう言うわけか農業大学の門をくぐって2年目の夏を迎えた。まあ農業と工業じゃあベクトルが真逆なわけだけど、それでもうちじゃあ農業の工業化やなんかの議論を時々交わしているわけで…。まあこのままいても考えも纏まらないから久しぶりにアニキのお手伝いでもして気分を変えてみようかなぁ〜なんて考えて手伝うことにしたわけだ。土なんて触るのは何ヶ月ぶりだろう。そう思って黙々と作業に打ち込む。アニキの見様見真似で夏大根の間引きや収穫もやったりして、何だか課題のもやもや感なんかもすっかり吹き飛んでいい気持ちで農作業に打ち込んでた。その夜、機械のことにはちんぷんかんぷんなアニキを横目に昼間の課題をやるアタシがいたわけだけどね?
「よし! これで一通りは終わったかな? 鈴凛もお疲れ様。…あ〜っとこれ」
作業も終わってふぅ〜っとため息をついてるとアニキが思い出したかのように手を差し出す。差し出された手の先を見てみるとそこには小さな箱。何これ? と思って少しはてな顔になりつつ首をかしげていると、アニキが微笑みながらくいっくいっとカレンダーのほうを顎の先でさす。んんっ? と思って見てみて顔が真っ赤になっちゃった。今日はアタシの誕生日だったんだね? 3時間くらい前まで覚えていたのに農作業に必死になっててすっかり忘れてたよ。はぁ〜っと深いため息を一つ。そんなアタシを前と変わらず微笑みながら見つめるアニキ。照れ隠しに鼻の頭を掻きながら、“えへへ…。自分の誕生日、すっかり忘れてた…” そう言いながら笑う今日7月9日はアタシの誕生日だったんだよ?
END