家庭菜園始めました
第9園 咲耶の菜園
「今夜は寒いからおでんにぶり大根と洒落込みましょうか、蕪のスープなんかもいいわねぇ〜? ねえ、お兄様」
お兄様のほうに振り向きつつふぅ〜っと一息はいて土のついた顔を拭き拭き笑顔で私はこう言う。今日12月20日は私の誕生日。雪の降りそうな天気の下、私はお兄様の手伝いに冬の野菜の代名詞と言っても過言ではない“大根”と“蕪” の収穫を手伝っていた。私自身はそれほど可愛いとは思わないのだけど、お兄様と一緒に街へ出るとほかの男の人は10人が10人とも振り返るし、中には言い寄ってくる人もいる。そうそうこの前の日曜日もしつこく言い寄られて大変だったんだからね? まあその時は遅れてやってきたお兄様が、“僕の妹に何か用かな?” って言ってしつこく言っていた男の人たちを追い返してくれたんだけど…。私はちょっとむぅ〜ってなっちゃうわけで…。“おっそ〜い! お兄様!” って言っちゃうわけ。ペコペコ謝るお兄様にちょっとだけ優越感に浸れちゃうんだけど。でも私がピンチの時には必ず助けに来てくれるって言うかそう言う感じなのかな? って私にとってお兄様はヒーローみたい、ううん、ヒーローそのものなわけだ。まあ世間一般に言うところの“ブラコン”って言うものなわけで。それは自分自身でもよく分かってるつもりなんだけど…。“兄としては早く彼氏なんかを見つけてほしいものなんだけどね?” って私の心を知っているのか知らないのか、お兄様はいっつもこう言うんだから…。“酷いわ、お兄様。私の気持ち知ってるくせに…” なんて思いつつお兄様の顔をぷぅ〜っと頬を膨らませて上目遣いに見遣ってると、急に、“そんな顔しないで〜” って言ってペコペコ頭を下げてくるお兄様にまたちょっとだけ優越感に浸れちゃう私がいるわけで…。
で、今日。私の誕生日にも関わらず、お兄様は庭の菜園に出て大根やら蕪を引っこ抜いている。まあ今年農業大学に進学して、農業を学んでいるお兄様のことだから、こう言うふうになっちゃうんだろうなぁ〜っとは思ってたんだけどね? でも私も農業には少しだけ憧れている部分もあって、こうやってお手伝いなんかをしているんだけど。秋植えの大根はこれからが旬なのでおでんやらに入れて炊いたりしたら美味しくなるのよね? なんて考えつつ引っこ抜いている。お兄様は農業大学の2回生。ちなみに私は来年初頭に大学受験を控えている。勉強のほうもそれなりにやっている。この間夜遅くに私の部屋をそ〜っと覗いてるお兄様の姿が見えて、お腹でも空いたのかしら? と思って何か言おうと思って後ろを見るともういなかった。多分私が無理をしてないか心配になって見に来てくれたんだと思うと嬉しくてたまらない。そんなお兄様の心遣いに感謝しつつ、その日は明け方近くまで頑張って勉学に勤しんでいたっけ? “成績はトップクラスだし、大学はおそらく難なくパス出来るだろう” とは担任の先生。お父様やお母様は外交官なために年に帰ってくるのは1、2回くらいでそれも1泊してもう旅立つって言うほどの多忙さを極めてるわけで、“渡り鳥里帰り” と言ってもおかしくないって思ってそのことをお兄様に言うところが、“渡り鳥よりももっとすごいんじゃないかな?” ですって…。確かにそうかも…、と思うとなんだかおかしくなっちゃって2人で大笑いに笑っちゃった。“でも、父さんたちが仕事を頑張ってるんだからこうやって生活できてるんだよ? 感謝しなくちゃね?” とお兄様。私もその通りだと思うからうんと頷いた。とにもかくにも今日は大根と蕪の収穫をしないといけないのでこうして頑張っているわけで。昨今の農業を見ると高齢化やなんかがよく取り沙汰されているんだけど、私の身の回りではそう言うこともなく。まあ家は都会とは言っても山に近いところにあるわけだし、若い人などもプランターや近くの市有地の菜園などで野菜を採っているのを見かけるので、少なくとも私の周りでは農業=高齢化と言う図式は成り立たないと思うわけだけど…。
そんなこんなで大根と蕪を抜いていく私。これが意外に面白い。う〜んと力を込めて抜いていく。“作業が捗るね〜。でも普段は人一倍おしゃれに気を使ってるのに何でなの?” とはお兄様。もう! 分かってるくせに…。と思ってぷく〜っと頬を膨らませる私。そんな私の顔を半分はすまなそうに、また半分はちょっと呆れ顔でお兄様は見ている。まあ一般的に今時の女の子は農業なんて嫌とかダメとか言う拒否反応も多聞にあると聞くし、現にお兄様のお友達の1人はそれが元で別れたと聞いているんだけど。私はお兄様の役に立つことだったら何でもしたいし、それよりなによりお兄様の嬉しそうな顔をもっと見たい…。そう思って手伝っているわけで。お兄様はどう思っているかは分からないけど、私はそう言う気持ちだ。とやっと大根と蕪を抜き終わる。“あとは任せるよ。咲耶…” そう言ってふぅ〜っとため息をつくと奥へと入っていく。さ〜て、今夜もこの野菜たちでお兄様をあっと言わせるほどの美味しい料理を作っちゃうぞ〜っておもって腕まくりをしている途中で、“そうだった! 今回の課題の自宅の庭の作柄状況とその傾向”と言うレポートを取りらないといけないんだった。すまないけどちょっとだけ待っててくれる?” そう言って私の返事も聞かずにノートを取りに2階へと上がっていくお兄様。もうお兄様ったら…。でも、そんなところもあるから憎めないのかな? なんて思っちゃうわけで…。“じゃあちゃっちゃとレポート書いちゃってね?” なんて2階に向かって言うと、“うん、分かった〜” だって…。さ〜てお兄様がレポートを書いちゃってるすきに、私は今日の夕食のお出汁でもとっておこうかな? そう思いながら昆布を鍋に入れて火にかける。早速昆布の美味しそうな匂いが鼻を擽った。さて今日はどんな料理にしようかなぁ〜なんて思ってると台所にかかった暖簾をニコニコ顔でくぐるお兄様がいるわけで。
「相変わらず美味しい料理、ごちそうさま。お礼と言っては何だけど今日はお前の誕生日だから…」
そう言って、隠していた箱をポケットから取り出して私に手渡してくれるお兄様。嬉しい笑顔でお兄様のほうを見つめる私。そんな私の笑顔に何故か恥ずかしさを覚えたのかな? ふっとお兄様は外を見る。私もつられて外を見る。暖冬だと言われている今年でもここは関係なく、今年初めての雪が降ってきていた。これは明日は積もるかも知れないわね? そう思って、お兄様に寄り添う私。いつもなら“恥ずかしいからやめて〜” って言うお兄様だけど“今日だけは特別だよ?” って言って私の肩を抱き寄せてくれた。それが嬉しくてますます甘えん坊になる私。そんな私に、“今日はいつにも増して甘えん坊さんだなぁ〜” とくすっと微笑むとお兄様。私の手には小さな箱。その箱を持つ手を軽く握ってくれる。ふっと外を見ると舞う雪が白く輝いていた。そんな今日、12月20日は私の誕生日よ。うふふっ…。
END