家庭菜園始めました

第12園 千影の菜園


「おーい、千影〜。ちょっとその種をこっちに持ってきてくれない〜?」
 兄くんにそう呼ばれて私は春植えのレタスの種を持っていく。と同時に収穫したニラを置いた今日3月6日は私の誕生日だ。“いっつも部屋の中にいちゃ運動不足になるよ? って言うかちょっと手伝ってほしいんだけど…” と朝いつものように本を読んでいるところで頬をぽりぽり掻きながら兄くんにそう言われる。私より1つばかり年上の兄くんは昨年の4月に近くの農業大学に入学した。私はと言うと高校3年生ももう終わり、と言うかもうすぐ卒業式があるわけで…。兄くんとは違う大学への進学も決まった。まあその辺は今のこの状態とは話が違うので、端折らさせてもらうが…。しかし元来野菜と言うものに対して苦手意識のある私にとっては少しばかり嫌な作業でもあるわけで…。いや、レタスとかの野菜ならまだいいのだが、ニラやネギ、ニンニクなどの強い刺激臭のある野菜は滅法苦手な私。
 この前だって兄くんと一緒に食事に行ったときのことだ。私が何にしようか悩んでるのをいいことに、私の苦手な、“レバニラ炒め” や、“ガーリックライス” などを頼んでしまっていてぷく〜っと頬を膨らませる私がいたわけで…。と言うかいつもこうなのだから、おちおち考え込めないわけで。先日のは失敗だったな? と改めて思う。でも、兄くんも兄くんだとも思うわけだ…。とこんなことが月に2、3回はあるのだから私自身ももう少し料理と言うものに造形を深めたほうがいいのかも…と最近思うようになった。
 父くんと母くんは外交官と言う仕事柄か帰ってくるのは年に1回か2回くらい、しかも帰って来たその日のうちに出て行ってしまうことも多々あって実質私と兄くんの2人暮らしなのだけど、昔からかこう言う偏食家な私に対して、やれ大きくなれないだの、強くなれないだのと言っては私の苦手な野菜を食べさせようと躍起になる兄くんに嫌々ながらも食べてしまう私は、少しばかり変わっているのかな? と思うわけで…。食べない〜っ! と駄々をこねる手もあるのだが、そうなってしまうと、普段のクールさで通っている私に兄くんが、“本当はね、駄々っ子の甘えん坊なんだよ?” と私の友達にも言いかねない気がしてちょっとばかり怖い気もするんだ。だから私も嫌々ながら食べてはいるんだけど…、と言うより飲み込んでると言ったほうが比喩的には近いのかもね?
「持ってきたよ。兄くん。これを植えればいいんだね?」
 私がそう言うと兄くんはうんと笑顔で首を縦に振る。その顔は何度見ても飽きないから不思議だ。私は野菜はあまり好きではないけどハーブは好きなほうで様々なハーブを仕入れては植えている。そういえば最近仕入れたハーブの種があったんだった。そう思い、兄くんに少しだけ待っててと言って取りに行く。確かこの辺りに…とあった。戻ってくると兄くんは土いじりの真っ最中だ。さて、ハーブの種はここに置いておいて、兄くんの手伝いを続けよう。そう思って兄くんに何か手伝えることがないか聞いてみると?
「ああ。もうこれで僕のほうは一段落つくから…。それより、千影のほうを手伝ってあげたいなぁ〜」
 だなんてにっこり微笑んで言ってくるものだからびっくりする。と言うか私が今からしようとしていることが分かったのかい? と少々驚いて聞いてみるところが、“まあね?” とイタズラっ子のように微笑む兄くん。その顔は何度となく見た私の好きな顔。“じゃあお願いしようかな?” と言うと、任せてとばかりに胸をポンと叩く兄くん。早速私はカモミールの種を兄くんに渡す。要領は何回か手伝ってくれているので分かっているのだろう。黙々と植えてくれている兄くんを見てちょっと嬉しくなる私がいた。


「いやぁ、疲れたねぇ〜? でも春植えの野菜を植えられてよかったなぁ〜。千影もありがとう。おかげで作業がはかどったよ…」
 そう言ってやや疲れた表情で汗を拭っている兄くん。そんな兄くんに一杯のハーブティーを入れる私。まあ一般的だが、ジャスミンティーを淹れて持ってきた。ティーポットからとぽとぽとカップに注ぐといい香りがしてくる。ふうふうと息を吐きながら一口カップに口をつける兄くん。はふぅ〜とリラックスした声が出た。兄くんに勧められて私も一口飲むと兄くんと同じようにはふぅ〜っと息が漏れた。それがなんとも滑稽でうふふと笑ってしまう今日3月6日は私の誕生日だ…。

END